“陽”のセイバーが“陰”のセイバーと戦闘をしているその最中。
霧島邸では二体のサーヴァントが控えていた。
義隆の貼った結界に、侵入者の反応があったからである。
その二体は、性格が真反対で、仲も良くない“陽”のアーチャーと、“陽”のランサー。
片方のランサーはまだかまだかと、敵の来訪を心待ちに。
もう片方の“陽”のアーチャーはつまらなさそうに、ただ弓矢を手に持っているだけだった。
派手な装飾を施されている弓矢を凝視し、“陽”のランサーは感嘆の声を零す。
「いい弓矢だな。
これは、素晴らしい……鹿苑寺を想起させるかのようだ」
「えーと……キンカクジ? だっけ?
やだな、一つの芸術的な建物と一つの野蛮な武器を一緒にするなよー」
茶化しながら言う“陽”のアーチャーだったが、“陽”のランサーは真剣な表情で否、と首を横に振った。
「一緒に見えてしまう程、その弓矢は美しいのだ」
「……あそ? あ、オイ敵さんが来たよ?
早く殺してやろうぜ、僕はもう疲れたんだ。
なんかさー、うちのマスターがめんどくさいんだよねぇ。
あーいうの、メンヘラっていうのかな?」
自身の主の軽口をたたきながら、陽気な男が指をさす。
そこには、法衣を身にまとった骸骨のような男がいた。
“陽”のアサシンのような髑髏の仮面ではない。
肉が腐り、骨が見えてしまっている。
だから、骸骨のような男。
その、明らかな異常を前に“陽”のランサーは首を傾げた。
「……あのような英霊、見聞したことがない」
「キモいよねアレ。
イケメンかブサイクかで判別できない。
キモイの類ってボク初めてみたかな?
あー、あの韋駄天クソ野郎もキモかったなぁ」
忘れてた忘れてた、と呟きながら笑う“陽”のアーチャー。
そんな彼をよそに、“陽”のランサーはじっくりと骸骨を眺める。
キョロキョロと動き回っており、どうやら何かを探しているようだった。
それならばと“陽”のランサーはゆっくりと骸骨に歩み寄り、大声で警告をした。
「何者だ、名を名乗れ。名乗らぬのであれば敵意があるとみなして貴様の首を頂戴する。
かの魔王のような趣味はないが、貴様のような存在は貴重だ。丁重に飾らさせてもらう」
「……名など名乗れるはずもないだろう、我は今、探し物をしている、それどころでは無い!!」
慈悲を、骸骨はどうでもよさげに断った。
それが、“陽”のランサーにとっては、死にに来たと受け取ったとは気付かずに。
───武者が駆ける。
閃光の如き速さで、その穂先を煌めかせながら流れ星のように骸骨の眼前まで迫る───!
「ヒ、ヒッ…………!?」
骸骨は己のいい加減さを呪ったが遅かった。
“陽”のランサーの穂先に触れ───骸骨はその身を分断された。
ただ穂先が触れただけ、だと言うのに恐ろしい鋭さを誇るその槍。
無骨な形をしており、無駄な装飾を施していないあたり彼の生真面目な性格がうかがえた。
「……トンボギリ、だっけ?
全く怖い槍だよアレ。なんか、魔術とかも穂先にさえ触れれば両断出来そうな魔力を有してるしさ」
“陽”のアーチャーはヘラヘラと笑いながら呟く。
ともあれ、心臓を貫かれ、身体を両断された正体不明の、“陽”のアーチャー、ランサー共々キャスターのクラスと仮定されたサーヴァントはそのまま魔力の塊となり─────
「なんだ貴様……いきなり我が身体を分断するとは生意気な!!
しかし……残念だったなぁ、私はそれぐらいでは死なないのだよ!!」
ならなかった。
あろうことか骸骨は両断された身体が接合され、嬉々として“陽”のランサーに話しかけた。
思わず、“陽”のランサーは目を見張り敵を凝視する。
「ハハハハハハハハ!!!!
さぁて、我が大魔術を披露してや───」
言いかけた骸骨の首を、腰に差していた刀で両断する。
“陽”のアーチャーはそんな彼を心底から得体の知れない恐怖を感じた、感じてしまった。
「……嘘だろ? 普通、動揺して動くのラグるぜ?
どんなメンタルしてるのさ日本のブシは……!?」
そんな驚きを隠さない“陽”のアーチャーをよそに、“陽”のランサーは淡々と、骸骨に声を掛けた。
「ならば簡単だ。死ぬまで貴様のことを殺すだけだ、術者。
……それが千にも及ぶ回数だろうと殺してやろう」
“陽”のランサーがそう言い、手も足も出ずに骸骨───“陰”のキャスターは殺害されていった。
まずは首を捻じ切られ、
短刀で心臓を細切れにされ、
刀で身体を両断され、
足蹴で首を蹴鞠のように飛ばされ、
全身を粉々になるまで槍で貫かれる。
しかし、それでも“陰”のキャスターは蘇る。否、身体が再生する。
やがてその瞳には、“陽”のランサーを映していた。
───探す、どころじゃない。逃げなければ。逃げなければ、死よりも恐ろしい苦痛を味合わされ続けることとなる。
背を向け、“陰”のキャスターが走り出す。
が、その背後から弓矢が刺さった。
“陽”のアーチャーが面白半分で放ったモノだった。
───ザッ、と草を踏む音が近づいてくる。
それは、拷問官など生温いモノだと教えこまされるような、凍てついた殺意を放っていた。
「ヒ……ヒィィィ、許してくれ、許してくれぇ……もう、もうここには立ち寄らない、立ち寄らないからどうか、どうか許してくれぇ……」
その殺意を前に、“陰”のキャスターは涙を浮かべながら許しを乞う。
悪戯を折檻された子供のように泣きじゃくりながら許しを乞う骸骨に、“陽”のランサーは、
「良かろう。さぁ、立ち去るが良い。
……済まなんだ、本当は一瞬で仕留めたかったが本当に死なぬとは思ってな。
……昔、血を吸う鬼と対峙したことがあった。秘密裏の事だった。
その時の殺し方を真似したのだが……そなたに恐怖を植え付ける、不毛な虐げとなった」
頭を深々と下げ、こちらこそ済まなかったと謝罪した。
その動作に“陽”のアーチャーも驚いたが、彼の主である忠吉もまた、十分に驚いていた。
しかし、そんな反応は彼の前では些細な事だった。
“陰”のキャスターは辺りを脅えながら退散し、“陽”のランサーはその姿を見送るのだった。