『─────あぁ、なんということだ』
鎮座する男が、運ばれた亡骸を見て嘆く。
その者は、正式な後継者となるはずだった。
しかし、ある日自身の妹に欲情し、犯そうとした際に抵抗され、その少女の異常すぎる膂力を持って、首を捩じ切られた。
その亡骸の前に座らされた少女は、ただただ呆然としていた。
男は娘である少女を睨み、静かに怒りの言霊を放った。
『貴様が抵抗なんぞしたからだ。どうしてくれる、どう、この贖いをしてくれる?
抵抗なぞせずに、いっその事こやつに女にされれば良かっただろうに』
───その言葉に、少女の意志自由など存在しえなかった。
『で、ですが……刃物を持ち出したので、わた、わたしも抵抗しなくては殺されてしまう、と……』
『だから、殺されてしまえばよかったと言ったのだ。
子種を受け入れる役目が女の務めだというのに、それを拒絶した貴様には価値がない。
……あぁ、なるほどであるから、こやつは刃物を持ち出したのか。
流石は、後継者の器だったものだ』
男は冷酷に、少女───“陰”のセイバーの価値観が正しくないと断じた。
本来ならば、彼女の意見が正しいだろう。
しかし、この場においては彼女の父親が正しくなってしまうのであった。
まさに大王、そう呼ぶにふさわしき王の気であった。
そんな男を前に、“陰“のセイバーは深く、深く絶望する。
そして、同時に自覚する。
自分は、彼の駒。王である自分という存在を長く持たせる為の、歯車であると。
『命ずる。貴様は、兄の代わりとなり私の言う通りとなれ。
さもなくば、死あるのみだ』
王の命令を、セイバーは容易に受け入れる。
死への恐怖では無い。
確かに、それも少しは含まれているが……それよりも彼女の中では、諦めという感情の方が強かった。
もう、どのみち楽しい人生など迎えれないだろう。ならば、どうすれば楽に死ねるか。
それを少女は模索することとしたのだ。
そうして、少女は剣を握った。
死への恐怖に耐えながら、女として生きたかったという願いを隠しながら。
───────あぁ、なんて、もどかしい。
言葉を送りたくても、手を差し伸べたくても出来ない。
何故ならば、これは───────
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「……夢、か」
切翔が目を覚ます。
先程の夢は、サーヴァントの記憶の断片。
契約した英霊のソレが、夢として現れるという話を切翔は知っていたため、不思議に思うことなく、機械的に受け入れ───
「……吐き気がする」
られ、なかった。
切翔は、その夢を見て少女に深い憐憫を抱いたのだ。
そして、自身の祖父と似た、少女の父親に怒りを、そして少女の根幹を知らないまま、少女に当たった自身に対する殺意が混ざり合い、吐き気を催していた。
「……マスター、大丈夫でしょうか?
お身体が優れないとか……?」
その姿を見て、“陰”のセイバーが思わず心配をする。
なんでもない、と切翔は即答し、直ぐに銃のメンテナンスを始める。
短い時間の睡眠でも、しっかりと脳を覚醒させれるように訓練されている切翔だったが、時折、夢のことを思い出し、僅かに銃のメンテナンスに手こずってしまうのだった。