ほんとに俺かァ???
「貴様ァ!!!」
ホテルの一室、バエルとそのサーヴァントである”陽“のキャスターの専用部屋では。
怒号を放ち、一触即発を態度で示している”陽“のキャスターと、そんな自身を冷めた瞳で見ているバエルがソファへ座っているのであった。
「吠えるな、みっともないぞキャスター」
至って冷静に言うバエルに”陽“のキャスターは更に怒りを加熱させ、幼児のように地団駄を踏むのだった。
「五月蝿い、五月蝿い五月蝿い五月蝿いぞ…………!!
貴様は昨日、彼処が敵地であると知って私を誘導した!!
確かに私は死なぬ。しかし、痛みは感じるのだぞ!!
それを全て知っていて、何故に貴様はいけしゃあしゃあと誘導したと申した!!!!」
「実験だ。
どれ程に不死性があるのか、そしてサーヴァントとしての力量がどれ程なのかを測るためのな。
……まぁ、結果としては不死性は素晴らしいが、その他全てが不合格すぎるほどであったがな」
「なんだと貴様ァ!!!!」
杖を構え、”陽“のキャスターが魔力を集中させる。
主へ刃を向ける、その行為を前に主は熱くなっていく”陽“のキャスターとは対照的に、冷淡と掌に宿る瞳が象られた令呪を見せた。
「忘れるな、貴様なんぞこれ一つで魔術すら唱えれなくするのだぞ」
「ウッ…………グゥっ…………!!」
「いや何、貴様が最低値というのは仕方がない。
他の者はどうか知らんが、貴様のステータスは魔力と幸運以外全て鼠の絵が移されているのだ。
魔力は猫……英語で例えるならCか。
幸運は兎だからD…………フッ、我ながら研究の為とはいえとんでもないハズレを呼び出したものだ」
鼻で一笑し、バエルがソファから立ち上がり、ゆっくりと”陽“のキャスターへと歩み寄る。
肩へ手を置き、彼が耳元で
「今夜は自由に歩く事を許す。
外へ出ることは強制だ、敵の視察を兼ねるのだからな」
苦渋で顔を歪めながら、”陽“のキャスターがバエルに背を向ける。
彼とて元々は魔術師であり、そしてバエルよりも古い。
格としては上だあるだろうというのに、令呪があるせいで自身が格下という事に”陽“のキャスターは腹を立てていたのだった。
「……私は、私の目的である『分霊箱』を探すぞ!!
でなければ例え魔術を縛られようとも灯油でこのホテルを燃やしてやる!!
探索中に対峙した敵とはしっかり戦闘をしてやるさ、構わんだろう!?!?」
せめてものつよがりで彼は吠えながら、主に問う。
自身の意見が通った、そんな些細な事実を”陽“のキャスターは堪らなく下衆な笑みを浮かべたのだった。
嬉しさのあまり、陽のキャスターは彼の肩に手を置いたのだった。
「フン、そうだ分かればいいのだ!!」
まるで捨て台詞のように吐き、”陽“のキャスターが外を出る。
先程までの喧騒が過ぎ去って、静寂がそっと包み込む。
あまりにも濃すぎた”陽“のキャスターの気配が完全に遠のいたのを確認して、バエルが小瓶から『箱』を取り出す。
「フン、愚かなサーヴァントだ。
死への恐怖が強すぎるあまり、これに執着しすぎるのだから。
……なぁ、
愛おしく、彼の心臓と言えるそれを撫で、バエルは自身の手帳に記録を書き記す。
『実験体44号、真名はリッチ。彼は傲慢であるが愚鈍で頑丈なサーヴァントであり、そして異常に生に執着する。
……もしやすると、アレと相性は合うかもしれん。
アレは前回の亜種で呼び出したが、性格の相違か適合に失敗して実験場が大爆破してしまった。
今度はそうならぬことを願おう』
内容を書いたバエルは顎に手を当てて、逡巡した後に
「……明日、試すとしようか」
そう呟きメモに書いた。
────────────────────────ー
「……クソ、クソクソクソクソクソクソクソ!!
やはりだ、やはりあの男は私の心臓を持っていた!!」
ホテルから遠く、凡そ3kmほど離れたビルの屋上で、視力を強化した“陽”のキャスターは双眼鏡で自身の部屋を覗いていた。
バエルの懐にあったソレを確認して、“陽”のキャスターは怒りのあまりに双眼鏡を地面へ投げつけ、それを破壊した。
地団駄を踏み、頭を掻き毟る。
掻き毟るあまりに血が滲んだが、“陽”のキャスターは気にしなかった。
それよりも、この状況をどうするべきかに思考を割いていたからだった。
令呪だけでなく、あの箱を持っているとなると“陽”のキャスターは気軽に彼の命を狙えなくなる。
下克上の機会を、見失ってしまったのだった。
「どうする、あんなクソ生意気なヤツに私は頭を下げ続けるなど言語道断……しかし、奴の懐にある箱のせいで従わざるを得ない。
八方塞がりとはこのことか!?
アイツなんぞに私は屈しなければならんとは……クソ、これでも私は時計塔を卒業したと言うのだぞ、それをなぜあんな男に遅れをとるはめになる!!
どうやって殺す、どうやってあの箱を奪う…………!!」
「───────簡単だよ、キャスター」
悩んでいる陽のキャスターが不意に、声を掛けられる。
よく知ったその声は、“陽”のキャスターは好意的な感情を抱いていた。
あの男のように冷淡でなく高圧的でもなさそうな、自身が上の立場に立てそうなひ弱そうな男───────裏切が、後ろで微笑みを浮かべて立っていた。
傍らには黒染めの騎士がおり、“陽”のキャスターの動きの機微を観察していた。
騎士は自身を警戒している、“陽”のキャスターにとってはそれだけでも火になり得た。
荒ぶる感情のまま、彼が口を開く───────
「きさま…………!!」
「ライダー、下がっててくれないか?
君の抱いている心配なら大丈夫さ」
その荒ぶりを遮り、裏切がライダーに指示を送る。
主の冷めた瞳の奥を受け取り、黒の騎士は頭を下げた。
「…………御意に」
そして渋々とではあるが、“陽”のライダーが裏切の指示に従い、霊体となった。
ざまぁみろと、見下すように“陽”のキャスターが笑みを浮かべるのだった。
「さて、話の続きですが……」
怪しげに笑みを浮かべて、裏切が“陽”のキャスターに耳元で囁くのだった───────