時を同じくして竹流と小岡の戦闘へと場面は移る。
移る、と言ってももう決着は着いていた。
黒鍵の刀身をす首筋に当てられている竹流と。
竹流に黒鍵を当て、見下ろす形となった小岡。
そう、小岡の圧勝であった。
絶体絶命の状況の中、それでも竹流は殺意の込めた瞳で小岡を睨みつけ、意思までは屈服していないと意思を見せた。
「最後通告です。
大人しくさればこの場は見逃しますよ竹流さん」
「…………断る。言ったろう、俺も後がないってな」
死が迫る、それでも。
竹流は小岡に屈しなかった。
「残念です。ここで人を殺す事となってしまうのは」
逆十字の刀を振るう。
竹流にとっては振り子のように緩やかに見えたが、その速度は本来の彼では目視することが出来ないほどの速さであった。
竹流はこの後の代理のマスターはどうなるのか、などではなく。
自身の妹である美華の姿を脳裏に浮かばせていた───────
「全く、出来の悪い息子を持つと面倒この上ない」
コツコツと、革靴の音が聞こえる。
竹流はもはや見るまでもなく誰が来たのかを悟り、そして再び死を覚悟した。
小岡は黒鍵をピタリと止め、その男の方へ顔を向けるのだった。
「おやおや、貴方様はこの方の保護者ですか。いつまで経っても子離れ出来てないのでは?」
「何を言う、
黒い外陰を見に包ませ、深々と帽子を被っていたその男は今回の騒動を引き起こした張本人。霧島義隆であった。
「親父……」
「何をしている竹流、などとは聞くまいよ」
呵々、と嘲笑う義隆。
竹流は拳を握り、歯軋りを強くしていた。
「おおかた、預託令呪を奪い我々に配ろうと勝手に企てたのだろう?」
無言で頷く竹流。
義隆は再び呵々、と笑うと彼の頭を掴み、力を加えた。
まるで万力のような圧力に竹流は涙を滲ませながら痛みを零す。
「ぐ、……つ、ぅ……ッ!!」
「浅慮浅慮。そんな頭は不要だろう。
私が潰してやろう、有難く思えよ竹流」
「ま、待ってくれ……親父……!!
でも、アンタは令呪を使った、から……ッ!?
もう、のこりは、な───────」
「無い、とでも思ったか?
そして貴様は私が前回の聖杯大戦に参加したのを忘れたか?
……それに加え、私は過去に開催されてきた亜種聖杯戦争を撒き餌として利用して、参加者どもの令呪を根こそぎ奪っていた。
系八回。その結果が、全六十画程の令呪だ」
義隆の言葉に竹流が目を見開かせ驚き、小岡は耳を疑うのだった。
それ程の令呪の数ならば、なるほど確かに竹流の行為など不要であった。
竹流はこの先に起こる処罰を頭に浮かべ、自身は無駄であったと絶望する。
「さて、では行くか。
……この場は素直に撤退させて貰えるか、老兵」
義隆の問いに小岡は満足気に頷いた。
「えぇ、構いませんよ。
しかし、ここの修復をお願いできますか?」
「容易いものだ。
“遥か遠く、久遠に霧散した記録達よ”
“我が呼び掛けても、返事をしない靄よ“
”代わりに、繋ぎ合わせてこれからを記録したまえ”」
義隆が宝石を投げながら唱え終えると、宝石は砕けてしまう。しかしその代わりに荒れたコンクリートの大地は修復され、弾痕刻まれた礼拝堂もその弾痕が消え去った。
「これで良いか?
あぁ、しかし惜しい事をした。
秘蔵の宝石、二十年間我が魔力を込め続けたものが無くなったのだからな」
「でしょうね。
一目見て、あの宝石は特別なものだと思いましたので」
「呵々、ではサラバだ。
行くぞアーチャー」
「ハイハイ、分かってますよっと」
霊体化を解いて、“陰”のアーチャーが返事をする。
義隆は彼に竹流を担がせて、教会を後にした。
小岡は二人が消え去ったのを確認して、ゆっくりと座り込み、
「ふぅ、疲れた。
もう少し若ければこれで息切れなどしなかったが」
と、自身の老化に愚痴を零すのだった。