Fate/fake savior   作:桜野 ヒロ

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獣の悲劇

 ジャックと“陽”のアーチャーが隣室の諍いを止めに行った頃、霧島邸の義隆の部屋で。

 義隆は竹流の首を掴んでいた。

 掴んでいると言っても、力は入っていない。

 彼は、竹流に対してある種の疑念が生じていたのだった。

 

「おう竹流や。教会ではお前を無知無能として扱ったが……貴様、監督役の預託令呪を奪い(わたし)と遊人以外に配るつもりだったのではないか?」

 

 小岡の前では言わなかった、その問い。

 聞かれれば確かに、義隆自身のプライドにも関わる問題であるものであった。

 竹流は一瞬脈動が早くなったが直ぐに落ち着かせて首を横に振った。

 

「呵々、可愛い嘘をつくではないか。

 まるで幼子のようだな竹流や。

 そういえば、貴様は背格好が優れている割には幼少期はよく虐められて、美華に助けられて居たのを思い出したな」

 

「何が言いたい、親父……?」

 

「やはり記憶が飛んでおるな。

 ……その美華は誰が殺した?」

 

 その問いに彼の脳内はショートされ、一瞬にして廃人の様になってしまった。

 その無様を見て、義隆は失笑する。

 

「忠吉め、雑な唆しをしおって。

 どうせ、『美華の仇』だの『聖杯があれば』だのとぬかしおったのだろう」

 

 竹流を床へと投げ捨て、自身の机へと向かう。

 引き出しから液状の入った小瓶を取り出したのだった。

 

「莫迦を相手にするとこうも脳が疲れる。

 なぁ、木曾義仲よ」

 

「……気付イテイタカ、老獪」

 

「おぉ、これは予想外だ。

 私はあと数日は獣だと思っていたがこれはこれは。

 あの生娘のような鬼の仕業か? 

 困った困った。これでは(わたし)の折角の令呪が無意味となってしまうでは無いか」

 

 わざとらしく義隆が困った素振りを見せた刹那───────義隆の眼前には刀身が迫っていた。

 しかし、義隆は冷静に

 

「止まれ」

 

 胸にある令呪を光らせ、アヴェンジャーの動きを止めた。

 

「すまんな、貴様用に調整した令呪はあと五十は残っている。

 だがまぁ、フェアでは無いな。

 いいだろう、(わたし)とて男だ。貴様の要望を一つだけ叶えてやろう」

 

 小瓶の中にある液を飲み干し、義隆がアヴェンジャーに言う。

 アヴェンジャーは、その願いを聞いて直ぐに

 

「アノ女と明日ノ昼二逢ウ。ソレマデ私二何モシナイデクレ」

 

 そう答えた。

 義隆は呵々、と笑い。

 

「それは無理だ、却下させてもらう」

 

 そう言い、赤く煌めかせた。

 

「貴様───────!!」

 

 アヴェンジャーが止まっていた腕を動かすが、義隆に再び止まれと命じられ、止まってしまう。

 

「そういえば、お前を召喚した時も最初に私に攻撃をするなと命じたな? 

 さて、次はなんだったか……そうだ、源氏に対して復讐心を抱き、人の心を忘れよ。だったな。

 しかし、それは効果が薄かったな。

 だから最後に命じたこれを先にしよう。

 ”貴様の大事な者たちの記憶全て忘れよ“」

 

 瞬間、赤い煌めきがよりいっそうに強まる。

 その直後、彼の記憶から愛しい人や部下たちが去っていく。

 そのショックで、アヴェンジャーは腕がだらりと下がり、竹流同様廃人のようになった。

 

 

「さて仕上げだ───────”源氏に対する憎しみを増幅させろ“」

 

「▆▆▆▆▅▅▅▂▂!!!!」

 

 そして、完成したのは本来はないハズの復讐心で埋め尽くされた獣であった。

 獣は咆哮を轟かせ、黒き炎を焚く。

 

「……この愚かな息子の行動は許そう。

 無能な息子の蛮行は一度許すと言ったからな。

 ───────なぁ、忠吉や」

 

「父上。やはり気付いておりましたか」

 

 部屋の中に忠吉が入ってくる。

 手には刀が握られており、その目は鋭く義隆を睨んでいた。

 呵々、と笑い義隆は忠吉に問うた。

 

「何が望みだ? 

 優秀な息子の頼みは三度までなら聞いてやるさ。コレで三度目になるが、それでいいならな」

 

「当然、当主の座についてです。

 貴方はアルツハイマーが進んでいる。今の小瓶はそれを少しでも止める為のモノだ。

 本来ならば、竹流に預託令呪を強奪させて私と竹流の半々に配り貴方に拮抗し、何とか私の条件を呑ませようとしたが失敗に終わりましたし。

 故に、恥を承知で貴方に頼みましょう霧島家次期当主、その座を私に寄越して欲しいのだ父よ」

 

 地に膝をつかせて、忠吉は頭を擦り付けて義隆に願う。

 その様を見て義隆はより一層、醜悪な笑みを浮かべた。

 

「“きのくにホテルにまで行け”」

 

 瞬間、赤く煌めき獣は姿を消した。

 そして、忠吉の方へコツコツと足音を立てて義隆が近寄った。

 

「忠吉や、その要望を聞き入れてやろう。

 次期当主、貴様にくれてやるさ。

 さて、そこな不出来な息子をどこかへ連れていけ」

 

「いいのですか? 

 彼の蛮行は、これで二度目だったハズですが」

 

「知らんな、忘れたよ」

 

 笑みを浮かべたまま、義隆がゆっくりとソファに腰を下ろす。

 忠吉は、渋々と竹流を抱えて部屋から去るのだった。

 

「さて、明日はプレゼントが一つに。

 久しい友との再開が一つ。

 呵々、胸が踊るな。のぅ▇▇▇▇」

 

 老獪は怪しく笑い、左手(……)の令呪を愛おしげに撫でた。




義仲さんかわいそうだし、巴も可哀想だしこの展開にするか悩みました。
でも僕が書きたいのは純愛なのでここでとりあえず記憶飛ばさせます
木曾義仲公が堕ちる姿もいいし、巴御前の絶望顔は想像するだけで得られる快楽があります(ド最低)。
それはそうとして、先に予告しとくとこの2人は割と綺麗な終わり方するので今は谷底だと思って頂ければ。
後は上がるだけです、えぇ

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