「マスター、我に何か用であるか?」
「あぁ、少し私の用に付き合ってもらおうか」
バエルの手には聖杯が握られており、“陽”のキャスターは何処かきな臭さを感じて拒絶するかどうかを一考……などという余裕は無かった。
何故ならば、バエルは即座に行動にかかったらであった。
“陽“のキャスター。彼に拒否権は無い、使い魔は所詮、悪魔に使い潰されてしまう存在であるのだから。
「“約束の地、約束の復讐を遂行する為に我は呼ぶ、我は試す、我々は繰り返す。
憎き人理を焼却する為に、我々は足掻き、もがき、怒り続ける”」
「何を───────」
している、と問う前に彼の足元が青白く光り輝く。
それと同時に、彼の中にナニカが入ってくる。
そんな不快感と苦痛を感じ、キャスターは叫んだ。
「あ、ギャァァァァァァォァァ───────!!」
「───────告げる。
汝の身は我が手網を握り、我が悲願は汝を糧に。
人理の焼却に従い、この意、この理に屈服せよ」
「拘束を此処に。
我は常世総ての獣と成る者、
我は常世総ての愛を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、
星々の輪より来たれ、天秤の破壊者よ───────」
光が更に強く輝き、陽のキャスターを取り込む。
刹那、彼の脳裏には膨大な情報量が与えられた。
量にして一人の人生程。
その果てしない情報量を得た成果として彼は───────
理解して姿を、透明へと変化させたのだった。
「……進展だな。これで、我が一族の悲願は近付いた」
「そして、貴様の強化も終わらせた。
死なぬだけでは役に立たぬ、そう判断させてもらったぞキャスター」
言いながら、バエルは箱を投げた。
自身の心臓とも言えるその箱を慌てて受け取った”陽“のキャスターを見下ろしながらバエルが淡々と命じた。
「さぁ、透明人間と融合して見せた不死の魔術師リッチーよ。
今迄の屈辱を晴らすのだ、今のお前ならば何者にも負けんハズだ」
透明人間となった不死の男は優越感に浸り、強い笑みを浮かべたのだった。
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「……まさか、彼女がルーラーとして呼ばれるなんてね。
因果来たれり、って感じがするよ」
雄大の部屋の中にて。
彼は、目の前の自身のサーヴァントである”陽“のライダーと共にチェスを嗜んでいた。
現状としては雄大が圧倒的不利であり、そしてほぼ詰みと言っても過言ではないものであった。
「勝ち目は?」
「あるさ。その為の人生だったんだよ?
ありとあらゆる可能性を、考えうる限り考えてその為の対策も仕込んである。
後は、聖杯を手に取れるか否かさ」
「今夜、奪《と》りに行くので?」
「……いや、今夜は使い魔で様子見さ。
僕《わたし》の予感が正しければ守り手が居るはずだ」
「成程、その守り手次第で計画を変える、というわけですね」
そういうことさ、と言い雄大が駒を打つ。
しかし、ライダーが駒と共に
「チェック・メイト」
と言葉を放ち、雄大に終わりを告げた。
「負けかぁ」
「下手すぎます、どうすればそのように自信満々でいられるので?」
「そりゃ、人生経験さ」
ハハハ、と笑みを浮かべながら雄大が駒を片付ける。
「期待しているよライダー。
今日は、暴れるだけ暴れてね」
「御意に」
頭を下げて、”陽“のライダーが姿を消す。
少し時間が経った後に雄大が十字架を握り、目を伏せた。
「さぁ……始まりだ。
奇跡を起こす道程。その工程のね」
そして───────夜が来るのだった。