”陰“のランサー、”陰“のアサシン達の戦闘が終了して十分後の霧島邸では。
その屋敷の主である霧島義隆は今夜の成果に満足していた。
なんと言っても敵のサーヴァントが二体も消滅し、それに対してこちらは誰も消滅していない。
それでいて、”陰“のランサーが
全てにおいて、都合が良すぎる程だった。
「呵々、なんと良き事だ。
いいぞ。このまま、このまま───────」
『───────あなた』
満足に笑む彼を咎めるかのように。
頭痛と共に、再生されるのは温かな誰かの声。
思わず頭を抱え、義隆はその場に膝を地につけた。
「だれだ、誰だ、誰だ…………!!」
苛立ち、疑念、焦燥。
そして何よりも、虚無感と悲壮感が彼の胸中を襲うのだった。
故に、彼は気付かなかった。
扉がノックされた事に、唐突な来訪者に。
「失礼」
その声すら聞こえず。
不意な気配に義隆は思わず、魔術で出迎えたのだった。
「忘却は始まり、やがて体を蝕む」
宝石を投擲すると共に、詠唱を唱える。
刹那、宝石は砕け散り爆風と共に来客を襲った。
しかし、炎は打ち消されてしまった。
それだけで、それがサーヴァントなのだと気付いた義隆は距離を取り、その背にある令呪を赤く煌めかせようと───────
「──────────────」
したが、そのサーヴァントの言葉に彼は自身のかつての相方であると気付いた。
「なんだ……貴様か。
ノックはした───────のだろうな。
貴様の事だからな」
義隆の言葉に、サーヴァントは不服な顔色をする。
それを目にして、義隆は笑みを浮かべながら相変わらずの憎まれ口を叩いた。
「フッ、なんだお前らしくない顔だな。
……まぁ、いきなりかつての相方に攻撃された挙句勝手に納得されては貴様とてらしくない顔をするだろうな」
「───────」
そのサーヴァントの言葉を聞き、義隆は笑みを浮かべた。
「なんだ? いつも通りに戻ったななどと……くだらん事を言う。
呵々、お前らしいよ」
そのサーヴァントに背を向け、窓を眺める。
サーヴァントには分からないが、義隆は魔力によって編まれた細工で使い魔の視力を窓に反映させていたのだった。
ある一面のみ、状況が変化していた。
孫である切翔のサーヴァントである”陰“のセイバーがとある騎士と剣を交わしていた。
槍を持った、そのサーヴァントは陽のランサーその者であった。
傍らにはそのマスターであるコンラートの姿があった。
セイバーの付近には切翔はいなかった。
義隆はそれが、切翔が狙撃のためにその場に居ないと見抜いた。
そしてそれは稚拙な行動である、と嘲笑したのだった。
「他のサーヴァントが潜んでいることも考慮せぬとは彼奴はまだまだ未熟よ」
その愚弄と共に、陽のランサーから膨大な魔力が溢れ宝具を発動しようとしているのを見て、義隆はすぐに視線を変えた。
「呵々、参った参った。
直ぐに遊人に司令を飛ばさねば」
義隆はそう笑みながらも、携帯電話を取ることは無かったのだった───────
────────────────────────
その場所は南海東江松駅近くにある、『クタ理容店』前の事だった。
まだ通行が途切れない、そのタイミングで陰のセイバーと陽のランサーは出会した。
お互い霊体化していて、周りには車が通っている。
そんな状況だというのに先に仕掛けたのは───────”陽“のランサーであった。
あろうことか、彼は霊体化を解いて目の前にいる陰のセイバーに、
「どうした? 早く霊体化を解け」
と、挑発したのだった。
陽のランサーの言葉に、陰のセイバーは霊体を解いた。
お互い、手には得意の獲物を持っている。
陽のランサーは長く、質素な槍を。
陰のセイバーは稲妻を象ったかのような特徴的な形の剣を。
そしてその先端をお互い向け合い───────
「───────いざ!!」
「参る!!」
”陰“のセイバーは水を周りから吸い上げながら、”陽“のランサーはその槍を愚直と著さんばかりに真っ直ぐに突きながら。
勇進する、二騎の英雄。
以前は陰のセイバーが想定不足だった為に、斬り合いでは負けた。
だが、今回は彼女とて彼の馬鹿げた対処の仕方は心得ている。
───────火花が散る。
その初撃は、”陰“のセイバーが押した。
力負けしてしまった”陽“のランサーは驚きながらも体勢を立て直し、直ぐに”陰“のセイバーを捉えた。
「成程、二日前の夜は手応えがないと感じていたが……なんだ、恐怖心でもなくなったか?」
「いえ、まだ怖いものは怖い。
しかしあのアサシンによる叱責が多少響いたのです」
「それ以外もあるように見えるが……まぁ、今は指摘しなくてもいいことではあるか。
さてセイバー……貴殿の本気、然と魅せて貰おうか!!」
再度、”陽“のランサーが突撃する。
その速さは、車よりも。大型バイクよりも速い。
まさに迅雷の如き。
そのスピードで、”陽“のランサーは”陰“のセイバーへと襲い掛かる……!!
普通の人間ならば、ぶつかれば即死であろう。
英霊とて、無傷では無いだろう。
そんな、渾身の一撃は───────アッサリと、”陰“のセイバーに弾かれた。
その剣によりひと薙ぎで、”陽“のランサーは呆気なく、容易く凪払われた。
「何を勘違いしているのですか。
私は、まだ全力ではありません。
───────本気を出せば、死んでまうでしょう?」
弾き飛ばされた”陽“のランサーは驚きのあまりに目を見開き、目の前の『少女』への認識を改めた。
「…………奴を思い出させてくれる」
空中で上手く体勢を立て直し、上手く着地に成功した彼は遠くなってしまった少女───────『獣』に、聞こえるように声を上げた。
「舐めていた、君の相手は……私では役不足だ」
「ならば自害するといい。
悪くない提案だろう?」
勝ち誇った顔を浮かべる陰のセイバー。
しかし直ぐに、陽のランサーの周りに溢れる膨大な魔力を前に警戒をし直すのだった。
「フフ、慌てるなよセイバー。
まだまだこれからさ。
窮鼠猫を噛む……この国の諺だろう?」
「宝具───────!!
止めはしませんとも。存在を証明する為ならば、超えなければならないのですから」
「いい気概だセイバー!!
───────顕れよ、”
刹那、警察署の一室にまで飛ばされたランサーと、理容店前のセイバーの間に挟むように現れたのは頭と尾がが蛇、身体が豹と獅子、足が鹿という異形な化け物が現れた。
その獣はセイバーを睨み、即座にターゲットとして捉えた。
「さて……私は退散させてもらうか。
私はアレを召喚できるだけ。制御は出来んさ……悔しいが、私はアレに討たれたからな」
そう言いながら、思念による会話で”陽“のランサーが自身の主に令呪による転移を行って貰うように取り付け、即座に退散した。
その、はるか遠くにあるコンビニにから赤い光が夜空を奔ったのを切翔は見逃さず即座に狙撃した。
距離は役1km。
陽のランサーの主……コンラートがまさか気付くハズはあるまいとタカをくくっていた、それが仇となった。
なるほど確かに灯台もと暗しではある。
建物の屋上に隠れて居るはずだと思っていた切翔ではあるが、視界はしっかりと広げていた。
その弾丸は空を翔け───────コンラートの右胸を貫いた。
「…………グッ!?」
コンラートは蹌き、右胸を抑えながら直ぐにレジの方へと退避した。
弾丸を『強化』させたのだろう、壁をも貫通させたのだった。
そして何よりも───────
「壁にいたよね……窓の反射から令呪の煌めきを捉えたのか?
怖すぎるねぇ……!!」
額に脂汗を滲ませて苦笑を浮かべながら、コンラートが呟いた。
その苦笑には嬉しさも含まれていた。
自身の友である男が手塩に掛けた孫がここまで手強いことに。
「さすがヨシタカ……!!
これでこそ、ランサーの出した獣を使い潰す甲斐があるものさ!!」
遅れて。
光に包まれた、”陽“のランサーがコンラートのそばに現れる。
そして直ぐに、コンラートはレジ奥で顔を恐怖で歪めたコンビニ店員に振り返り───────
「悪いね」
それだけ呟いて、店員の首を握り潰したのだった。
「主よ、逃げましょう」
「……そうだね、ランサー。
まぁもう正体は割れたし、パロミデス卿とでも呼ばせてもらおうかな?」
軽口を叩きながら、二人はコンビニから出てその場を離れたのだった。
───────そして、舞台は戻り陰のセイバーとランサーが出した獣へと。
先に仕掛けたのは獣の方であった。
首を伸ばし、陰のセイバーへと噛みつきにかかる。
セイバーは回避し、そのまま首へと剣を一閃させる───────!
しかし、同時に伸びていた尻尾に気付かずに陰のセイバーは尻尾の蛇に横腹を噛みつかれてしまった。
そのまま、クタ理容店へと叩き付けられ陰のセイバーは壁を突き破って店内へと入る。
「グ……うっ、ぐ…………!!」
これしきの怪異などと、完全に油断しきった陰のセイバー。
そして、
「情けない。またあの初日の再演でもするのか?
あぁ、でもオレは自分の役回りを撤回したいね。
なんせ、こういう指導役ってのは死に易いだろう? ただでさえ近い立場なんだ、これ以上近くはなりたくないからね」
遊人達よりも早くに到着した陰のアサシン。
獣が追撃を仕掛けなかったのはアサシンによる殺気で警戒に徹したからであった。
「アサシン……何度と助け舟、感謝致します。
そして……今回は手出しは不要です」
「怪我があるのに勝てるのか?
一応、他の同行者は大体二分くらいで着くとは言ってたが?」
「えぇ、心配ご無用です。
…………宝具を使いますので」
そう言い、陰のセイバーは剣に魔力を集中させた。
───────剣に水が束なり、剣ごと肥大していく。
その剣の姿を見て、最初に驚きを見せたのは獣であった。
獣に知性は無い。しかし、直感が『逃げろ』と叫んでいる。
剣が八つの頭を持つ大蛇の姿へと成った時に、その直感に従い獣が背中を向ける。
しかし、両前足の足根骨が撃ち抜かれたせいで獣は前のめりに倒れた。
獣が召喚された後、切翔は場所を移したのであった。
プレイセンターサーカス、というすぐ隣のゲームセンターの屋上へと。
ふぅ、と一呼吸してから切翔も直ぐにその場から離れた。
陰のセイバーの宝具、その余波から避ける為である。
「八岐大蛇から生まれし剣よ、私に力の一端を振るわせ給え。
怒濤せよ───────
そして放たれる、神代の剣による一撃。
その水は全てを切断する水圧を纏い、獣を襲う。
狙われた草食獣のように、唸る獣はその剣による一撃を受けて絶命する。
「なんだ……本当に要らなかったな」
「獣相手ですので。
腹部も少し擦れた程度なのでお気になさらずに」
「さすが、ヤマトタケル様ってか?」
”陰“のセイバーが頷く。
そして、出動し始めるであろう警察から逃れる為に、直ぐにその場から離れるのだった。
マジで物語の主役が被って頭抱え沢
……なんなれ、なんなれー!!!!