「おや、もう破壊されたみたいだねぇ?」
「……あの剣の形からして疑ってはいましたが、あのセイバーはやはりヤマトタケルでしたか。
そうでなければ納得がいかないほど、彼女の膂力は凄まじかった」
”陽“のランサーはどこか悔しそうな表情を浮かべながら、”陰“のセイバーを讃える。
主の為にセイバーを倒したかったがそれは無理だった、その自身の不甲斐なさに腹を立てながら。
食いしばった顎はギチリ、と歯にヒビが入ったかのような音を鳴らす。
普段、全くそんな姿を見せない”陽“のランサーに内心で驚きつつも、気にせぬ風に装いながらコンラートは大袈裟に両手を広げ目を爛々と輝かしながら、
「大丈夫さ、獣がいなくても君は強い。
相手はこのジパングでは強いだけだろう?
次はワタシの令呪、最後の一画を使う。
いいや、使ってでも勝ってやろうさ!!
それくらいの番狂わせをしなきゃ聖杯大戦のお土産話はできないしね!!」
自信に満ちた表情で大言を吐いてみせた。
コンラートの言葉に、”陽“のランサーは高揚感を覚えた。
「やはり、貴方は普通の魔術師と感性が違うのですな。
冷酷さは備わっているが、それよりも陽気さがあると言いますか」
「最近の辛気臭い、陰気臭い魔術師はもう終わりさ。
時代に合わせなければ生きていけないのは恐竜が証明してくれてるだろう?
だと言うのに頭が固いヤツらだよワタシ達魔術師は」
「ですね」
短く肯定し、二人は陽の陣営が次の避難先に決めていた場所へと向かう。
コツコツと、二人の靴の音が響く。
二人は避難先のとあるマンションへと着くと、そのエレベーターホールには裏切が出迎えるべく待っていた。
「お勤めご苦労様です。部屋へと案内します。
それと……レクスさんが戻ってきたらお話がありますが構いませんよね?」
何処と無く、不吉な報せを言いたげな意地の悪い笑みを浮かべる裏切に、コンラートは目を細めた。
その視線には軽蔑、侮蔑が込められていた。
「まぁまぁ、そんな風に見つめないでくださいよ」
コンラートの視線に、裏切もまた冷笑で返したのだった───────
──────────────────
「さて、全員揃った訳だが……」
「もう隠す必要ねぇだろウラギリ。
テメェ……カタリナが生きてたの隠してたな」
その内容を見抜いたのは、レクスだった。
持ち前の嗅覚でカタリナの匂いを感知し、確信を得ていたレクスは自身の身体を徐々に変身させていく───────
今にも臨戦しそうなレクスに臆することなく、平然とした振る舞いで裏切が答えた。
「えぇ、ですがあと二つだけ伝える事が」
指を鳴らすと、雅が懐から銃を取り出し、銀髪の女性───────”陽“のバーサーカーと、漆黒の鎧を身に纏った男、”陽“のライダーが現れた。
更には扉を蹴破り、カタリナがマシンガンを構えながら現れた。
「まず一つ、バエルさんは死にました。
カタリナさんが殺しましたよ。
そして最後に……今から陽の陣営は
理由なんて言わなくても分かりますよね」
それは、状況が示し明かしていた。
満身創痍のランサーに加え、戦力外と言ってもいいセイバーが一騎ずつ。
レクスもある程度はサーヴァントと戦えるかもしれないが相手はアサシンも隠している可能性がある。
どう考えても圧倒的な不利場面であるのは明白であった。
歯ぎしりをしながら、コンラートは現状は従うしかない現実を受け入れた。
陽気に、しかし荒々しげにソファに深々と座り両手を上げた。
「全く、悔しいよ!!
まあいいさ、現状を認めてワタシは大人しく従おうかねぇ」
「……そうだな」
ユースタスも同じくソファに座り込む。
二人の行動に呆気を取られたレクスだが、直ぐに冷静になり変身を解いた。
「ま、ここで潰し合う事が目的じゃねえしな。
だがウラギリ。テメェには先ず、問い質させろ」
赫色のナイフ、その刀身を見せながらレクスが睨みつける。
彼の行動に合わせて、”陽“のセイバーも珍しく敵意を見せた。
「聞きましょう───────なんですか、アーベル・レクス」
「貴様の目的だ。
霧島から聖杯を奪取し、その聖杯を手にした瞬間に貴様は何を願う」
「端的に言うなら人類の進化、ですよ。
感情のない、かつ超次元な強さを秘めた存在へと人類を進化させる。
それが僕の願いです」
あっけらかんと、当然のように答える裏切。
しかし瞳には、何がなんでも叶えてみせるという決死の覚悟が見えていた。
本来ならばその瞳は魔術師に嘲笑されるのだろうが、その場は魔術師らしい魔術師はいない。
寧ろ、裏切を個人差はあるものの認める者達ばかり。
そんな、少し普通の魔術師とはズレた感性の者達の集いだったのだ。
「良かったな、オレ達がチョロくて」
裏切の瞳を見て、レクスは呆れながら呟く。
しかし直ぐに、
「だが……オレにも聖杯に掛ける願いがある。
断言するが、同じ陣営にいるがそれでもオレはキリシマミヤビとは必ず敵対する。
その時まで生かしてくれるならいいぜ、狼の手でも義手でもいいなら使ってくれよ」
「頼もしいじゃないですか、オオカミの手。
そちらも腕に細工を施されていますし……活躍が楽しみですよ、えぇ」
レクスの軽口にまた、裏切も軽口で返した。
コンラート、ユースタスは元より霧島家の蛮行を止めるべく徴集された身である為に今は戦力が欲しかった。
ならば、彼らに従う決断は当然と言うべきであるだろう。
「さて、漸くこれで一先ずは一丸となれましたかね?
改めまして皆さん、よろしくお願いしますね」
笑みを浮かべて、裏切が全員を迎えたのだった。
「───────ッ!?」
しかし直ぐに、彼の表情は驚きと共に苦々しいものに変わった。
何かを察知したのか表情は変わらぬままに彼は、
「全く……次も厄介事か。
すいません、少しだけ離れます」
それだけ言い残し、彼はマンションから出るのだった。
────────────────────
───────夜のある住宅街で。
ルーラーは、”陽“のサーヴァント達が集まる気配を頼りに歩みを進めていた。
元々、何処に集まっていたのかは明白であったが罠を張られている可能性を考慮して、ルーラーは赴くことをしなかった。
しかし、今集まったのは急造の避難場であろうと彼女の勘は告げて、急いで行動に移したのだった。
───────遠い昔、彼女が『聖女マルタ』として名が広がっていない時代にある出会いがあった。
その少年は痩せ細った顔をしており何処か、死にそうで。
けれど、明確に『生きたい』と目を獰猛に輝かせながら。
その目を見た時に、彼女は助けなければと思い少年の手を引き、かの聖人へと邂逅させた。
───────そして、少年の運命は恋慕に堕ちる。
その結末、結果は誰も予見出来なかった。
彼女が抱いている数少ない後悔、その一つ。
その事を思い出し、脳裏に浮かべながら。
何処か
思い出に馳せていたうちに彼女は、そのアパートにまで辿り着いた───────
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「こんばんわ。いい天気ですね、ルーラーのサーヴァント」
「そう? そろそろ雨が降ってきそうだけど」
そこのベンチに青年は腰掛けていた。
ルーラーが着くまで待ち構え、そして見えた瞬間に声をかけた。
ルーラーの敵意を剥き出した返答に、青年は薄ら笑みを浮かべ、答えた。
「失敬、言葉が足りませんでしたね。
僕が貴女と再会するにはお似合いの天気、という意味でした」
「私は出来たら、晴れた日に再会したかったわ。
……少しは明るく振る舞えそうな気がしたから。
というか貴方、見ない間に変わったわね」
ルーラーの最後の言葉に、裏切は笑って誤魔化す。
一瞬。
一瞬だけ、二人の間に沈黙が走った。
言うべきか言わないべきか。
その事を悩んでいたのだ。
その一瞬の後、先に言おうと決意したのは裏切であった。
訣別の意を込めた、再会の挨拶を。
「お久しぶりです、マルタさん」
「久しぶりね、ユダ。
貴方には聞きたいことが沢山あるわ」
マルタの言葉に裏切───────ユダは、笑みを浮かべたまま頷いた。