「ユダ、貴方はどうやってこの聖杯大戦に参加したのかしら?」
「それを説明するには、先ずは僕の生い立ちから説明しなきゃ行けません。
そうしないと、理解できないでしょうから」
ルーラーの許可など知ったことでは無いと言わんばかりに、彼は淡々と説明を始めた。
その、自身の第二の生を。
「
幼い頃から……自身はイスカリオテのユダと言う人物として生きていた、という記憶を残してね」
「姿が違ったから人を依代にした召喚かと思ったけど……貴方、サーヴァントではなかったのね。
いや、アンタが変な思い込みしてる可能性の方が高いけれどね」
「ただ、ちょっとした著名人のイスカリオテのユダ。その記憶を引き継いだだけの人間でしたよ僕は。
───────僕が、とある聖杯戦争の際にサーヴァントに憑依されるまではね」
どういうことか訊ねられるよりも早く、ユダは答えた。
「そのサーヴァントの名は『イスカリオテのユダ』でした。
何故か、別世界の僕が呼ばれたみたいです。
記憶もある程度は引き継ぎましたが……このユダは浅ましい人間でしたよ。
小銭目当てで、貴方達を裏切った。
僕と殆ど変わらない生い立ちなのに、何故サーヴァントになったのかは分かりませんが」
自嘲気味に笑い、ユダは更に続けた。
「イスカリオテのユダは、とあるサーヴァントを呼ぼうとした時の代理に呼ばれる仕組みになっていたようです。
───────かの聖人を呼ぼうとした者に対する天罰だと言わんばかりに」
「アンタが『あの人』の代打って……ラザロでも、マリアでもないのね」
「
兎も角として、これで聖杯戦争に関する知識を身につけた僕は即座に魔術師となるべく動きました。
ある程度の奇蹟は使えたから、それを応用したら何とか時計塔には入れました」
「それで、聖杯大戦を知って自身も参加しようとしたってわけね」
えぇ、と頷いてユダは続けた。
「本来は別の魔術師が持っていました。
しかし、色々あってその魔術師がお亡くなりになられる前に頂戴しました」
「殺す前に奪った、の方が分かりやすいわ」
ルーラーの言葉に、ユダは笑みを浮かべたまま。
しかしながら、魔術で繋いだ回路による念話で”陽“のライダーを呼びつけていた。
何時でもルーラーを襲えと、そう命令を下していた。
ルーラーはサーヴァントの気配を感知できるスキルを保持しているため、”陽“のライダーが近付いていることも、そして自身を手に掛けようとしていることも把握していた。
だからこそ、彼女は何時でも令呪を発動できるようにしていた。
更には、奥の手である宝具の発動準備も。
念には念で、彼女も迎え撃つ準備をしていた。
そうした水面下で、表面では平和に二人は会話を続けていた。
「亜種聖杯戦争にも何回か参加しました。
そこで、今の協力者である霧島雅とカタリナ・キャッシュヴァルトにも出会いました。
この聖杯大戦に向けて、入念な準備をしたわけです。
そうして、僕は最適だろうサーヴァントを呼び出した」
「それが、エドワード黒太子?」
ルーラーの問いに、ユダは呆気に取られてか一瞬真顔になる。
しかし、直ぐにあぁ、と何か思い出したように呟いた。
「アレは貴方の真名看破すらも通り抜けるのですね……素晴らしい。
すいませんが、貴方が出会したエドワード黒太子は偽物です」
「なんですって?」
ルーラーが怪訝な顔を浮かべる。
───────それと同時に、直感に従ってか後ろへと後ずさった。
ルーラーの即座の行動にユダは感心する。
流石は喧嘩慣れしているだけはあるなと。
そんな余裕のある感心を抱きながら、ユダは語った。
「彼の宝具がね……そういうモノなのですよ。
最初は陽の陣営の彼らを欺くために使っていたのですが。
凄くないですか、自身が手にかけたサーヴァントの宝具や技を自身の者にするらしいのです。
そりゃあ亜種聖杯戦争に足繁く参加しましたとも……いや、たった三戦程しか無理でしたがね」
ユダが指を鳴らす。
ルーラーが上を見上げる。
マンションの屋上からこちらを見下す人影。
そこには、前夜と変わらぬ姿の騎士がいた。
脳裏に入る彼女の情報では確かに、彼はエドワード黒太子だった。
「クラスも影響してるみたいですがね。
かの王は狼と呼ばれ、そして好きなように他国のモノを、歴史を奪い蹂躙していった。
人類でも類を見ない略奪者。
故にクラスもそれに見合う
「わざわざ大ヒントをくれたわね」
「えぇ、ここで殺すつもりなので。
僕の計画を、貴女は確実に邪魔しに来るでしょうし。
そういうわけで殺ってください。
蒼き狼───────チンギス・ハン」
「成程、駒ではなく獣の出番か。
応とも、我が出向こう」
ルーラーは漸く、騎士の後ろに一人の男が経っているのに気付いた。
それが、サーヴァントだと言うのも。
そしてその名がチンギス・ハンであるとルーラーの脳に瞬時に入った。
刹那、矢の雨が空から降り注ぐ。
目の前のエドワード黒太子では無い。
恐らく遠く離れた場所から、大量のソレが矢を放ったのだと結論したルーラーは即座に切り札を切った。
令呪による行使───────は本当に最後として。
彼女は宝具である相棒を呼び出した。
『
大量の魔力の放流と共に現れるは、亀に似たトカゲ……否、竜であった。
リヴァイアサンの子供とされとある街を暴れ尽くした暴竜タラスク。
タラスクはすぐさまルーラーへと覆い被さり矢の雨から身を凌ぐべく盾となった。
「おや、我の死体の弓矢部隊が死んだ。
やはり、体が千切れるにまで力を込めて射さすのは効率が悪いな」
「ですかね?
まぁでもこうしなければ相手は直ぐに気配に勘づいてたでしょうし結果オーライと言うやつですよ。
それに、貴方の”軍“の宝具は魔力の消耗が激しくて出来たら使って欲しくないので」
「まぁ、そうかもしれんが……そうさな、質は極悪だったし割り切ろう。
さてルーラーよ、次は交わした方が良いぞ?」
そう言い、彼は弓矢を権限さす。
ルーラーはその矢は普通でない事を悟り、即座に逃げる事を選択した。
ルーラーの意識の変化を見逃さなかった”陽“のライダー改め、”陽“のプレデターは、ルーラーに対しての好感度を上げたのだった。
「聡いな、美貌といいあの身体といい……我が妻にしたいくらいだ。
あの銀髪のバーサーカーも狙っているが……共闘している今はダメなのだろう?」
「あのバーサーカーは我慢してください。
ルーラーは…………まぁ、仕方がありません」
「ならばこそこのルーラーで我慢しようか。
さて、覚悟しろそこの嬢。
今から我は貴様を殺し、我が物とする」
「冗談……!!」
ルーラーが拒絶し、足を早める。
そのルーラーの行動にユダは満足気に頷くのだった。
「いいですね、流石は戦闘慣れしてるだけはある。
先に言っておくと、あの弓矢はヘラクレスが持っていたとされるモノで、ちゃんとヒュドラの毒ですよ?」
「成程、道理で見た瞬間嫌な予感がしたワケで……!!」
ルーラーが、着ている修道服から十字架のような柄を取り出す。
魔力を通した刹那、その柄からは刀身が現れた。
「黒鍵───────成程、教会の方からもらいましたか」
「剣……か。手に持っている杖ならば対処難しいと考えていたが、それくらいは持っていたか」
言いながら、”陽“のプレデターは矢を放った。
飛来する矢を切り払い、ルーラーは令呪を発動させた。
「”陽“のプレデターよ、動きを止めなさい───────!!」
赤い光が煌めき、プレデターは矢を番える事を禁じられた。
不服そうに舌打ちをするプレデターとは裏腹に、ユダは笑みを浮かべた。
「……よし、まずは一画使わせた」
「そうね、口惜しいけれど。
それじゃユダ、まだ聞きたいことはあったけれど……また今度にさせてもらうわ!!」
言い残し、ルーラーが高く跳躍し姿を離す。
撤退するルーラーの後ろ姿を捉えながら、ユダはポツリと、
「えぇ、また何れ。
その時に答えます、『聖女マルタ』」
寂しそうな笑顔を浮かべながら、そう呟いた。
令呪による効能が切れたのか、”陽“のプレデターはユダの傍らへと着くと確信を得た笑みでユダに声を掛けた。
「やはり、まだ惚れているのか?」
「そりゃあ、そうですよ。
あんなに美しい人……見た事が無かったので」
「ならば、お前はあの時にあの女もダメだと言うべきだったな。
男として落第だ」
「『あの人だけ』はダメなのです。
かの聖人の代わりなのです、
そう言い、彼は胸に吊るしてあるロザリオを握る。
「男として落第でもいい。
僕は、僕のやり方であの人の代わりに人類を救済します。
この世全ての罪、それすら背負ってでも」
「───────ふむ、お前がそれでいいのならば構わん。
だが我としてはつまらんぞ」
「こりゃ手厳しい。
ですが、つまらないだけで人類を救えるのなら本望です」
ユダの言葉に、”陽“のプレデターははて、と不思議そうに首を傾げた。
ホテルの一室で言っていた彼の言葉、それは救済などではなく進化だったからだ。
「進化ではなかったか?」
「あぁ───────その辺はまた別の日にでもおいおい説明しますよ」
指摘を受けたユダは、笑みを浮かべて誤魔化しながらマンションへと足を運ぶのだった。
めちゃくちゃタラスクの宝具名間違えてました……