時刻は十八時を過ぎ、霧島邸では食堂にて聖杯に選ばれた六人が食卓を囲み、今夜に向けての会議を行っていた。
「切翔、お前にはそうさな……江松少学校あたりでサーヴァントの探索を行ってもらおう。
本来ならば
それに、言うことを聞かぬのだ。令呪もこんなことで消耗したくはない」
といっても、義隆の考えていること通りに動いてもらうだけであって、他の面々はそれに従う、それだけだった。
「次に忠吉。お主は竹流と共にこの屋敷の護衛をしてもらおう。
そして遊人、お前はそこのホムンクルスと共に切翔とは別方面の場所を。
最後に彪斗、お前は……まぁ、好きにするが良い」
言っても無駄、そう悟った義隆は彪斗には自由行動の許可を出す。
願わくば、こちらが有利になる動きを期待して。
「はいはーい!!
バーサーカーと遊ぼっと!!」
───しかし、その期待は一瞬で捨て去った。
そして脳裏で、誰かのサーヴァントが敗れても彪斗を始末してサーヴァント権を移そうと企てるのだった。
「……我が血筋の恥が」
見下すように、彪斗を睨みながら忠吉はフォークに刺していた肉を頬張った。
黒毛和牛の程よく締まり、そして蕩けるような食感に舌鼓を鳴らしながらその旨さを堪能する。
「……ま、彪斗ッチは何言っても無駄だかんねー」
本人は独り言のつもりだったが、それが忠吉の言葉に同調するようになりながら、遊人はカビの生えたパンを口に運ぶ。
パサパサと乾いた、そしてカビが生えている不衛生な汚物といえるソレに、遊人は不快感を抱きながら、半ば無理やり口に運ぶ。
「……あ? 黙れよ遊人ー、ガキの頃みたいに虐めてやろうか?」
ニコニコとした笑顔で、彪斗はあまりにも紅い麻婆豆腐をレンゲで掬い、滝のように汗を流しながら食す。
彪斗の無邪気な、しかしそれでいてどこか圧をかけているかのような笑顔。
しかし、慣れきった遊人にとっては恐怖でもなんでもない。
「ごめんごめん、気を付けるよ」
ただの、子犬が拗ねたようなモノと同一視されていると知らずに、彪斗は遊人の軽薄な謝罪に満足し、再び麻婆豆腐を食べ始める。
「………………」
皆が食事をしている中、切翔は自身の目の前にあるサンドイッチをただ、見ていた。
「どうした切翔?
……なにか不味いものがあったのか、言ってくれればこのサンドイッチを作った無能な侍女を始末するが」
「そうじゃない、むしろ逆なんだよ竹流おじさん」
物騒なことを言い出す竹流に誤解を解きながら、切翔は部屋の扉前にいる侍女の方へ視線を移した。
「すまない、これと同じのを後で作ってくれるか?
……美味しくてね、携帯食料にしたい。
すぐに食べれるように一口サイズにしてバケットに入れてくれたら助かる」
「は、はいかしこまりました!!」
嬉しそうに侍女が頷き、すぐさまキッチンへ移る。
それをどこか不満げに、竹流は睨みながら、荒々しくステーキにフォークを突き立てた。
「……俺はもうこれで失礼する」
言い残し、竹流は部屋を後にした。
切翔も勢いよくサンドイッチを食し終え、すぐに席から離れた。
「……竹流め、もう四十手前だと言うのにマナーも守れんのか」
弟の乱暴さに、自身のことを棚に上げながら忠吉は溜息をつき、最後の肉を頬張る。
そして、合掌して席を離れた。
「威勢がいいなぁ、彼奴らは。
お前達も見習うことだ、遊人に彪斗」
ほぼ同じタイミングで席を外す義隆。
「…………」
「…………………………」
気まずい空気の中、彪斗と遊人は食事を終えたのだった。
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一方、陽の陣営は。
皆、携帯食料を片手に今夜の動きを話し合っていた。
「───私とアグリッパの二人で行動を取り、霧島邸を叩くのはどうだ?」
「いや、それはダメだ」
ユースタスの提案に、早くも雅が否定する。
「まず、奴らはなにかトラップを仕掛けている可能性がある。
無策に敵陣へ乗り込むべきではないのは、長年時計塔を生き延びてきた君ならば分かるはずだジャック・ユースタス」
「承知の上だ。
確かに、トラップの可能性は考慮したがそれはミヤビ、君がいた時の話だろう?」
しかし、真っ向からユースタスは切り返した。
「……ヨシタカの性格上、アイツは必要以上に裏を掻こうとする悪癖がある。
君がいた時は、トラップを仕掛けていただろう。だから当然、我々も、ヨシタカがトラップを仕掛けていると思い込み警戒して攻めあぐねるだろう。
そう、ヨシタカが予想しているとする。
となると、ヨシタカのとる行動は簡単だ。
守りを最小限に削り、戦力の殆どを攻めにする。
その最小限の戦力を一気に削れればこちらのものではないか?
これは、この初日にしか通用しない戦法だと思うのだがね」
同期だった彼は、義隆の人間性を熟知していた。
故の、義隆の考えていることを衝ける。
ユースタスの言葉に雅はほう、と興味深そうに頷く。
「……決まりだねぇ。ユースタスの言った、僕とユースタスの二人で攻めるというのは───」
「お待ちください、異議を唱えます」
決まりそうだったユースタスの案を、雄大が手を挙げ、止める。
ピクリと眉を動かし、ユースタスが続きを促した。
「───あなた方には別れてもらいたいです。
片方はレクスさんに、もう片方はミヤビに。
……私は、バエルさんとともに行動を取ります。
そして、我々が霧島邸に切り込みましょう」
「理由を聞こうか、裏切くん」
えぇ、と頷いて雄大が応える。
「まず、戦力を集中させすぎです。一気に叩きたいのは分かりますがこれでは、貴方の考えが裏目に出て、他の強力なサーヴァントと交戦した場合、敗北は必至となるでしょう。
特にレクスさんの……最弱を自称するセイバーとかが。
ただでさえ数で負けてるのだから、そう危ない賭けをするべきではないでしょう。
だから、こうして、なるべく”安全“を取りましょう」
「しかし、ゆっくりと戦っても進展がなければ意味が無い」
負けじと、雄大へ反論するユースタス。
しかし、
「博打をして負ける方が意味が無いでしょう?
……この世に『絶対』なんてないのですよ、ジャック・ユースタス……貴方はもう少し、冷静に考えると思っていましたが」
「煽るねぇ、キミ。
そんなに人を見下して、楽しいのかい?」
見事に一蹴され、そして残念そうに呟く雄大を、アグリッパが睨みつける。
「……揉め事はよせ」
しかし、バエルが間に割って入り、仲裁を図る。
「当面の目的はなんだ、霧島討伐だろう?
ならば、ここで醜く言い合っても負けの方へ傾くのみだ。
……ユースタス、アグリッパ。コイツを認めろ。
人は認めなければ前へ進めない。
勝つのだろう、ならばプライドを捨て、雄大を認めて勝利の道へと進め」
バエルの放つ、力強くい一声に雄大は勝ち誇った顔をした。
「そして、貴様もだ裏切雄大。
自身の立場を自覚しろ。お前は、ここでは不可解かつ、不気味な存在。
なぜ生かしているのか、それは最低限の戦力の為だ、と」
「……わかりました。まぁ、ここはもういいでしょう」
「オイ、もうユーダイの言ったことでいいだろ?
オレは……アグリッパの方へいかせてもらう、バエルはユースタスの方でいいだろ?」
ガタリ、と椅子を倒しながら、レクスが話し合いから離脱しようとする。
もとより彼が長話が嫌いなのは時計塔の魔術師全員が熟知していたため、レクスの離脱を見逃す。
部屋から出る間際、レクスは
「……なんか、今夜は殺りごたえありそうな気がするぜ」
どこか嬉しそうに呟いて、部屋を後にした。
レクスが部屋から出た後、やれやれと肩を竦めながらユースタスが苦笑し、レクスを見送るのだった。
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場面は変わり、再び霧島邸にて。
切翔は、サンドイッチを受け取りに厨房へと訪れる。
そこには、さっきまでなかったのに、顔に痣が出来ている先程の侍女がいた。
「……その痣はどうした」
「え、えっと……ごめんなさい、転んだ時にテーブルの角にぶつかってしまって……醜いところをお見せしました!!」
切翔が一応、訊ねると侍女は慌てながら謝罪し、背を向ける。
(……胸糞が悪いな、本当に)
切翔は察した、竹流が腹を立てて侍女のことを殴りつけたのだろうと。
そして、誤魔化すようにキツく言いつけられたのを想像しながら、切翔は歯を噛み締める。
「……そうか、気を付けろ。
さて、サンドイッチを受け取ろう」
しかし、切翔が竹流に言ったところで、彼は変わらない。
それどころか、この侍女のことをさらにキツく当たり散らすのは容易だった。
ならば、ここは侍女の言葉を受け入れることが一番丸く収まる。
これが、一番平和に終わるということに切翔は胸の奥底から自身の不甲斐なさに腹を立てる。
「は、はい!!
少しお待ちください、切翔さま!!」
嬉しそうに侍女が明るい笑顔を見せて、少し離れたところに置かれてある冷蔵庫からバケットを取り出す。
たたた、と小走りで切翔の元へ侍女が駆け寄り、ソレを渡した。
「どうぞ、切翔さま」
「ありがとう、そしてすまない」
受け取り、切翔が微笑む。
背を向けて厨房から立ち去る、その寸前に侍女が切翔を呼び止めた。
「あ、切翔さま、差し支えないようでしたらお訊ねしてもよろしいですか……?」
「なんだ?」
立ち止まり、侍女の問いを促す。
どこか気まずそうに侍女が、訊ねる。
「そのサンドイッチ……もしかして遊人さんにお渡しするのでしょうか?」
侍女の問いに、切翔をピクリと指を動かした。
微かな動揺を見せたが、侍女はそれに気付いてはいない。
しかし、切翔は観念したようにため息をだしながら頷いた。
「そうだよ。……遊人、いつもカビたパンだの腐った米だのを食わされてるからな。
コンディションは最悪なハズだ。
次期当主としては兼ヤツの兄としては困る事だ」
誤魔化しながら答える。
先程の動揺は気付かな侍女だが、切翔のこの言葉は嘘だと、気付き、クスリと笑う。
「……ありがとうございます、私、あの方が好きなので……そう気遣って頂けるととても嬉しいです」
「遊人のことを?」
えぇ、と侍女が頷いた。
「あの方、たまに私達の事を労ってくれるのです。
自身の境遇などどうでもいいと、笑いながら、明るい顔で。
とても、優しいお方です。ここの侍女として育てられ、乱暴に扱われている私達にとって、唯一の救いでしたから」
「……そうか」
侍女の言葉に、切翔は嬉しそうに微笑みながら、厨房から立ち去った。
そして、遊人の部屋へ向かおうと足を運ぶのだった。
少し経ち、切翔が去った後。
「───お役目ご苦労、切翔のことを誑かそうとした売女。
切翔からはいいことを聞けた、コレを父に言いつけて罰を与えるとして……お前はお前でどうしてやろうか?
いやまぁ、すまないな。
殺すことは確定しているんだが、犬の餌にしてやろうか、それとも祖父に身体の全てを礼装として使うようにしてやろうか、考えているところなんだ」
奥にある、侍女達の休憩所から竹流が姿を現す。
ずっとそこで切翔とのやり取りを盗み聞きしていたのだった。
「───まったく、卑しい女だよ。
お前は、あの霧島雅と同じだな」
瞳には明らかな怒りが籠っている。
「……煮るなり焼くなり、罵倒するなりお好きなように。
私はただ、本心を言ったまでですから。
私は本当に、遊人様が好きでした。
……貴方に、あの方がどれほど酷い仕打ちを受けたというのに、あの方は私達に明るい顔で、労ってくれた。
私達なんかよりも酷い扱いだというのに」
侍女の脳裏に、遊人の笑顔が映る。
これだけは次の人生でも忘れない、その決意に呼応するように。
「……さようなら、最低な人。
せいぜい貴方なんか、一人で虚しく死ぬことをお祈りします」
最期に、彼女はどこか覚悟を決めたように竹流に言い放った。
怒りを増幅させた竹流は強引に侍女を引っ張り、義隆の元へと連れていくのだった───
竹流おじさんガチクズで書いててドン引きしちゃった