第二回 ウマ娘短編合作 聖蹄祭とウマ娘達   作:雅媛

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先陣を切ってサイレンススズカ


1 逃げ切りシスターズから逃げ切りたいサイレンススズカ(ただし逃げ切れない模様)

「説明しましょう。逃げ切りシスターズとはファル子さんが勝手に決めたウマドルユニットなのです」

「うそでしょ…… また、いつの間にか巻き込まれてる……」

 

なぜか巻き込まれたサイレンススズカはある空き教室に連れ込まれていた。

黒板前で熱弁をふるうのはファル子ことスマートファルコン。

スズカの横で話に聞き入ってるのはミホノブルボン。

それに加えて解説役のウマ娘としてファル子の隣にエイシンフラッシュが待機していた。

ちなみに新規加入者であるアイネスフウジンはバイトで、マルゼンスキーは腰痛で欠席だ。

 

「解説役ってなんですか!?」

「それは天の声をしゃべる人の役柄です」

「どういうことなの……」

 

あまりの意味不明さにスズカは絶望した。

 

「大丈夫ですよ、スズカさん。私は差しウマ娘。逃げ切りシスターズには入れません。私はただファル子さんをサポートしているだけですから」

「何が大丈夫なのかさっぱりわからないわ……」

「二人とも、今度の聖蹄祭に出る話をしているんだから、ちゃんと加わってよね!」

 

今回の集まりは秋のファン大感謝祭、通称聖蹄祭への出演のための話し合いなのだ。

なお、逃げ切りシスターズの出演はファル子が勝手に決めたものである。

 

「ウソでしょ…… 全部勝手に決められてる」

「いいえ、私司会、ファル子さん議長、ブルボンさん書記の会議でちゃんと決めました」

「私は!?」

「スズカさんには逃げ切られたので」

 

そういえば先日そんな話が出ていた気もするが、トレーニングの時間が迫っていたので逃げてしまった記憶があった。

逃げ切りシスターズのルールは逃げ切った者が一番偉いのだ。ファル子がそう勝手に決めていた。

だからこそ、スズカが逃げ切った以上、スズカをスルーして会議は決められた。

偉いとはいったい何なのか、それはファル子にもわからなかった。

 

 

 

スズカはライブがそこまで好きなわけではない。

苦手なわけではない。リギル時代にさんざん仕込まれたし、あまりひどいライブをすると会長に呼び出されて生徒会室で説教されるのだから、必要な程度の練習はしている。

だからといって積極的にやりたいわけではないのだ。何より恥ずかしい。

 

「スズカさん、秋のファン大感謝祭でライブやるんですよね!!」

 

同室のスペシャルウィークが楽しそうにそんなことを言いながら応援グッズを用意していた。

団扇にハチマキと、やる気満々である。

それを見て、スズカはとても恥ずかしくなった。

 

さらに、衣装の問題がある。

やはりいつの間にか決まっていた舞台衣装は、前のピンク色の衣装以上に可愛らしい仕上がりになっていた。

コルセットの上にノースリーブの左右に大きなリボンをあしらった上着。

パニエを重ねた膝丈くらいのフレアスカート。

腰には大きなリボンと、リボンとフリル大増量の仕上がりになっている。

デザインしたらしいファル子はもちろん、ブルボンも無表情ながら尻尾をぶんぶん振って大喜びしていた。

マルゼンスキーも嬉しそうにしていたし、アイネスフウジンも似合うかなぁといいながら気に入っていた様だ。

そんな中で自分だけ反対することなんてできなかった。

Noといえないウマ娘、沈黙して流されてしまうのが、サイレンススズカだった。

 

羞恥心が限界を超え、そしてスズカは逃げることを決意したのだった。

 

 

 

逃げ切りシスターズは逃げウマ娘が集まったウマドルユニットである。

だから、逃げるのは恥ではない。役にも立つ。何も問題ないのだ。

 

だが、ただ逃げ出したら逃げ切れるかどうかわからない。なんせ5人というのはライブでバランスがいいのだ。

4人は若干ライブでの立ち位置に迷うことが出てくる。

スズカ的にはどちらでもいいのでは、と思うが、あのウマドル狂のファル子がそのバランスの悪さを許すとは思えなかった。

ならば、もう一人メンバーを加え、その上で自分だけ逃げる。それが最善だとスズカは判断した。

 

追加メンバーとして白羽の矢が立ったのはセイウンスカイだった。

菊花賞を逃げて勝ったという逃げウマ娘としての確かな実績がある。

本人は隠しているつもりのようだが、トレーナーさんが大好きだから、可愛らしさをアピールできると吹き込めば、なんだかんだですぐ堕ちるだろう。

そう思ってセイウンスカイを勧誘する方向に持っていった。

セイウンスカイは少しごねるかと思ったが、案外簡単に臨時メンバーになることに合意した。

 

本人は臨時といっているが、メンバーは誰も彼女を逃がすつもりはないのだ。

これから、逃げ切りシスターズという地獄にずっと付き合ってもらう予定だった。

 

 

 

なんにしろ仕込みはばっちりである。あとは姿をくらますだけだ。

聖蹄祭当日、スズカは朝早く起きて、ジャージに着替える。いつも通り、外出禁止時間終了直後に飛び出し、自主練をする。

そんな体で学園外に逃げ出し、ライブの時間まで帰ってこない。

走り続けていて忘れてしまった、そんな言い訳で逃げ切るというのがスズカの予定だった。

 

そうして、逃げるように寮から出ようとして……

玄関でファル子とブルボンと鉢合わせした。

 

「ウソでしょ……?」

 

ブルボンはまだしもファル子は朝は弱い方のはずだ。

それでもなぜ二人が待ち構えているのだろうか。

 

「スズカちゃん! これ、ライブ衣装ね!」

 

戸惑っているとスズカの衣装がいつの間にかライブ衣装に代わっていた。

二人の衣装もライブ衣装になっている。

玄関先だったのに、いつの間に着替えさせられたかわからなかった。

スズカの羞恥心が10上がった。

 

「それじゃあ、ライブは11時からだから、10時に楽屋集合ね!」

 

ファル子は楽しそうに去っていった。

 

 

 

こんなフリフリの格好で学園外に逃げるのは難しい。というか恥ずかしい。

当初の学園外へ自主練に出かけて逃げ切るというプランは放棄せざるを得なくなった。

学園内でも結構恥ずかしいが、お祭りという事で奇抜な格好をしている子も多い分、まだ耐えられるとスズカは判断した。

脱ぐという選択肢は取れなかった。なぜか脱げないのである。多分呪いの装備である。

 

時間まで、いや、時間を過ぎても遊びまわって忘れた、という現実逃避をすることを、スズカは考えていた。

どうしても出たくないのだ。そのためにスぺと二人、出店なんかを回る事にした。

ライブ会場から一番遠い当たりの出店だ。ここなら二人に見つかるはずが……

 

「スズカちゃん! そろそろ時間だよ!」

 

見つからないはずがなかった。

知らなかったのか、スマートファルコンからは逃げられないのだ。

 

声を掛けられた瞬間、スズカは全力で逃げ出した。

ファル子とブルボンがそれを追いかけ始める。

レースの時以上の全力を賭けたレースが始まった。

 

 

 

全力で逃げるスズカ。追う二人。

3人とも舞台衣装だから、非常に目立つ。

ファル子は時々周りに大声でライブの宣伝をしている。

なのに差が開かない。

 

「なんでファル子さんそんな宣伝しててスタミナ切れないんですかぁ!!」

「ウマドルだからだよ!」

「ウソでしょ!?」

 

しかし現実は非情である。

ファル子はどんどん加速していく。

 

「ファンの力を集めたこれが、ウマドルパワー!!」

「わけわかんない設定が!!」

 

このままだと逃げ切れない。

そう考えたスズカは、適当な教室に飛び込んだ。

 

最初に飛び込んだのはゴールドシチーがしている美容院だった。

飛び込んだら有無も言えずに席に座らせられたスズカは、毛先を整えてもらった。

追いついてきたファル子とブルボンも席に座らされた。

トレーナーさんに見てもらうために気合を入れて準備し、髪型を整えてもらっていたセイウンスカイはすごい勢いで飛び込んできた三人に驚いていた。

 

「ライブ前に髪型を気にするなんて、さすがスズカちゃん!」

「ウソでしょ……」

 

スズカは毛先を整えるぐらいだったが、ファル子とブルボンは髪型のセットや髪飾りの位置の調整までし始めたのでスズカより時間がかかっていた。

スズカはその隙に逃げ出した。

 

 

 

次に飛び込んだのはリギルの執事喫茶だ。

 

「ああスズカ、手伝いに来てくれたのか?」

「え、ちょっと待ってエアグルーヴ!?」

 

エアグルーヴにつかまり、明らかに浮いたひらひらのピンク色舞台衣装で、給仕をさせられるスズカ。

それはそれで一定の人気がある様だ。

リギル所属ですでに手伝っていたマルゼンスキーの、ワザとらしすぎる給仕も大人気そうだった。

さらに追いついてきたファル子とブルボン、いつの間にか加わっていたセイウンスカイもそれに加わり、手伝いながらライブの宣伝をしていた。

 

一通り手伝った後、スズカは隙を見て逃げ出した。

 

 

 

スズカを追いかけるメンバーにマルゼンスキーが加わり、4対1となる。

だがスズカだって先頭を譲らない。逃げて逃げて逃げまくって、次に飛び込んだのは焼きそば屋台だった。

ゴールドシップがやる焼きそばの屋台、そこでメジロマックイーンが手伝っており、マックイーンの伝でライアンとアイネスフウジンが手伝っていた。

そこの前を通ったスズカは、同じチームスピカの先輩であるゴールドシップにつかまってしまう。

そのまま後続の四人も捕まり、店とライブの宣伝を兼ねてミニコンサートをやることになってしまった。

可愛い、と歓声が上がり、スズカは泣きたくなった。

 

 

 

その後もいくつもの出店や出し物を巡り、隠れようとして失敗し、手伝いをして宣伝をする。

そんなことを繰り返していた。

 

「フクキタル。占って!!」

 

最後に飛び込んだのはマチカネフクキタルの占いスペースだ。

いつものメイショウドトウとやっているところにスズカは飛び込んだ。

一応追っ手の5人は撒いたと思うが油断はできなかった。

 

「でました! これをもって入り口から出たら右に走っていくと吉です!!」

「わかったわ、ありがとう」

 

フクキタルから黒くて短い棒を受け取ると、言われた通り出てすぐ右に走っていく。

スズカは案外占いを信じる方なのだ。

 

道をそれ、森を抜け、山を越え、谷を飛び降りた。

そうしてたどり着いた場所は……

 

「スズカちゃん、まってたよ!」

「ウソでしょ!?」

 

ライブの舞台だった。

スズカがたどり着いたのはちょうど時間通り。

上から降りてきたスズカに会場は大盛り上がりだった。

 

流れ出すうまぴょい伝説。

光る舞台装置とタキオントレーナー。

フクキタルに渡された黒い棒はよく見たらマイクであった。フクキタルはここまで読んでいたのだろうか。

目の前には観客がいる。正面先頭はスペシャルウィークだ。鉢巻をして、団扇をもって応援準備万端である。

左右にはファル子とブルボンがいる。

後ろにはマルゼンスキーとアイネスフウジン、臨時加入のセイウンスカイがいた。

 

完全に囲まれていた。逃げる余地はない。

 

スズカは逃げ切りシスターズから逃げきれず、うまぴょいするしかないのであった。




知らなかったのか、ファル子からは逃げられない
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