第二回 ウマ娘短編合作 聖蹄祭とウマ娘達   作:雅媛

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逃げ切りシスターズのウワサ①
実は、6人目のメンバーがいるらしい。


2 6人目の白くてふわふわなあの子

秋のファン大感謝祭、通称『聖蹄祭』。

文化系の催しが中心となっており、チームリギルの執事喫茶やマチカネフクキタルの占い小屋、各種屋台等がメインの催しである。

聖蹄祭を1週間後に控えたトレセン学園内はそれぞれの催しに向け追い込みを掛けるクラスや予行を行う実行委員でいつもよりも慌ただしく、そしてどこか浮わついたような空気が漂っている………のだが。

 

「むーりぃーーーー!!?」

「スカイちゃーん!?なんで逃げるのぉーーー!?」

 

校内をレース本番と見まごうばかりに爆走するウマ娘によって、その雰囲気はぶち壊された。

 

何事かと廊下を見た生徒達は、早々にそそくさと自分達の仕事に戻った。

───2冠ウマ娘にして希代の「トリックスター」、逃げ馬の星ことセイウンスカイその人が「砂のサイレンススズカ」ことスマートファルコンから普段滅多なことでは見せない全力で逃げる光景に、関り合いになりたくないと黙殺を決め込んだのである。

 

「スカイさんですか?いえ、ここには戻ってきてはいませんけど」

「そっかぁ………もし見かけたら教えてね!ファル子は他の場所を探してくるから!」

スマートファルコンが廊下を駆け出して行くのを見送ったキングヘイローは、教室の教卓へと振り返る。

 

「………それで?一体なんであんな必死に逃げてきたのか、説明してくれるのかしら?」

「………話さなきゃ、ダメ………だよねぇ、うん」

 

普段の飄々とした雰囲気からは思いもつかない、どこかバツが悪そうな顔でおずおずと教卓の下から這い出てきたセイウンスカイは事のあらましを語り始めた。

 

感謝祭でファル子先輩に誘われて《逃げ切りシスターズ》のライブに私も参加することになったのは知ってると思うけど、そもそも私は《逃げシス》には正式に加入した訳ではないんだよねぇ。

今回のライブはあくまでもその場限りで、それもファル子先輩やアイネス先輩達との併走を交換条件にしたものなんだよね。

まぁとはいえ、やらなければならないことなら手短に済ませるのがセイちゃんのポリシーなので?

個人のダンスもユニットの練習もこなしてはいたんだ。トレーナーさんには珍しいって素で言われたからうっかりレース練習をサボっちゃったんだけどさ。

というわけで、私としても珍しく真面目に今回のステージ練習には取り組んでたんだよ。

 

…………そう、どんな衣装を着せられるかを確認するのをすっかり忘れてさ。

 

キングは逃げシスのライブって見たことある?あ、あるんだ。

ならどんな衣装かも大体分かるでしょ?そうそう、ノースリーブにリボンましましとフリルを少し足したピンク色主体のやつ。

今回の衣装もあれだと思ってたんだよ。

 

そしたら、今日になって『今回のステージのための新しい衣装だよっ♪』って新しい衣装を渡されたんだよ。

………真っ白なフリルたくさんのザ・アイドルって感じの衣装をさ!

 

いやあ、思考がしばらく止まったよね。

アイネス先輩は『カワイイけど似合うかなぁ』って苦笑いしてるし、マルゼンさんは『チョベリグじゃない!』って思いっきり笑顔だし。

スズカ先輩が満更でもなさそうなのは少しびっくりだったかな。

 

それでまあ………不覚にも、私その時しばらく固まっちゃったんだよね。

それでファル子先輩に声を掛けられて………後はもう全力疾走ですよ。

下手したらレース本番より速く走ったんじゃないかな。

 

なんでって…………

 

「あの衣装着てフラワーやじいちゃんの前で踊るのなんて無理だよ!?」

「何を言ってるの………」

「だったら考えてみてよキング!自分がそんなフリフリアイドル衣装着せられて親の前でステージに立たされるのをさぁ!?」

あんな衣装私には無理だってば、と頭痛を堪えるような表情をするキングヘイローに食って掛かるセイウンスカイ。

非常に珍しい光景に他のクラスメイトの視線が集まるが、助けを求めるようなキングヘイローの視線は黙殺される。

薄情な友人達とは後でじっくりと話をすることにして、敢えてキングヘイローは彼女が名前を出さなかった人間の名を出す。

 

「それだけでは無いんでしょう、スカイさん。大方、貴方のお爺様を案内してくるであろうトレーナーに見られる事の方が問題なんでしょう?」

「………キング、私の事分かりすぎじゃない?はっ、もしかして───」

「貴方のトレーナーへの態度を見れば分かるわよ。あれだけ甘えておいて、何もないという方が無理があるわ」

「へぁっ」

からかいで誤魔化す間もなく投げ込まれた豪速球。

すっとんきょうな声を上げて教室を見渡すセイウンスカイだが、返ってきたのは呆れたような、生暖かい視線。

───詰まるところ、彼女からトレーナーへ向けられた感情は周囲には筒抜けなのであった。

 

「うにゃぁぁぁぁぁぁ………」

「………ねえスカイ、そこで丸まらないで欲しいんだけど」

「リアぁ………グラスちゃん呼んでぇ、介錯を、介錯をぉ………」

「んなアホな理由でグラスを呼びつけるなおバカ」

「リアが冷たいぃ………」

同郷のウマ娘、セイウンエリアに袖にされ、いよいよ耳まで赤く染め上げたセイウンスカイは猫の如く丸まってしまった。

猫大福ならぬスカイ大福………と誰かが呟くももはやそれに反応すらしない。

 

「はぁ、全く………というか貴方、フリルなら勝負服にも有るじゃない」

「あれスカートじゃないし………あんなフリフリ衣装私には似合わないよぉ」

 

さてこの時点でもはやキングヘイローの意思は決まっていた。

この肝心なところでヘタれて逃げる逃亡者を相手にしている暇など無いのだ。

ましてやこの先もこうして尻をひっぱたき続ける役回りに回るのなど真っ平である。

故に、彼女は二つの連絡先に連絡を送った。

 

「………さて、スカイー?覚悟決めなよー?」

「へ?何言って───」

 

「スカイちゃん見つけたの!」

「もう、あんなに逃げなくても良いでしょう?」

現れたのはアイネスフウジンとサイレンススズカ。

《逃げ切りシスターズ》に所属する、先輩達である。

これを見たセイウンスカイは即座に逃げ出そうとするが。

 

「ちょっ、リア!?は、薄情もの!裏切ったね!?」

「失敬な、裏切ったのはキングだけだよ。アタシはそもそも匿って無いからね」

「さあスカイちゃん、そろそろ観念しましょう?」

「大丈夫、スカイちゃんなら絶対似合うの!」

腕をがっちりと固めていたセイウンエリアから2人の先輩に身柄を引き渡されると、肩に担ぎ上げられたセイウンスカイ。

小走りながらかなりのスピードで2人が走り去った方向からは遅れてセイウンスカイの悲鳴が聞こえてきたのだった。

 

「別に似合わないってことはないはずなのに、ホントヘタレなんだから」

「まあ、後は先輩方が上手くやってくださるでしょう。さ、準備を進めますわよ」

 

「あ、スカイちゃん見つかったんだね!」

「おお………って随分な運び方だな」

「うぇ、トレーナーさん………」

更衣室として提供されたらしい教室にはスマートファルコン先輩と私のトレーナーが待ち受けていた。

 

(キング………恨むよー………)

今日は特に衣装を見に来るという話はしていなかったので、おそらくは誰かから連絡があったのだろう。

サイレンススズカ達が現れたのもキングからスズカ先輩に連絡がいったとすれば納得できる。

───ここまでされるとか、私キングに何かしたっけな。

左右も先輩2人に固められちゃったし、これは逃げられないですねえ…………

 

「それじゃあ衣装合わせ始めるね!スカイちゃんのトレーナーさんはちょっと待ってて!」

「なら一度外に出るよ。───スカイ、不安がらなくてもいい。君は可愛いから、きっと似合うさ」

「───っぁ、ぅ………うん………」

更衣室から出ていくトレーナーは不安がる私を励ましたかったんだろうけど、せめて先輩達の前では止めて欲しかったと思う。

ファル子先輩の目はキラキラしてるし、アイネス先輩は邪気の無い目で『きっとトレーナーさんも誉めてくれるの!』って満面の笑顔だし。

スズカ先輩もスズカ先輩であらあらと言わんばかりの笑顔を向けてくるものだから、これはもうとっとと着て終わらせるしかないと理解してしまった。

 

コルセットの上にノースリーブの左右にリボンをあしらった上着。

パニエを重ねた膝丈くらいのフレアスカート。

腰には大きなリボンがファルコン先輩の手で蝶々結びにされ、2本の端をふわふわと漂わせる。

白の中にパステルピンクやビビッドピンクをポイントに入れた、今までの私の衣装とは色相を変えた衣装。

私服や勝負服でも普段着ることの無い色合いを纏った、初めての『私』が、鏡の中から私を見つめ返していた。

 

「ほあぁぁぁぁ………スカイちゃんかわいい!うんうん、ファル子の目に間違いは無かったねっ♪」

「普段のスカイさんの服装とは色合いが違うけど、良く似合ってるわ」

「すっっっっごく可愛いの!!」

「そ、そうですかね………?」

我ながら衣装に着られてないか不安になるけど、先輩達は手放しで誉めてくれる。

───ここで本当に似合ってるのか疑っちゃうあたり、自分の自信の無さを改めて感じたり。

まあセイちゃんアイドルとは程遠いので。

 

「スカイちゃんのトレーナーさん!入っていいよ!」

「え、ちょっ」

 

腕や足回りの動きやすさを確認してたら止める間もなくファルコン先輩がトレーナーさんを部屋に入れてしまった。

 

「………おお、これは………」

「と、トレーナーさん?あの、そんな見られるとセイちゃん困っちゃうかな~って」

「あ、すまん。でも普段そういう衣装見ないからな。………可愛いよ、スカイ。良く似合ってる」

 

───心臓が止まるかと思った。

 

「あ、あはは………その、アリガトウゴザイマス………」

顔を上げられない。

耳まで真っ赤になってるのが分かる。

そのくせ尻尾も耳も動くのが止まらないからもうどうしようもない。

…………ほんとセイちゃん、この人に絆されちゃってるなあ。

 

「よーし、私たちも着替えて練習するの!」

「そうね、準備しましょう………ところで、ブルボンさんは?」

「あれ、スカイちゃん探しに行って………既読ついてない!?もしかして今迷子!?」

探してくるー!と駆け出すファルコン先輩をアイネス先輩が追いかけて。

スズカ先輩がマルゼン先輩に連絡を取ろうとする。

 

「………にゃはは、結局いつも通りって感じだねえ」

「はは、そうだな。………ステージ、楽しみにしてる」

「はーい。絶対見に来てよね、私がこんな衣装着て真面目にダンスするなんてまず無いんだからさ」

ああ、私は今普通に笑えてるだろうか。

今にも跳び跳ねたいくらい、心臓が跳ねているのに!

 

────かくして、聖蹄祭当日。

セイウンスカイのおじいさんが大漁旗を持ち込もうとしたり、マルゼンスキーチョイスのアイドルソングが何故か懐メロソングだったりとちょこちょこハプニングはあったものの。

セイウンスカイ独特の緩やかな雰囲気とライブパフォーマンスでの熱量のギャップに魅了されたファンは数知れず。

ここに一時限りの《逃げ切りシスターズ》ライブは大成功を収めたのだった───

 

尚、余談ではあるが。

このライブを機に、セイウンスカイは《逃げ切りシスターズ》の準メンバーとして、気ままにライブに参加することになり、周囲を驚かせた。

それがどんな理由によるものかは語らなかったが───彼女が参加するライブには必ず、彼女のトレーナーの姿が在ったという。




セイウンスカイは照れれば照れるほど可愛い。これだけはハッキリと真実を伝えたかった。
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