メジロマックイーンと聖蹄祭
青空に白い雲が映え、蝉が大合唱を繰り広げる。そんな北の地にそびえ立つ大豪邸があった。
ここは北海道のメジロ家本邸。メジロ家と言えばウマ娘の業界でも知らない者はいないといわれるほどの名家である。その本邸というのだから大きさも普通の豪邸とは比べものにならないもの。巨大な豪邸のみならず、自前の練習用トラックも持ち、多数の使用人が住み込みで働く本邸は、さながら1つの小さな街というくらい大きい。
外では多数のウマ娘が大自然あふれる庭で遊ぶ中、本邸の一室で執務を行っているウマ娘が1人いた。彼女の名はメジロマックイーン。現役時代は『ターフの名優』という2つ名に相応しい活躍を見せたウマ娘である。
そんな彼女も現在はトゥインクル・シリーズとドリームトロフィー・シリーズを引退し、おばあ様からメジロ家当主の座を引き継ぎ、後進の育成に当たっている。それだけでなく、メジロ家としての仕事も同時にこなす毎日を送っている。
書類仕事が一息ついたマックイーン。背中を伸ばすとポキポキと心地いい音が部屋に響く。長時間のデスクワークの影響がもろに身体に出てしまっているようである。
「ふう。いくら私がおばあ様よりも若いからと言っても、“あの時”に比べたらやはり衰えつつあるのですわね。」
マックイーンの独り言が虚しく部屋に響く。マックイーンも今年で30代前半。いくら若いとはいえ、トレセン学園に通っていた頃のエネルギッシュさは幾分衰えつつある。マックイーンは自身の衰えを自覚しつつあった。
そんなことを呟きつつ1人でアフターヌーンティーを嗜んでいると、部屋の扉がノックもなく開いた。
「ばあば~、いっしょに遊んで~。」
部屋に入ってきたのは小さなウマ娘だった。ちょうどニシノフラワーくらいの身長で、左耳に赤と緑のリボンを巻いていた。
「あら、ゆうちゃん。また今日も遊びにきたんですの?」
ゆうちゃんと呼ばれたウマ娘がこくりと頷く。このゆうちゃん、血縁上はマックイーンの孫娘にあたるウマ娘で、よくマックイーンの執務室に頻繁に出入りしているのである。よくマックイーンはこのゆーちゃんと一緒に遊んだり、昔話を聞かせたりしている。
「分かりましたわ。今日は私が現役時代の聖蹄祭でのお話をしてあげますわ。」
今日は、マックイーンがトレセン学園に在籍していた頃の聖蹄祭の話をすることになった。興味津々のゆうちゃんは既にマックイーンの膝に座り、ワクワクした表情で話を待っていた。
「あれは、私がトレセン学園に在籍していた頃の話でしたわ・・・」
ゆーちゃんの頭を撫でながら、マックイーンは話し始めた。
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マックイーンにとって初めての聖蹄祭は、全く納得できない形で幕を下ろした。何故なら、折角みんなと各店舗を回ろうと考えていたのに、ゴールドシップに売り子として連行され、占いでは悪い結果となり、ゴールドシップに助けてと言われたから行ったものの、ラッキーアイテムの焼きそばではなくお好み焼きの屋台を手伝わされ、もう踏んだり蹴ったりだった。
『何で私が振り回されなければいけませんの。初めての聖蹄祭だから楽しみにしていましたのに。なんで・・・。』
ベッドに突っ伏したマックイーンは見ての通りもう完全にふてくされていた。
次の日。マックイーンはまだふてくされていた。なんで自分がふてくされているのか、その理由も分からずにふてくされていた。カフェテリアで1人いじけていた。そこへやって来るウマ娘が1人。マックイーンがふてくされる原因を作ったゴールドシップである。
「よ~マックイーン、そんなにふてくされてどうしたんだぜ?まるでシワだらけのエンドウ豆みたいな顔しちゃって。そんな顔だと、ゴルゴル星の電波も正しく受信できないぞ。」
いつも通りのテンションでマックイーンに話しかけるゴールドシップ。普通なら何かリアクションを返すマックイーンだが、今回は全くリアクションを返す素振りを見せない。
「ゴールドシップ、ほっといて下さいませ。私は昨日の貴重な1日を貴女にしっちゃかめっちゃかに荒らされたせいで何もやる気が起きませんの。」
余程昨日のことが堪えているのか、ゴールドシップの方を見ることなくぶっきらぼうに言葉を返すマックイーン。それにも関わらず、ゴールドシップはマックイーンの前に座ると、誰に言われるまでもなく語り始めた。
「いや、まあ、マックイーンに何も言わずに勝手に連れ出してしまったのはこのゴルシちゃんも反省しているぜ。でもよ、マックイーンがお好み焼きを焼いているときの表情はそりゃー凄かったぜ。」
「そりゃどうも。」
「まるで目の前の何かと戦っているかのような、そう、それこそG1に出走するときの鬼気迫る表情をしていたぜ。『狙った獲物は逃さない。』って顔が語りかけていたぜ。」
「ふーん。」
「あ!もしかしてよ、マックイーンがふてくされているのって、マックイーンにとって全力で立ち向かっていないと自分で感じているからふてくされているんじゃないか?」
「!!!」
その時、マックイーンの頭の中で何かがカチリとはまった気がした。
「ゴールドシップ、今何と言いまして?」
マックイーンがゆっくりと首を動かす。
「え?ああ。だからよ、マックイーンがふてくされているのは、マックイーンにとって全力で立ち向かっていないと自分で感じているからふてくされているんじゃないか?って言ったんだぜ。」
「それですわ!!!」
そう言うなり、マックイーンは急に立ち上がり、そう宣言した。
「私がふてくされていたのは、間違いなく全力でお好み焼きに立ち向かっていなかったからですわ!そういうことなら、やることは決まりですわ。来年の聖蹄祭、私もゴールドシップの屋台に参加しますわ!」
「お、おう。別にアタシの屋台に参加するのは構わないが、カフェテリアでは静かに頼むぜ。」
ゴールドシップがマックイーンを窘めるが、一度やる気スイッチの入ったマックイーンは止まること知らない。
「ならば、善は急げですわ!早速お好み焼きの作り方について学ばないといけませんわ!!!」
そう宣言すると、マックイーンは目にもとまらぬ速さでカフェテリアを抜け出していた。
「今晩、何かありそうだな・・・。」
ゴールドシップの予言めいた独り言は誰の耳にも入ることなく虚空へと消えていった。
その日の夜。寮に備え付けのパントリーに、マックイーンの姿があった。お好み焼きを来年の聖蹄祭で作ると決めた以上、自分がその作り方を理解しないといけなかった。前回の聖蹄祭では、ゴールドシップが補助に回ってくれたおかげもあり、そんなに苦労はしなかったが、いつまでもゴールドシップに頼り切るというのは自身のプライドが許さなかった。そのため、お好み焼きの作り方を学ぶべく、作り方を調べ、材料も買ってきたのだが・・・
「小麦粉を入れすぎてしまいましたわ~!」
「今度は出汁の分量を間違えてしまいましたわ!」
「g?mL?どっちが正しいのですの???」
「余った生地がこぼれてしまいましたわ!!!」
「ギャーッ!ゴキブリー!!!」
最終的にすったもんだがあったあげく、できあがったのは本当にこれがお好み焼きなのかと疑われるような黒焦げになった物体だった。おまけに、パントリーはマックイーンが色々と暴れ回ってしまった挙句、いろいろな物が散乱しているまさに地獄絵図になっていた。
しかも、時間は真夜中。当然ながらみんなが寝ている時間帯である。そんな中マックイーンが色々と暴れ回ってしまった結果・・・
「んで、これはどういうことかな?」
「そ、それは・・・」
寮長のフジキセキに説教される結果となってしまった。ちなみに、初めて作ったお好み焼きはとても食べられる物じゃなかったとのこと。はたしてマックイーンはお好み焼きを作れるのか。不安になるマックイーンであった。
「全くもう、無理しちゃって。マックイーンらしくないぜ。」
その側で、真面目な表情のゴールドシップが腕を組んで佇んでいた。
マックイーンがパントリーでドタバタ騒いだ事件の翌日。
「なんだよ、そんなに作り方を学びたかったのならこのゴールドシップ様に聞けばよかったじゃん。」
「うう、だって、ゴールドシップさんに聞いたら負けだと思いまして・・・」
「またそこで謎のプライドを発動させちゃって。マックイーンって変なところで力むクセがあるよな。」
「ううっ。痛いところを突かないでくださいませ。」
「安心しな。お好み焼きの作り方ならこのゴールドシップ様が全て教えてあげるぜ!」
マックイーンがやらかしていたことを知っていたゴールドシップ。このままだと空回りして挫折してしまうと推測したゴールドシップは、マックイーンのことを助けることにした。
そしてその日の夜。前日にドッタンバッタン大騒ぎを起こしたパントリーに、マックイーンは再び立っていた。勿論、隣にはゴールドシップがいる。
「それで、ゴールドシップさん、一体どのようにして作っていくのです?」
「おう、1からしっかりと教えてやるぜ。まずはな・・・」
ゴールドシップのお料理教室が始まった。最初、マックイーンは説明もハジケたものであると危惧していたが、実際に始まっていったら、別にそんなことはなく、サクサクと分かりやすく進んでいった。その結果・・・
「美味しいですわ!」
マックイーンでも美味しくお好み焼きを焼くことができたのだった。
「だろ、お好み焼きも美味く焼くことができたらこんなにも美味しいんだぜ。だけどな、マックイーン。」
「なんですの、ゴールドシップさん?」
「お前のゴールはここではない。今はまだお好み焼きを作ることができるようになっただけだ。お前のゴール、それは、聖蹄祭でお好み焼きの屋台を出すことだ。だから、今以上に修行を重ねて美味しいお好み焼きをお客様に提供できるようにしないといけない。これの意味が分かるか?つまるところ、茨の道を行かなければいけないということだ。その覚悟が、お前にはあるか?」
マックイーンの最終的な目標は、美味しいお好み焼きを聖蹄祭で出品することにある。つまり、今以上に頑張って美味しいお好み焼きを出せるように頑張らなければいけないのだ。
この問いに対し、マックイーンは不敵な笑みを浮かべた。
「ふふっ、この私を誰だと思っていまして?メジロマックイーンですわよ。私に越えられない壁などありませんわ。どんな困難な壁でも、越えてみせますわ!」
指を天高く上げて宣言したマックイーン。今ここに、マックイーンのお好み焼きを追求する冒険が始まった瞬間である。
それからはお好み焼きを作る修練の毎日だった。勿論、ただお好み焼きを作るだけではない。ゴールドシップから教わったレシピを基にして、『もっと美味しいお好み焼きを作るにはどうすればよいか。』を探求していったのである。
お好み焼きを自分だけで作ることができるようになってからは、自分なりのアレンジを加えて、自分だけの美味しいお好み焼きを追い求めていった。
ちなみに、できたお好み焼きが美味しいのか確認するために行ったのは
「え~、焼きそばいかが~」
「お好み焼きですわ~。いかがですか~。」
実際に自分の足で売り出すことだった。
ただお好み焼き売るだけではない。実際に買ってもらい、美味しいかどうかの評判を聞くことにより、改良すべき点を洗い出していって、よりよいものにしていった。
さらに、様々なお好み焼き店を食べ歩き、様々なお好み焼きについて学んでいった。
そのこだわりは、次第に材料にまで及んでいった。材料も徐々によりよい材料に変えていった。マックイーンが目指す『理想のお好み焼き』の完成はもうすぐそこにまで迫っていた。
聖蹄祭まであと1ヶ月となったある日。マックイーンはとても悩んでいた。それは、一体どれくらいの材料を仕入れればいいのかである。前回の聖蹄祭では、あるウマ娘が来ていなかった。葦毛の怪物、オグリキャップである。
オグリキャップはとてつもない大食いである子とで有名だ。そのため、オグリキャップのためだけに在庫を確保しておかないと、他のお客様にお好み焼きが行き渡らない。だからといって、多く仕入れすぎても、今度は在庫が余ってしまう。困ったマックイーンは、あるウマ娘に相談しに行った。
「んで、ウチの所に相談しに来た、と。」
「ええ。どうしても分からないので。オグリキャップさんと親しいタマモクロスさんなら分かるかと思いまして。」
マックイーンが尋ねたのはオグリキャップと親しいウマ娘、タマモクロスだった。タマモクロスはよくお好み焼きを焼き、そしてオグリキャップがそれを食べているということを小耳に挟んでいた。
タマモクロスなら、オグリキャップが最大でどれだけお好み焼きを食べたのかを知っていると考えたのである。
「う~ん、ウチが一番多く焼いたのは一回で大体200枚くらいや。せやけど、オグリは腹一杯じゃなかったみたいやな。」
「ありがとうございます。タマモクロスさん。おかげでどれくらい作ればいいか分かりましたわ。」
タマモクロスのこの話を基に、マックイーンはオグリキャップのために500枚は食べるだろうと予測した。この他にも、同じチーム・スピカに所属するスペシャルウィークも200枚は食べるだろうと予想し、材料を発注することにした。これに加えて、昨年の聖蹄祭で使用した材料も加えた量を発注することに決めた。そして、運命の聖蹄祭を迎えることになる。
聖蹄祭当日。マックイーンはとてもウキウキしていた。何故なら、自分の考える『理想のお好み焼き』をみんなに振る舞うことができるのである。楽しみでないはずがなかった。
「行きますわよ、ゴールドシップ!」
「ちょ、待つんだぜマックイーン!ちょっとテンション上がりすぎじゃないのか?!」
「何を言っておりますの?善は急げですわ!」
「落ち着くんだぜ?!?!?!」
そのテンションはハジケ屋であるゴールドシップをも振り回すくらいテンションが高かった。
マックイーンのテンションが最高潮の中、聖蹄祭は幕を開けた。
マックイーンのお好み焼き屋は、最初から人だかりができていた。元々マックイーンがお好み焼きを開発していたのはみんなの知るところとなっていたため、かなりの人数が詰めかける形となったのだ。
マックイーンの作るお好み焼きの腕前は、最初の頃とは見違えるほどになっていた。アタフタ慌てていた姿は何処へやら。もうその腕前は自他共に認めるほど。その手さばきに一切の乱れはなく、とても美しいほどにまでその腕前を昇華させていた。
ちょうどお昼時。一番お客さんが集まる時間帯に、マックイーンが一番懸念しているウマ娘がやってきた。
「お好み焼き、200枚頂こうか。」
「来ましたわね。」
葦毛の怪物、オグリキャップである。
そこからは壮絶な戦いの始まりだった。オグリキャップが去るまで壮絶な量のお好み焼きをマックイーンはたった一人で捌いていった。一般客への対応はゴールドシップが行ってくれたため、マックイーンは専らオグリキャップに専念することができた。
オグリキャップが去るときに最終的に頼んだ枚数は合わせて497枚。マックイーンが予想した通りの数となっていた。
この後も絶えずお客さんがマックイーンの屋台を訪れ、お好み焼きを購入していったため、飛ぶように売れていった。
夕方になる頃には全ての材料を使い切り、この年の聖蹄祭におけるマックイーンの屋台は幕を閉じた。終わったときのマックイーンの顔は、とても清々しい表情を浮かべていた。
「やけに清々しい顔しているな、マックイーン。」
「当たり前でしょう?これだけのことを私とゴールドシップさんの2人だけでやり遂げたのですから。私だって不思議な気持ちに包まれていますわ。大変だったけど、港、何て申し上げたら良いのかしら。また来年もやりたい、そう思わせてくれますわ。」
屋台を終えて、夕日が降り注ぐトレセン学園で、マックイーンはゴールドシップと一緒に自分の作ったお好み焼きを頬張りながら話し合っていた。
自分の経験したことのない全く新しいことをみんなの協力もありながらやり遂げたマックイーン。新たな境地を開いた瞬間だった。
「マックイーン、また来年もやるのか?」
ゴールドシップのこの問いかけに対し、マックイーンは
「ええ、勿論ですわ。」
と答えた。
「勿論、ゴールドシップさんも一緒ですわよ。」
「別にアタシは大歓迎だけどよ、流石に今日のような量をまた焼くのか、と考えたら流石にゴルシちゃんでもキツいぜ。」
ゴールドシップは思わず苦笑いを浮かべる。流石にあの量を焼くのはいくらゴールドシップでも大変だったみたいだ。
「またまた~。本当は嬉しいくせに。」
マックイーンがゴールドシップの頬をツンツン、と突っつくと、ゴールドシップはぷいっと頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。その頬はほんのりと紅みを帯びていたようにも見えた。
「おかえしだいっ。」
お返しとばかりに、ゴールドシップはそっぽを向いたままマックイーンの頬を突っつく。
「きゃっ。」
マックイーンが可愛い声を上げた。まさか突っつかれるとは思っていなかったみたいだ。
マックイーンも思わずゴールドシップにそっぽを向いてしまった。マックイーンの頬も、ほんのり紅く染まっていた。2人の紅く染まった頬の理由は、ピュアな乙女心から来たのか、それとも長時間屋台に立っていた結果だったのか、今では定かではない。
このようにして、2人の聖蹄祭は幕を閉じた。これ以降、マックイーンがお好み焼きを作るということは、マックイーンがトレセン学園を離れるまでの恒例行事となっていったのである。
「・・・ということがありましたのよ。」
「へえ~。ばあばってお好み焼き作れたんだね。ゆうもばあばのお好み焼き、食べてみたいな。」
一通り話し終わった後、ゆうちゃんは完全にマックイーンの話に魅入っていた。
「ゆうちゃんもばあばのお好み焼き、食べてみたい?」
「うん!」
「じゃあ、今週末、ドーベルやパーマー、ライアンにアルダンも帰ってくるから、その時に作りましょう。その時に振る舞いますわ。」
「ばあばのお好み焼き、食べてみたい!」
「ふふっ、楽しみにしていて下さいませ。」
「うんっ!」
ゆうちゃんとマックイーンのひととき。2人の時間はあっという間に過ぎていった。マックイーンとゆうちゃんの何気ない日常の一コマであった。次は取んな1日が待っているのであろうか。それは3女神様のみが知ることである。
こんにちは。Budd Pioneerと申します。今回はこの作品を読んで下さいましてありがとうございます。メジロマックイーンがお好み焼きを焼いたらどのように焼くのかな、と考えながら執筆させて頂きました。慌てるマックイーンも、頑張るマックイーンも、共に魅力があってと思います。みんなもマックイーンをすころう!マックイーンはいいぞ。