第二回 ウマ娘短編合作 聖蹄祭とウマ娘達   作:雅媛

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ウララ屋敷

 聖蹄祭。別名秋のファン大感謝祭であり、トレセン学園のウマ娘達とその

ファン達の交流の場となる一大イベント。特にレースにて活躍するウマ娘と

直接交流出来るとなれば毎年、大勢の熱心なファン達や保護者などが参加し

てくる。

 レースを走るウマ娘にとって『脚』と『ファン』は命とも言え、望んだレ

ースで勝つ為に必要なのが『脚』ならば望んだレースに挑む際に背中を押し

てくれるのが『ファン』となる。故にファン達以上の熱量をこのイベントに

注ぐウマ娘も多く、シニア級や宝塚記念、有記念

などのファン投票にて出走の叶うレースにて活躍したウマ娘などは特にファ

ンと接する機会の多い企画を練る事が多いと言われている。

 さて、そんな訳で……その聖蹄祭にて『何をやるのか』と悩む一つのチー

ムが有った。

「とれぇぇぇなぁぁぁぁ……どうしよ~! 何やるのか全然決まらないよ

ー!」

 チーム『ハダル』に割り当てられた部屋の中心のテーブルに両手を伸ばし

て涙目で伏せるチームリーダー兼マスコット枠の桃毛のウマ娘、ハルウラ

ラ。負け続きの彼女ではあるが笑顔で走る姿とゴール後に必ず観客席に向け

て手を振る姿からファンからの人気も厚い。その為、彼女もファンに対して

強く「何かしてあげたい!」と言った意思はある……のだが、問題として彼

女は頭がお世辞にも良いとは言えない。現在は最初の最初、発案段階で躓い

ており、隣に座るキングヘイローも思わずそのウェーブの掛かった鹿毛越し

に頭を抱えながら溜息を吐いて居る。

「今出ている案の中では『飲食店』が定番だけれど……問題はこれだと定番

過ぎて『何を扱うか』が問題って事ね」

「他にも出てる案で比較的現実的なのなら『演劇』とかもあるけど……流石

に五人じゃ、ねぇ~?」

「トレーナーさんを含めて六人だとしても、役の多い内容は無理ですし……

何よりオペラオーさんが絶対凄い劇をやると思うので、流石に立場が無いで

しょうか……」

 そして飲食店は生徒会などのメンバーが行う執事喫茶が最大手である。は

っきり言って殆どの企画が二番煎じになってしまう可能性が高かく、空色の

ボーイッシュな彼女、セイウンスカイとハルウララよりも小さい体格のニシ

ノフラワーも頭を悩ませる。となるとある程度捻った案が欲しくなってく

る……と、ウララに泣きつかれたトレーナー含めた面々が行き詰まった時

「────ゴルシちゃんがぁぁぁぁ! 来たぜぇ!」

 ガコン、と部屋の扉を弾き飛ばしながらチームの最後の一人、マヤノトッ

プガン……が葦毛のヤベー不沈艦ことゴールドシップに抱えられて入ってく

る。ゴールドシップがスキップ進む為、彼女の肩の上から一歩ごとに「ぐえ

っ」と呻きが聞こえるが悲しい事にゴールドシップに捕らえられている以

上、彼女の解放は難しいだろう。

「ん~? なんでぇ揃いも揃って水掛けたパンみてぇな顔しやがってよぉ」

 グロッキーになったマヤノトップガンを開いている席にランディングさせ

たゴールドシップは適当に部屋の隅に片付けられていた椅子を引っ張り出し

て座り、頬伺をついて聞いてくる。

 他のチームの彼女ではあるが、何だかんだ面倒見の良い人柄である為こう

して相談事に乗ってくれる事もあると比較的有名だ。そしてそれ以上にトラ

ブルメーカーであることでも有名だ。

「いや~、実は聖蹄祭の出し物が決まらなくってですね~……」

「然程さる程程々の成る程、良いてぇ事は分かったぜ。生徒会とかビッグな

ライバルは多いからな……」

「そーなんだよー! みんなに楽しんで貰いたいけど、何やったら良いのか

わかんなくなっちゃた……」

 項垂れるハルウララ。その様子を見たゴールドシップは『いい物を見つけ

た』と言いたげた笑みを浮かべ、その笑みを見たセイウンスカイとキングヘ

イローは何となく嫌な予感がした。トレーナーはもう何が起こっても仕方な

いと諦めた。

「よーし、実はよー、丁度いいモンがあってなぁ……」

「い、いえゴールドシップさん? 何か手助けをしてくれる、と言うのなら

ありがたいのだけれど、貴方も自分達の出し物があるのでしょう? ほら、

その、私達に手を貸していたら貴方の出し物が遅れて……「んなもん初日に

仕上げたから心配すんなって!」……そう」

ごそ、とゴールドシップが自身の長髪に手を突っ込み何かを探り出す。キン

グヘイローは絶対に碌なことにならないからと慌てて断ろうとするが、無駄

な抵抗でありゴールドシップの「おっ、あった!」と言う声と共にその長髪

から一つのチラシが取り出された。そのチラシとは……

「じゃーん、十六年前のお化け屋敷のチラシ~」

「懐かしいなおい」

 トレーナーにとっても予想の右の左下から南南西にある物、十六年前にあ

る遊園地に存在していたお化け屋敷のチラシが取り出された。過去に『日本

最恐!』や『リタイア続出!』と言う売り文句で有名になった……が、結局

一年と持たず忘れ去られたのだ。当然ハルウララ達が赤ん坊の頃に消え去っ

た物なのでこの室内でトレーナー以外が知るはずも無い。ゴールドシップは

何故か知っていたがアレは別なので気にしないで良いだろう。

「まあ、言いたい事は分かる。このチームでお化け屋敷やれば良いって意味

だろう」

「えっ」

「なるほどね~。仕掛けを工夫すれば少人数でも出来るだろうし、今年は今

のところお化け屋敷に手を出してる所も無いっぽいし良いんじゃないかな」

「えっ……」

「そうですね……何処かの空き教室等を使わせて頂ければきっと……」

「えっ……?」

「マヤも賛成~! ブライアンさんとかも怖がらせちゃお!」

「えっ……!?」

「よぉーし! それじゃあみんなで、お化け屋敷だー!」

「嘘でしょう……!?」

 約一名が小さく絶望した様な声を漏らした。が、グロッキーから回復した

マヤノトップガン含め他のメンバーは大凡好意的な反応だった。恐らくこの

時点でNOと言えたならば即座に別の方向に迎えただろう。だが行き詰まっ

た状況でNOと言うならある程度の代替案が必要になると考えた彼女は……

「……そうね! 一流のお化け屋敷という物を見せてあげるわッ!」

 微妙に震える声を抑えて気丈に賛同した。地獄への片道切符を発行するそ

の姿に、ある程度彼女のホラー耐性を知っているトレーナーとセイウンスカ

イは心で手を合わせた。ゴールドシップは良いものが見れるぞと笑いながら

「じゃ、後は頑張れよ~」と窓から飛び出して行った。

「それじゃあ早速何が必要か考えましょう!」

「そーだねぇ、取り敢えず黒い布は雰囲気作りで欲しいよね」

「あっ、じゃあ懐中電灯も欲しいよね~!」

「ねーねー! こう、白いお布団被ってがおー! ってやったら驚かせられ

るかな!?」

「はいはい……取り敢えず布と懐中電灯は簡単に用意出来るわね。なら後は

────」

 和気藹々と。吹っ切れた(自棄になったとも言う)キングヘイローも含め

積極的に相談し合い、最終的に揃った買い物リストを元に着実に聖蹄祭への

準備は進んで行った。

 ────聖蹄祭、当日。

 天気は当然の様に快晴。秋故に強い日差しと言っても暖かい程度に収まっ

ており外部ステージや屋台には多くの人が賑わっている。

 ならば屋内はどうか、と言うならこっちも当然の様に人が溢れており、

様々な方向に流れて行く。そしてその中でも……

「きゃあぁぁぁぁぁっ!?」

 ハルウララ達が改造した空き教室、お化け屋敷……もとい『ウララ屋敷』

からは頻繁に悲鳴が聞こえていた。可愛らしいウララのフォントと不気味な

屋敷のフォントの差が非常にチグハグで目立っている。

 そしてその中に一人の名も知れぬウマ娘が……

「うわぁ……思ったより暗い……」

 私は渡された懐中電灯を持ち、小さなウマ娘……ニシノフラワーさんに

「お化けに捕まらない様に気を付けて下さいね」と言う注意と共に案内され

た。何でも『お化け屋敷の中でお化けから逃げながら脱出する』と言うルー

ル……らしい。つまり所謂脱出ゲーム……の類らしいウララ屋敷の中に入っ

た。ウララ屋敷……ハルウララさんの人柄とか性格も知ってる身としては

「ホラー苦手だけど大丈夫かも」と思って入ったのは失敗だったかもしれな

い。普通に暗いだけで怖い。と言うかもしかしてこれ迷路になってる? い

や、こうして立ち止まって居ても仕方ない、早く進むとしよう。

「っと、えーと足元……っ」

 暗いなら足元を照らさないと危ない、と懐中電灯を向けると床一面が不気

味な顔の様な模様で埋め尽くされて居た。道も私二人分が立てる程の幅しか

無い分圧迫感もあるけど、まだ平気だ。

「……ちょっと寒いなぁ」

 こう言う季節外れな物ではあるが、お化け屋敷特有の雰囲気があると、気

持ち肌寒く感じる。っと、曲がり角────

「……ひっ」

 曲がり角を曲がった先に自然と懐中電灯を向けると、そこに今までの暗闇

とは違う物が現れた。それは……多分、白い布? だった。距離はそれなり

に離れてる場所にあるけど、でもお化け屋敷でこう言う白い布って言うの

は……

『がおー!』

「ひゃっ!?」

 ビックリした。声は可愛らしいウララさんの物だったが……だが、突然動

かれると普通にビックリする。思わず後退って────ドン、と。背中に誰

かぶつかった。

「!?」

 咄嗟に振り向いて懐中電灯を向け────

『……』

「~~~~っ!?」

 此方を見下ろす様な赤黒い人影に声にならない悲鳴を上げて全力で走り出

す。前に居るウララ(白布)さんはその場でゴソゴソと動いてるだけみたい

だから、その近くにある別れ道で右側に逃げる……と

────ゴトン

「っ!?」

 人の腕……の様な物が落ちてきた。思わず足を止めて引き返し……そうにな

り、後ろから近付いてくる湿った足音から更に逃げる為に人の腕擬きを跨い

でまた逃げ出し、次の十字の別れ道を左に曲がっ……

(行き止まり!? あっ、いやロッカー!?)

 焦って思わずそのロッカーの中に入ってしまった。入ってから直ぐに「こ

れって直ぐに見つかるんじゃ……?」と思って出ようとしたが……足音が近付

いてきた。こうなっては仕方が無いのでロッカーの中で大人しく息を潜め

る。

『がおー! がおー!』

 懐中電灯を消し、ロッカーの伱間から外を覗く。十字路をぼんやりと光る

白い布が通り過ぎ……その後ろを赤黒い奴が通って行く。普通に不気味だ。

けど二人一組になって動いてくれているなら……

「……行った、よね」

 出来るだけ音を立てない様にロッカーを開けて再び懐中電灯を着ける。周

りを見渡しても特に何も無い。取り敢えずお化け達が歩いて行った方に行く

のはやめておいて、今居るロッカーの反対側の道に行こう。

『────』

「こ……今度は何……?」

 ボソリと何か小さな声が耳に入ってきた。何だろうか……いや、聞くのは

やめよう。絶対怖い奴だ……

『─そ─う』

「あれ、声が大きく……」

 何か嫌な予感しかしない。掠れて僅かに聞き取れる程度だけど……少し早

歩きになって何か別の変化を探す────

「あそぼう」

「ひっ」

後ろからハッキリと声が聞こえた。思わず耳と尻尾が立ち上がり、もう怖く

て背後が見れず走り出そうと仕掛けるも、続けて頸と足首にヒンヤリとした

感覚がして────腰が抜けた。

「あぅ……」

「ありゃりゃ……腰抜けちゃったかぁ」

 私を覗くそのウマ娘が「今回の人ギブでーす」と何処かに手を振りながら

言う。暗くてよく見えないが……僅かに当たった懐中電灯の光でその髪の色

からセイウンスカイさんだと分かった。手に……蒟蒻を持っている。

 どうやら……お化け役のセイウンスカイさんに捕まってしまったので私は

リタイア……? という事らしい

「いやぁ、大丈夫~? もう立てるかな?」

「は、はい! えっと、ありがとうございます」

「良いって良いって~」

 あの後、セイウンスカイさんに支えられて出口まで連れて行って貰った。

腰が抜けてしまったので『ウララ屋敷』の外側にある順番待ち用のベンチま

で連れて行って貰い、一休みする事になった。

……と、辺りを見ると人の姿が減っている。時間を見るとお昼時……要する

にみんなお昼ご飯を食べに外の屋台などに集中しているのだろう。ウララ屋

敷の入り口の方にも『きゅーけい!』と書かれた看板が立て掛けられた。ど

うやら私がお昼休み前のラストだった様だ。

「セイちゃーん! お疲れ様ー!」

 トタトタ、と。桜色の毛並みの彼女……ウララさんが白い布を被ったまま

ウララ屋敷から出てきた。奥から「ウララさん!? せめてシーツを脱いで

から……!」と言う声が聞こえてきた。多分いつものキングさんだ。

「ねーねー、私って怖かったかな!?」

 私の隣に座ったウララさんがニッコニコの笑顔でそう聞いて来る。うん、

多分普通はそんな風に笑顔で聞いてくる事じゃ無いと思うんだ私。でもま

あ……怖かったから素直に怖かったと答えると「やったー!」と嬉しそうに

している。

「いやぁ、でもそれ以上にウララさんと一緒に居たお化けも怖かったな

ぁ……」

「?」

「あっ、でもセイウンスカイさんが最後に『あそぼう』って言いながら私の

首と足首に蒟蒻当ててきたのもすっごいビックリしました!」

「ん?」

 感想を告げるとどうやら二人の様子が可笑しい。不審そうな表情をしてい

る。何か変な事でもあったのかな……?

「……私、ずっと一人だったよ?」

「え?」

「私、蒟蒻一つしか持ってなかったし、声なんて掛けてないけど……」

「……え?」

────きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!?

 今日一番の悲鳴はウララ屋敷前の廊下で響いた。

【オマケ】

「ウララさん、今はじっとして……来たわね。お客さんがあと五歩前に来た

ら動く様に指示するわ。大丈夫、カメラ越しに見えてるって言ってるでしょ

う?」

『キング~、入り口の方の道塞いどいたよー』

「了解よ……動かない、わね。仕方ないわ。ウララさん、動いて良いわ

よ!」

『がおー! がおー!』

「ウララさん……その掛け声は……いえ、もう良いわ……っと、お客さんがル

ートBに行きそうね、マヤノさん」

「アイ・コピー!」

「パーフェクトよ。相変わらず貴女小道具の投下が上手いわね……」

「えへへ~、タイミングとかぜ~んぶ分かっちゃうもん」

「この調子で……っと、ロッカーに入ったわね。それならウララさん、十字

路は直進してちょうだい。今度は声を上げながらゆっくり行くと良いわ」

『はーい! がおー! がおー!』

「……よし、通り過ぎたならそこから右回りに迂回して行くわよ……あっ、お

客さんがルートDに入るわ。スカイさん、出番よ」

『よーし、セイちゃんに任せ給えよ~』

「……今更だけれど何で蒟蒻なのかしら」

『そりゃ~定番って奴ですよ……』

「そう言う物……なのね」

『あっ、今回の人ギブでーす』

「そう、分かったわ。丁度お昼休みの時間ね……その人を外に案内したらお

昼休みにしましょう。ウララさん、迂回して貰ったばかりで悪いけどお疲れ

様、一旦お昼休みにするわよ」

『はーい! あっ、私感想聞いてくるねー!』

「あっ、ちょ……もう……」

「って、ウララさん!? せめてシーツを脱いでから……!」

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