とあるゲームの二次創作です。

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ゲームをして思いついた奴。サービス開始直後のものなので、色々おかしいです。


君と彼と彼女たちの話

「うべらっ」

「隆二ぃぃぃいいいい!」

 

 俺の人生は、乗馬体験で終わった。

年齢は18歳。就職の為に、いろんな人とお寺へ修行しに行ったときに出会った仲間たちと、再度落ち合おうとして遊びに行った場所。

 

 そう、そこが今回俺が死ぬことになった競馬場だ。

 

 この競馬場は賭博だけでなく、ふれあいも兼ねた乗馬体験がある。

品種改良されたサラブレッドの馬は、割とデリケート。

だから本来は乗せたりは無理なんだけど、ここにいるのは比較的気質が穏やかで

レースから引退した元走者たち。

 それなのに、なぜか俺は落馬して馬の後ろ脚にけられてあばら骨が折れて、心臓と

肺にささって死んだ。

 

 死ぬ直前、すごく息苦しくて痛かったぞ。

横隔膜も動かず、呼吸しようとするたびにお腹に激痛が走って吐血するのと同時に、

それが肺に侵入して三重苦を味わった。

 

 俺はこの馬の顔を一生忘れないだろう。

この頭に白い線が一つ入った、筋肉質の馬を。

 

 

「隆二くん! 隆二くん!」

「んん?」

 

 あれ、自分は死んだはずじゃ?

 

 激痛が走るはずの呼吸ができた。

閉じたはずの瞼を、しっかりと開くことができた。

なんだってんだ。

 

 俺は眼を徐々に開けて、情景を瞳に映す。

 

 サンサン太陽! ビル一つない広い青空! 青々としながら山頂が白い連なる山々!

そして、畳みの香りと川のせせらぎ!

 

 地方じゃん!

 

 重すぎる身体に驚きつつ周囲を見ると、そこには二人の女の子がいた。

え、誰?

 

 

 俺は二人の女の子に話を聞いてみた。

すると大丈夫!?って、涙目で心配してくれたんだ。

えーと、俺は……? 転生か転移したのか?

それが憑依……。いかん、頭が痛くてよくわからん!!

 

「えーと頭を打ったみたいで……君の名前を教え……てください」

「あぁ、ほんとに覚えてないんだ……」

「やっぱりごんたに逆らったから……」

「全然状況わからないんですが」

 

 俺は二人の知り合いというか、友人っぽい。

脳裏に浮かぶ友人君の記憶。あぁ、ごめん。君の代わりに、俺が君の夢をかなえるよ。

 

「えっと……ウララは、小川 千春っていうよ」

「ボクは、トウ……海原 香澄っていうんだ」

「俺は……やばい、わからん」

「隆二は、山下 隆二っていうんだよ。積もる話は、隆二くんのお父さんたちが帰ってきたらしよ?」

「え、あぁ」

 

 帰る。帰ってくるらしい。

黄泉返った俺は、親が返ってくるという言葉が心に響き渡った。

こんなにまで親の存在を渇望していただなんて。

 

 

 彼の両親が家に帰ったら、香澄が二人に話を通した。

父親はITのテレワークしながら、おじいちゃんたちの農地手伝い。

お母さんはパートタイマーをしながら、おばあちゃんたちと手工芸手伝い。

 二人は忙しそうにしていたけれど、俺が頭を打って記憶が消えたとなったら

大騒ぎ。

 

 そりゃそうだよな?

 

「隆二はほんとに無茶ばっかりするな!」

「女の子を守るのもいいけど、自分の身体一つ守れなきゃ意味ないぞ」

 

 などなど全く仰る通りです。

俺の中に以前の彼の記憶が入ってきたんだけど、

主人公みたいな行動っぷりだ。

俺だったらスルーしそう。それか、一緒にいじめる側になっているんだろうなぁ。

 

「そういえば、香澄と千春はなんで家の中でも帽子をかぶっているんだ?」

「あ、えーと、そういうファッションなんだ」

「ふーん、わかった」

 

 俺がこれを聞いたら、お父さんたちがぎょっとした顔をしていたから聞いてはいけない何か

なんだろうな。だから、すぐに話題を切り上げたんだ。

 

「明日学校なんだから、ちゃんと寝るんだぞ隆二」

「うん。えーと、香澄と千春。俺を介抱―助けてくれてありがとうな」

「ううん、いっつも助けてもらってるから、おあいこだよ!」

「そうそう! だから、明日も一緒に登校しようよ!」

 

 そういうわけで、少女二人と一緒に登校することになった。

 なんでやねん。

 

 とにかく俺は状況を整理することにした。

まずは記憶の整理だ。

 

 俺は以前、大山 隆二だった。

それでいろいろあって、就職合宿の同期達と交流し競馬場のふれあい広場で馬にけられて地獄に堕ちたはず。

 

 そして今世の俺は、山下隆二だ。

お父さんやお母さんの話によると、今小学5年生で夢は警察官。

勉強をたくさんして、この地方を守るとか意気込んでいたらしい。

 すんごい立派じゃん。おれ、がんばる。

 

 罪悪感しかわかないけれど、頑張るよ。

 

「色々忘れてるから、テレビみさせて」

「そこまで忘れてしまったのか……」

 

 俺はカレンダーの他に、世界の常識を知るためにテレビをつけた。

 

 テレビをつけると、いきなりアイドルのライブが……。

ちょっと待て、この女の子たち耳がないんだけど!?

まさかこの世界って、奴隷がいるのか?

 

 世界の厳しさに落胆していると、ナレーションが流れる。

 

『ウマ娘たちの今後の成長に、こうご期待!』

 

「ウマ娘?」

「隆二、ウマ娘も忘れたのか?」

「うん」

「ウマ娘は、人間よりも力が強い人種で女性しかいない、珍しい種族なんだ。

更に彼らとの結婚も許されてる」

「えー」

「それとこの村は、ウマ娘を歴史的に毛嫌いしているから、ウマ娘の話題は出さない方がいいぞ」

「そうなんだ」

 

 ここらへんはインターネットや図書館で調べるしかなさそうじゃん。

それと明日は学校なので、早めに寝ようと思う!

 

 

 

・・・・

 

 

「おっはよー!」

「おはよう!」

「二人とも元気だね」

「当たり前じゃん! また一緒に登校できるんだよ!?」

 

 眠い。昨日夜更かしをして、お父さんのPCで、この世界の常識を検索していたんだ。

そこにはウマ娘という謎の存在について、色々言及したものが散見された。

そしてこの地域のウマ娘への忌避。

 色々あるにはあるけれど、やはり一番は歴史上の人物で相当偉い人がウマ娘を雇った後に、

裏切られて一族郎党根絶やしにされたという物。

 

 そら恨むわ。

 

 現在の社会でも、ウマ娘が普通の家庭やウマ娘の血統から生まれるがそれ以外の事はほぼ不明。

ただわかっている事は、寿命か何かでウマ娘が死ぬとそのウマ娘の力をもった子供が

生まれるということ。大体流れができているらしいが、俺は完全に作為的だなと思ってしまった。

この世界に毒されたか?

 

「おい、隆二! 今日こそ決着をつけるぞ!」

「いや、君誰?」

「こいつはごんただよ」

 

 眼鏡をくいっとする委員長っぽい少年が、ごんたのとなりでやってた。

 

「そもそも俺、何かしたのか?」

「いや。そもそもごんたが香澄ちゃんと千春ちゃんの帽子の中身を見ようと奮戦しているんだ」

「どうして」

「この地域で、ウマ娘を生贄にすれば来年は豊作らしい。だから、若いウマ娘を探しているんだけど、

全然いないんだ。そういうわけで、潜在的な差別意識を誘導してみつける」

「結局リンチかよ」

「そうだな」

 

 以前の彼が、なぜ警察官になりたいのか分かったような気がするなぁ。

今はウマ娘が世間を賑わせ、ライブなどで老若男女を引き寄せるアイドル。

そこに単身突撃するちからがほしいと。

 

「皆も何してんの。遅刻するよ」

 

 俺は皆に登校を促して、さっさと教室に向かわせた。

そこまで子供の数は多くないけれど、その分大人の意向に沿って教育された現代社会の

魔物が多くこの学校に所属しているようだ。

 それと千春や香澄は、相も変わらず帽子をきたままだ。

邪魔じゃないのかな?

 

 

―――

 

 俺がこの身体に憑依してから、以前の記憶にあるようないじめ?という物がない。

彼がやられていたのは、実際にはいじめではない。

でも対象が香澄や千春である。

 たぶんどころか皆わかっているんだろうな、彼女たちがウマ娘だって。

彼女のご両親も、この土地を離れて娘たちを安穏に生活させてやりたいらしい。

でもこの土地で育ってきた分、郷土への執着心があるようで。

 

「ボクやだよ! 隆二と離れ離れになるの!」

「私だって嫌なんだから!」

 

 三者面談ごとに、この手の会話が飛び交って廊下に聞こえるんだよな。

 

「おいおいおい、隆二。まさかと思うが、この街の掟の事……。

わかってんだろうな?」

「いや、知らないが」

「そりゃぁねぇだろお?」

 

 ごんたが俺の後ろに立つ。

今までもこういう嫌味を言われてきた。

俺の前にいた彼も、嫌味や煽りを受けて彼女たちに付き添っていたという記憶がある。

だから俺は、彼の代わりに彼女たちの傍にいなければならない。

 

「そもそもそんなしきたり忘れたよ。ウマ娘がどうとか人間とかどうでもいい。

ただ友達が安心して暮らしてくれればな」

「お前、そこまで気障な奴だったか?」

「ごんた、お前がそうしたんだろう?」

 

 彼だったらイライラして無視して、彼女たちの面談が終わったら一緒に遊びに行っただろうな。

だけど俺は違う。ちゃんと向き合って言わないといけない。

だがそれは、一つの賭けになってしまう。

 

 いじめだよ。

 

 あの秘密裏に行われたはずの三者面談は、ごんたと俺に聞かれてしまった。

先生が言うには、あれは秘密裏だったようだ。

あのー、ばれてるんですけどーどうなっているんですかねぇ?

ばれたなんだはいいけれど、そのあとのケアはちゃんとしてくれるのかなー?

 ま、ダメなんだけどさ。

 知ってた。

 

 

「あっ、ごっめーんwww お茶こぼしちゃったー」

「あ?」

 

 俺はお茶を技とこぼしてきた女に、俺の魔法瓶に入った熱湯をかけてやった。

 

「ああああああああ!!!!」

「あ、ごめんごめんwww お前みたいなゴミがいるなんて知らなかったわwww」

「ちょ、先生呼んでくる!」

「呼ぶんじゃねえよ、テメェもゴミ屑になりたいか」

「っ!」

 

「ちょっとお!! どうしてくれんのよ!」

「いや知らんけど。てか、よかったじゃんか、もともとブスなんだから誰も気にしないってwww」

「誰か先生呼んで!」

「呼ばなくていいよ! 呼んだら俺と一緒に、海に出かけようぜ!

そしたらふぐ食わせてやっから!」

 

 とにかく俺は、やられたらやり返すことをしていく。

ただやりすぎてはいけない。

そうすると、立場の弱い彼女たちに矛先が向かう。

 

 そうだな、例えば女子トイレといった男が立ち入れない場所とか。

 

「ああ、ここ女子トイレだっけ? すまんすまん、お前の身体男っぽいからこっちが男子トイレ

だと思ったわ」

「せんせーっ、せんせっ」

「ちょっとどうしたんですか、隆二君と夏帆ちゃん」

 

 ちっ、お人好しな夏目先生が来やがった。

こいつは喧嘩両成敗とかよくわからない理論を振り回すから嫌いなんだよな。

 

「先生! 何でもないですよ! 今俺、この子に隠されたノートの置き場所を聞いてるだけなんで!」

「そうなんですか、夏帆ちゃん。ちゃんと返してあげてくださいね」

「え、ちが」

「違わないでしょ、ほらいくよ」

 

 さっさと連れていく。

こういう面倒からは逃げるべきだ。

 それと俺はこういういじめを検挙するため、お父さんたちと話し合った。

よく服が泥んこだったり、火傷をしたり打撲をしたりしているので、

お母さんだったりじいちゃんたちに相談した。

 ただじいちゃんは、総じてクソだった。

 

「ウマ娘? あやつらを生かしておくな。それと隆二。悪いことは言わん、見捨てて置け。

いるだけで疫病神だ」

「「……」」

 

 俺とお父さんは絶句していた。

お父さんは都市部の人間だから、ウマ娘に関して最近の価値観を共有されている。

そもそもお父さんは、こういう田舎臭い所が嫌で都市に向かったらしい。

帰ってきたのは、折り合いをつける為とかなんとか。

 え、地価が高いから逃げてきただけだって?

あーうん、わかった。

 

「そろそろ会社もテレワークに疲れてきたみたいだし、また戻ることになるよ」

「え、でも」

「それは彼女たちの問題なんだ。いつまでも、隆二が抱えておかなくていいんだよ」

 

 何言っているんだよ。これは、彼の為であって義務なんだ。

何の権利があって、彼女たちを見捨てなければならない?

 

 

 俺は味方を一人も作れないまま、都市部に帰ることになった。

この地方には、片道1時間かかる。俺にもっと力があれば、よかったのに。

 転校することを学校側に伝えたお父さんは、今週中にでもお別れをしてきなさいと促してきた。

離れるのなんて嫌なんだけど。

 

 

「香澄、千春。俺、転校することになったんだ」

「「え?」」

 

 二人の顔は絶望に染まっていた。

なんだろう、なんか、心の奥底に汚泥が溜まっていく感覚がする。

 

「嘘……嘘、だよね? 嘘だと言ってよお!」

「いや、嫌だ。 千春の前から消えないでよ!」

「こればかりは家族の問題だから無理なんだ」

 

 今まではなんとかヘイト管理して、完全なヒール役を買って出たけれど

完全にやりすぎだったうえに、これ以上は二人にも危害が及ぶ可能性があった。

都市部に帰るということを選択したお父さんは、いろんな意味で正しかった。

俺の前で言うことはなかったんだけど、お母さんがあのあと言ってくれたんだ。

 そう、俺の行き過ぎた行為で、お父さんたちに先生たちの苦情が飛んでいたことを。

 わかっていたはずなんだけれど、抗えないんだなぁ。

 

 結局何も罪滅ぼしができなかったんだ。

あーあ。

嫌になる。

こういう時は、いつも彼がしていたように走っているんだ。

走っていると、嫌な感情とか全部吹き飛ばすことができる。

 風を切って走るのが気持ちいい。

一応体力づくりも兼ねているから、帰るときは少々激しめにするんだけど。

 

「あ、隆二くん!」

 

 この声は香澄か?

 

 声がした方に振り返ると、ジャージ姿の香澄がいた。

相変わらず帽子をかぶっているけれど、こんな遅い時間にどうしたんだろうか。

 

「ねえねえ、一緒に走ろうよ!」

「お、いいぜ。じゃ、30分くらい持久走するか?」

「うん。やろうよ!」

 

 そんなわけで、香澄と一緒に走りこむ。

偶に香澄や千春に出会って、そのあと走り込みを行うことがあるんだ。

やっぱ夕方がやりやすいよな。昼は熱中症になるから却下で。

 しかしウマ娘ってのは、そんなに速くないんだな。

持久力も大して俺よりもないし。環境の差だろうか?

 

 走りまくった最後は、河原に設置されたトッピング付きの遊歩道で、全力で走る。

最初は50Mでやっていたけれど、そこまで疲れなかったので徐々に距離をのばしていったんだ。そうしたら全力で走っているわりには、2500Mを走ることができた。

 この川も下流から上流付近まで緩く上がっているから、最長10KMはある。

 

 ふむ。俺が移り住む場所からここにきて、一気にこの町に来ることができるよな。

日帰りは十分できるし、行ける!

 

「あ、やってるやってる! おーい!」

「千春ちゃん!」

「よっ千春」

「香澄ちゃん、隆二君。千春も一緒に走りたいな」

「いいぜ、風を切って走ろうや」

「もちろんだよ!」

 

 俺達は日が沈むまでやりまくったんだけど、千春は2500Mくらでばててしまった。

俺や香澄は3000Mまではイケた。さすがに置いてけぼりにはできないので、

彼女を背負って先まで行ったんだ。

 

「う~ボクもボクも!」

「わかった、わかったって」

 

 抱き着いてくる香澄に観念して、千春と交代する。

 

「わーい、やった~!」

「まったく。じゃ、千春。一緒に行こうか」

「え、でも」

「大丈夫、合わせて走るよ」

「うん、お願い」

 

 

―――

 

 ボクの名前は、海原香澄。本当はトウカイテイオーっていうらしいんだ。

 

 そうボクはウマ娘として、生まれて来たんだ。

テレビの中だと、ウマ娘も人もあまり変わらない関係性っていってた。

でもこの町は違った。

 帽子をかぶらないと、やれ忌み子だとかやれ疫病神だと罵られる。

パパもママも、ボクのせいで沢山傷ついた。

特にママはボクを殺そうとしたんだ。

 

 でもウマ娘のライブを見ているパパがそれを止めさせて、中学校への進学を

トレセン学園にすることでボクを生かせてくれるようになったんだ。

ボクはパパやママが、陰で何を言われているか知っている。

だってボクがあんなに言われているんだから。

 帽子で隠して、ズボンやロングスカートでしっぽを隠してもばれるものはばれてしまう。

 

 

 ああ、嫌だなぁ。

 

 

 テレビで云ってたいじめ被害というものを受けることはなかったけど、

小学校に進学した瞬間から塩や白い紙を投げつけられたりしたんだ。

 

 ボクは何もしていないのに。なんで。

酷いよ。なんでそんなことができるのさ!

 

「裏切者に話すことはない!」

「わるものは塩をかけたら成仏するっていってた!」

「死ね! 気持ちが悪いんだよ!」

「あのさ、人間になりたかったら死ぬか、耳としっぽを切り落としてから言ってよね」

「おお無様無様」

「もう一人もやっちまおうぜ!」

 

 そして、ボクの隣に座っている、小川千春ちゃん。

巷では見ない、桜色の髪。凄くきれいで、かわいい。

この子もウマ娘で、ボクと同じ被害を受けているんだ。

 

「えーと、ボク、とーかいてい――」

「煩い」

「え?」

「ウラ……千春達は、ウマ娘でも人でもない何かだよ。

そんな肩書捨てた方がいいよ」

 

 この子の瞳は、泣いていた。

 

 ああ、ボクと同じなんだ。

助けを呼ぼうと思っても、皆が敵で仲良くしてくれない。

どうやったとしても、腫物扱い。

結局ボクは、傷のなめあいしかできないんだ。

 ボクは千春ちゃんの目の前に行って、手のひらを包む。

やっと友達ができるかもしれないんだ。

今しかきっとできないと思う。

どんなに強引でも、今やらないと一生後悔するから。

 

「ボク、海原香澄っていうんだ。よろしくね、千春ちゃん」

「……よろしく」

 

 つんけんしてた千春ちゃんも、だんだん緊張しなくなって自然に話すことができていった。

やっぱりかわいいな。

そうそう、この子はハルウララっていう名前なんだって。

なんでも、一生涯勝てない運命を背負ってるらしい。

 

 それからボクたちは、皆のいじめとか嬲りをなんとか一緒に耐え抜いてきたんだ。

どんなに蔑まれても、侮辱されても、下卑た目と身体を触られても、暴力を受けたとしても。千春ちゃんと一緒にいるためだったら、なんだってする。

でも、それは、だんだん心がけずれていくわけで。

 ボクも千春ちゃんも、色々と精神に来てた時。

ボクらの生活に、彩が生まれたんだ。

 

 それは転入生。

 

 彼は山下隆二。

この町の価値観に染まっていない、無垢な少年。

 

 私はすぐに彼に取り入ろうとした。守ってくれないかって。

 

「え、やだよ」

「っ」

「よくわからないけど、よろしくね」

 

 男の子ってやっぱり……。

わかってたんだけど、でも、否定したくなくて。

なんとか取り入ろうとしたんだけど、結局は価値観に染まってしまって。

ああ、行かないで。

 

 

 

 

 

「でな、ウマ娘っていうのは、裏切り者なんだよ」

「へー、悪い奴なんだね」

 

 ある日嫌な会話を聞いてしまった。

隆二君が、あのガキ大将ごんたの教育を受けてたんだ。

最悪。最悪だ。ボクたちは、もう、おしまいだ。

 今日も絵の具を撒かれて、キャンパスもぐちゃぐちゃにされた。

何で、何でボクたちばっかり。

 

「でもさ、それって昔のウマ娘の事でしょ?

昔の事引きずりすぎじゃない?」

「何言ってんだこいつ」

「そもそも時代が違うじゃん。その話だと、不倫ってやつでしょ。

そこまで引きずる話かな?」

「やっぱ都会の奴はダメだな」

「何言ってんの? 時代に取り残されているのは、田舎のほうじゃない?」

「てんめえ、もう一回云ってみろ!」

「えぇ……足りない脳みそ働かせて考えてみたら?」

 

 ボク達は教室のドアに隠れて、一部始終を聞いてた。

話を聞くと、擁護しているように聞こえるけど、それは価値観の違いなだけ。

根本的な食い違いであるだけで、ボクたちを理解してくれてるわけじゃない。

 ボクだって、何もしなかったわけじゃない。

ちゃんと今の扱いと昔の慣習に妄執する人たちに、夏休みの課題ということで

色々と情報を集めたんだ。

 

 でも。

 

「そもそも人にしっぽが生えている時点で、偏見の対象として見られるのわかって言ってる?」

 

 何言ってるのこいつってなっちゃった。

 

ガタン!

 

ビクッ!

 

 

 

 驚いて顔を上げると、そこには隆二君が。

よくわからない感情が、色々とごちゃ混ぜになって何を言えばいいかわからなくなる。

 

「あ、えと」

「なんか足音がしたと思ったんだ。じゃ、二人とも来て」

 

 隆二君はボクたちの手を取って、外に連れ出した。

拒否できるはずなのに、全く体が動かなくて。

 

「ちょっと服洗おうか。大丈夫、ジャージなら持ってきてるよ」

「ふぇ?」

「やっぱり田舎は違うね。考えがよくわかんないや。

どうみてもかわいい女の子なのに」

 

 ――かわいい女の子なのに――

 

 ボクの中にあった何かが、壊れてしまったらしい。

胸がきゅぅってなって、目の奥から涙があふれだして止まらない。

 

「って、ええ!? どうしたの、香澄ちゃん、千春ちゃん」

「初めてなんだ、かわいいって言われたの」

「皆にはウマ娘だからって……優しくされたのなんて、一度もなくって」

「……だから痣があるんだ」

「ふぇ?」

「歩くときとか座るとき、なんだかぎこちないって思ったんだよ。

うん、やっぱりそうだ。保健室にも行こう」

「え、でも」

「痣を残して置いたら、せっかくのきれいな肌が台無しじゃんか。

お母さんが言ってたよ、女の子は綺麗に維持するのが大変だって。

あれって、大切にしろってことでしょ? 大丈夫、僕に任せて」

 

 人生で初めて、やさしさをくれた、気遣ってくれた、助けてくれた、守ってくれた、

大切にされた、友達になってくれた、話してくれた……そして、保健室で

ボクたちの話を親身に聞きいって慰めてくれた。

 

 ぁあ……離したくない。

 

「よーし、処置終了」

「フー疲れt、おい、勝手に保健室に入ってんじゃねえ!

てか、ウマ娘かよ、さっさと出ていきやがれ!」

「だまれ年増! 嫁の貰い手ねぇくせに粋がるんじゃない!

それにウマ娘は家畜じゃない、ヒトだ!」

「なんだとクソガキ!」

「あっそう。香澄ちゃん千春ちゃん、行こうよ」

「「うんっ」」

 

 それからボク達は、事あるごとに隆二君に守ってもらった。

違う、助けてくれたんだ。あのごんたたちに歯向かったら、だれも友達になってくれないのに。

ごんたがいるから、皆がついていくんだ。

でもごんたがいなくても、ボクたちはいじめられてたと思う。

 

 だって、そういう教育をされているんだから。

 

 學校でそういうことがよくあるから、ボクと千春ちゃんはなんとかして隆二君ばかりに

攻撃がいかないように頑張ったんだ。

でもそれは、だんだんと隆二君にいらぬ誤解ができてしまって……。

 

 それは小学5年生になりたての頃だった。

 

「お前、まさかと思うが、そいつらと付き合ってんのか?」

「え、そうだけど?」

「は? まじかよ、おい皆! 隆二の奴、あいつらと付き合っているんだとよ!」

「「まじかよ」」

「「ですよねー」」

「「知ってた」」

「「むしろくっつかない方がおかしい」」

 

 違うよ隆二君、友人として付き合っているんじゃないよ。

きっとごんたは覚えたての”恋人との付きあい”を言っているだけなんだよ。

 

「え、ふつうに好きだよ?」

「いや、あのね。ごんたがいうのは、友達じゃなくて恋人のほうで」

「?」

 

 ダメだこりゃ。

 

 最近性教育があったから、ごんたも変わっちゃった。

それでもクラスが変わったことがないから、変に意識することもないし。

 

 そしていつも通りの洗礼を受けたら、ごんたが校内放送で隆二君を呼び出したんだ。

 

「全くなんだってんだ。今日も墨汁の片付けで忙しいってのに」

「あはは……。ボクたちの事はいいから、行っておいで」

「そーそー、あれを放置すると面倒だよ」

 

 ボクと千春ちゃんは、行くように促した。

すると隆二君はしょうがないなって、仕方なく彼の遊びに付き合うことにしたんだ。

ごんたも難しい時期になったんだね。

 

 

 

「それでどうだったの?」

 

 放課後の河原。

 

 ボクと千春ちゃんは、隆二君と河原で走ったり、石で水切りをして遊んだりすることが多いんだ。

だから結局ここに来てしまう。

 

「ウマ娘を自由にする権利を賭けて勝負だって。

ウマ娘は奴隷でも家畜でもないのに、時代錯誤なやつらだよまったく」

「あはは、仕方ないよ。この田舎じゃ」

「だよねー」

 

 ごんたたちにしごかれた隆二君は、最初こそ柔らかい物腰だった。

でもいじめの枠内に入ると、対抗するためか口調を固めにしていったんだ。

それでも全く変わってない。

 急な豪雨は傘を貸してくれたし、雨宿りもさせてくれた。

ママの癇癪をパパが慰めるとき、ボクは邪魔だからってことで隆二君の家に押し付けられたこともある。

でも隆二君は、むしろ喜んでくれたんだ。

 

「隆二ーお前も色男だなあ。女の子を二人も連れてくるなんて。

それで、どっちを選ぶんだ?」

「ちょ!? まだそういう関係じゃないよ!」

「つまり、そういう関係というのを知っているんだな! はー、確信犯かよお前」

「ちっ違う、ってお母さんはなんで赤飯用意してんの!?」

「隆二が立派な男になると聞いて」

「言ってない!?」

 

 あー、こういう家庭だったらよかったのに……。

 

「あーもう、無茶苦茶だよ。ほら、二人とも上がって上がって」

「お、お邪魔します」

「おじゃましまーす!」

 

「積もる話もあるだろう? ほら、隆二部屋に案内しな」

「いや、ほんと、そういうんじゃないから」

「嫌いじゃないんだろう?」

「う、そうだよ」

「じゃ、問題ないな!」

 

 隆二君のパパは、隆二君の部屋に行くように誘導した。

何か問題あるのかと思っていたけれど、隆二君はお客様だししょうがないねって。

あ、うん、やっぱりそうだよね。

あれも演技なのかな?

 

「ありゃ元からだから」

 

 よかったー。それに妹さんもいないし、姑問題はないよね。

だから、ちょっと仕掛けさせてもらおうかな。千春ちゃんには悪いけど。

 

「それで、隆二君に聞きたいことがあるんだけど」

「何?」

「どっちが好み?」

「は?」

「そうそう。いい加減決着つけてほしいなー」

「いやいや、そういうわけには」

「ふーん?」

 

 ボクは千春ちゃんに目配せした。

そしてボクと千春ちゃんは、ベッドに座った隆二君の隣に座ってうでを取って抱き着く。

 

「うっ」

 

 いい、その顔いいよ。

 

 真っ赤な顔、しどろもどろになって、何を言おうか迷ってかわいい。

目線は胸か顔を見ようとしてずらして、ミニスカートなボクたちのふとももを見て、

やっぱり股間をみるよね、そうだよね、男の子だもんね。知ってるよ。

性教育を受けたし、子供も作れるよ。それともしちゃう、しちゃう?

両手に花だし、据え膳食わぬは男の恥だよ?

大丈夫。ウマ娘だから、セクハラもなにもないしボク達は黙っておくよ。

不安な顔はしないで、そのまま欲求に従って押し倒して、ほらほら。

朝チュンしようよ―――――

 

 

 

――ねえ、ボクのはじめてうけとって?

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 私はハルウララっていうんだ。本名は小川千春。

ウマ娘として今まで生きてきたけど、こんなに幸せなことなんてなかったんだ。

 

 だって私は、忌み子だし。

 

 他の子よりも速くて、成長も早くて、ふつうの人よりも本当に早くそだっちゃったんだ。

そのせいでみんなのいうことがよくわからなくて、そしてみんなも私のいうことが不明で。

だから後に発覚するウマ娘っていう口実を与えちゃって、今までに至るんだ。

 別に私が悪いわけじゃないし、考え方の違いのような気がする。

 

 

 そして私が小学生に入った時、考えが浅い子が私と友達になりに来た。

貴方も私をいじめるの?

それとも知らないだけで、無謀にも挑んできているってかんじ。

何もかもが子供で、私は進みすぎちゃった子供。

結局ごんたっていう子の考えだって、浅はかだし。

 この海原香澄っていう子、考えが足りない。

 ヒトがいる場所で言えば、ウマ娘だって証明している事になるのに。

 

 あーあ。そういうことだから早速筆記用具がなくなってるし。

でもこんなのは序の口だね。私は私で、ちゃんと筆記用具を持っているし。

小学校では怒られるだろうけれど、私にはこれしか生存方法がないかな。

 金属製のフォルムをしたシャープペンシル。

握り方をしっかりするために鉛筆がいいという人もいるけれど、

実用性はこちらがいい。

 ほら、近くの子は鉛筆にゴムを巻いて指関節への負担を無くしてる。

 鉛筆なんて時代錯誤なのに。

 

「千春ちゃん」

「何?」

「ボクも一緒に筆記用具探すよ」

「いいよ別に、思い出も何もないから」

「でも……」

「じゃあ、貴方だけが探せばいいんじゃない?」

 

 探そうが探さまいが、結局は変わらない。

新品を用意すればいいんだし。

それに親を苦しませることができる。なんでウマ娘[私]を産んだのって。

私は普通の人生を歩みたかったのに。

他の人は普通の幸せをつかみ取っている。

 私はそれが欲しかった。かわいがってほしかった、構ってほしかった、手を取ってほしかった、友達が欲しかった、思いを打ち明けられる人がほしかった。

 

「はぁはぁ、はい。あったよ」

「なんで……」

「だって、千春ちゃん悲しそうな顔してたし」

「してないよ」

「嘘だよ。今にも泣きそうな顔してる」

「ふっ、うっ」

 

 違う。

 

 違う。こんなの私じゃない。

普通の子じゃない。こんな簡単に泣くわけがない。

私は異端だから。ウマ娘だから。ヒトじゃない。

 

「大丈夫だよ、それにボクは千春ちゃんの友達なんだよ?

探すのは当然じゃん!」

「ほんとに、ほんとに、ばかなの?」

「ばかでもいいよ。はい、ちゃんと渡したからね。

無くさないでよ?」

「うん」

 

 世界に絶望して以降、枯れていた私のこころが潤ってしまった。

この子、香澄ちゃんによって、私は普通を手に入れてしまった。

うれしい。ありがとう、私なんかのために。

 

「じゃあ、お近づきの印にちょっと走りにいかない?」

「うん、いいよ」

 

 私は初めて友達と遊んだ。

ウマ娘にとって本能でもある走るというもの。

普通の子供だったら、ゲームだったりするんだけどおにごっことかやったりするから、

あまり変わらないはず。

 なんだろう、走るのってこんなに楽しいんだ。

どうせウマ娘なんてばれているんだし、思いっきり走っちゃおう。

 

 

 

 

 今日も水をかけられちゃった。

香澄ちゃんは、今日は休み。

いじめのせいっていうのもあるけれど、精神的にきちゃってるみたい。

はぁ……。

 誰もいない河原で護岸タイルに座ってため息をつく。

寂しいな……。

 

「やあ君、どうしたの?」

「?」

 

 

 見たことがない男の子に声をかけられた。

隣町の子かな? 私はウマ娘だから、聲なんてかけなくてもいいのに。

 

「最近もう一人の女の子を見ないけどどうしたの?」

「ストーカー?」

「違うよ。 そうだなぁ……よし、一緒に走ろう!」

「何言ってるの、一緒に走れるわけないじゃない」

「でもしょぼくれるよりは、走って気を紛らわせた方がいいんじゃない?」

 

 それもそうか。よりにもよって他人にそう言われて納得する私がいる。

あーもう、ダメだなぁ。こんなことに癒されている私がいる。

知らない人と話し込んじゃダメだって、PTAにもよく言われている事なのに。

でもあれは普通の人に対してか。ウマ娘は対象外かな。

 

「うわっ、急に走るんだ。負けてられないね!」

 

 私の隣に立つ少年。ただの普通のヒトが、ウマ娘にかなうわけじゃないのに。

でも私もこのペースで行くと、2000Mくらいでがたが来る。

ちょっときついペースだけど、たまたま出会ったヒトに心を預けられるわけじゃない。

 

「いやーいい走りだね! これから一緒に走ってもいいかな?」

「なんで、私についてこられるの……」

「え、これくらい走れるでしょ」

 

 2000Mを3分で走ってこれるって、人間じゃないでしょ。

なんで男の子がここまで走れるの。おかしいでしょ。

 

「あ、そうだ。僕は山下隆二っていうんだ。今週末にここらにある小学校に転入するんだ。もし同じクラスならよろしくね」

「う……よろしく」

 

 彼は私の手を取って、よろしくとぶんぶん振った。

こんな明るくて優しくしてくれるなんて思ってなかったから、戸惑ってしまった。

でも向けられる明るさは、きっと私がウマ娘だとわかってたら……。

 なんで見ず知らずの子に、何を求めているんだろう。

これで何回目?

 

「あれ?」

「あ」

 

 汗を拭うために帽子を少し動かしたら、見られてしまった。

気が緩んだとたんこれだ。私は本当に詰めが甘い。

 

「痣ができてるじゃん。これ熱さまシート。氷ないけど、これで我慢してね」

「え、あ」

 

 なんてことはなかった。彼は、私の首にできた打撲痕を見て、シートを貼ってきた。

ヒトなんて、そんなことはしないのに。ありえない。

ダメだ。こんな些細なことで……私ってこんなにもろかったんだ。

 

「あ、痛かった? ごめんね。でも、僕にできるのはこれくらいなんだ。

流石にこれ以上は」

 

 やっぱり、そうだよね。勝手に期待して、勝手に失望して。

なんて都合のいい女なんだろう。

この町に来るなら、この町の事を調べてくるはずなのに。

ウマ娘なんて、結局その程度。いやだ、やっぱり、一度溺れるとどうしようもなくなる。

 

「わ、私と友達になって!」

「え!? いいけど」

「いいの?」

「一緒に走った仲じゃないか」

「ん……じゃあ、隆二君」

「何?」

「私は小川千春っていうんだ」

「千春ちゃんね、わかった!」

 

 私は隆二君と友達になった。

 

 そして友達になった今週末に、彼は転入してきた。

クラスは変わらない。

ただ1組しかない。

まさかと思ったけど、本当に……。

 隆二君は凄かった。私達と違って人間だから色んな人に好かれた。

そして香澄ちゃんも、隆二君に虜になった。

 

 

 私達の友達は、隆二君しかいない。

 

 だから、取り合いになるのはわかってた。

保健室に連れていかれた時、彼の人柄に触れて溺れてしまう。

一度掴まれたら離されないような包容力に、ウマ娘なのにそんなの全く意に介さないって感じで。

それに学力も運動能力も、対人関係も完璧だった。

 でも、だからこそ、私達ウマ娘とかかわったことで、彼もごんたにいじめられることになってしまった。

私は隆二君に謝った。私がこんなのだから、普通のヒトと仲良くなってたら。

たらればを垂れ流していると、頭にチョップされた。

 

「あたぁ」

「思ってもないことを言わないでほしいな。

それにこの町最初の友達は千春ちゃんだよ。君をほっといてどこかに行くわけないじゃん」

「ぁ」

 

 友達?

 

 

 

 そんなんじゃ生ぬるいよ。離すもんか。

 

 

「ねぇ千春ちゃん」

「何、香澄ちゃん」

「……」

「……」

「どっちが落としても、文句言わないでよね」

「勿論。香澄ちゃんも、あとから卑怯とかいわないでね」

「おーい、隠された体操服見つけたよー」

 

 私と香澄ちゃんは、ひそかに恋のライバルになった。

走ることに関してもライバルだけど、それ以上に負けられないんだ。

 

 

 そして私たちは、ある時性教育を受ける。

ウマ娘に関して説明された時、先生たちの怒号が舞ったけれど外部の先生たちにとって、

それは教育への反逆らしいのでこの後こってりと教育委員会に怒られたんだって。

いい気味だよね。

 これを受けた後、1泊二日で隆二君の家に宿泊しにいった。

私達がウマ娘だからってことで、二つあるうちの一つの方に泊まらせてもらうんだ。

 

 隆二君のご両親は、今までもあったことあるけれど本当にこういう生活をしてみたかった。

こういうことは今後一切ないんだろうな……。

 

 そして隆二君の家っていうことは、一緒になれる時間が増えるってこと。

うん、香澄ちゃんもそういう魂胆みたい。

わかってる。ここで決めにかかろう。

 

 私もベッドに座っている隆二君の隣に座って、腕を取って抱き着いた。

 

 あははぁ――

挙動不審になってかわいいなぁ。

全身を使って隆二君の片腕を包む。今日のために、ちょっとだけ露出が多い服を選んだんだよ。

わかる? 香澄ちゃんよりも、胸は大きいんだよ?

えいえい。いつもキリっとしてるけど、真っ赤になって照れてる。

これって好きだってことだよね。大丈夫、私は出会った瞬間から好きだから。

何されてもいいよ、体も心も人生もあげる。

私の絶対になってくれたら、私も隆二君の絶対になるよ。

ちょっとだけ化粧をしたし、下着もかわいいのにした。

意気地なしって煽っちゃえば、押し倒してくれるかな?

 

 私は隆二君の手を誘って大事なところに当てる。

 

 

 

 

 隆二君、一緒に一夜の過ちしようよ。

 

 

 

ーーーー

 

 俺はニュースを見てた。

 

「最近よくわからない病気が流行っているみたいだね」

「隆二も気を付けるんだぞ?」

「これ遺伝みたいなものだから、気を付けるも何もないような?」

 

 ニュースで垂れ流されているのは、とある病気のこと。

すんごい厄介な病らしい。その名を、種馬症。

 

 つまり、男のウマ娘化。

よくわからないけれど、急にしっぽが生えるんだって。

その種馬症は、自覚症状がないけれどそういう人たちによくみられる症状は、

ウマ娘に匹敵する力を持っているってことで……。

 

 ――完全アウトなんだけど。

え、何? ハルウララやトウカイテイオーと並走するどころか、全力で走れば抜けるんだけど。

 それで種馬症を直す方法はなし。

これにかかると、常時発情ってただの人間やん。

特に狂暴な下半身の武器が、女性のお腹をぶち破るんだってよ。恐ろしすぎる。

とにかく暴力性や反社会性もあって、警察沙汰で最終的には去勢。

 

 嫌なんだけど!? まだ彼の遺志を守り、彼女たちを守らないといけない。

護るためには、トレーナーになって競走馬の面倒を見るという方法をとらないとどうしようもない。

年齢制限はないから、全力で勉強をする。

少なくともウマ娘並の能力を持っているのならば、比較的簡単に筆記試験はどうにかなるだろう。

 実戦経験は全く足りていないけれど、これは飛び級できるような何かを持っていれば

できそうだ。

 

「お父さん。トレーナーになりたい」

「そういうだろうと思って、過去問と直近のトレーナー養成所の案内だ。

帰ったら転入じゃなくて、養成所に入学するんだ」

「ありがとう」

「彼女たちを守るためだろう? 残り約一年と半年だ。 養成所は2年から3年。

府中の中央トレーナー資格は、養成所で卒業証書をもらってやっとできる。

ハルウララもトウカイテイオーも、中央へ行ける資質を持っていることは、

過去の新聞でもわかっているんだ。隆二、ちゃんと導いてあげなさい」

「うん。もちろんだよ」

 

 この世界のウマ娘は、いろんな世界というか主に地球の馬の魂か残滓から人間にとりついて発生するみたいだ。

過去にも発生しているから、この世界は地球よりも遅い世界なのかもしれない。

Wikiによるとハルウララは、1740年。

トウカイテイオーは、1514年には出現していたようだ。

 そして何故かメジロマックイーンは、1410年から出現し名家として名をはせていたようだ。

この世界色々おかしいけれど、歴史が地球と全く違うからなかなか難しいな。

 

 少なくともウマ娘によって世界が動いていたことは周知の事実だから。

 

 

 さて、養成所だけど習うことはたくさんある。

そもそも養成所は、人間の素質や人間性も見るから小学校に行っていなくてもいける。

だけど問題は非情に難しい。少なくとも、ゆとり教育以前の中等進学校レベルの知識が必要。

 なるほど、確かに普通は無理だよね。

だけど、俺は彼と違って年期が違う。大学程度ならいける。

大学は単位がひつようだから、ゆとり教育とか関係がない。

 

「入学試験は来週にでもあるから行ってみるか?」

「うん、行く」

 

 俺は週末の土日に、養成所で入学試験を受けた。

ウマ娘のトレーナーは、結構いるんだけれど中央で活躍できるトレーナーは割と少ない。

年期というのもあるかもしれないが、やはりウマ娘を理解していないとできないのかもしれない。

 というか養成所は、かなり競争率が高い。

その割には、優秀な人材がいないような気がする。

 

 次の週で合格を受けて、来月から来るように言われた。

判断早いな。

 

 そして今日も今日とて、香澄ちゃんや千春ちゃんと走り込みをする。

遊ぶといってなんだけど、俺もやることがあるんだ。

だから一緒に付き合ってもらうから。

 

「聞いてほしいことがあるんだ」

「なになに~?」

「どうしたの?」

「俺、来月からトレーナー養成所に行くことにした。

意味、分かってくれる?」

「「っ!!」」

「頑張るから、トレセン学園で会えないかな」

 

 俺がそういうと二人は、笑みをこぼした。

俺は彼じゃない。二人の笑顔は、彼に向けられたものだ。

勘違いするなよ、俺。俺は彼の代わりに、彼女たちを守ることだ。

彼女たちを守れれば何でもいい。

 

「学費は大丈夫。中高一貫校だから、卒業までに日本ダービーとか1着取っていれば、

その支援費として学費が支払われる。1位を狙っていけば、どうにかなる。

大丈夫。今まで一緒に走ってきたからわかる」

「ねぇ、隆二君」

「何?」

「早くトレーナーになってね。待ってるから」

「隆二君、私も隆二君がトレーナーになってくれるなら、他はいらないよ」

「二人ともありがとう。大丈夫、二人のために頑張るよ」

 

 そのためには、やれることをやっとかないと。

てか、全力で走ると尻がかゆくなる。

かゆ……うま……。

じゃなくて、蟯虫か?

 

 家に帰って色々脱いで触ってみた。

 

 さらさらふんわり。

 

「毛っ、けけっ」

 

 

 俺、種馬症になっちまった。

 

 

 といっても別になんも変わらん。

異常な発情もないし……ん?

んー気のせいか、体に力がみなぎるような気がする。

よし、勉強頑張ろう!

そして終わったら、走り込みだ!

ヒヒーン!

 

 

 

 

 

 はっ、今、人間性を失っていた気がする。

これが、種馬症……!

二人を襲わないようにしないと。たぶんどっちかがもともと牡馬だったはず。

そんなよくわからないTSジャンルものにあるような展開は嫌だ!

 

 よし、最低限かつ最速のトレーナーへの道を切り開こう。

 

 まずは最低限の地方トレーナーとして卒業して、そのあと学園に資質を認めてもらわないといけない。

そのためにも、二人と会って二人の指導をしないと。

そうすれば、香澄ちゃんも千春ちゃんも素晴らしいウマ娘になるはずだ。

 

「お父さん、どうやったら中央トレセン学園に行けるんだろう?」

「まずは基礎をやって、そのあとウマ娘を育てて中央に引き上げられるのが一番いいんじゃないか?

それか香澄ちゃんや千春ちゃんが、中央で君の名を呼べば招待されるだろうな」

「やっぱりそれしかないよね」

 

 俺は情報を纏めたら、次の日に備えて寝るだけだ。

明日からしばらくの間、あの学校に行かないといけない。

二週間後に転校する。そうしたらごんたを含めたあの町の奴らとも今生の別れになるだろう。

別に悲しくなんてないよ。むしろ清々する。

 

 でも、二人をあそこへ置いていくのは、すごく悲しい。

あんな場所に置いて行ったら、何かされてしまうんじゃないかって。

最近では慣れてしまって、俺が実力で黙らせることでなんとかなっていた。

そんな中俺が離れた瞬間、あいつらが活気づいてしまうかも。

 不安で仕方がなかった。

だから俺も学校が終わったら、すぐに用事を切り上げて二人の様子を見るために町を訪れることにしたんだ。

 

 きっと俺の足に、ものすごい負担がかかると思う。

でも二人が精神的に殺されて、自殺に追い込まれるより何億倍もましだ。

そんな悲劇なんて、起こさせはしない。

 それに何かあれば、また俺の家に泊まりにくればいい。

下手な自動車よりも機動力があるんだから、これくらいはできるだろう。

 

 

 そして、俺は転校する前に、香澄ちゃんや千春ちゃんに危害が及ばない様

學校どころか地域全体のウマ娘への対応を大量に録画し、これらすべてをウマ娘人権委員会や警察署に送り届けてやった。

 警察はともかくウマ娘人権委員会は、この国の人権委員会と同じような権力を持つ人が大勢在籍している。

 現代においてウマ娘たちは、戦争に使えない意思ある銃であると認識されている。

そんなウマ娘たちを管理するために作られたのが、トゥインクルシリーズだ。

基本的な概念や価値観は、オリンピックを参考にしている。

封じられた人間の競争本能を発揮し、戦争ではなく娯楽の面に生かすのが目的の一つになっているスポーツ。

 ウマ娘たちも外見上の違いや肉体の強靭さを除けば、人と良く似ている。

だから彼女たちをスポーツマンシップに則って教育し、娯楽の面でその身体能力を使えば

娯楽として平和的に利用できる。

 

 しかし昔は情報格差が当然の様にあったがために、進んでいた人権思想を無視した行動でウマ娘たちが道具のように扱われていた。それをなんとかしようとして立ち上がったのが、ウマ娘人権委員会だ。

かれらのおかげで、ウマ娘と人間は平等であると憲法に記載されてある。

 こんな過去の人たちのおかげで、ウマ娘たちは比較的平穏に安全に暮らせるようになったようだけど、まだまだ根本的な解決には至っていない。

 

 この町の様に、町全体がウマ娘に対して悪印象を抱いているところも少なくないんだ。

 

 で、だ。

そういう格差をなくすために取れる手段がある。

 それは人権警察だ。

簡単に言うと、情報提供→保健所→警察署→ウマ娘人権委員会→警察庁→警視庁→各部警察署と流れていって、警察署がウマ娘の人権を侵している場所を摘発し、主犯格を逮捕と共に改善を要求するんだ。

 

 改善が認められなかった場合は、深刻な憲法・法律・条令違反として関係者全員に逮捕状発行や家宅捜査許可証が認可される。ガサ入りってやつ。

 

 この町の歴史には悪いけれど、まだまだ未熟な社会だ。

俺達も含めて、家宅捜査をされることになった。

行動が早すぎる? 実際に1週間程度で発動されたから、本当に早い。

普通ならば、提供された情報の精査をしないといけないらしいが、家宅捜査してきた警官によるとこの町への捜査願いやウマ娘への社会的虐待の陳情書が今回で1万件を超えることになったんだと。

 圧倒的な不人気によって、町は綺麗にされた。

 

 そしてクラスを含めて、学校にいる生徒の9割・町民5割が姿を消してしまった。

 

 

 訪れた静謐。やってしまった。後悔はしていない。

訪れるべき必然。

 

 先生方も8割が総入れ替え。

町議会も入れ替え。過剰な歴史教育・歴史文化も、自由な勉学の元解放される。

 

 

「皆さんおはようございます。新しく担任になりました、岡島誠也といいます。

皆さんのクラスもかなり少なくなってしまいましたが、6年生より新しく学徒を整理されます。あと4か月、僕と一緒に頑張っていきましょう」

 

 新しく来た先生は、新任といえるような清潔感を振りまく好青年。

一の挨拶から全く見えないと思うけれど、溌溂な人だと思う。

隠しきれていないわくわくが見えるんだ。

これならば、比較的安心して二人を学校に置いて行けると思う。

 もちろん。これだけでは終わらない。

まずはこの教室の元締めでもあったごんたの腹心を相手にしないと。

 

 

「や、委員長」

「おや隆二君。どうしたんだ」

 

 眼鏡を中指で、クイッと上げる。

彼はなんだかんだ立ち回りがいい。

ごんたたちを諫めつつも、意識を俺達に向けさせることで自分へのヘイトを管理していた。

俺が彼の記憶を見た限り、彼自身はウマ娘に何かしら危害を与えることはしなかった。

 むしろ気にかけていたほうではある。

というのも、俺がやりすぎていた頃、呼ぶのはいつも教頭先生だった。

教頭先生は、この学校でも比較的ウマ娘に理解がある人物だ。

 今回の騒動で連れていかれることはなかったけれど、予想外のガサ入れだったらしく非常に意気消沈している。

いつ辞めるのか、楽しみだ。

 

 

 とにかく、委員長にこのクラスの元締めを頼んだ。

理由は簡単で、この学校は近くの学校とこのクラスの生徒をそのままに、合併をすることが決定された。

元々生徒数は少なかったから、この際やることになったんだと思う。

議会も臨時の人が入って、この町の情報を整理しなおしているんだろう。

 二人が離れ離れになる可能性は低い。

元々いじめを受けていたということから発生した奴だ。

彼女たちをバラバラにするのはよくないだろう。

 

「そういえば君は、トレーナーへの道をすすむのか?」

「ん? まあ、そうだね」

「そうか……険しい道のりだろうが、頑張れ」

「言われるまでもないさ。みんなの事、頼むよ」

「ああ。なんとかして見せる」

 

 俺はそこで会話を切り上げて、香澄ちゃんと千春ちゃんの方を向く。

二人は生き残ったクラスの女の子と会話をしている。

会話の内容は、今までごめんなさいということだった。

 この子も被害者よりの加害者である。

いわゆる便乗ってやつだな。よくある従わないとお前もいじめるぞってやつ。

 俺が小学校に通っていた頃、クラスの中で男女の力関係を示す台頭者はいなかった。

だけどこのクラスは、ごんたの他にもう一人りょうことかいう女がいた。

そいつもそいつで、俺達に墨汁を撒いたり給食をこぼしたり、あだ名をつけたり、

ようつべの生放送機能を悪用して俺達を陥れようとしたり。

 

 今振り返ると、クソ野郎にもほどがあるしょうもない愚か者だな。

 

 勿論他にもあるぞ。だがその中で一番切れたのは、千春ちゃんと香澄ちゃんの全裸の写真が2000円で出回っていたこと。

これは徹底的に始末したんだけど、主犯格のりょうこにダメージが行かなかったことで

大失敗の部類に入るんだ。

 もう少し俺に冷静さがあればよかったんだがな。くそっ。

 

 まあいいや、あいつらは少年法では裁かれないということが分かったし。

これ以上の高望みはしない。さっさと更生して出てこいや。

テメェらが娑婆に出てくるころには、俺達はシニア級で大暴れしているからな。

いやぁ俺達の活躍が見れないなんて残念だなぁ、そのままコンクリに詰められて東京湾に

沈められればいいのに。

 

「隆二君。この後一緒に出掛けようよ」

「香澄ちゃんずるい! 私も行く!」

「置いていくわけないじゃん。だよね、隆二君!」

「当たり前だろ? 香澄ちゃんと千春ちゃん、二人がいないと寂しいんだからさ」

 

 二人は前よりも明るくなった。

クラスの皆や先生、地域の人からの苦言もなくなった。

二人はもう、完全に自由だ。やりたいことをやれるんだ。

それなのに俺は、二人をトレセン学園に入学するよう仕向けている。

 二人はその世界に夢はあるんだろうか。俺も彼と二人のために、トレセン学園のスタッフに任命されるよう

ガンバろうと思った。本当に良かったのか。

 

 ふたりを縛り[想い]続けるのはいいことなのだろうか。

 

「「隆二君!」」

「千春……ちゃん、香澄……ちゃん」

 

 ダメだ、ダメだ。

俺は彼の遺志を継いで、彼を演じきらないと。

二人は俺じゃなくて、彼が好きなんだ。

俺は、山下隆二なんだから。

 

 

―――

 

 隆二君が頭を打った。

 

「「隆二君!?」」

「けっ、こんなやつらに構うからだ。これでどっちが上かわかっただろ。

ずらかるぞ」

「「うーっす」」

 

 隆二君はボク達をかばった。

 

 以前、付き合っている事をどうどうと言った隆二君は、あの後ごんたに呼ばれて

田んぼの十字のところで殴り合いのけんかになったんだ。

本当なら學校の話あいで解決していたはずなのに。

 

 なんでこんなことになっちゃったんだろう。

 

 教室の一番端っこに座っている弱気な子がいうには、ボクと千春ちゃんは学校一かわいいらしい。

 

 

 そうなのかな?

よくわからないんだけど、それがごんたの逆鱗に触れて争いになったんだって。

意味わからないんだけど。なんで隆二君に攻撃するの。

そんなことしてもごんたになびくわけないじゃん。頭までバカに染まってる訳?

 

 ボクと千春ちゃんは、すぐに隆二君を介抱しておうちに届けたんだ。

そしたら隆二君のおじいちゃんしかいなくて、ボク達を一瞥したら救急箱だけ投げ渡されてそれで看病することにしたんだ。

 流血してないし、頭にたんこぶができただけ。

起きた時とっさに言われた言葉は、きっと迫真の演技だって信じてるもん。

 

 でもそれはボクの勝手な希望だった。

 

 やっぱりだめだった。

 

 記憶喪失。

これが重くのしかかる……わけでもない。

 だって、隆二君をボクたちだけを意識する様にできるんだよ?

それって、すっごく素敵なことじゃない?

ライバルは一人でも少ない方がいいし。

 

 ボクと千春ちゃんは、結託して隆二君を占有することにしたんだ。

彼がいつも訪れていた場所にも行かせないで、ボク達の相手をするように言う。

すると彼は従ってくれるんだ。これって、幸せなことだよね?

 

「香澄、千春……ごめん」

「「っ!」」

 

 隆二君は頭を打って一週間位、頭痛に悩まされてボクたちに寄り添ってきたんだ。

本当なら病院に行かせるんだろうけど、こうやって頭痛でボクたちを気遣ってボク達が役立つ。

こんな思いやりの空間を、永遠と続けていたいな。

 え、病院に連れていかないのはひどいって?

 今回の隆二君は、ボク達ウマ娘と付き合っているってことを不用意に言ったからだよ。

自業自得だし。

 

 

 だから、ボク達が看病してあげる。

 

 

 後遺症が残っても、歩けなくなってもボク達が、ボクが養ってあげる。

だから全部ちょうだい?

 

「千春ちゃん……香澄ちゃん……どこに……いる……の」

「ボクはずっとここにいるよ、隆二君」

「千春はずっとそばにいるよ、隆二君」

 

 

 だって、”千春ちゃんと香澄ちゃんは僕の(もの)なんだ”って、言ってくれたじゃんか。

嘘だなんて言わせないよ。絶対に。

 

 それと、”俺”って云う隆二君もかっこいいよ。

前と違って友達ってよりは、彼氏彼女のような関係に見てもらえるような感じがして。

ボクはこの空気に溺れていたい。離したくない。

 

 そう思っていたボクに、突然の凶報が知らされる。

それは隆二君が転校すること。

 わかっていた。いつかこうなるんだって。

自業自得だなんて言っているけど、今回ウマ娘が絡んでいるとなったら移るしかないよね。

分かっていたはずなのに。嫌だ!

 

 千春ちゃんとボクは、隆二君に泣き疲れて寝てしまうまで抱き着いていた。

太陽が夕日になって傾いているときに起きたんだけど、それまでずっと隆二君は

ボク達の頭をなでてくれたんだ。

隆二君はほんとに、優しい。勿論優しいだけじゃなくて、強引なところもある。

そういうところもかっこいい。

 だから好き。

ずっと前から抱いていた感情なんだ。

 

 テレビでみた、シンボリルドルフやサイレンススズカというウマ娘が、

周囲の目を奪っていくかっこいい姿や走りが好きっていうやつじゃない。

 

 隆二君が好きなのは、男の子として好きだから。

性教育の時思い知らされたんだ。

 あの時の先生は、こういう大事なことは人生と共にしたい異性である男性としなさいっていった。

言葉にして言うなら、好きとか愛しているっていえる人とやるべきだって。

だからするよ。

 

 以前隆二君の家に泊まった時、隆二君のパパやママがいたからできなかった。

だけど転校する前にやるから。

一生の楔を打ち付けてやる。絶対に、ボクたちの事を忘れさせない。

 

「隆二君!」

「何?」

「転校する前に隆二君のおうちに泊まりたいな」

「んーわかった。お父さんたちに聞いておくよ。大丈夫、俺も香澄ちゃんや千春ちゃんと

最後くらい一緒に居たいからさ」

 

 言質は取ったよ。

ボクは千春ちゃんを呼んで、最後のチャンスをものにしようと話しかけた。

もしも今回泊まれたら、今度こそ隆二君の中にボク達で縛り付けようって。

 

「うん! 千春も一緒にやるよ。隆二君が拒絶しても、絶対にやろうね!」

「ありがとう、千春ちゃん。 隆二君を他の女にとられないようにしようね!」

 

 後日一週間後にお泊り会ができるようになったから、それまでボク達は

ウマ娘の膂力でおさえつけて隆二君をいかにボク達に夢中にできるか計画する。

 少なくとも隆二君は、ボクたちに好意を抱いてくれてる。

それは今までの事で確認できてる。

学校内評判でも一番かわいいボク達だから、男の子だったら尚更手籠めにしたいと思ってるだろうし。

 

 それと隆二君がトレーナーになるってことも聞いた。これは新任の先生がトレセン学園に向けて、無事合格するようにカリキュラムを組んでくれるって言ってたから問題にしてない。

 宿泊してつなぎとめたら、他の女には靡かないよね?

ボクか千春ちゃんを留意したまま、トレーナーとして教鞭を振るってくれるよね?

もし他の女に、うつつを抜かしてたらどうしてやろうかな。

 

 目隠しして拘束・監禁させて、ボクたち以外の事は一生考えられない身体にしてみようっと!

 

ーーーーー

 

 ある日ごんたに私達は呼ばれた。

呼ばれた理由は、お前たちのトレーナーになってやるから面倒を見させろというわけわからないことだった。

 

「ああ。柴木公園の雑木林の中に、そういう本があるんだよ」

「俺が言えばあいつらなんか手を出してこないんだぜ?

おとなしく俺の物になれよ」

 

 勝手な物言い。今まで私達にしてきたことを棚に上げるなんて、見下げた根性だよね。

どうしてそんな自己中心的な考えを相手に押し付けることができるの?

まあごんたとかそこらの田舎の子供に、そんなことがわかることもないかな。

 それに比べて、隆二君は全く違うよ。

私達をヒトとして友達として、同じ目線で話しかけてくれた。

 

 放課後に河原や河川敷で、一緒に走っているとき本当にヒトなのか疑ったこともあるけど都会の人は皆そうなんだと無理やり納得した。

 

「おいおいおい、俺の誘いを断るのかよ? 

もう一度言うぜ。俺の物になれよ」

「誰がなるもんか」

「今までボク達にしてきたことを謝罪したら考えてあげる」

 

「は? お前たちがやったことじゃねえか。俺達は当然の事をしているんだ。

むしろお前たちの方こそ感謝しろよ。泣いて喜べ、俺の所有物になれば許してもらえるんだぞ!」

 

 私は香澄ちゃんと目を合わせる。

お互いに、こいつらは本当に馬鹿だと。今まで生きてきて、何も成長していないじゃん。

性教育で少しばかり成長したかと思ったら、無駄に体が大きくなっただけで本質は全く変化なし。

親御さんが草葉の陰で泣いているんじゃない?

 

「おいごんた。お前に呆れてるぞ。てか、このモノノケ共に何会話してんだ?

やっちまえよ」

「そういえばそうだよな。じゃ、縄で縛れよ」

「おう」

 

 そういうとどこから来たのか、クラスメイトのほとんどが出てきた。

あの気の弱そうな子まで、目を真っ赤にして泣きはらした跡がある。

きっと脅してきたんだ。

 私はあの子にも日常を壊されてきた。許すことはしない。

だけど不必要にかかわらせようとするお前たちも、私は絶対に許さない。

 

「ごめん……ごめんなさい……」

「オラアッ泣き虫、てめぇもやらねえと殺すぞ!」

「ひいっ」

 

 気の弱い男女を前にしてお前たち主犯格は、後ろで震えているのか。

そうして腰の引けた子たちを殴って、戦闘不能にさせて退散させた。

手を挙げたのを好機とみたのか、あいつらは嬉々として襲ってきたんだ。

でもちょうどその時、隆二君が自転車で駆けつけてくれたんだ。

 

「何してんだテメェら!!」

「来たか、独り占めする野郎が!」

「んだと!? 香澄ちゃんや千春ちゃんに、告白する勇気もない軟弱ものに渡せるものかよ!」

「告白だあ? ウマ娘は人間じゃないだろ。こいつらは人間のおもちゃだぜ?」

「そうだそうだ! 人間が獣に首輪をつけて飼うのは当然の事だろうが!」

「むしろごんたが制御した方が安全では?」

「あんたたちにファンクラブがあるっておかしいのよ! あたしが一番かわいいのに!」

 

 そばかす女黙ってろ。あと黄色い歯を見せつけるな、ギトギトの髪の毛と

梳かしていないバラバラの髪の毛を見せつけるな、汗臭い。

ほら、他の子も若干黙っちゃった。

 

「そういうわけだ、隆二。邪魔だ、どけ」

「誰がどくもんか! そもそも香澄ちゃんと千春ちゃんは僕のだ!

誰にも渡さないぞ!」

「ほー? 云ったな? その口2度と開けないようにしてやる!」

 

 隆二君。勢い任せで言っちゃったんだろうけど、それって私達の事を……。

 

 あ、まずい! ごんたが憤死しそうなくらい顔を真っ赤にしてなぐりかかった!

助けなきゃと思って走り出したけれど、全然間に合わなかった。

本当に殴り飛ばすなんて。

 

 死ねよ。

 

「グボァ」

 

 私は香澄ちゃんに隆二君の介抱を任せて、他の木っ端たちを全員自滅させた。

逃げる奴も全員。消えていなくなればいいと思ってるけど、ウマ娘の力は強いから手加減はしてる。

 

 後日。隆二君を介抱したり二週間後に転校が発覚したり、

クラスメイトや先生が9割がた消滅して合併や新任教師の着任があったり、凄く忙しい一週間だった。

そして今週の中頃に、隆二君と最後のお泊り会をする。

 

「千春ちゃん。前は出来なかったけど、今度こそボク達の身体でつなぎ留めようね!」

「うん! 千春も一緒にやるよ。隆二君が拒絶しても、絶対にやろうね!」

 

 私は色んな用品を用意する。そして、検査薬のハイテスターNを用意。

これは厳重に保管して、もしも逃げようとするなら誤作動した陽性の状態で見せつける。

興奮の後の男性は冷静になるらしいけど、やった後や目覚めた時は正常な判断ができないらしい。

だから、これを見せつけたら精神的にも、縛り付けられるよね。

 勿論誤作動とかそこらへんを考えそうだけど、ご飯の量を調整してお腹を大きくすればいいし。

それか中絶代でもせびれば、私達だけを見てくれるようになる。

 

 ふふっ、楽しみだなぁ……。

 

「あ、香澄ちゃんも用意したんだ」

「そだよ! 記憶喪失した後の隆二君、なんだか大人になっちゃったから通用するかわかんないけどね」

「きっと大丈夫! なんなら動画を録って、脅せばいいんだよ」

「! ありがとう、思いつかなかった」

 

 前に宿泊したとき隆二君の性的嗜好は、大体把握できたつもり。

それに毎日遊ぶとき、色んな服を着ていったから隆二君の好きな服とか色はわかる。

それと隆二君のお母さんにも、口裏合わせをしておかないと。

 

「あの……隆二君のお母さん、宿泊するとき隆二君と一緒に寝ていいですか?」

「お願いします!」

「……隆二をお願いね」

「はい! 絶対に幸せにします!」

「後悔はさせません!」

 

 言質も取った。後は実行するだけだよ。

 

 

「隆二君。今日行くからね」

「今晩はよろしくね」

「うん。歓迎するよ」

 

 授業が終わったらすぐに家に帰る。

 

 

 年金と家庭菜園で生きるおじいちゃんとおばあちゃん。

私のお父さんたちは皆、台風や線状降水帯によって発生した雪崩や洪水で生き埋めにされてしまった。

今生きている中で一番お世話になってる親戚のおうち。

 おじいちゃんやおばあちゃんの前では、努めて明るくふるまって制服が汚れても

元気に遊んできたからって言い訳してた。

でもそんなのはもういらない。

私の大好きな人が、この状況を何とかしてくれた。

 

 隆二君も警察も黙っているけど、私達の耳は人間よりも優れている。

風のうわさなんて簡単に拾えるんだよ。

 

「おじいちゃん、おばあちゃん」

「おぉ、うらら。隆二のところへ行くんか?」

「そんなにおめかしして……ちゃんと手綱を握ってくるんだよ?

それと男は胃袋をつかむんだよ、いいね?」

「うん! 絶対に心臓と胃をわしづかみにしてくるよ! 行ってきます!」

「行っておいで」

「孫の顔を早く見せてくれー」

 

 私は家を後にして香澄ちゃんと合流して、隆二君の家に来る。

相も変わらず疎外感が透けて見える。

そういえば、とまるはずの方の家に補強の跡があるけどあれは?

 

「あ、隆二君のママだ。こんにちは!」

「いらっしゃい、香澄ちゃん・千春ちゃん。今日は防音対策してるから、好きなことしてらっしゃい」

 

 つまり、私達がすることを察してくれたんだ。

あーうん、口に出しちゃったからわかるよね。

でも、そういうことだから。

 

「あ、来たね」

「隆二君、今日もよろしくお願いします」

「こんにちは。荷物置いたら走りに行こう!」

「気が早いって。荷物はこっちにおいてね。じゃあ、行こうか」

「「うん!」」

 

 私たちにとって普通の光景になってる河川敷の走り。

3500Mを軽く走ったり、短い距離を勢いよく走ったりいつものフォームの確認をするだけ。

軽く筋トレをしたら、靴下を脱いで脚をマッサージしてくれたり、ついでに肩とか

背中もやってくれる。お願いしたら、耳も触ってくれるし。

 あぁ、気持ちいい。

 

「あいったああ!?」

「おっと足裏のツボに入ったようだ。ごめんごめん」

「千春ちゃんばっかりずるーい! ボクにもお願い!」

「わわわ、揺らさないで!?」

 

 全身が柔らかくなったら、今度は階段ダッシュとか短距離走をする。

これはちゃんとした靴でやってるけど、専用の器具がない今は損耗具合が激しいんだ。

そしてお気楽街道攻めや道の駅を経由して、持久走レベルの事をする。

筋トレも大事らしいけど、隆二君曰く無駄に筋肉をつけて酸素効率を落とさない様腹筋は

最低限にやるんだって。

 走りこんだら川の至る所にある浅瀬を飛び移って対岸へ渡るっていう遊びもする。

普通だったら意味ないらしいけど、最初のスタートダッシュをよりよくするためのものなんだって。

後はスリップストリームや追い越しの勉強と水切りかな?

 

「現状マスタング走法するやつはいないし、気晴らしだよ。

そもそも腕振りはバランス感覚を維持して、無駄に速度と体力を落とさないための工夫だからね。

力を入れず筋肉が動く通りに動かしたらいいんだ。省エネ省エネ」

 

 さらに言うと香澄ちゃんが得意な足を輪っかの中に、交互に入れていく訓練もした。

これは腰もそうだけど足の向きを決める筋肉を強くするためのもので、眼前のウマ娘が

急に止まったり邪魔をしてきた場合即座に回避したり足をもつれさせないための訓練らしい。

後は片足飛びや背筋・均衡感覚を養うための訓練もする。

 濃密な4時間に、私も香澄ちゃんも、そして隆二君もくたくただ。

久しぶりの猛特訓は、私達をさらに前に進めてくれたみたいですごくうれしい。

 

「じゃ、二人とも今日は雑穀とえのきだけのわかめ味噌汁、めかぶと法蓮草、秋刀魚と人参おろしってな感じで

無機物祭りだ。お母さんにはそう伝えてあるから」

「「やったー!」」

 

 香澄ちゃんも私も、家庭の事情で栄養素の貧しい食事をしているんだ。

だから栄養満点な食事を頂けて最高に幸せ。

學校給食? 給食は合併したら平等に機会を与えてくれるって言ってたし、たぶん大丈夫だと思う。

 それに隆二君は、私や香澄ちゃんはウマ娘なんだから骨はちゃんとしておかないと折れるよ、だって。

だから私達はいろんな方法で、骨も鍛えてきたんだ。

それと同時に成長期だから、一定以上の筋肉を鍛えないようにもしてるっていってた。

今回の訓練は、基本的に軽いものばかりでどこまで行けるかっていう試走を兼ねたものなんだって。

 

「だー! 疲れたー!」

「隆二君厳しすぎー!」

「ごめんごめん、どこまで行けるか知りたかったんだよ。

しばらくは筋肉の維持や柔軟性を重視するから。もちろん遊びながらね」

 

 私達はクールダウンをして、隆二君と一緒におうちにいった。

そこで汗を拭いて着替えたんだ。

香澄ちゃんとこの後何をするか相談して、隆二君と一緒にリビングへ行って隆二君のお父さんとお母さんに

ご挨拶。しっかりと意味深な挨拶をして、外堀を埋めるんだ。

 隆二君……前とは違って、私達の事を受け入れるんだって。

へぇそぉ、ふーん。

 

 

 私達は隆二君のお母さんの手伝いをしたら、順番にお風呂に入っていく。

隆二君のご両親は、事前の打ち合わせ通りにおじいさんのおうちの方に移るんだ。

そして私達は隆二君がお風呂に入っている間に、寝場所の準備を整えた。

出てきた隆二君には、リビングで一緒に今日のアニメ映画を見ようってことを伝えて待機させる。

 私達はお風呂で色々と準備を整えて、隆二君の前に行く。

前っていうよりか、目隠しをしてそのまま寝室に連行って感じかな。

 

 はい御開帳。

勿論寝室には、水分と大事なものの他に外から開けられないようにした施錠をする。

 

 ガチャリ

 

「千春ちゃん!? 香澄ちゃん!?」

 

「ねぇ、隆二君」

「私達ね、隆二君のことが大好きなんだ。誰にもとられたくないの」

 

 隆二君は額を打って悶絶してるけど、私達の声でやっと振り向いてくれた。

 

 ふふ、困惑してる。

 

「私達の事、受け入れるんでしょ? だったら、その証をちょうだい?」

「一生消えない証。わかるよね?」

 

 体に巻き付けたバスタオルを少し緩めて胸元を見せて、隆二君に詰め寄る。

 

「無視したって無駄だよ。勉強机の右、鍵穴がある場所」

「っ! 見た、のか……」

「ごめんね。でも、好きな人の事知りたかったから」

 

 そういうと隆二君は、私と香澄ちゃんを抱きしめてくれる。

隆二君の爆発しそうな心臓の鼓動が心地いい。私もそうなってるから。

恥ずかしいのもあるけど、好きな人に全てを見られて知られるのも気持ちいいんだ。

 

「……僕も、香澄ちゃんと千春ちゃんの事好きだよ。

だから僕と……」

「うん、ボクを愛して」

「いいよ、千春を好きにして」

 

 私にとっても香澄ちゃんにとっても、大事な一夜を過ごしたんだ……

 

 

―――――

 

 

 なんなのだこれは!?

どうすればいいのだ!?

 

 色々と少女が出すのにはおかしな雰囲気が出ておりますが、いかがなさいましたでしょうか!?

 

 と、とにかくだ、彼の記憶を……。

 

 

 お?

去年の柴木公園からくすねてきた成人の本を、机の中にしまったな?

それでそこから……ほー?

 それで水泳の授業の度に、成長してきた二人を見て……?

なるほど。

 

 しかも彼、一か月前にもお泊り会をしているじゃないか!

なるほど、愛だな!

 

 多少重い気がするけど、純愛だな!(錯乱)

 

 じゃあ、仕方ない。やるか。彼が好きならば、俺も愛さねば彼の遺志を継げない。

子供は好きじゃないけど、仕方がない。

味わえ、彼女出来なかったけどその時のために勉強してきた、あんなことやこんなことの秘技を!!!

 

 

 なお、朝チュンした俺はとある検査薬を見せられて、さらに絶望してしまった。

え、どうすんの?

 

 

 

 

 頭がこんがらがったけど、ずっと愛してくれたら許してくれるんだって。

やったね。やったねじゃねえよ!

どうすんだよこの年齢で、何が据え膳だ不躾だ。

無責任なことをして、俺はどうしてこんなことをしてしまったんだ。

 わかるはずなのに、伊達に年食っていないのに!

意味がない。なんでだ。

彼の事が好きなのに、どうしてそんなに陥れようとするんだ?

わけがわからない。

 

 だけどもう、逃げることは許されない。

トレーナーへの道を歩み始めた俺は、止まる事も辞めることもできない。

俺の真後ろからは国家警察や人権団体が、諸手を挙げて殺しに来る幻覚が。

 

 

「うぅっ」

 

 

 最悪だ。

俺は憑依して彼を殺してしまったから、償いにでも行動に出たというのに。

 これが結婚詐欺だとでもいうのか!?

これから俺は、腎臓を売られるのか!?

嫌だ。死にたくない死にたくない。

 

 

 そう考えていると、香澄が俺の耳元でささやきかける。

 

「何も考えないで。ただ、ボク達を愛してくれればいいんだ。

他の女なんか見ちゃダメだよ?

だってこんなにしたキミを愛せるのは、ボク達だけなんだ。

嫌でしょ? ボク達を[ ]させたって」

「ぁ」

 

 

 こんなことがあっていいのかよ!?

隆二君は君たちの事が好きだったのに。これが愛ってやつなのか、純愛ってやつなのか!?

狂ってやがる。この女ども―――

 

「私達が好きなのは、”隆二”だよ」

 

 目の前で俺の目を覗き込んできた千春。

いつもは天真爛漫・元気溌剌な彼女で、他人の前では少しばかり早熟な雰囲気を出していた女の子。

その瞳は誰もがうらやむ桜色だけど、虹彩に浮かぶ桜の花びらから覗かれるその目は、

はるかにおぞましい。

 

「隆二。 ねぇ、隆二。 わかってないのかな?

もう逃げられないんだよ? 私達に任せて、私達に溺れてよ。

そうしたら、シアワセになれるんだから。ね?」

 

 俺は欲の波に溺れるのか。それしか、方法はないのか。

俺が俺でいることは、そもそも……間違っていたのか……?

 彼は、彼はどこにいってしまったんだ。

早く帰ってきてくれ。どうして俺は、彼になれなかったんだ。

 

 

 俺は二人を[   ]させてしまった事に、延々と現実逃避した。

そしてついに俺は、彼を見つけ出せなくなってしまった。

彼を記憶に見出し、彼の人生を演じていた。

彼と彼女たちを、仲の良い友達として記憶にあった感情と共に歩んできた。

それを壊して裏切ってしまった。

踏みとどまっていればよかったのか?

 

 俺はもうだめだ。俺を殺して、彼を連れ戻してきてくれ。

どうか夢であってくれ。

 

 

 

 情欲に溺れた俺は、二人にさらに教育されてしまう。

 

 

 なぜなら、あの日、彼は死んでしまったから。

 

 

「ボクね、投げ飛ばされた隆二君をすぐにおうちに連れて帰ったんだ。

でもね、ここから救急車と病院なんて、往復で3時間はかかっちゃう。

そこで考えたんだ。隆二をボク達のものにしたいって。

ボク達ってウマ娘だけど、学校一の美人だって言われてるんだよ?

それなのに隆二君は、他の女の子に目移りしちゃって。

だから考えたんだ。頭を打って良ければ意識混濁、あわよくば記憶喪失になってもらおうって。

それで結果が心停止と心臓の再起動なんだよ。

驚いちゃった。ボクも隆二と一緒に、高架から落ちようかなって思っちゃったもん!」

 

 香澄がまくしたてた驚愕の事実。

俺は二重人格ではなく、死んだあと俺が憑依して結果的に記憶喪失になったということ。

つまりこの身体は、一度死んでいるんだ。

 

 

 死んですぐ復活しても脳死した記憶領域が復活することもない。

意識がもうろうとしてたのはそういうことか。

一人芝居に殉じてたけど、本当に体が重くて頭が痛かったんだ。

今では何を言って何を思っていたのかさえ思い出せない。

 ただどんなにそれを言い訳にしても、今から逃げ出す理由にはならないんだ。

重くのしかかる事実。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 逃げられないのならどうするか。

簡単だ。受け入れてしまえばいい。

そして想いも粋も呪いのような狂気に近い愛も、俺が彼女達が好きな隆二になればいいんだ。

 

 

 

 

 

 あは、あハはは――うん、大好キだ[諦めた]よ。

 

 

 

 

 

 

 

「僕はもう死んだ。僕はもう、君たちを愛せない。

だから代わりに、俺が君たちを愛するよ。

香澄、千春。俺が二人をスキになるから、二人も俺を大好きになってくれ」

 

 

 

 共に、地獄へ堕ちてくれ。 

 

 千春、香澄。

 

 いいや、ハルウララ、トウカイテイオー。

 

 

 

――――

 

 

 結局俺は、二人しかいないんだよ。

 

 彼は両親もいるし、友達もいた。

だけど俺は何もない。憑依したから。

彼が死んでしまっていたと知っていたなら、俺が彼に成り代わっていけた……と思う。

 でもな、俺の両親はすでに死んでいたんだよ。

もしも生きていたら長い夢だと思って、姿かたちが変わったお父さんたちを親子の関係だと府に落としただろう。

 

 俺も若造だけど結構生きたんだ。

 

 お父さんたちが死んで、身の回りの事を税金を含めて管理するようになった。

こんなにまで親という安心[信頼]できる人がいたことをありがたく思うなんて。

 

 

 今からでも遅くない。相談して二人を…………相談して何になる?

中絶代を出してくれ? あんなうん十万もする奴を?

でも黙っていても、徐々に大きくなるお腹を見て察する人たちも出てくるはず。

香澄や千春のご両親は……。

 そんなはずないな。確信できる。

二人の親がそんなに立派だったら、それぞれ引っ越しているし人権警察の調査が入っていただろう。

つまりどんな状態になっても、放任するつもりだ。

 

 

 一度諦めた俺はどうすればいいんだ。

だれにも頼れない。ならば、アフターピルだ。飲ませよう。

幸いまだ起きてから1時間も経過していない。

まだいけるはず。何もしないよりましだ、急げ!

 

ガチャリ

 

 

「え」

「あはは、残念でした。アフターを取りに行くんだったら、ここだよ」

 

 固く鎖で施錠された俺の部屋の扉を見て絶句してしまった。

まさかここまでやるなんて。

すぐに香澄の声に反応して振り返った。

彼女の口の中に見える白い錠剤。

 

「飲んでほしかったら、わかるよね」

「そうそう。私達にもっと――」

 

 

 

 憎しみしかわいてこなかった。

しかしそれと同時に、香澄と千春の人生を俺が握っていると思うとひどく興奮した。

 

 

 

 

「それではウマ娘の起源を教えます。まず、人類が出現して5万年経過しました。

ウマ娘は元となるホスピエンスが、7万年前に出現しており人類とは似ているようで

違う生物です。しかし近縁であると研究から判明しています」

 

 

「また1億年前から馬類は二種の道に分かれました。今のロバやポニーの4足とウマ娘の二足歩行です。

更にウマ娘は3万年前より更に二種類に分けられるようになりました。

衣をまとうものと纏わないものです。纏う者は一定周期に同じDNAと身体的特徴が検出されました」

 

 

 

「同じDNA、同じころも、同じ身体的特徴。これらを持つウマ娘は、総じて高い能力を発揮しました。

現在でも周期のあるウマ娘と存在しないウマ娘が存在します。

彼らは混在しており、今では混血が進んでいます。彼らを分けることは、人種問題の解決に大きく関与するためこの問題は放置されることになりました」

 

 

 

「ウマ娘は今のロバやポニーたちと分ける為、馬とは違い””として表記します。

また馬の下が二本のものも存在しますが、一般的には”馬”が知られています。

象形文字的に考えると、”馬”が先のようですが」

 

 

「衣を纏うDNAを持つウマ娘は、過去の記憶を保持するパンドラの箱です。

彼女たちによって、始皇帝が項羽とどのように対峙していたのかという謎も解決されました。

そう彼女たちのDNAは、強さを保持する生物としての絶頂と共に成長するための環境を覚えて置ける、教材のようなものだと研究が発表されました」

 

 

「人間は場所や環境で、心身に大きく影響を与えます。それはウマ娘にも言えることです。

抑圧され大昔の本能である走る事を封印されると、DNAの成長因子が覚醒せずテロメアや

ホルモンが十分に分泌されません。これにより過去の記憶やそのウマ娘に宿る纏う者の力が、本人に継承されません。これは子孫にも大きく影響します。

これは人類史において最も大きな損失ですので、特定のDNAを持つウマ娘は特に大事にされます。

また先月に発生した隣の県で、人権警察の大規模調査が入りました。

これも特定かつ有力なDNAの成長が阻害されたことで実施されました」

 

 

「歴史を見ていきましょう。ウマ娘だけ人間だけの国家はありました。しかし、宗教的にもウマ娘は神秘性を増していきました。ウマ娘だけ人間よりも非常に優れた容姿を持つからです。

これにより人類はウマ娘と子孫を残してきました。

しかし、かつて日本にウマ娘は存在しておりませんでした。

元々は大陸に住んでいたものが、朝鮮半島を渡って来て渡来人として住み着いたのが始まりです」

 

 

「ウマ娘の記憶の伝達は、古代ローマ・古代エジプト・古代ギリシャにおいて非常に重要な地位を占めるモノにとって必須の存在でした。8万年前は息子もいたようですが、ウマ娘よりも食料を多く消費し高燃費であったことから全滅。数少ない人類と共に歩んだことが、

今のウマ娘の実情です。またウマ娘の特殊性からハーフは存在せず、いたとしても

染色体の数が足りず奇形児になり、本能的に行動すると過去の書物でも妖怪やばけものとして紹介されています」

 

 

「現状纏う者の記憶DNAの変異や変遷は、DNAの欠片を持つ男子が別の記憶DNAを持つウマ娘と交配することで新たな記憶DNAを持つウマ娘が誕生します。

日本史ではメジロ家やスズカ家が有名ですね」

 

 

 

 4週間前からこのトレーナー養成所に、途中入学させてもらっている。

普通なら来月の4月からだけど、俺の学力や体力はすでにトレーナーとして十分な基礎ができているとして転入させてもらっている。

 送り迎えはなく、行きも帰りも自分の足。

慣れた今では、信号をできるだけ無視して行けるルートを開拓した。

おかげで往復15分もかからない。

 

 トレーナー養成所では、主に座学と体育をやっている。

座学は国語・英語・数学・社会・物理学・生物学・情報体育を、体育では保健・ダンス・体操を学ぶ。現代では勘と経験がものをいう観察・洞察力の世界から、専ら情報体育という分野に移行した。

 筋肉の動かし方やコンディションなどを、エクセルやパワーポイントに記入して

情報整理する。そして映像を撮影し以前と比較したり、他者の走りを研究して、

4種の走行パターンを解析するんだ。

 

 ここらの事をやり終えたら、バイトとしてきているウマ娘相手にコーチングの練習をする。

この練習は、バイトというよりもまだトレーナーを持っていないウマ娘にのみ限られる。

やはりトレーナーの指示があってこそのウマ娘なので、根本を変えられるようなことがあってはならない。

そういうわけで、手付かずなウマ娘がここにやってくるんだ。

 

「内科や外科等、専門性の高い症状は保健室に連れてくれば、それら専門の先生が見てくれます。

なので、もしも骨折や疲労の抜けが悪いウマ娘がいましたら、積極的に保健室に寄こしてください。

保健室がなければ、トレセン学園かかりつけ医のところまで連れていって、経費で落とせるようにレシートつきで先払いをお願いします」

 

 そういう説明を受けているとき、俺はこのバイトに来て居るウマ娘を探す。

素質がどうのではない。最後まで走り抜けられるか、そういう娘を探す。

 この養成所にいるトレーナーは、全員で9名。

人が少ない? いやいや、この界隈はこれで多め。

つまりもともと人手不足なんだよ。

 

 何でも世間では、引退したウマ娘を3Dモデルにして育成したり公式にはないライブで、

歌って踊らせるゲームが流行っている。

URAだと空気を味わうため暇な人や時間がある人がよく来てくれるが、忙しい人や内務をしている人はアプリゲームのウマ娘プリティダービーをしている。

 公式の方でも結構な収益を得ているけれど、アプリの方だと引退したウマ娘が

自分のために走ってはライブをしてくれることに欲望を満たせるためかそちらの方が

収益率が高い。たしか、1兆行ってたかな。

 

 そういうこともあってか、アプリゲームと公式URAとでは利権争いや著作権の問題・ウマ娘への利益還元が出来ていないことも問題になっている。今も法廷で争われている一件だ。

更に表では見られなくなり、データになったウマ娘は同人誌として個人の尊厳を踏みにじられている。

 

 

 そして俺はそんな表に出られない一匹を担当することになる。

 

「君にはこの子を育ててもらおう」

 

 彼女の名前は、キセキスズカ。かつてディバインフォースの調教師(トレーナー)でもあった人が、この子を育てたこともある。

 だがそれもたった2か月で終わった。

 彼女は最初の方のレースでは、比較的安定した走りをしていたらしい。

だけど最近は走りも輝きも鈍くなっているようで、このままではトレセン学園を卒業する前に中退になってしまうかもしれない。

 

 もらった資料には、短距離とマイルが各良で、他は不。

適性は差しこむことが多い。最近は不調が多く、得意の良馬場・芝で勝てなくなったという。

 

 

「待ってください。この子は今何年生ですか。そもそも、今までトレーナーに見てもらってなかったんですか?」

「その質問は私ではなく、彼女にしてください。これよりは実践です。

トレーナーとして、彼女たちを入賞させなさい。

そして最後に行っておきますが、彼女たちは無駄に学園に居座る夢破れた者です。

脚を破壊することは許しませんが、未来のトレーナー業に生かすため全力で糧にしなさい」

 

 なんか壊された身体で夢に向かっていく生徒を横目に見る、専攻体育で特別入学した生徒みたいだ。

 

「初めまして、キセキスズカさん」

「はじめまして」

「えーと、教えてほしいことがあります」

 

 それは戦績と得意な先鋒だ。

戦績で判明するのは、直線コースかつ芝・良馬場・左回りだ。

距離適性は、短距離が不可・マイルが良・マイルに近い中距離が普通。それ以降は不可。

戦法は差しらしいけれど、差しは根性と足の持ちがひつようだ。

追い込みをするよりかそれなりに少なくてもいいと思ってる。

 次にやるのは、彼女の調子だ。普通に悪いので、彼女の好き嫌いや何がいいのかというのを調べに行く。

そして帰りに河川敷で、彼女の適性や能力を矚る。

 

「なるほど、キリマンジャロに砂糖3杯。ココアスポンジにホワイトクリーム。

服は蒼が多く、快活かつダートでも適応できる短パンがいいと。

髪の毛はポニーテールがいいと。ふむふむ?

そして能力だけど、身体と心の乖離だね?

速度はC、体力はF、瞬発力はD、粘りはE、自己思考はFと。

今までよく1着とれたよね」

「ふぇあ~」

「ん?」

 

 なんか口を開けて放心しているみたいだ。

べつにここら辺はトレーナーに師事をしてもらったら、即座に情報を書き出されると思うんだけど。

 

「こんなこと初めてです! 山下隆二さんは、トレーナーとしての資質がありますよ!」

「買いかぶりすぎです。まだ経験も実力も備わってません。なにより、年期もありませんし」

 

 そういうと彼女は俯いて黒い影を落とす。

彼女はぽつぽつと、俺に今までの自分自身を語ってくれた。

 なんでも、彼女も最初はトレーナーとやってたらしい。

でも走り方や作戦、その他のものが全く体に合わなかったんだと。

 

 先ほど心理学の授業で、得意なことを仕事として始めると緊張感の差異で、実力を出し切れなかったり走りを楽しめなかったりと壁にぶつかることがあると聞いた。

そんな典型的なことを、彼女は患ってしまったみたいだ。

 本来ならばトレーナーが、それをなんとかするみたいだけど彼女の不調を彼女のせいにして、トレーナーはさっさと捨てたと聞く。

 

「俺は君を見捨てないよ」

「トレーナー!」

 

 教える側も教えられる側も少ない現状、主戦級のトレーナーの下で教示を得ることなんてできない。

花開きステージで観衆の視線を独り占めするとか、三冠達成など色んな目標がある。

しかしそれを達成できるウマ娘は、自分の限界を引き上げたり導いたりする人がいないので素質に恵まれていない限り非常に難しい。

 そもそもトゥインクルシリーズに出場するためには、トレーナーの名前がないと無理だ。

しかしトレーナーの名義を貸せば出場できるということで、PreOPまで認可されている。

 

 それ以上は導かれたウマ娘でしかたどり着けない。自己練習だけでは無理なんだ。

課題・レース運び・練習の選択……。第三者の目があってこそ、自分を強くできる秘訣だ。

 

 で、キセキスズカ。

彼女は優駿だ。俺にとって手に余るかもしれない。

だけど、初めて与えられた機会と共に、俺のチカラを強引に鍛えられる場面。

絶対にものにしてみせる。

 

 

 

 


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