「駅弁うめぇ!!」
「もう、お行儀悪いですよ。そんなにがっついて…………」
「あら、いいじゃない。それも若い人の特権みたいなものよ。大人になったら人目を気にして好きなものをたくさん食べることもなかなか出来なくなるし、今のうちに楽しんでおくのもいいじゃない」
「そういうものなんでしょうか…………」
夏休みに入って数日後、私達
人目も憚らずに駅弁をばくばくと食べ続け、隣の席には空になったお弁当の箱が山積みにされています。食べ過ぎで後々お腹を壊さなければいいがと心配そうに見つめていると微笑ましいものを見る目で
高野美代子。金髪のストレートロングヘアーが眩しい落ち着いた雰囲気を持つ女性。
高野さんは現在『高野製薬』という向精神薬を主力とした医薬品の開発と製造を行う製薬会社の大株主で、20年前までは雛見沢の診療所で院長を務め、かつて雛見沢に存在していた風土病『雛見沢症候群』の研究で名を馳せた疫学医療の権威という大人物でもあります。
そんな雲の上の存在とも言える人が何故私達の旅行に同伴しているのかと言えば、母から私達が雛見沢村に行くという話を聞いたらしく案内と保護者を任されたらしい。
最初こそ薫さんは高野さんが同行することを渋っていた様子でしたが、雛見沢をよく知っているということ、私や母がお世話になっていたという旨を伝えるとなんとか承諾してくれました。
「それで、今後の予定はどうなっているの? まずは宿泊先の方に挨拶もしなければならないし、荷物を持ちながら移動するというのも面倒ではないかしら」
「はい。高野さんの言う通り、最初に薫さんの親戚の方にご挨拶と部屋に荷物を置きます。その後に興宮のスーパーで食材の買い出しをした流れでそのまま雛見沢に向かい、そこにある展望台でバーベキューをしようかと」
高野さんからの質問に、私は事前に組み立てておいた計画を淀みなく説明する。ですが、高野さんはうんうんと頷いていたものの説明が終わりに近づくにつれて、少し困ったような顔になっていきました。
「冬美ちゃんの計画自体に依存はないのだけれど、展望台に登るとなると、バーベキューセットはレンタルするとしても食材と合わせたらかなりの重さにならないかしら?」
「あ、そのことなら心配いらないぞ? なんせ冬美はかなりの怪りk…………」
「はい、なんでしょうか? 何やら雑音が聞こえた気がしましたが…………」
今まで食に夢中で会話に加わらなかった薫さんでしたが、余計な一言を溢す直前に顔面にお望みのアイアンクローを食らわせ黙らせます。
「ぐぉおおおお!! 頭蓋骨が軋みそうなぐらいに痛ぇ!! このゴリr…………」
「おかわりをご所望ですか? それならどうぞ遠慮なく召し上がってください」
「ギャアアアアアアアアアアアっ!!」
薫さんの断末魔もとい叫び声がこだまするのを聞きつけ、駆けつけた駅員さんに注意を受けてしまいました。さすがにやり過ぎたと反省していますが、もとはと言えばこうなった原因は薫さんなので彼女にも非はあると思います。
少ない休暇を使ってまで来ていただいているのに下手に騒ぎを起こして怒らせてしまったかと思い、恐る恐る高野さんの表情を伺います。
「ごめんなさい、高野さん。私達の事情でお付き合い頂いているのに、身勝手に騒いでしまっていて」
しかし、高野さんにはそんな様子はなくどこか楽しそうに見つめていました。
「いいえ、そんなことはないわ。もともと旅行をすることも少なかったし、こうして誰かと楽しく騒ぐ機会もあまりなかったから。勘違いさせてしまったならごめんなさいね」
「高野さん…………」
高野さんの言葉の端々から嘘は一切感じられず、気をつかってるわけではなく本当に楽しいと思っている様子が窺える。
「雛見沢は私にとっても思い出深いところだから、あなたたちにも雛見沢のよいところを教えてあげたいというのも事実よ。だからお互いに気負いなく楽しい旅行にしましょう」
小さな笑みを浮かべ、私が密かに感じていた罪悪感を消し去るように優しい言葉をかけてくれる高野さん。何かとめざといこの人のことだ、私が彼女に感じていた思いにも気づいていたのだと思うと余計に申し訳なさを覚えてしまいます。
しかし、高野さんの言うように今回の目的はあくまでも楽しい旅行。私は内心のモヤモヤを振り払い、心からの笑みを浮かべます。
「こちらこそ、改めてよろしくお願いしますね。高野さん!」
今回の旅行は高野さんへのお礼も兼ねて最高のものにしよう、そんな決意をがっしりと固めます。なんだか燃えてきましたよ!!
「ところで、小学生の頃みたいに美代子ちゃんって呼んでくれないの?」
「…………ノーコメントで」
期末試験という苦難を乗り越え手に入れた夏休み、旅行という幸せに身を浸し暖かな笑顔に溢れた
しかし、彼女は知らない。
自らが惨劇の舞台へと足を踏み入れようとしているなど…………
藤堂冬美の人間関係
高野美代子(恩人)
母子ともにこの人の治療を受けており、冬美にとって母と同レベルで尊敬している人物。
雛見沢症候群や雛見沢の歴史なども当時小学校低学年の冬美に聞かせるなど、公由の血筋の一人として覚えておいて欲しいと思っている。