ライフストリーム!   作:白月リタ

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Ⅳ.かなどん ⑨

 

 

「いらっしゃい、駒場さん。……何してるんですか? 早く入ってくださいよ。」

 

太陽さんと出会った翌日である、十一月三日の木曜日。俺は玄関で出迎えてくれた叶さんの姿にビクッとしてから、恐る恐るマンションの1002号室に入室していた。……今日は祝日なので彼女が家に居ても別におかしくないのだが、ここに来たのは夏目さんに呼ばれたからだぞ。ドアを開けたのが叶さんなのはちょっぴり不吉だな。

 

「……どうも、お邪魔します。夏目さんにメールで呼ばれて来たんですが──」

 

「分かってます、聞いてますから。……ほら、どうして立ち止まるんですか? お姉が待ってますよ?」

 

「……では、失礼します。」

 

ジーンズに白い薄手のセーター姿の叶さんに促されて、靴を脱いでリビングへの廊下を進んでいく。……何だか嫌な予感がするぞ。よくよく考えてみれば、夏目さんが祝日に俺を呼び出すのは変じゃないか? 平日にはあれだけしている電話も、休みの日になると遠慮するほどなのに。

 

今日は文化の日で休みだということで、新たな担当クリエイターとなった太陽さんの動画チェックを自宅でのんびり行っていたのだが、ちょうど昼ご飯を食べたタイミングで夏目さんからメールが届いたのだ。『大事な相談があるので、二時ぴったりに私の家に来てください』という端的なメールが。

 

だから何だろうと思いながら、こうして時間通りにマンションを訪れたわけだが……居ないじゃないか、夏目さん。叶さんの先導でリビングに繋がるドアを抜けてみれば、無人の室内の光景が視界に映る。どういうことなんだ? 自室に居るのかな?

 

「……あの、叶さん? 夏目さんは部屋ですか?」

 

「ああ、お姉ならさっき出かけましたよ。動画で使う物を買いに行くとかで、四時くらいまで戻らないそうです。」

 

「……叶さんはたった十秒前に、『お姉が待ってますよ』と言っていましたよね?」

 

「それは嘘ですし、そもそも『相談がある』ってメールが嘘です。お姉のスマホで私が送りました。そして単純なお姉を誘導して二十分前に家から追い出して、駒場さんと二人っきりの状況を作り出したんですよ。……ドキドキしますか? 今ここ、私と駒場さんしか居ないんですよ? なーんでも出来ちゃいますね。」

 

叶さんの答えを聞いた瞬間、踵を返して玄関に向かう。逃げなければ。ここは危険だ。『しまった、罠だ!』の状況だぞ。

 

「帰りますね、失礼しま──」

 

「待ってください。……これまで色々やってきた自覚はありますけど、いきなり逃げ出すことないじゃないですか。折角駒場さんの誕生日のお祝いをしようとしたのに。」

 

「……お祝い?」

 

「そうですよ、私はただ駒場さんの誕生日を祝いたいだけです。お姉には知られたくないって言ってたから、こうやってこっそり呼び出したんですけど……駒場さんの中でそんなに信用無いんですね、私って。」

 

しょんぼりしながら呟いている叶さんだが……悪いけど、怪しいぞ。彼女にはあまりにも多くの『前科』がありすぎる。ここで疑うのは当然だろう。俺にだって学習能力というものが備わっているのだから。

 

でも、万が一はあるな。万が一本当に誕生日を祝ってくれようとしていた場合、俺がここで逃げ去るのはとんでもなく失礼な行動だ。祝おうとしてくれている相手から『逃げる』だなんてあんまりだぞ。……どうする? どうすればいい?

 

廊下へのドアの前で逡巡している俺に、叶さんはひどく悲しそうな雰囲気でポツリポツリと声をかけてきた。

 

「まあ、当然かもしれません。私は駒場さんに嘘ばっかり吐いてますもんね。こんな手の込んだ呼び方して、喜んでくれるかなって不安な気分で待って、プレゼントまで用意して……バカみたいです、私。今更駒場さんが信じてくれるはずなんてないのに。」

 

「いえ、しかしですね……本当に誕生日を祝ってくれようとしていたんですか?」

 

「あ、まだ疑ってる。……そうですか、私はそんなに信用できませんか。じゃあどうぞ、帰ってください。全部無駄になっちゃいましたね。そりゃあ私の日頃の行いの所為ですけど、そこまで警戒されてたのはショックです。かなりショック。」

 

うわぁ、これは本当っぽくないか? 自嘲げに笑う叶さんを目にして、慌ててリビングに戻りながら言葉をかける。やってしまったな。

 

「叶さん、すみませんでした。私はてっきり……その、いつもの悪戯をされるのかと思ってしまいまして。」

 

「無理しなくていいですよ。私なんかと二人っきりは嫌でしょう? もう帰ってください。プレゼントだけ渡しますから。」

 

「いえあの、嫌ではありません。祝って欲しい……というのは変かもしれませんが、叶さんが準備してくれたならきちんとお受けしたいです。」

 

「……本当ですか? 私の相手なんてしたくないって思ってません?」

 

俯かせていた顔を上げて上目遣いで見つめてくる叶さんに、焦りながらこくこく頷く。ちょっと泣きそうになっているじゃないか。申し訳ない気持ちが湧き上がってくるぞ。

 

「思っていません、心から嬉しいです。」

 

「じゃあ……そこ、そこに座ってください。プレゼント、持ってきますから。」

 

「分かりました、座ります。」

 

どうやらギリギリで悲劇を免れたようだ。危うく善意を無下にするところだったぞ。ひやひやしながら指定されたクッション……新しく買ったらしい金属製の大きな棚のすぐ前にあるクッションに腰を下ろすと、叶さんは未だちょびっとだけ不安そうな面持ちで更なる指示を出してくる。

 

「座ったままで両手を後ろにやって、目を瞑ってください。私がいいって言うまで開けちゃダメですよ?」

 

「……目を瞑るんですか?」

 

「あれ? ……やっぱり信用できないんですね。サプライズ形式でプレゼントしたかっただけなんですけど。」

 

「いえいえ、大丈夫です。瞑ります。一切問題ありません。」

 

再びしゅんとしてしまった叶さんに、大慌てで承諾を送ってから目を瞑って……ん? 両手を後ろにやるのは何故なんだろう? はたとそこを疑問に感じたタイミングで、トタトタという控え目な足音と呼びかけが耳に届く。

 

「絶対に開けないでくださいね。凄く凄く頑張って考えたプレゼントなので、ちゃんと目の前に置いてから見せたいんです。」

 

「了解です、しっかり瞑っておきます。」

 

まあ、いいか。大分無礼なことをしてしまったわけだし、ここは大人しく従っておこう。そのまま暗闇の中で三十秒ほどジッと待っていると、遠ざかっていった足音が今度はこちらに近付いてきた。プレゼントとやらを持ってきてくれたらしい。

 

「まだダメですよ? ……ちょっと手を触りますね。準備があるんです。」

 

「……叶さん? 何か嵌めていますか?」

 

「それがプレゼントの一部なんです。動かないでください。……はい、終わりました。もう目を開けていいですよ。」

 

手首にキュッと嵌められたということは、バングルか何かか? それとも腕時計? でも両腕だし、腕時計は違うか。金属ではなく革っぽい感触なので、革製のアクセサリーかな? 左右の腕に何かが嵌っている感覚に内心で首を傾げつつ、叶さんの合図で目を開いてみれば──

 

「ばあ。……どうですか? 駒場さん。プレゼントはわ、た、しです。」

 

「……やっぱり騙したんじゃないですか。」

 

「ええ、騙しました。駒場さんってめちゃくちゃチョロいですよね。ちょっと悲しそうにして、軽い泣き真似しただけで自由自在じゃないですか。チョロすぎて本気で心配になってくるんですけど。」

 

目の前にしゃがみ込んで呆れ顔を浮かべている叶さんは、もはやお馴染みの下着姿だ。薄いライトブルーの可愛らしいブラジャーと、白いフリルが付いたこれまた薄水色のパンツを穿いている。俺が目を瞑っている間に服を脱いだらしい。

 

そして俺の両腕は……これ、何だ? 後ろ手になっているので見えないけど、どうも手錠のような物で背後の棚に拘束されているようだ。この子、ここまでやるのか。幾ら何でも手錠をされる展開は頭に無かったぞ。

 

「……外してください、叶さん。」

 

「あれあれ? また目を瞑っちゃって健気ですね。見てくださいよ、私の身体。誕生日のお祝いをしたいって部分は本音なんですから。……あのセーター、結構嬉しかったんですよ? 私のこと大切だって言って、きちんと怒ってくれたのにもドキドキしちゃいました。だからお礼に駒場さんの心と身体を目一杯癒してあげます。今日は厳しく意地悪する日じゃなく、とろとろに甘やかす日です。」

 

「……私は信じていたんですよ。」

 

「だって駒場さん、逃げようとするから。私だってこんなやり方で騙したくはないですし、無理やり拘束するのは心が痛みます。……はい、これも嘘です。全然悪いと思ってません。今から動けない駒場さんに好き放題できると思うと、有り得ないくらいに興奮しますね。」

 

愉快そうな声色の叶さんの話を聞き流しつつ、姿を見ないように目を閉じたままで手錠を外そうとするが……どこで手に入れたんだ、こんな物。頑丈すぎるぞ。ガチャガチャいうだけで一向に外れてくれない。予想外に『ちゃんとしたやつ』であることに眉根を寄せていると、叶さんが耳元に唇を寄せて囁きかけてきた。

 

「ほら、駒場さん? 痛い痛いなるから乱暴に外そうとしちゃダメですよ。SM用のやつ、ネットで買ったんです。革製だから警察の手錠とかよりはマシでしょうけど、あんまり引っ張ると傷になっちゃうかもしれません。諦めてされるがままになってください。」

 

「そんなことは出来ま──」

 

拒否して説得しようとした瞬間、左耳の中に温かくて湿った何かが……おいおい、舌か? 舌がずるりと入ってくる。未体験の感覚に背筋がゾワッとして口を噤んだ俺へと、叶さんが耳のすぐ近くでクスクス微笑みながら注意をしてきた。甘いこしょこしょ声でだ。

 

「ね? 素直にならないとこうやって虐めちゃいますよ? ……今日は駒場さんのこと、『正常』に戻してあげます。それが大好きな駒場さんへの、私からの誕生日プレゼントです。」

 

「これはさすがにやり過ぎです。怒りますよ。」

 

「へぇ? 情けない格好で強気になっちゃって……ふふ、可愛い。ちゅーしてあげます。ほっぺにちゅ。鼻にちゅ。おでこにちゅ。」

 

「叶さん、やめ──」

 

軽いキスを連発してくる叶さんを制止しようとした俺の口に、一瞬だけ何かが押し付けられる。まさかと思ってひやりとしていると、叶さんが楽しげに笑いながら声を寄越してきた。

 

「んふふ、あれ? あれあれ? 口にもちゅーされたと思っちゃいました? ざーんねん、今のは指です。……でも、どうしてもって言うならしてあげてもいいですよ? ほら、おねだりしてみてください。キスしてって。素直に頼める良い子には、ちゃんとご褒美あげますから。」

 

絶好調の雰囲気で『おねだり』を催促してくる叶さんだが……ええい、こんなことをしていても埒が明かないぞ。危ない方向にエスカレートしてきているし、ここらで決着を付けようじゃないか。一つ深呼吸をした後、覚悟を決めて目を開いて言葉を放つ。真剣な表情でだ。

 

「叶さん、真面目に話しましょう。私は嘘を吐きませんから、叶さんも正直に答えてください。」

 

「……何ですか、急にその態度。目、開けちゃっていいんですか? 私の恥ずかしい格好を見たくなりました? 言ってくれればブラとパンツも脱ぎますし、どんなポーズでも要求でも──」

 

「私は貴女を理解したいと思っていますし、大切だという発言に嘘はありません。……ですが、私からの一方通行ではどうにもならないんですよ。少しでも私に歩み寄ってくれる気があるなら、ここからは正直に答えてください。しかしもしダメなのであれば、私は自分自身と叶さんを守るために貴女との距離を取ります。お互い本音で話しましょう、叶さん。これが私から貴女への最後のお願いです。」

 

良識ある大人として、未成年の彼女にこれ以上の行為を許すわけにはいかない。だからこれが最後の勧告だ。真っ直ぐ叶さんの目を見つめながら、どうか応えてくれという願いを込めて伝えてやれば……彼女は興奮気味の笑顔をスッと掻き消した後、ぺたんとフローリングの床に座って口を開く。

 

「……あー、そう来ますか。ズルいですよ、それは。」

 

「そこはお互い様ですよ。……私は叶さんとこれからも仲良くしていきたいと思っています。なので話し合いを受け入れてくれるとありがたいです。」

 

「……仮に私が断ったら、どうするつもりなんですか?」

 

「今度こそ夏目さんに全てを話して、謝ります。叶さんには申し訳ありませんが、これ以上エスカレートすると後悔を残すことになりかねません。私は貴女との関係に傷を付けたくないので、ここをボーダーラインに定めました。あとは貴女の選択次第です。」

 

勿論自分のためであることも否定しないが、何より叶さんのために『悪戯』で済むうちに終わらせるべきなのだ。今は楽しいのかもしれないけど、将来悔いることになりかねない。こういう行為を続けていった結果、取り返しが付かない展開になってしまうのは有り得る話だろう。それは許容できないぞ。

 

そんな思いからの俺の発言を受けて、叶さんは小さくため息を吐いて会話を続けてくる。

 

「SNSの脅しはどうなりました?」

 

「あれは本気ではないんでしょう? 今の私はそう信じています。叶さんはそんなことをする人ではありません。だから口止めとしても脅しとしても機能しませんよ。」

 

「またズルいこと言う。私なんかを真っ直ぐ信じちゃって、バカみたいです。そんな風に言われたら裏切れないじゃないですか。……元々、お姉にバレるのがゴールだったはずなんですけどね。駒場さんはすぐ話しちゃうだろうって思ってました。それなのにこんなに色々付き合ってくれて、ここまでされてる状況で真面目に私と話し合おうとするのは予想外です。」

 

諦観の半笑いで語った叶さんは、肩を落としてもう一度ため息を吐いてから敗北宣言を投げてきた。ひどく無気力な口調でだ。

 

「はいはい、負けました。しぶとい駒場さんの粘り勝ちです。お姉にバレるのは計画通りだからいいんですけど、それで駒場さんとの距離が空くのは……まあ、ちょっと嫌かもしれません。そう思わせた駒場さんの勝ちですよ。絆されちゃったみたいですね、私。」

 

「……叶さんは、夏目さんに怒られたかったんですか?」

 

「平たく言えばそうです。……私だけ白状するのは何か気に入らないので、駒場さんも話してください。私に興奮してないって発言、本音なんですか? そこが未だに納得できてないんですけど。」

 

「紛うことなき本音です。……あのですね、叶さん。これはひょっとすると物凄く失礼な評価かもしれないんですが、私から見た貴女は『子供』にカテゴライズされる存在なんです。なので今目の前に居るのは、『下着姿の子供』ですね。貴女が二、三歳の男の子の裸を見て興奮しないのと同じように、私も貴女の下着姿には興奮しません。というか、出来ません。」

 

申し訳ないけど、俺の中ではジャンルが違うのだ。俺にだって人並みの性欲はあるし、女性に対して少なからず興味を持っているが、叶さんの場合は庇護欲が先に出てしまうぞ。『こらこら、ちゃんと服を着なさい』という感情が。

 

遠慮して言っていなかった真実を告白してやれば……叶さんは非常に渋い顔付きになった後、額を押さえて呟きを漏らす。残念ながら、それが偽らざる俺の気持ちなのだ。

 

「うわ、そういう……それは興奮しないでしょうね。けど、慌ててたのはどうしてなんですか? 本当に一切興奮していないなら、下着姿を見ても平然としてるはずでしょう?」

 

「それは貴女が『余所の中学生の娘さん』だからです。照れや興奮を隠そうとする慌てではなく、ご両親や世間に対して『何か悪いな』という慌てですよ。今はもう遠慮がなくなって直視していますけど、『寒くないのかな、風邪を引かないかな、心配だな』と思うだけですね。」

 

包み隠さぬ返事を耳にして、叶さんはムスッとしながらジト目を向けてくる。仕方がないじゃないか。世には中学生に興奮する人だって居るのかもしれないが、俺はそうじゃないのだ。

 

「かなりイラッとしますけど、合点がいきました。私は駒場さんにとって『子供』だったんですね。……マジでイライラします、その評価。いつもソフトブラだからダメなのかと思って、今日のために可愛いブラを買ったのに。」

 

「蹴らないでくださいよ。叶さんは背が低いですし、何と言うかその……発育がまだじゃないですか。そうなるともう、『庇護すべき対象』って感情が前に出てしまうんです。」

 

「じゃあ私のやってたことは、駒場さんから見ると『おませな女の子の悪戯』でしかなかったわけですか。……そういう視点でこれまでの所業を見つめ直すと、尋常じゃなく恥ずかしくなってくるんですけど。」

 

「あの……はい、そこはすみません。謝りますから蹴らないでください。」

 

頭を抱えた状態で俺の膝をげしげし蹴ってくる叶さんに、正座で座り直しながら謝ってみると、彼女はちらりとこちらを見やって質問を続けてきた。未だ半眼でだ。

 

「……なら仮に、仮に高校生なら興奮しますか? 例えばお姉が今の私と同じ格好で、さっきみたいに駒場さんの耳を舐めたりしたら?」

 

「それは……あーっと、どうでしょうね?」

 

「正直に答える約束でしょう? 私は守りますから、駒場さんも守ってください。駒場さんが何て答えようと、別にお姉に言ったりはしませんよ。私が知りたいだけです。」

 

「……まあその、多少はするかもしれません。私も男ですから。」

 

その約束を出されたら答えざるを得ないぞ。叶さんの詰問に正直に回答した俺に、彼女は何故かちょびっとだけ機嫌を回復させて頷いてくる。何に対しての頷きなんだ?

 

「つまり、三年くらい早かったわけですか。それなら良しとしましょう。ちょっと待てばいいだけの話ですからね。姉妹なんだから、私も少しすればお姉みたいな身体になるはずです。……分かりました、駒場さんを無意味に誘惑するのはもうやめます。無駄だって理解できましたし、それを知った上でやるのはバカバカしすぎますから。」

 

「理解してくれたようで何よりです。」

 

「けど私が興奮する分には私の勝手なので、これからもたまにだけ付き合ってもらいます。……外で危ないことをするのを禁じたのは駒場さんなんですから、それくらいの責任は取ってくれてもいいでしょう? 心配しなくても大分控え目にしますし、拒否権だって与えてあげますよ。そこは譲歩してください。」

 

「……まあ、はい。拒否権があるなら構いません。ある程度は譲歩しますよ。ある程度はですが。」

 

若干不安になりながらも、『責任を取れ』という台詞に流されて了承してやれば、叶さんは……これはまあ、セーフかな。いきなり俺の膝の上に座って、胸に背を預けながら会話を継続してきた。異性への誘惑というか、兄に甘えている感じだ。朝希さんも同じことをやってくるし、このくらいは全然オーケーだろう。

 

「なら、続きはこの状態で。……胡座になってください。その方がおさまりが良いです。」

 

「それはいいんですが……服を着て、手錠を外してくれませんか?」

 

「嫌です。駒場さんのスーツのスルスルって感触が気持ち良いですし、『ガキ』扱いにイラッとしたので暫く外してあげません。私が満足するまでこのままでいてください。」

 

「何度も謝ったじゃないですか。……では、次は叶さんが答える番です。叶さんはどうして夏目さんを怒らせたいんですか?」

 

座り方を変えつつ尋ねてみると、俺の太ももの間にすっぽり収まっている叶さんが返答してくる。もぞもぞと小さなお尻を動かしながらだ。位置を調整しているらしい。

 

「今のお姉との距離感にうんざりしてるからですよ。……家族っていうか、『友達』の距離だと思いませんか? 遠慮して、譲って、気を使って、無難に笑顔で振る舞って。それが嫌で嫌で堪らないんです。昔のお姉はそうじゃありませんでした。」

 

「……昔の夏目さんは、叶さんに随分とキツく当たっていたと聞いていますが。」

 

「お姉が話したんですか? ……あの頃のお姉は何一つ遠慮せずに命令してくれました。ちょっと気に入らないと蹴ったり、叩いたり、踏んだり、抓ったりしてきてたんです。そんなお姉に戻って欲しくて、駒場さんを使った『ショック療法』を試そうとしたんですよ。」

 

「……あくまで一般的な意見ですが、今の夏目さんと叶さんの関係の方が『正常』だと思いますよ?」

 

やっぱりこの子は『悪どん状態』の姉を望んでいたのか。暴力的な姉より優しい姉の方が良いはずだぞと思いながら意見してみれば、叶さんは振り返って俺を見上げて応じてきた。どこか不服そうな面持ちだな。

 

「一般的な意見なんてどうでも良いんです。他の誰が何と言おうと、私はあの頃のお姉が好きなんですよ。……カッコいいところもあったんですからね? 私が転んで泣いてると駆け寄ってきて、一発ビンタしてから『うるさいから泣くのはやめなさい』って言って、手を繋いで一緒に歩いてくれたりとか。」

 

それ、ビンタの部分は必要か? そこを省いた方が美談として成立すると思うぞ。練習生に対するプロレスラーみたいな喝の入れ方だな。ここまで聞いてもよく分からないままだが……まあ、こういうのは人それぞれだ。兎にも角にも叶さんにとっては、『悪どん』こそが理想の姉だということだろう。

 

不思議な価値観だなと心中で唸っている俺へと、叶さんは懐かしむように姉の話を継続する。

 

「『全盛期』のお姉は堂々としてて、自信たっぷりで、いつも私に凛々しい背中を見せてくれていました。学校ではみんなの人気者でしたし、私のクラスに来てくれた時とかは誇らしかったです。『あれが私のお姉ちゃんなんだぞ』って。……けど、今の姉は悪夢のような『遠慮人間』になっちゃってます。他人に対して遠慮する分には何とか我慢できますけど、私に対してまでするのは堪え切れませんよ。」

 

「……人は変わるものですよ、叶さん。私も小学生の頃の私とは全く違います。高校生と大人は正直そんなに変わりませんが、小学生から中学生の期間は大きく成長するんです。社会を知って、人を知って、自分を知って一気に人格が固まってくる時期ですから。だからその、夏目さんが変わったのは順当な変化なんじゃないでしょうか?」

 

「そんなことは理解できてますよ。それでも私はあの頃の姉が大好きだし、叶うなら戻って欲しいんです。いつだって私を引っ張ってくれてた、カッコいいお姉ちゃんに。……仕方がないじゃないですか。昔のお姉は私にとってのヒーローで、絶対的な存在で、憧れの対象だったんですから。それがいきなり弱々しくなっちゃった時の私の気持ち、分かります? 悲しくて、裏切られた気分で、とても寂しかったんです。変な拗らせ方してるって自覚はありますけど、感情が邪魔して理性じゃ納得できません。私はあの頃の『夏目桜』じゃないと嫌なんですよ。」

 

つまり、叶さんは現在も変わらず『物凄いお姉ちゃんっ子』だったってことか。当時の夏目さんが大好きだからこそ、今の夏目さんが大っ嫌いなわけだ。正に『大っ嫌いで大好き』だな。あの時の台詞こそが全てだったらしい。相当特殊なケースに思えるけど、こういうのも『シスコン』に分類されるんだろうか?

 

脳内で思考を回しつつ、叶さんへと応答を送った。

 

「それで私を困らせて夏目さんを怒らせることで、嘗ての姉を取り戻そうとしたわけですか。」

 

「端的に言えばそうです。前まではどれだけ悪戯しても怒ってくれなかったのに、駒場さんを絡めると少しだけ強めに叱ってくることに気付いたんですよ。だからその方向を目指しました。」

 

「……要するに、夏頃から悪戯が悪化していたのは私の所為だったんですか。」

 

「もし駒場さんが『偉そうな大人』だったらここまでしませんでしたけどね。……結構慎重に調べたんですよ? 駒場さんの人となり。私、最初は無愛想だったでしょう? あれが『他人』に対しての普通の態度です。」

 

現在の態度が『身内用』である以上、少なくとも親しみは感じてくれていたということか。そこはまあ、素直に嬉しいかもしれないな。嫌われているわけではなかったようだ。その事実にちょっとだけホッとしている俺に、叶さんは小さく鼻を鳴らして続きを語ってくる。

 

「あと、興奮してたのも本当ですよ。正直に言えば今もしてます。途中からお姉を怒らせるためにやってるのか、自分の欲求のためにやってるのかが分からなくなってきてました。……実は今日、駒場さんの服も脱がせる予定だったんです。もしかしたら二人とも全裸になってたかもしれません。」

 

「……そうならなくて良かったです。」

 

「今でもやりたいですけどね、私は。……自分が駒場さんのことどう思っているのかが、自分でもいまいち理解できません。好きなのか、嫌いなのか、性欲の対象なのか、恋愛の対象なのか、親愛の対象なのか。本気で分からないんです。」

 

くるりと俺の方に身体を向けて言った叶さんは、興味深そうな無表情をこちらに近付けてきた。

 

「ただ、年上だろうと同世代だろうと別の男の人じゃ興奮できませんでした。下着姿を見せるのなんて絶対嫌だし、触られたりしたら気持ち悪いだけです。……これ、想像の話ですからね? 実際に試したわけじゃないですよ?」

 

「……叶さん、顔が近いですよ。」

 

「でも駒場さんが私の服を脱がせて、全身を舐めて、めちゃくちゃにしてくる場面を妄想すると……恥ずかしくて、ドキドキして、ぞわぞわして、凄く嬉しくなります。これって恋愛感情なんですかね? お姉の引っ越し先を探してた時期に、駒場さんとよく会うようになったじゃないですか。その辺から段々とそう思うようになってきたんです。今はもう駒場さんでしか興奮できなくなっちゃいました。」

 

「……いくら正直に話すといっても、そこまでは言わなくていいんですが。」

 

俺にどう反応しろと言うんだ。叶さんから目を逸らしていると、彼女は無理やり視線を合わせてジッと俺の瞳を覗き込んでくる。赤みが強いブラウンの瞳だ。興味と疑念の他に、ほんの少しだけ優しげな感情が篭っているな。

 

「不思議です。こうやってると駒場さんに意地悪して困らせたい気持ちと、ギュッてして優しくしてあげたい気持ちが同時に湧き上がってきます。……何か今、言葉にしてみたら急にしっくり来ました。私は多分、駒場さんのことが好きなんです。初恋、しちゃってるんだと思います。」

 

「……叶さん、それは思春期特有の感情です。『年上の男性に憧れる』というのはよくある話ですよ。一過性のものなので、俗に言う恋愛感情とはまた違います。」

 

「好きだけど、別に憧れてはいませんよ。一切憧れてません。情けない人だなと思ってますし、もっとちゃんと人を疑えっていつもイライラしてますし、頼りなさすぎて心配もしてます。」

 

「あっ……そうですか。」

 

憧れてはいなかったらしい。強めに断定されて落ち込んでいると、叶さんは膝立ちになって俺を至近距離で見下ろしながら口を開く。どうしようかな。その感情は男女問わず起こる、学校の先生とかを好きになるあれの延長線だと思うぞ。少しすれば綺麗さっぱり忘れて、同年代の男性に惹かれ始めるはずだ。それを上手く説明したいのだが……うーむ、難しい。どう言えば伝わるんだろう?

 

「前までは『まあ安全そうだし、嫌いじゃないから利用しよう』って程度だったんですけど、今の私はお姉のこと抜きで駒場さんを部屋で飼いたいと思ってます。逃げないように鎖で縛って、毎日お喋りして、抱き締めたり抱き締められたりして、部屋から出さずに独り占めしたいんです。それって変ですか?」

 

「変ですね。変というか、『異常』の領域に肉薄しています。それは世間一般で言う『監禁』ですから、決して実行しないでください。」

 

「じゃあ、やったら嫌いになりますか? 立場は逆でもいいですよ? 私的には駒場さんの家で飼われるの、『まあまあアリ』なんですけど。」

 

「私的にはやるのもやられるのも『絶対にナシ』なので、やめてもらえると助かります。鎖で繋がれて監禁されたら、さすがに嫌いになるかもしれません。」

 

この子は本音で話していても怖いな。というか、本音だからこそ更に怖いぞ。ヘビーな要求に顔を引きつらせながら断ってやれば、叶さんは至極残念そうに肩を竦めてきた。

 

「なら、今はやめておきます。嫌われるのは困りますし、駒場さんが興奮しないんじゃ意味ないですからね。成長してから改めて考えましょうか。」

 

「改めて考えずに、すっぱり諦めて欲しいんですが。」

 

「でも、私の背とか胸が大きくなったら話が変わってくるでしょう? その姿で迫れば、いくら駒場さんでも負けちゃうはずです。……味が舌に残るから嫌いなんですけど、今日からは牛乳を飲むことにします。」

 

「まあ、あの……全部後回しにしましょう。叶さんが成長した後なら私も真剣に考えますから。絶対に有り得ないとは思いますが、その時になって尚私に興味を抱いてくれているのであれば、今度こそ真面目に一人の女性として受け止めます。だからそれまでは『親愛』の関係でいさせてください。」

 

先ず間違いなく一年そこらで俺への興味など消え去るだろうから、こうしておけば全て解決だ。そのうち彼氏でも作って、俺に対しては余所余所しくなるさ。何せ彼女が十八の時、俺は三十の『おっさん』になっているのだから。そんなもん興味を失うに決まっているぞ。

 

時間が解決してくれることを確信しながら提案してみれば、叶さんは口の端を吊り上げて首肯してくる。その表情はちょっぴり怖いけど、何とか逃げ切れそうだな。

 

「いいですよ、そうしましょう。その代わり私が……言い訳できないように、二十歳にしましょうか。二十歳になっても変わらず駒場さんを好きだったら、必ず責任取るって約束してください。貴重な青春を全部奪うわけですし、それは当たり前のことですよね?」

 

「……責任、ですか。」

 

「私、駒場さんの所為で性癖拗らせちゃったんですよ? おまけに何年間も片想いさせて、はいさようならっていうのはひどすぎますよね? ……賭けましょうよ、駒場さん。私が成人するまでずっと好きでいたら、その時は私の全部を受け入れてください。六年分の全てを。誓えますか? 誓ってくれるならその瞬間までは我慢できます。」

 

「……分かりました、万が一そうなったら責任を取ります。」

 

百パーセント有り得ないぞ。彼女の容姿で好奇心旺盛な年頃となれば、六年間も俺なんかを好きでいるはずがない。確実に勝てる賭けだと判断して承諾してやると、叶さんは物凄く嬉しそうな笑顔で応じてきた。何とまあ、迫力を感じる笑みじゃないか。

 

「はい、契約成立。破ったら駒場さんを殺して、私も死にますから。針千本とか甘っちょろいことは言いません。ストレートに心中します。」

 

「怖いことを言うじゃないですか。……誓ったからには破りませんが、無理はしないでくださいね? 学校とかで誰かを好きになったら、こんな約束はすぐに忘れてください。」

 

怖すぎる台詞に怯みつつ注意した俺に、叶さんは悪戯げに舌を出してウィンクしてくる。……大丈夫だ、絶対大丈夫。この賭けは俺の勝ちで終わるはず。

 

「言い忘れてましたけど、私って嫉妬深くて執念深いんです。つまりですね、蛇みたいに一途なんですよ。……私、ライフストリーマーを目指すことにします。そしたらホワイトノーツに所属するので、駒場さんが担当になってください。」

 

「……それは簡単に決められることではありません。将来の問題なんですから、もっと慎重に悩むべきです。」

 

「だったら一緒に悩んでください。何も今すぐにどうこうって話じゃないですよ。……お姉の撮影を手伝いつつ勉強して、たまに動画にちらっと出て顔を売って、高校に上がったあたりで始めましょうか。名前は『かなどん』なんてどうです? お姉の有名さを利用するわけですね。それなのに駒場さんのこともリスナーのことも取っちゃえば、お姉は悔しがると思いませんか?」

 

「いやいや、待ってください。……叶さんは夏目さんのことが好きで、元の関係に戻りたいだけなんですよね? であれば『リスナーを取る』というのは少し違うように思えるんですが。」

 

また分からなくなってきた俺へと、叶さんはクスクス微笑みながら応答してきた。

 

「『駒場さん誘惑大作戦』は失敗しちゃいましたからね。お姉とも駒場さんとも一緒に居るためには、今回の一件は内緒にしておく必要があります。……それなら次の標的はライフストリームしかないじゃないですか。今のところお姉が拘るの、駒場さんとライフストリームだけなんですから。私が始めたての頃は『妹が真似した』って笑って見ていられるかもですけど、ライフストリーマーとして追いつかれたら焦ってくるはずです。少なくとも感情は揺らせますよ。」

 

「……忠告しておきますが、生半可な気持ちでは夏目さんに追いつけませんよ。あの人は全身全霊で動画を作っているんですから。」

 

「誰より近くで見てきたんだから、そんなことはとっくに承知してます。……私のお姉に対する気持ちと、駒場さんに対する気持ち。『生半可』だと思います? もし思ってるなら気を付けた方がいいですよ。後で後悔することになりますから。」

 

『生半可な動機』ではないと言いたいわけか。薄笑いでそう語った叶さんは、スッと立ち上がって話を締めてくる。

 

「それに、駒場さんは前に言ってたじゃないですか。好きなものを仕事にしろって。……私はお姉の背中を追いかけるのが何より好きなんです。お姉が私を追いつかせないなら、それもそれで幸せなんですよ。ずーっと大好きな背中を見ていられますからね。」

 

「……つくづく思いますが、叶さんは変な人ですね。」

 

「あれ? 今更気付きました? 色々歪んでるんです、私って。好きと嫌いの境目がおかしくなっちゃってますし、奇妙な拘りとかも持ってますから。……でも、お姉と共通してる部分もあるんですよ? 私もお姉も一度決めたら意地でもやります。夏目家の女って、どこまでも頑固なんです。」

 

言いながらスタスタと歩いていくと、叶さんはキッチンの方に置いてあった……ああ、そこにあったのか。小さな鍵を取って戻ってきた。ようやく解放してくれる気になったらしい。

 

「駒場さんの裸を見られなかったのは残念ですけど、こうやって話せて良かったです。喋ってみたらすっきりしましたし、割と良い方向に纏まりましたから。」

 

「まあ、そうですね。私も解決してホッとしています。」

 

「良いタイミングですし、お姉とも一度話し合ってみることにします。さすがに全部を打ち明けるのは恥ずかしいので、『姉妹なんだから余計な遠慮はしないで欲しい』って具合に。とりあえずそこさえ解決すれば、大分マシになるはずですから。長期戦に備えて応急処置をしておきますよ。……駒場さんと相談した結果ってことにしてもいいですか? 自分の気持ちとして真っ直ぐ話すのは嫌なんです。変かもしれませんけど、ワンクッションにさせてください。」

 

「構いませんよ。私の名前を使うことでやり易くなるなら、好きに使ってください。」

 

『応急処置』か。短期集中のショック療法から方針を転換するので、長期的な計画のために布石を打っておこうというつもりらしい。了承を得て満足げな顔付きになった叶さんは、俺の手首を弄りながら追加の要望を飛ばしてくる。

 

「あと、最後にもう一つ。これからは『瑞稀さん』って呼んでもいいですか? ベッドの中で妄想してる時はそう呼んでたんです。」

 

「……どうぞ、好きに呼んでください。」

 

もう何でもいいぞ。好きにしてくれ。遂に一段落しそうなことに気を抜きつつ、鍵を外してもらいながら許可を返してやれば、叶さんはふわっと笑って──

 

「じゃあ、お礼のちゅ。」

 

やけに自然な動作で俺の口に軽くキスをしてきた。それに驚いて硬直していると、叶さんはにんまり笑ってぺろりと自分の唇を舐めた後、ご機嫌の足取りでキッチンへと遠ざかっていく。……油断したぞ。

 

「……こういうことを避けるために、私は叶さんを説得したはずなんですが。」

 

「ふふ、混じりっけなしのファーストキスです。なるべく我慢はしますけど、もう好きだって気付いちゃったからには限度があります。この程度は大人の余裕で許してください。……何て顔してるんですか、瑞稀さん。私が中学生なのは今だけなんですから、中学生の私も味わっておいてくださいよ。全部をあげて、全部をもらう。それが私のやり方なんです。中途半端じゃ満足できません。」

 

キッチンの陰に置いてあった服を着ている叶さんに、拘束されていた手首を揉み解しながらジト目を送る。……別に『良い子』になったわけではないらしい。嘘吐きの悪戯っ子から、正直な悪戯っ子に変わっただけか。となるとこれからも苦労しそうだな。

 

とにかく、彼女が俺に飽きるまで何とか耐えてみよう。そう時間はかからないだろうから、慎重に接していけばどうにかなるはずだ。多少対等な立場になれた以上、これまでよりは対処が楽に……なるかな? どうだろう? ちょっと自信がないかもしれない。

 

「それじゃあ、瑞稀さん? 折角来てくれたんですし、外でデートしましょう。行きたいカフェがあるんです。……ほら、手。繋いでくれないと動きませんよ。私のことを支配して、ぐいぐい引っ張ってください。そしたら私、ずっと離れないで側に居てあげますから。」

 

果たしてこれは、『解決した』と言えるんだろうか? 薄い笑顔で誘ってくる叶さんを眺めつつ、心の中に疑問が湧き上がってくるのを感じるのだった。

 


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