Fate/GrandOrder 特異点 機動戦士ガンダム00―Awakening of the Trailblazer―最後の対話   作:鉄血

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第三話

マリナ達中東使節団を窮地から救ったフラッグは、の洞察する通りソレスタルビーイングの所有する機体である。

この機体───CBNGN─003「SVMS─01AP」《ユニオンフラッグソレスタルビーイング仕様》──をソレスタルビーイングが入手したのは、表立ってガンダムを運用することが出来ないミッションに対応するためだ。状況に合わせて使い分けできるように、いくつかの機体が用意されている。

ベースとなったコロニーガードフラッグをカスタマイズし、ソレスタルビーイングで開発・追加装備した銃は、GN粒子を蓄えるGNコンデンサーを内蔵することで、粒子ビームの使用を実現している。GNソードとしての機能を有するだけでなく、変形にも対応できるように特別設計されている。

今回に限らず、何度かこの機体で出撃もしている。シーリンが思ったように、この二年間、ソレスタルビーイングはこのような形で活動を続けていた。

そのコロニーガードフラッグが、彼等の母艦────CBS─742《プトレマイオス2改》に着艦を果たした。

第一格納庫にモビルスーツ形態で収容されたコロニーガードフラッグから、二人のパイロットがキャットウォークに降り立った。

一人はキャビンの中で暗殺者の拳銃を撃ち落としたロックオン・ストラトスことライル・ディランディ。

もう一人はこの機体で三機のGNーXⅢを撃墜せしめた刹那・F・セイエイである。

二人のガンダムマイスターは、パイロットスーツの靴底を床の上につけると、ヘルメットを脱いで顔の周りにまとわりついているような蒸れた空気を鼻先から追い払った。

入口のドアへと向かうため、二人はキャットウォークの数十煎茶上空を真っ直ぐ進んでいく。

無重力下では、こうやって床を蹴って宙を漂っていく方が、歩いて進むよりも楽な上に速い。

すると、彼等の進む先に、ひとりの女性クルーが出迎えるように立っていた。

ピンク色の髪をショートカットに整え、ソレスタルビーイングの女性用制服を身にまとっている戦況オペレーターのひとり、フェルト・グレイスである。

 

「お疲れさま」

 

ねぎらいの言葉をかけ、フェルトは二つのドリンクのボトルを差し出した。

僚友よりわずかに先行していたロックオンが、フェルトの手前で足を床につけ、差し出されたそれを受け取る。

 

「気が利くねぇ。いい女になってきたんじゃないの?」

 

フェルトは、ロックオンの軽口を苦笑で受け流すと、もう一人のガンダムマイスター──実はこっちが本命であるのだが──にもドリンクボトルを手渡そうとして失敗した。

刹那がフェルトからの差し入れなど目にも入っていないように、彼女の横を通り過ぎたのである。

フェルトが、やや焦るかの様子で、刹那の姿を追いかけながら声をかけた。

 

「刹那、ミッションは?」

 

壁際まで到達した刹那が、彼女に振り返って淡泊な口調で答える。

 

「ヴェーダの情報のおかげで未然に防げた。・・・・・スメラギに報告する」

 

と言って、刹那は身を翻し、ドアへと向かっていった。

 

「あの、これ・・・」

 

ドリンクボトルをわずかに掲げてみせた彼女の行動と控えめな声は、刹那には届かない。

オートで開閉したドアが彼の姿を隠す。

その様子を、ボトルに口をつけながら眺めていたロックオンは、呆れたように肩をすくめて独語した。

 

「まったく・・・アイツのニブさは筋金入りだな」

 

ロックオンは嘆息する。

もし刹那が彼女たちの感情に気付いていて、あのような態度を取っているのであれば罪な男だと思うし、もし気付いていないのであれば、もっと罪な男だと思う。

そしてロックオンを含むプトレマイオス2改のクルーほぼ全員が、刹那は気づいていないと睨んでいる。

おそらく、それは正しい。

さらに、こう思う。

イノベイターだって万能じゃない。

人は逆立ちしたって神様になれないのだから。

 

「だから、もがくんだろ?」

 

どこからか声が聞こえ、それがすぐに幻聴だとわかっても、ロックオンは目を閉じて微笑み、はるか彼方にいる男に心の中で応えた。

わかってるよ、兄さん。

 

 

ブリッジに訪れた刹那を、艦長兼戦術予報士のスメラギ・李・ノリエガ、操舵士兼予備のガンダムマイスターであるラッセ・アイオン、戦況オペレーターのミレイナ・ヴァスティが迎えた。

中東使節団の宇宙船を事故に見せかけて破壊しようとするコロニー開発公社の思惑──ソレスタルビーイングの頭脳ともいうべき量子型演算処理システム“ヴェーダ”が予測したそれを阻止するために、刹那とロックオンは、それぞれの任務をおびて出撃していたのである。

無事、ミッションが成功に終わったことを刹那は戦術予報士に報告した。

 

「よくやってくれたわ、刹那」

 

二年前より髪を短くしたスメラギが、うなずいて彼から報告を受ける。

 

「これで、連邦がコロニー側の救済にも力を入れてくれればいいんだけれどね」

 

「新政権が立ち上がってまだ二年・・・小さな問題は、俺達の手で刈り取るしかない」

 

スメラギの憂慮に刹那が答えると、自分の席に座っていたミレイナが大きく手を挙げて言った。

 

「ガンダムを出せば、世界の抑止力になるです」

 

最年少の戦況オペレーターの明るい提案に、スメラギが苦笑を返す。

 

「ミレイナ、連邦の宥和政策が軌道に乗っているいま、へたにことを荒立ててもしょうがないでしょ」

 

「そうですかぁ?」

 

両眉と唇を曲げ、今ひとつ納得できないような表情を浮かべるミレイナに「スメラギさんの言う通りだ」と言ったのは、操舵席に座るラッセだ。

 

「俺達は、ただ、黙って存在するだけでいい。いざというときまではな」

 

明快な操舵士の言葉に、スメラギと刹那が首肯する。

新政権のもとで刷新された地球連邦軍は、秩序と節度を犯さず、宥和政策を推進させ、少しずつではあるが結果も出している。

ならば、表舞台は彼らに任せておけばいい。

自分たちは陰の抑止力としての存在でいいのだ。

ふいに通信を報せる電子音が鳴って、彼らの意識がフェルトの座るオペレーター席に向けられた。

モニターに目を走らせていたフェルトが、スメラギたちに報告する。

 

「ヴェーダからの定期報告です。連邦軍が、地球圏へ飛来してくる探査船の撤去作業を行うと・・・」

 

「探査船の撤去作業?」

 

首を傾げたのはラッセだ。

 

「どこから来た船かわかる?」

 

「はい」

 

何気ない戦術予報士の問いにフェルトが指を動かす。

モニター上に流れていく表示を目で追い、それから彼女は答えた。

 

「木星です」

 

今度はスメラギもミレイナも首をひねった。

木星から飛来してくる探査船、それを連邦軍が撤去する・・・そこにヴェーダが定期報告に入れるほどの注意を引く何かがあるとでもいうのだろうか?

頭の上に疑問符を浮かべるクルーたちの中で、だが、たったひとりだけ表情を硬くしている者がいた。

刹那だ。

 

「・・・その船の詳細データ、わかるか?」

 

そんな刹那に操舵席からラッセが、訊く。

 

「何か気になるのか?」

 

「・・・いや・・・少し・・・」

 

クルーたちはちらりと横目で互いの顔を見やった。

「少し」という割には、彼の表情も口調も、緊張の度合いを強めている。

皆が注目を集めるなか、当の刹那はフェルトに「情報がわかり次第、教えてくれ」と言い残してブリッジから出ていった。

その背中を見送っていたミレイナが、嘆息を吐き出しつつ呟く。

 

「・・・セイエイさん、最近、謎めいてます・・・」

 

「イオリア・シュヘンベルグが提唱した新人類、イノベイターに刹那はなった・・・俺達には分からないことを、あいつは感じているのかもな」

 

独語するようなラッセの声を聞き、フェルトの表情に翳りがさしていく。

彼女の微かな悲しみを察したスメラギが小さく嘆息する。

フォローしたほうがいいかしら、この艦の姉として。

見ると、ラッセが自分を見てニヤニヤしている。

その目が言っている。

 

ママじゃないのか?

 

スメラギはありったけのメッセージを込めた視線を彼に放った。

 

お・姉・さ・ん・よッ!!

 

と、そんな彼らにヴェーダの定期報告に視線を通していたフェルトがスメラギ達に言った。

 

「スメラギさん、ヴェーダからの定期報告に少し不可思議な報告が・・・」

 

「不可思議な報告?」

 

皆がフェルトに視線を向ける。

 

「はい。モンゴル自治区にある太陽受信基地付近に謎の艦が突如現れたと報告がありました」

 

「・・・謎の艦?」

 

ラッセはヴェーダの定期報告を聞き、首を再び捻る。

そんなラッセに対し、スメラギは言った。

 

「・・・モンゴル自治区?近くには何かあったかしら?」

 

「軌道エレベーターの近辺にある太陽受信基地と今はアレルヤさん達がその周辺にいるそうですが、どうしますか?」

 

フェルトのその問いに、スメラギは───

 

「───ロックオンを呼んで。今から出撃よ」

 


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