新たな家族との邂逅
空から落下した時、昔の出来事がフラッシュバックしてしまった。
お陰で一旦ログアウトする必要があったのは運営に対して怒ってやりたくなったよね。
「私のこの左手にある宝石が〈エンブリオ〉かー。どんな子が生まれてくれるのかな」
そんなことを口に出しつつ、この国の裁判所にやってきた。
到着するまでにNPCたちの視線がリアルすぎて、気分はすごく最悪。
将来私は天衣さんみたいな裁判官になりたいので、この世界で裁判官のお仕事を体験できればいいなーって思ってやってきたのだ。
相変わらず、人に会うのは怖いけれど受付の人はNPCだから問題なく会話ができるはずなんだよね。
裁判所に到着してどうしようかと悩んでいると突然受付の人が声をかけてきた。
「
突然の人の声にびっくりして一瞬、意識が飛んでしまった。
でも、なんとか倒れなくて済んだようで助かったよ。
にしても、よくわからない言葉がたくさんあったね。
「ジョブ登録? ジョブクリスタル?」
そう口にしたら受付の人が私を怪しんで見ていた。
「その年でジョブについて知らない人?? そんなティアンはこの世の中にいないはずなんですけど……。もしかして、噂のマスターさんですか?」
「ティアン? 確かに私はマスターと呼ばれるものらしいですけど……」
またわからない言葉が出てきちゃった。
「聞くは一時の恥知らぬは一生の恥」ということわざがあるんだし、聞いてみるしかないかな……。
NPCって感じがぜんぜん無くて普通の人間と会話してるようであまり気がすすまないけど……。
「私、この世界の事を何も知らないみたいなんです。迷惑でなければ教えてもらえないですか?」
「そうですね。この世界の常識をわかっていただかないと今後やり取りが大変ですよね」
基本的に受付の人に説明してもらい、わからない言葉があったらその都度聞くというやり取りを何回も繰り返した。
話をまとめるとレベルを上げるためにはジョブに就かないと行けなくて、そのジョブに就くにためにジョブクリスタルの元まで行かないといけないということ。
ジョブには下級、上級、超級があるということかな。
将来的には超級職につければいいなって思いながら
「【裁判官】は裁判の被告人に対して判決を行うことができるジョブです。戦闘能力とか何もないのですがDEX補正はありますよ。覚えるスキルも多くないのですが《真偽判定》や《思考加速》といったスキルを所持しております」
《真偽判定》? 嘘を見破るってスキルかな?
なりたいジョブは決まっていたので聞かなくてもいいや。
「【裁判官】になりたいのでジョブクリスタルへ案内してください」
こうして、私はこの世界で【裁判官】になったのだった。
◇
「【裁判官】になったらいきなり勉強勉強また勉強ってどういうことですか!」
【裁判官】のジョブを習得した途端、受付さん(本名エリーゼというらしい)に捕まってしまい法学校というところに入れられてしまったのだ。
私のデンドロの目的である対人恐怖症の克服という点に関して、法学校の入学はすごく改善する形で作用したのは良かったかな?
ティアンの人やマスターに関しては以前と同じように会話ができるようになってきた。
デンドロからリアルに戻ると全然だめ。なんでかなー。
講義を受けることはジョブクエストというものになるらしく、転職してから1週間デンドロにいる間の日中はずっと講義を受けていた。
おかげで少しずつだけど【裁判官】のレベルが上がっている。
確かに、法律について何も知らないでいきなり裁判ってのは私も被告も困るからそこは嬉しい点だけども……。
私は断言できるよ!
このアルター王国の法律で一番詳しいマスターは私であることを!
更にいうと下手したら基本的なティアンの法律もマスターの中で詳しいんじゃないかな。
学校には行かず、通信教育だったので新鮮だったけれど、それは最初の2日くらいまで。
今日でデンドロ時間で21日目の学校の講義である。
流石に飽きたよ。
あまりやりたくなかったけどモンスターと戦ってみたい。
今の現状が打開されるなら何でもいいや。
あと、いろいろなところから<エンブリオ>が孵化したという話を聞くようになった。
私の左手の<エンブリオ>は何も変化なくこのままであるので羨ましさが強く出てしまっている。
「何時になったら君は私と一緒に遊んでくれるのかね〜。一人でずっと講義を受けるのは飽きたよ」
他人に聞かれたら絶対恥ずかしい内容の独り言だったけど、法学校に通っている人に与えられる寮の自室に来てくれるティアンもマスターもいないから大丈夫なのです。
おい、こら。ボッチマスターって言うんじゃない!
そういう感じで毎晩話しかけていたら、デンドロ時間で30日目の夜にようやく私の<エンブリオ>と会うことができたのだった。
「はじめまして、マスター。妾はヴァルナ。<エンブリオ>TYPE: メイデン with ガードナーのヴァルナと申します。これからよろしくおねがいしますね」
やっと会えた。私だけの<エンブリオ>これからこの世界を一緒に旅してくれる唯一無二の友人に。
でも、目のやり場に困るよ。
すっごいセクシーなんだもん。青い髪、出るところは出てるし引っ込むところは引っ込んでる理想な身体。
左手に短剣右手には
「は、はじめまして。わ、わちゃ、私はファトレティ・ロウ。これから一緒に頑張っていこうね」
「クスクス。可愛らしいマスターですね。」
緊張して言葉を噛んだりと恥ずかしい思いをしてしまったよ。
そうだ。いきなりで申し訳ないけどステータスを見ないといけないよね。
【水天姫】ヴァルナ
TYPE:メイデンwithガードナー
到達形態:Ⅰ
HP:210
MP:400
SP:10
STR:15
END: 19
DEX: 82
AGI: 23
LUC: 24
ステータス補正
HP補正:G
MP補正:C
SP補正:G
STR補正:G
END補正:G
DEX補正:C
AGI補正:G
LUC補正:G
『保有スキル』
《原初の水》<アパーム・ナパート>Lv1:
水を操作することができる。
発動時に操作する水の量に比例したMPを消費し、操作する時間に応じMPを毎秒消費する。
操作できる範囲はDEXの値により決定する。
むむむむむ?
この子のパラメータって魔法使い系によくあるパラメータじゃない!?
私への補正もそうだけど、なんかすっごく尖っている感じ。
固有スキルも使いにくい……と思う。
これからはアイテムボックスに水筒でも持ち歩こうかな。
そんな事を考えてるとどんどんヴァルナの機嫌が悪くなっている気配を感じる。
もしかして、私の考えていることが伝わってるの??
「機嫌を悪くしちゃったかな。噂ではこんなに尖ってる第I形態はあまりいないって言われてたからびっくりしちゃって。でもヴァルナは私のこの世界で初めての家族だから、機嫌直してほしいなー」
少し拗ねた感じはまだあるけど、私たちはようやく一人のマスターとしてこの<Infinite Dendrogram>という世界に繰り出したのである。
◇
ヴァルナと一緒に法学校に初めて向かうことになったけど、その前にヴァルナと一緒に講義に出れるかをエリーゼさんに聞いてみた。
なんでも、私のやってることに興味があるとのこと。
「彼女、ヴァルナさんが<エンブリオ>ですか……。問題ないですよ。法を学ぼうという気持ちがある人は常に募集中ですから!」
「では、妾たちは教室に向かいます。何かあったらまた訪ねますね」
「授業に遅れてしまうので失礼します」
そう言って私は日課となる法学校の講義にヴァルナを連れて向かったのである。
◇
法学校では毎日講義に参加する人が増減するため、学校でよくあるらしい転校生挨拶みたいなものはない。
私の隣でヴァルナは真剣に講義を聞いてる姿を見ると、私も真剣にやらないとって思えてきて真面目にこの日から受けることになった。
今日の授業が終わり、ヴァルナと一緒にご飯を食べに行くことになった。
私も寮の外で食べたことはなかったため、いろいろなところを食べ歩き仕様と話がまとまった。
露店が集まっている地域を見つけたので気になるものから買っていこうと思った時、子どもたちがやってきて私たちに手を差し出してきた、
露店のおじさんは「運が悪かったな」って顔でこちらを見ているし。
私はそこまで非情にはなれないので、子どもたちの分も一緒に焼き鳥っぽいものを買って渡したが一人分足りなかったようだ。
だけど、お店には同じものは売り切れのようだ。
するとヴァルナが自身の持っていた焼き鳥っぽいものを差し出し、こう言った。
「妾の分を譲ってあげましょう。これで皆の元に行くとよいでしょう」
今回はアクシデントがあったから仕方ない。
気を取り直して、他のものを買って食べようと思う。
でもヴァルナは、子供がやって来る旅に自分の食べ物を全部渡してしまうのだ……。
本人曰く、
「妾が食べることよりも苦しんでいる者たちに分け与えるのが最善でしょう」
この子って、最低限の食事以外は他者に譲っちゃうんだろうな。
譲る対象がいなくなって初めて自分の分を食べるんだろう。
そんなめんどくさい考えだと一緒に外に食べ歩きに行けないじゃない!
食べるときはレストランみたいな座って食べるところじゃないとダメそうだなー。と思案していると、
「ねぇ、マスター。時間が許すのであれば町の外に行くのはどうかしら?モンスターを倒してみて妾が実際に戦えるかどうか試してみてほしいのよ。」
ヴァルナから次の予定の提案があった。
私には断る理由もなかったので、町の外に初めての戦闘をしに向かうのであった。
◇
「《原初の水》を使えば簡単に倒せますね。時間効率は悪いのが欠点ですけど」
戦い方がえげつない。
見てるのが辛い。
ちょっと昔を思い出すし。
小さい水の塊をモンスターたちの口や鼻にくっつけて窒息死させているのだ。
「MPは大丈夫? スキル説明を見たときかなり使うようにかいてあったけど」
「この程度の水量であれば自然回復を考慮すればずっと使えますね。DEX×0.01Lに対して秒間5MP使うようで本気を出さなければ全然ですよ」
なんという対生物性能。最初ステータスを見たときに尖ってると思ったけどここまでとは思わなかった。
それにしても、このゲームは本当にリアルだ。
状態異常に【酸欠】とか、死因に窒息死などもあるようでゲームの中にいる気がしない。
窒息死とかいうものがなければ私のヴァルナの<原初の水>なんて序盤の費用対効果が非常に悪いスキルだよね。
ヴァルナも言ってるように、窒息死までにかかる時間が5分くらい必要になるから倒していく速度は非常に遅いとは思う。
けれども、私たちが戦えるってことがわかるだけで満足ですよ。
根本的な欠点である近づかれたらだめ、水の移動速度よりも早いものもだめって弱点が明確だけど戦闘をメインにやるつもりは今のところはないから十分でしょ。
<エンブリオ>は進化するっていうし、進化することで色々と改善されるはずだからね。
私の<エンブリオ>が孵化するまでに30日もかかったから次の進化はだいぶ先になるんだろうなって思うけど。
「マスター。そろそろ寮の門限の時刻ではないかしら」
「えっ、もうそんな時間なんだね。じゃあ次の一体を倒したら戻ろうよ。」
「わかりました。では、そこにいるウサギモドキを倒したら戻りましょうか。 」
私の<エンブリオ>って時間管理とかそういうこともできちゃうの??
なんというか、マスターである私よりもかなり高性能な気がするんだよね。
あとでネットで出てるか調べてみようかな。
他の人の<エンブリオ>がより優秀だったら妬ましい気持ちは生まれちゃうんだろうけど私のヴァルナがオンリーワンだからね。
最終的に私も戦闘用のジョブを取るべきなのかな。
今すぐになりたいジョブは見つからないから、【裁判官】のジョブレベルをMAXにしないといけないけどね。
◇
一旦【裁判官】ギルドに向かってエリーゼさんに数日は講義に出れない事を伝えに行った。
「いつものマスターの元の世界に戻るというやつですよね。大丈夫ですよ〜お伝えしておきます。」
「いつもありがとうございます。それでは失礼しますね。」
「あ、ロウさん。少しお待ちください。……実は、次の公判でロウさんが【裁判官】の一人として参加できることが決まりました。今回はマスターと言う存在が参加することができるのかなどと言った試みもありますので特に無理だという理由がなければ出席していただきたいのです。よろしいでしょうか?」
何ということでしょうか!
今までの法学校での苦行はこの日のためにあったと言っても過言ではなかったのかもしれません!
もちろん、断る理由はありませんよ。
はいです!Yesです!やるに決まってます!
「はい、ぜひやらせてください!明日は無理ですが明後日もしくは明々後日でしたら大丈夫ですので!」
ログアウトしてご飯食べてお風呂入って寝て起きてと考えても問題ないはず……。
「では、できる限り最速でやりたいということですので明後日の10時から初公判となります。遅れないように準備などお願いいたしますね。」
「わかりました!それでは失礼します!」
早く戻って初公判の準備をしないといけないね!
「じゃあ、ヴァルナとは少しお別れだけどすぐ戻ってくるからね。バイバイ」
「ええ。お待ちしております。マスター。」
しばらくは執筆熱があるので勢いがいいかもしれませんね。
最後の最後でうまく表現できなくて少し飛んでる感じはしますけど……。