◇ SIDE 北條 司沙
初裁判を終えて、ログアウトした私はリビングに行き飲み物でも取りに行こうと思った。
ログアウトするたびにあちらはゲームであったんだと思わされる。もうそろそろ夕食の用意をする時間だ。
こっちだと全然声を出すことができないからできることならデンドロにできる限りいたいと思うのは私が逃げているからなのかな?
強い人ならこちらの世界でも話せるように頑張ろうってなるのだろうけど。
そう考えながらリビングに向かうとこの時間では珍しく天羽さんがリビングで座っていた。
この時間にしてはすごく珍しいと思った。いつもなら、もっと遅い時間それこそ深夜に帰ってくるのが当たり前だったから。
「ただいま、司沙ちゃん。これから夕食の準備かしら?」
『飲み物を飲んでから何を作るか考えようとしてたところです。なにか希望はありますか?』
「特にこれというものは無いかな。一緒にあるもので作ろうか!」
『そうですね。』
返事を入力して送り、黙々と料理をしている時に天羽さんからデンドロについて聞かれた。
「以前プレゼントしたゲームってどう?噂だとすごいものだという話じゃない?」
『すごいですよ。あちらでは私、声を出して会話する事ができるんです。それにゲームって感じがしなくて、それこそもう一つの現実って私は思ってます。』
「へぇ。もしかしたら、司沙ちゃんって何かきっかけがあれば声出せるようになるのかもね。本当にだめだったらゲームでも出せないと思うし。」
『だと嬉しいです。将来、天羽さんみたいな裁判官になりたいと思っているので声は出せるようになりたいです。』
「私が憧れの存在かぁ。少し照れちゃうね。」
『今まで通りにしてくれればいいんです。』
「そっか……。あぁ、ゲーム内では何をしてるの?冒険?」
『いえ、裁判官をやってみてます。』
「そんな事もできるんだね。裁判とかやってみたの?まぁ現実の裁判とは違うんだろうけど。」
『うん。嘘をついてもすぐ分かっちゃうから私のお父さんお母さんみたいに間違った判決ってのは無いみたい。』
「へぇ。それはすごいね。私たちは本当に正しいのかを見極めて法律と照らし合わせて正しいかを考えて判断するのがすごく大変で、そういうのがあるといいなぁって思ってるよ。」
『でもね。そんな世界でも悪いことをする人はいっぱいいるんだよ。たくさんの人を殺したり、攫ったりそういうことは現実と何も変わらない。』
「どうしたの?司沙ちゃん?何か辛いことでもあった?」
私がデンドロで色々と思うことがあったことが伝わってしまったらしい。大丈夫って答えようとしたけど逆に心配させると思った私は今日、デンドロで起きた事件のことを話すことにした。
◇
「なんというか、すごい事件を体験しちゃったね。」
『力不足を感じてしまいました。』
「その中で、司沙ちゃんにはできることをすればいいんだよ。それ以上は誰も求めてないし、できなくても非難はしないよ。」
『そう……ですね。私が今回辛かったのはこんなひどい事件なのにやった人を裁けず、ただ悲惨な現状を見ることしかできなかったことです。』
「それはね。私も同じだよ。こんな悲惨な事件だけどこの法律ではここまでしか適応できないとかそういうのはしょっちゅうある。でも、そこで感情に囚われて裁いてはだめなの。私たちは法律を司り監視する役割なんだから。」
『私は悪いことをした人は罪を償ってもらって、何もしてない人は当たり前の日々を過ごせるようになってほしいです……。』
「そう思うならそう動けばいいじゃない。中立であるべきなのは法廷だけでそれ以外は司沙ちゃんの思いで動いていいんだから。」
裁判官は中立で無いといけないは法廷だけ。それ以外のときは私の意思を貫いていいんだって気付かされた。だから、ローテルさんらは私が色々と調査したことについては怒らなかった。怒ったのは契約書を破るように促した私の行動だけ。
だったら、私はもっと強くなろう。ヴァルナと一緒に悪意のある人から守ってその人に適切な裁きを与えよう。無実の人を守れるだけの力を持とう。
「でもね、司沙ちゃん。その思いだったら警察官とかになるのはどうなの?多分一般人を守れるのはそっちよ?」
『警察官は嫌です。上を伺って無実のお父さんお母さんを容疑者にした人たちですよ。そういうご機嫌とりをするようなものより悪人を裁き、善人を助けられる。そんな裁判官の天羽さんに憧れたんです。だから裁判官になります。』
「そっか……。だったら、今のままじゃいられないね。まずは人と会えるように。その次は外に行けるように。最後に喋れるようになろう。そうしないと裁判官に離れないぞ!」
そう言われて肩を叩かれた。痛かったけど、同時にこんな私だと無理だって言われなくて嬉しかった。
「さて、料理はできたし愛唯ちゃん呼んで夕食にしようか。お願いできる?」
『はい!今呼んできます!』
その日のご飯はいつもに比べて美味しく感じた。明日のためにいろいろな情報を集めてみようというモチベーションが上がったね。
あとは……、そう!私とヴァルナが強くなるためにはどういうジョブを取ったりしていくのがいいのかも調べてみよう!
◇
部屋に戻り、デンドロのことを調べてみようと思ったら突然、愛唯がやってきた。
「ねぇ。お姉ちゃん。デンドロやってるんだよね?どんなことしてるの?」
『【裁判官】ってジョブをやってるよ。初裁判もやったんだよ。』
「お姉ちゃんって天羽さんのことが好きだよね。今はなれないから、デンドロの中で憧れの職業になるなんて……。」
『いいじゃない。』
「どんなジョブなの?あと、どこから始めたの?」
『アルター王国で始めたよ。ジョブは現実同じ感じだね。ステータスはDEXが伸びて、スキルは非戦闘スキルを覚えるね。』
「へー、私は天地で始めたよ。あの国はティアンが皆強くて<マスター>がティアンに全然勝てないんだよね。」
『すごい国があるんだね。ねぇ、愛唯。強くなるためにはどうしたらいいの?今日、力不足を感じちゃってね。どうしたら強くなれるか今調べてるところなの。』
「<エンブリオ>次第なところもあるから一般的なことしか言えないけど……。最初はジョブLVを上げようよ。下級6つ、上級2つの合計500LVまで上げれば強くなるよ。」
『どんなジョブに就けばいいかわからないよ……。』
「【適職診断カタログ】を使うといいよ。これで今就けるジョブの中で一番合っているジョブを探せるよ。」
『そんなアイテムがあるんだ。そうだ、<エンブリオ>のTYPEって何になったの?私はメイデン with ガードナーってものだったけど。』
「メイデンって聞いたこと無いなぁ。レアカテゴリーってやつかな?私はアームズ。盾の形なんだ。」
私のヴァルナってレアカテゴリーだったんだ!
他のマスターを全く見ないから何がレアで何がそうじゃないかなんて分からなかったよ。
「お姉ちゃんは最初、【裁判官】のレベルを上げきって【適職診断カタログ】を見つけて使うといいと思う。あとはエンブリオの能力次第だね。それに合うジョブに就ければ強くなれるよ。」
『そうしてみる。』
「あとね。私も見たこと無いんだけど<UBM>って言うのがいるんだって。それを倒すと唯一無二の装備が手に入るとか。難しいと思うけど狙えるなら狙って見れば強くなると思うよ。」
『怖そうだけどやってみる。ありがとね、愛唯。』
「どういたしまして。デンドロ内で会えたら一緒に遊ぼうね。」
『多分アルター王国から出ないと思うけど、会えたらね。』
「約束だよ!」
そう言うと慌ただしく自室に戻っていった。きっと、デンドロをするんだろう。
ジョブレベル、【適職診断カタログ】、<エンブリオ>そして<UBM>……。色々と難しいな……。今後のことはヴァルナと相談して決めていこう!
ローテルさんから言いつけられた法学校70日が待ってるので、私は明日からすぐ強くなるために動けないんだよね。
それが終わったら強くなるために行動をしてみよう。