弘行はレイセンとリアクターにたどり着いた。不思議なことに、誰からも妨害されることなく、リアクター本体へ続く連絡橋をレイセンとともに進んでいた。
「おい……敵影がないな……」
「はい……もうすぐ制御盤です。」
「本体に制御盤横付けって、万一の時大丈夫なのかそれ?」
「制御盤を離れたところに設置するって話は出ていますが、予算がかさむし、今まで事故とかもなかったのでズルズルと……」
「安全管理がなってねえ……」
リアクターを中心にいくつもの連絡橋が放射状に伸びている。どの連絡橋も落下物から身を守るために上が覆われているが、側面には柱以外の覆いはない。リアクターの様子を見れるようにしてるのだろうか。
リアクターは全高約200m。弘行とレイセンはその真ん中あたりから伸びる連絡橋を通っている。そこからでもリアクターはとても大きく見えた。
ふと、何か黒い布切れのようなものが飛んでいるのが見えた。
次の瞬間、足元を紫の光線が貫き、穴を開けた。敵襲だ。
「なっ……!?」
50mほど離れた別の連絡橋に、黒いフード付きのロングコートをまとった人がいた。手にはドラグノフ狙撃銃に長い銃剣を付けたものを持っている。
離れたところにいたはずのその人影は、一瞬で弘行の目の前に現れた。
「遅かったな。だがここまでだ。」
その男の回し蹴りが弘行の顔面に命中する。咄嗟のことに対応できなかった弘行は吹き飛ばされ、通路から転落した。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
咄嗟に魔力を使って飛び、なんとか別の連絡橋の屋根に着地する。Mk.11のセーフティを解除し、臨戦態勢を整える。僅かに見えたあの顔、外の世界、幻想郷に感染者をばらまいた張本人、フィルであった。
フィルは弘行から100mほど離れた通路の屋根に着地する。左腕でレイセンの首に組み付き、右手でライフルを構えている。
「この野郎! レイセンを離せ!」
「ほう、レイセンというのか……お前の相方は魔理沙とかいう娘っ子じゃなかったのか?」
「うるせえ!」
弘行はレイセンの顔の横からチラチラ見えているフィルの顔を撃った。弾丸はレイセンの顔の横を通り、フィルの側頭部を掠める。すると、フィルはレイセンを放して別の連絡橋へ飛んで移動した。
「レイセン! 無事か!?」
弘行はフィルより先にレイセンの元へ向かい、倒れているレイセンに声をかけた。
「弘行さん……あいつは……」
「待ってろ。俺が仕留めてくる。」
弘行はライフルを構え直すと、フィルを追って飛んだ。奴を片付ければ、全て終わる。ここで奴を討つのが使命だと、弘行は自分に言い聞かせた。
弘行が上を向くと、フィルが連絡橋から身を乗り出してライフルを構えているのが見えた。咄嗟に身を捩り、レーザーを紙一重で回避すると、素早くMk.11を構え、フィルを狙撃した。
弾丸は確実に当たった。そう確信があったのに、フィルはビクともしなかった。外れたのか?
急上昇してフィルと同高度、距離150mの所に陣取り、もう一度狙撃する。曳光弾がフィルの体を貫いた瞬間、フィルはまるで蜃気楼のように消えてしまった。
「なっ……!?」
「訓練不足だな。」
フィルが真後ろから銃剣で切りつけてきた。弘行はそれを銃床で弾き、事なきをえる。反応が遅れていたら、腕を切り落とされていただろう。
弘行はフィルへMk.11を向け、撃つ。7.62mm弾は赤い光の尾を引きながら飛翔し、体をすり抜けた。そのままフィルは霧のように消えてしまう。
「嘘だろ……!?」
「死ね。」
背後から現れたフィルが銃剣を振り上げ、弘行の左腕を切り落とす。腕は断面から血液を撒き散らしながら吹き飛んでいく。
弘行は声にならない悲鳴を上げた。意識が薄れ、視界がブラックアウトしていく。薄れゆく意識の中で見たのは、レイセンの狙撃が命中してよろけるフィルの姿だった。
レイセンは弘行の腕を切り落とした直後のフィルを狙い撃った。その弾丸はすり抜けることなくフィルに命中した。なぜかはわからないが、チャンスにも思えた。
続けざまにもう1発撃つが、今度は弾がすり抜けてしまった。そして、また霧のようにフィルが消える。
「終わりだ。」
フィルはレイセンの背後に現れ、銃剣を振りかざす。レイセンは咄嗟に動くことも出来ず、ただ銃剣を見つめているしかできなかった。
次の瞬間、無数の破裂音と共にフィルの体が揺らいだ。突入してきた祐介と暢が集中砲火を浴びせたのだ。
「オラァ! 覚悟しろこのクソ野郎が! ぶっ殺してやるぜ!」
珍しく暢がサイトを使って狙いをつけ、フィルに実弾による弾幕をお見舞いする。が、今度は弾がすり抜けてしまい、ダメージを与えることは出来なかった。
「チッ。まあいい。次は仕留める。」
フィルはそう言うと跡形もなく消えてしまった。まるで、夢でも見ていたかのように。だが、夢でないことを証明したのは、左腕を切り落とされて倒れていた弘行だった。
「おい弘行! 起きろってんだこのクソ野郎!」
祐介は倒れている弘行に駆け寄ると、すぐに応急手当を施す。どうやら祐介が来るまでに自分で止血剤を打っていたらしく、出血は止まっていた。
「ああクソ……俺の腕が……」
「んなもん永琳に治してもらえ! ともかく、生きててよかった……」
「レイセン!」
「依姫様!」
依姫が部隊を率いてやって来た。依姫はレイセンが無事なことに胸を撫で下ろしつつ、玉兎たちを周辺に展開させて警戒する。
「祐介……奴だ。フィルがいた……野郎が黒幕だ……」
「お前、何言ってんだ? モリソンからの無線聞いてなかったのか?」
「ああ?」
弘行は何が何だかわからないと言った表情を見せる。祐介もその様子に困惑してしまう。
「フィルは外の世界で別部隊が捕まえた。俺たちの幻想郷での役目は終わったんだよ……」
「え……じゃあ……俺が戦った相手はなんなんだ……?」
弘行は唖然とした。切り落とされた腕だけが、それが夢でないことを物語っていた。
ーーーーー
数日後。事後処理をグリーンランド中佐に丸投げした祐介たちは幻想郷に帰還していた。
結局、急進派は押し返されて士気を無くしたのか、大人しくなったようだ。幻想郷に攻撃してくることは無いだろう。
そして、感染者による一連の事件の黒幕と目される人物が捕まった事もあり、TF148の解散が決まった。幻想郷を知る唯一の部隊である第7艦隊も例外ではなく、撤収の準備を進めていた。
モリソンは湖畔から艦隊を眺めつつ、紫と話をしている。
「まさか、こんな終わりになるとはな……」
「まだ終わっていないわ。」
「わかってるさ。鷹見の遭遇した相手は月面軍を使って幻想郷に攻撃を仕掛けた。そして、フィルの証言から幻想郷での事件に関わってる事も分かったしな……」
弘行のゴーグルに搭載されているカメラに敵の顔がしっかり映っていた。その顔は弘行の見た顔とは全く違い、銀髪に赤目の青年だった。そして、弘行の弾丸がすり抜けたという証言については、映像を見る限り弘行が見当違いの方向を撃っているだけであり、相手が何かしらの能力を使ったものと目されている。
「なら、どうするつもり?」
「少数の部隊を戦死という事にしてここに残す。ちょうど、いつもの連中が志願してくれたからな。弾薬の補給さえ滞らなければどうにかなるし、私もなんとか支援する。」
「期待してるわ。私も、あいつには少し心当たりがあるの……」
「とりあえず、今は奴の拠点を探し出さないとな。奴の正体がどうあれ、幻想郷に害となるなら問答無用で排除するのだろう?」
「そうね。あの武器からして、霊夢では少し役不足かもしれないわ。」
「随分辛口だな。」
「あの子は本気の殺し合いなんてした事ないもの。前の祐介の一件で少しは危機意識持ったみたいだけれども、まだまだね。餅は餅屋。殺し合いは兵士に任せる事にするわ。」
「紫が能力使ってどうこうできそうな気もするがな……まあいい。何とかするさ。」
モリソンは天を見上げた。この先どうなるか、想像もつかなかった。
黒幕登場。次回から新章に入ります。
モチベ上がらない……何とかしないと……