mission46 過去の改変
月面戦争より時は流れて5月。幻想郷に残留したベッカー率いるメメントモリ小隊は紅魔館の部屋を幾つか借りて生活している。祐介、弘行は例外だが。
弘行の腕は永琳に治してもらい、リハビリも済んだ。最初隻腕になった弘行を見た魔理沙は大泣きして宥めるのが大変だったと弘行は語る。
さて、幻想郷はどう考えても異変に見舞われている。5月だというのに雪が積もっているのだ。お気楽ロシア兵4人衆は外で元気に遊んでいるが、アランを始めとした米兵4名は暖炉に当たっていた。
いつもの6人は異変解決に向かおうにも、退っ引きならない事態に見舞われていた。
咲夜の部屋から出てきた暢へ、壁に寄りかかっていた祐介が声をかけた。
「どうだ、暢。」
「ダメだな。目を覚まさない。」
咲夜がずっと昏睡状態に陥っているのだ。永琳に診てもらっても何もわからず、時だけが過ぎていた。そのため、祐介たちは異変解決に向かおうにも動けない状況にあった。
そこへ、レミリアが歩いてきた。なんだか寂しそうにしているのは気のせいか。
「うっすレミリア。」
弘行は治した左腕を上げて挨拶する。レミリアもそれに軽く返事する。
「とうとう、来てしまったのかしらね……」
「何がだ?」
暢は首をかしげる。
「あまり気分のいい話ではないわ。咲夜の出身地って知ってるかしら?」
「一応。もう廃村になったもう1つの人里だろ?」
暢が答える。幻想郷にはかつて、2つの人里が存在したが、今は片方が廃村になっている。その廃村になった人里こそ、咲夜の出身地であった。
「そう。そこで何かあったらしく、咲夜は殺されかかって、命からがらここに逃げてきたのよ。その時、死の運命を私が先延ばしにしたの。もしかしたら……」
「そのツケが今来たってことか?」
祐介が腕を組みながら答える。
「その可能性が大きいわね。」
「おい待て、じゃあ咲夜は……」
暢の顔がわずかに青ざめているのが祐介と弘行には見えた。恐れ知らずの暢が珍しいと思っていた。
「このまま、だと死ぬわね。」
「このまま……?」
「パチェが時間遡行の魔法を知ってるはずよ。それを使って運命を元から変えてしまえば、手立てはあるかもしれないわね。」
「で、リスクは?」
暢が答える前に祐介が訊く。
「1つ、パチェによると、過去に送れるのは現状1人だから、何かあった時に助けてもらえない。2つ。下手をすると過去の世界に取り残される。3つ。不用意な事をすると大きく未来が変わる。こんなところね。」
「とどのつまりは、単独行動でも生還しうる人物を送り、尚且つ覚悟があって、不用意に殺したりしないで任務を遂行する……そんなところか。さてどうする? 行けるのは1人、作戦を考えるのは俺ら。モリソンは……もういない。」
弘行が要点をまとめる。そして、祐介はベッカーに相談しようと言おうとしたが、暢がそれを遮った。
「俺に行かせてくれ。」
「おい暢、正気か?」
祐介は念押しをするかのように訊く。
「正気。装備をくれればやってみせる。」
それを聞いた祐介は天を仰いでため息をつく。暢は止めても無駄だろう。むしろ、止める気はなかった。
「なら、お前が行け。その間に俺らは異変解決に向かう。生きて帰ってこい。それが唯一の交戦規定だ。いいな?」
「イエスサー!」
ーーーーー
やると決まれば早いのがTF148流だ。ベッカーに話をすると、すぐにモリソンが置いていった装備が暢に貸与された。全身黒ずくめの戦闘服に、顔を隠すためのドクロのバラクラバ、そして、アサルトライフル
暢は装備を整え、パチュリーから説明を受けていた。その隣でユーリが魔法を使う用意をしている。チョークで床に魔法陣を書き込み、その白線に魔力を送り込むのだ。
説明を受けている暢はいつになく真剣だった。過去を変えて未来も変える。そんな大仕事を任されたのだから。
「いい、これから過去に送るわよ。出口は咲夜の故郷付近。3日後の0時きっかりには紅魔館の正面にいなさい。そこに帰還用の魔方陣を出すわ。もしもしくじったら、永久に現在には帰れないものと思いなさい。いいわね?」
「オーケー。やってくれ。」
暢が魔法陣に乗ると、パチュリーとユーリが呪文を詠唱する。すると、暢の体は光に包まれ、薄れていった。
「行ってくる。」
「必ずやりとげろよ、親友。」
祐介たちはそれを見送る。最後になるかもしれない友の顔をしっかり目に焼き付けようと、暢の姿が消えるまで、ずっと見ていた。
ーーーーー
辺りは暗い。森の中のようだ。現在時刻は21時。暢は腕時計を見て、現在時刻と帰還予定時刻を確認する。
無くした装備がない事を確認すると、M4V1に装備してあるフラッシュライトを点灯し、すぐに移動を開始した。廃村には何度か足を運んで調査をしていたので、道は覚えている。星や月を頼りに位置を推測し、道なき道を進む。
「待ってろよ咲夜……」
暢はそう呟くと、茂みの中を駆け足で進み続けた。急がなければならない。装備が重いが、それでも早く、辿り着かなければならなかった。
咲夜はこの頃、まだ10歳位だったはずだ。なぜ殺されかかるのか、理解できない点は多いが、そんなことより救出して紅魔館に連れて行くのが先決だ。
「おっと。」
前方に熊。こちらに気づいたのかもしれない。フラッシュライトのスイッチを切り、代わりにナイトビジョンを装備する。暢はナイトビジョンが苦手だが、熊とやりあう自信はないので渋々使うことにしたのだ。
熊は立ち上がって辺りの匂いを嗅ぐ。暢は茂みに伏せって熊に見つからないように隠れていることしかできずにいた。それから熊がいなくなるまで10分くらい立ち往生する羽目になった。
そのロスを取り返すため、息切れ覚悟で全力疾走し、先を急いだ。
村に近づくにつれて、騒ぎ声が聞こえてくるようになった。遅かったか? まだ望みはあるはずだ。そう信じたかった。
すると、松明の群れが何かを追いかけているのが見えてきた。暢はフラッシュライトを消すと、松明の群れを追う。そこに咲夜がいるかも知れない。
いつもより銃が軽い分、スピードが出せる。松明の群れに追いつくにはそう時間はかからなかった。
ーーーーー
その頃幻想郷。
「んでもって、異変解決は暢と咲夜抜いて4人で行くのか?」
博麗神社で、祐介、霊夢、弘行、魔理沙はコタツに入って作戦会議を行っていた。
「そうなるわね……そろそろ寒いのも嫌だし、なんとかしないと……」
霊夢はみかんを口に運びながら言う。
「でも、こんなことができる奴相手に4人で足りるか? まあ、霊夢と魔理沙いるから大丈夫だろうが。」
「ああ。2人いないくらいなんてことないぜ!」
魔理沙は弘行の言葉に威勢良く答える。
「その話、聞かせてもらったよ!」
突然、逸波が勢いよく襖を開けて現れた。後ろに猛もいる。
「お母さん、寒い。閉めて。」
「逸波さん、とりあえず話は入ってからで……」
「寒いぜおばさん!」
「逸波さん、タケさん、換気は十分ですから……」
「わかったわかった。今閉めるから。とりあえず魔理沙、あたしはまだ30代だよ!」
逸波は魔理沙へ飛びかかる。弘行は咄嗟に魔理沙をかばった結果、逸波のチョークスリーパーを食らう羽目になってしまった。
「グギャギャギャ……」
「やめてください逸波さん! 弘行死にますよ!?」
「弘行ぃぃぃぃぃ!」
弘行は逸波の腕をばしばし叩いてギブアップの意思表示をする。すると逸波は意外とあっさり弘行を解放した。
「とりあえず、今回の異変はなんかキナ臭い。いやーな予感がするんだよ。だから、あたしらも付いていく。文句はないね?」
逸波の有無を言わさぬという雰囲気に、4人は静かに賛成した。暢がいない今、少しでも味方は多いほうがいいと祐介は思った。