暢は草むらに隠れながらスコープを覗き、松明の群れの様子を見た。追いかけているのは、咲夜に似てはいるが、違う。少年だった。
「もう1人のガキはどこだ!?」
「別の連中が探してるよ! そろそろ捕まえてるだろ!」
そんな村人の声が聞こえた。暢の最優先目標は咲夜の救助。心苦しいが、もう1人助けている余裕はなさそうだった。
何もせずに立ち去るのも気がひけるので、1つだけ閃光手榴弾を取り出して群衆に投げつけてやった。
「上手く逃げろよ。」
暢はそう呟くと、閃光手榴弾で視界を奪われた村人の1人を捕まえ、茂みの中に引きずり込んだ。
「な、何だ!? 誰だ!?」
暢は答えず、ナイフを抜いて男の首に押し付けた。
「もう1人の子供はどこだ? 女の子だ。」
「し、知らねえよ! やめろ! その包丁をどけろ!」
「じゃあ、他の連中、というのはどこに探しに行った?」
暢はナイフを少し強めに押し付ける。男は抵抗をやめ、あっさり答えた。
「ここから西の方角……頼むから助けて……」
言い終わる前に首を締め上げて気絶させた。そして、男を草むらに放置して西へ向かって走る。とんだタイムロスだ。暢は内心焦りながら走り続けた。一刻も早く咲夜を助け出すために。
葉の擦れる音、自分の足音に混じって、大勢の人間の足音が聞こえてきた。
そして、かすかに聞こえる少女の声。見つけた! あそこだ!
暢は視界に銀髪の少女の姿を捉えた。その後ろから数人の男が追いかけている。
ちょっくら驚かしてやるか。暢は悪戯心の命ずるままにM4V1のサプレッサーを外し、男たちへ威嚇射撃を行った。突然の銃声といきなり現れた黒ずくめの男を前に、村人は固まった。
「おうおう、そこを動くなよ? どタマ吹っ飛ばされたくなければな。」
暢は咲夜と思しき少女の盾になるように割り込んでいく。銃口は男に向けたまま、にらみ合いが続いた。
「とっとと失せろ!」
しびれを切らした暢がその辺に発砲すると、男たちは蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。
「やーいやーい弱虫やーい!」
暢は気分良く罵倒したあと、咲夜の方を向く。もちろん、咲夜は怯えていた。
「おいおい、そこまでビビらないでくれ。助けに来たんだからよ。」
「誰……?」
怪しまれて当然だろう。黒ずくめに顔もドクロのバラグラバで隠し、武器を携行しているのだから。だが、過去の咲夜に顔を見せて大丈夫なのだろうか。いや、そんなはずはない。
昔の暢なら後先考えずに顔を見せていただろう。多少は暢も1人の兵士として、成長したのだ。
「まあ、通りすがりの兵士とでも言っておく。事情があって顔と名前は教えられなくてな。ゴーストとでも呼んでくれ。」
もしこの場に祐介がいたら鉄拳を伴うツッコミを入れられたかもしれないと、暢はバラグラバの下で苦笑いを浮かべる。
「ゴースト……?」
「幽霊って意味だ。ピッタリだろう?」
咲夜はクスッと笑った。ファーストコンタクトは上手くいった。暢はそう思った。
「安全なところに連れて行ってやる。行こう。」
「でも……」
暢は咲夜がなにやら足を押さえているのに気づき、様子を見てみる。どうやら捻挫したらしい。
「しゃーなし。しっかり摑まれよ。」
暢は咲夜を肩に担ぎ、運ぶことにした。
「わわわっ……」
咲夜は急に持ち上げられて驚くが、大人しく暢にしがみついて運ばれることにしたようだ。
暢は咲夜を担いだまま紅魔館への方角へ歩き出す。時間はまだあるのだ。体力を余計に消耗するのは好ましくない。
片手でも扱えるGLOCK 17Cに持ち替え、あたりを警戒しながら歩く。まださっきの村人がうろついているかもしれない。ふと、暢は気になったことを咲夜に聞いてみることにした。
「なあ、どうして追っかけられてたんだ? なんか悪いことでもしたか?」
咲夜は首を横に振った。まあ、当然だろう。
「じゃあ何があった?」
「……能力があるから……能力のある子は危ないから……」
「するとなんだ、能力ある奴は殺されるってのか?」
咲夜は縦に頷いた。
「なーんだってロクでもない因習だな。能力あってなーにが悪いってんだよチキショーメー!」
咲夜はクスリと笑った。暢は狙い通りとばかりににやけた。見えないが。
「能力の良し悪しを決めるのはよくわかんねー他人じゃねえ。自分自身だ。覚えておくが良いぞ。いつか、その能力の真価を発揮する時が来るからな。」
咲夜は首をかしげていた。理解できなかったのかもしれない。まだ小さい咲夜には難しすぎる。そう思った暢は苦笑いを浮かべた。こんな事が祐介にばれたら小突かれるだろうな。ガキンチョにそんなムズイ話ししてどーするよ、って。
「……ゴーストは、ひとりぼっちなの?」
暢にこの言葉はグサリと来た。そうだ、祐介に聞かれたらとか考えているけど、過去の幻想郷にいるのは自分1人なのだ。
「いや、友達は結構いる。ちょいと離れたところにいるだけさ。なーに。この任務が終わればまた会える。」
「じゃあ……私のせいで……」
「あーいいのいいの。俺が自分から行くって言ったんだからよ。それに、これが終わった後もおめーとはまた会える。」
「そうなの?」
「ああ。未来でだけどな。」
暢はふと夜空を見上げた。未来の幻想郷と変わらぬ夜空がそこにはあった。
「今日はこの辺で休むぞ。」
暢は担いでいた咲夜を降ろし、その辺に重いバックパックを下ろす。そして、中から戦闘糧食を取り出し、袋を開けた。遅めの夕食というより、最早夜食だった。腕時計を見ると、既に23時を越えている。
「それはなに?」
「戦闘糧食。MREレーションって言うんだ。」
暢は小袋を分ける。……待て、MREだと!? クソまずいと悪名高いMREだと!? しかもかなりマズイらしい野菜オムレツ! いかん、こいつは咲夜に食わせていいものではない! 暢は再びバックパックを漁った。すると、祐介と弘行が入れたらしいポリ袋にコンビーフや菓子パン、チョコバーが入っていた。同封されている手紙には『咲夜にMREのトラウマを植え付けるな by祐介&弘行』とあった。あの2人もMREの被害者なのだ。
「咲夜はこっちな。」
暢はポリ袋の食料を咲夜に渡す。そして、暢はMREレーションの恐怖に向き合った。
目の前では咲夜がクリームパンを美味そうに食っている。うん。この笑顔を守るため、俺はこの恐怖に打ち勝たねばならない。
暢は胃を決してオムレツを口に放り込んだ。ケミカルな味? しないしない。そう自分に言い聞かせる。付属のタバスコが足りない。
そして、咲夜が食事を終えて満足そうな顔をする頃、暢は草むらに倒れていた。残さず食ったよ……暢は未来にいる仲間へとそう語りかけた。
敵に拒否された食べ物? 食べ物に似た何か? 知るか。胃に入ればみんな同じなんだよちくしょう。
生命を維持するための食事で生命の危機を感じた暢は、眠気で薄れゆく意識の中、そう思っていた。
ちなみに咲夜は投げ出された暢の腕を枕に眠りについた。