東方〜2つの世界の守り人〜   作:Allenfort

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mission50 惨劇の彼方

霊夢の勘が珍しく外れた。何度か示した場所がダミーだったのだ。それを1つ1つ潰し、辿り着いた先はあの廃村だった。咲夜の生まれ故郷で、雷人が復讐の手始めに滅ぼした村……その中の1つ、焼け残った家の床板を剥がすと、地下への入り口があった。雷人は生家の地下に基地を作っていたらしい。

 

口寄せの能力が本当ならば、きっと悪習によって殺されていった子供たちの怨念を背負っているはずだ。自分の、そして子供たちの復讐のために、奴は動いているのだ。

 

地下はコンクリートで壁を固めた迷宮のようになっている。幾つにも道が分かれ、祐介たちは隊ごとに分かれて進むことになった。

 

「なあユーリ、いいのか? パチュリーを置いてきちまってよ。」

 

ヴィンペルチーム、キリルは前進しながらユーリに訊いた。ユーリがついて来ようとしたパチュリーを振り切ってきたからだ。

 

「まあな。パチェはこのところ普通に歩いて大丈夫なくらい鍛えたけど、俺たちについてくるのは辛いだろうし……あいつには生きていてほしいからな。」

 

「おいおい、死ぬと決まったわけじゃないぞ。生還しよう。母なるロシアのために、幻想郷のためにもな。」

 

ウラッドはそう言ってユーリの肩を叩く。暫く歩くと、開けたホールのような場所にたどり着いた。行き止まりのようだ。

 

「戻ろう。ヴィクトル、背後は頼んだ。」

 

「了解。」

 

ウラッドは引き返そうとする。だが、その瞬間に入り口が崩れ、閉じ込められてしまった。辺りに警報が鳴り響く。罠だったのだ。シャッターが開いて大量の感染者が飛び出してきた。

 

「おいおい……冗談も程々にしろよな……」

 

ウラッドたちは咄嗟に背中合わせになり、方陣を敷くと全方向から迫り来る敵に対して射撃を開始した。

 

「クソッタレ! ウォトカを飲んでる暇もないぞ!」

 

ヴィクトルは悪態をつきながらも必死に弾幕を張り、敵をなぎ倒していく。だが、多勢に無勢。リロードの間にも距離を詰められ、ついには白兵戦になる。銃を投げ捨ててスペツナズ・マチェットで感染者のブレードを弾き、頭を叩き割る。だが、1体倒す間に敵は5体ほどがいっぺんに押し寄せて来る。白兵戦になったところで勝ち目はなかったのだ。もみくちゃにされた4人はだんだん陣形が崩れて離れていってしまう。

 

「うがっ!」

 

まずはヴィクトルがやられた。腹を鋭いブレードに貫かれたのだ。もう助からない。そう悟ったヴィクトルは手榴弾を両手に持つと、ピンを引っこ抜いて目を閉じた。あとは頼む、そう言い残して。

 

手榴弾が炸裂し、ヴィクトルの体ごと周りの感染者を吹き飛ばす。それでも、残りの3人が楽になるわけではなかった。

 

「っああ! こんなところ……で……!」

 

キリルも腹部を刺された。目蓋には一緒に遊んだ里の子供たちの顔が映る。死にたくない、そう思ったがもう助からない。そう心のどこかでわかっていた。ならばヴィクトルに続こう、こいつらを外に出すわけにはいかない。キリルは最後の力を振り絞り、手榴弾を取り出してピンを抜き、絶命した。

 

キリルの手榴弾が爆発しても、形勢は覆らない。ユーリとウラッドは背中合わせになる。2人ともあちこちに傷を負っていた。

 

「ユーリ、ここまでのようだな……お前のAT-4で中央のでかい柱をやれ。丸ごと潰そう。」

 

「わかった……」

 

ユーリはAT-4CSを構える。ウラッドは覚悟を決めてユーリに迫る感染者をその身1つで押さえ込む。肉の壁になり、敵の群れを押さえ込む。腹や胸を刺され、肩に噛み付かれて痛みに顔を歪ませる。

 

さようなら、パチュリー。

 

ユーリはしっかり目を見開いて対戦車榴弾を放つ。まっすぐ飛翔したロケット弾は柱に突き刺さり、炸裂して柱をへし折った。天井からは流星群のように瓦礫が降り注ぐ。これで終わる。これでいいのだ。

 

楽しい、人生だったな……

 

そう思うユーリの瞳からは、一筋の涙が溢れていた。

 

ーーーーー

 

「愛良! 生きてるのは!?」

 

「あと6人です!」

 

アランたちジャッカルチームとジェームズ率いるユニオンチーム、ベッカー、愛良もヴィンペルチームと同じ状況にあった。閉じ込められ、大量の感染者と戦っているのだ。

 

既にチャーリー、バーンズ、ヘンリー、ウィルは死亡している。残った6人ももう長くは持ちそうになかった。

 

「ぐっ……! やられた……!」

 

「こっちも……!」

 

ジェームズとジョンが感染者に刺され、その場に膝をついた。そんな時に脳裏をよぎるのはレミリアとフランのことだった。自分たちがいなくてもしっかりやれるだろうか? やれるからこそ、自分たちを送り出したのだろう。ならば、もう役目はここまでだ。

 

覚悟を決めたジェームズとジョンはドア破壊用の爆薬を持って感染者の群れに突っ込んでいく。このまま死んでは自分たちも感染者の仲間入りなのだ。ならば、せめてそうならないように死のう。あの誇り高い吸血鬼に、人間にもなけなしの誇りがあるのだと見せつけてやろう。そう思った。きっと、許してくれるだろう。帰ることが出来ずに、運命に抗えずに死ぬことを。

 

2人は起爆に成功し、自分ごと感染者を吹き飛ばした。

 

「ああ……雛に厄払いして貰えば良かったかもな……」

 

「今さら言っても遅えよ間抜け!」

 

ジャックとアランはそんな言い合いをしながらも戦う。恐怖を少しでも和らげるためにこうして言い合いをするのだ。それは長持ちはしないが、ないよりはマシなのだ。

 

「くそ! もうもたな……」

 

最後まで言い切る前にベッカーの首は感染者に切り落とされていた。愛良も胸や腹を滅多刺しにされ、その場に倒れてしまった。

 

「ここまで、ですかね……」

 

ぼやけていく視界の中、バックパックに詰めてあるC4爆薬を起爆すべく、スイッチを取り出した。きっと、バルチャーがあとはなんとかしてくれる。

 

能力がないから仕方ないですが、最期くらいはバルチャーの一員として戦いたかった。愛良はそう思って少し笑いながらスイッチを押し、爆破した。

 

傷だらけだったアランとジャックを巻き込むことも想定済みだったのだろう。既にボロボロだった2人はさらにボロボロになって壁に叩きつけられていた。

 

「全く……助からねえってわかってるからって……」

 

「もう少し優しくしてもらいてえな……」

 

アランとジャックはそうボヤく。目の前の感染者は全滅していた。自分たちも出血がひどく、このままではどうせ持ちはしない。覚悟を決めた2人は自分の頭に拳銃を向け、迷わずトリガーを引いた。あいつらと同じにならないために。

 

ーーーーー

 

祐介、暢、弘行は霊夢、魔理沙、咲夜とともに地下施設の奥深くまで侵入していた。どこか遠くから響いてくる爆発音が仲間の死を伝える。6人は目尻から涙をこぼしながらも走り続けた。無線機からはノイズだけで、もう声も聞こえてこない。外から指揮しているモリソンの声も、ここまで深くまで来てしまえばもう届かない。3人はインカムを耳から外し、その場に捨てた。

 

ここで自分たちが逝っては仲間の死が無駄になってしまう。だから、ここで死ぬわけにはいかないのだ。

 

目の前に敵兵が現れる。人間の兵士だ。

 

「邪魔だどけ!」

 

祐介がそう叫んでG36Cを走りながら撃つ。弾はあちこちに散らばり、一部が敵兵に吸い込まれ、あるものは壁に当たって跳弾し、敵兵に当たった。

 

止まるという選択肢はない。総てをここで終わらせるためには進むしか方法はない。そして、鍵を握るのは霊夢だ。霊夢の勘に従って進んでいる。だから、霊夢が死んだり、勘が外れれば則ち全員の死に繋がるのだ。

 

祐介はただ霊夢を信じて突き進む。ブーツの中で足が擦れ、痛むがそれすらも気にならなくなってくる。誰かに背中を押されているような感じがする。

 

頑張れ、俺たちがついている。

 

祐介たちの目からは涙が溢れる。仲間たちに背中を押されているようだ。任せろ、俺たちについてこい。連れて行ってやる。終着点へ。

 

「前方、ドアだ!」

 

弘行が叫ぶ。前方には大きな鉄製の2枚扉が鎮座していた。暢が速度を上げてその扉へと飛び蹴りを放つが、鈍い金属音が響くだけでビクともしなかった。

 

「固え! 爆破するか?」

 

「やれ! 設置!」

 

暢が爆薬を取り出してドアの蝶番にセットしていく。

 

「祐介、この先みたい。当たっていればだけど。」

 

「そうか……戻るなら今のうちだぞ?」

 

壁に背を預けた祐介は隣にいる霊夢にそう言う。答えはわかりきっていたが、念のためである。

 

「戻らないわよ。博麗の巫女なんだから、異変解決はちゃんとやらないとね。魔理沙と咲夜は帰っていいわよ?」

 

すると、魔理沙はニッと笑い、咲夜も静かに笑みを浮かべて見せた。

 

「何を言うかと思えば……親友と弘行を置いて逃げるわけないぜ。」

 

「ええ。それに、兄に1発お仕置きしないと気が済まないわ。」

 

それを聞いた祐介、暢、弘行も静かに笑った。怖い、そんな気持ちをこの会話で振り切ってしまいたかった。

 

「爆破用意完了! 下がれよ。」

 

祐介たちはドアから離れる。暢が先頭に立って起爆スイッチを握り、少しだけ後ろを振り返る。

 

「仲間たちのために。」

 

祐介は軽く縦に頷く。

 

「幻想郷のために。」

 

弘行は大きく縦に頷いてサムズアップして見せた。

 

「明日のために。」

 

暢は前を向くと、起爆スイッチを押して爆薬を起爆、ドアの蝶番を破壊した。それと同時に祐介がドアの前に躍り出て、ドアを蹴破る。2枚の扉が前へと倒れ、石畳の床に倒れて大きな音を響かせる。

 

突入した部屋は天井が高く、広々とした部屋だ。ドーム型の野球場のような広さだ。奥には大きな円柱型の柱がある。部屋の周囲にはコンソールが並び、画面には様々な画像を浮かび上がらせていた。

 

「来たか。他はもう死んだぞ。お前たちも一緒に逝ったらどうだ?」

 

奥の円柱型の柱に雷人が寄りかかって不敵な笑みを浮かべている。祐介たちが部屋に踏み込むと、扉があった場所に隔壁が降り、逃げ道を塞いだ。だが、振り返る者はいない。逃げる気はないのだから。

 

「逝くとしても、お前を道連れだ。」

 

弘行がMk.11を構え、スコープの十字レティクルの真ん中に雷人の顔を捉える。咲夜と同じ銀髪、血のように赤い左目。赤目は後天性の物だろう。強い衝撃を受けた時になる事がある。当然、視力は落ちているはずだ。

 

「面白いことを言うな。試してみるか?」

 

雷人はライフルを手に取ると、ガスマスクを装着した。

 

『Warning,starting release of the gas.』

 

無機質な音声がスピーカーから響く。祐介、暢、弘行は腰から吊るしていた袋からガスマスクを取り出すと、霊夢、咲夜、魔理沙に被せた。

 

「絶対取るなよ?」

 

「祐介のは……?」

 

「ない。1人につき1つだけだ。念のため、だから心配するなよ。」

 

祐介も、暢も、弘行もそう言って笑ってみせるが、その瞳には覚悟が隠されているように見えた。何の覚悟なのかはわからないが、霊夢も、咲夜も、魔理沙もなにか嫌な予感がしていた。

 

「全兵装使用許可、奴を殺せ! それだけが交戦規定だ!」

 

祐介が叫ぶと、暢と弘行が左右へと走り出す。霊夢と魔理沙と咲夜は飛び上がって雷人へ無数の弾幕を放つ。

 

雷人は高く飛び上がってライフルを構えると、まずは祐介を狙った。司令塔を潰せば混乱すると読んだのだろう。

 

もちろん想定済みの行動であるため、祐介は落ち着いて物陰に隠れる。散在するコンソールに身を隠し、移動し、時々撃つ。その間に側面から弘行が雷人を狙撃し、祐介への攻撃を中断させた。

 

雷人の纏うロングコートは硬い。防弾のようだ。霊夢たちの弾幕に殺傷力はないが、防弾なんてお構いなしに雷人へ痛みを伝える。あまりのうっとおしさに雷人は顔をしかめた。

 

すると、雷人の姿が霞のように消え、暢の背後に黒いもやが一瞬だけ現れた。マズイ、と野生の勘で振り返った暢の目には、雷人の姿があった。

 

突き出される銃剣をM249の本体で受け流し、蹴りを繰り出す。脇腹に蹴りが当たり、雷人がひるんだ。チャンスとばかりにマチェットを取り出して切りかかるが、また雷人が消えてしまい、マチェットは空を切った。

 

今度は霊夢の背後にもやが現れる。だが、霊夢は何となく来ると予感していたようで、後ろを振り返って封魔針を投げつけた。

 

封魔針の刺さった雷人は床に墜落し、動きが鈍る。それをチャンスとばかりに6人が集中砲火を浴びせる。すると、防弾仕様のロングコートに穴が開き始めた。本体に弾を撃ち込めるか、そんなところで雷人が封魔針を体から引き抜き、元の力を取り戻してしまった。

 

魔理沙のマスタースパークが回復したばかりの雷人を襲う。今度は体が痺れて大の字に倒れ、そこへ降り注いだ咲夜の投げナイフで床にロングコートを貼り付けられてしまい、身動きが取れなくなった。

 

「もらった!」

 

暢の弾幕と、弘行の狙撃、祐介の正確な3連射が雷人を再び襲う。何発か被弾しつつも、雷人はロングコートを脱ぎ捨てて脱出した。だが、もう防御は無い。

 

すると、祐介たちの足元の床にヒビが入り始めた。マズイと直感して飛び退くと、ヒビから岩が隆起した。サイコキネシスだろうか。

 

祐介が飛びのいた先から岩が隆起し、祐介は吹き飛ばされた。空中へ放り投げられ、雷人からのレーザーライフルによる狙撃をまともに食らってしまう。左の二の腕から先が吹き飛び、傷口はレーザーで焼かれたためか出血はなかった。

 

「祐介!」

 

霊夢が祐介の方を向くと、雷人はライフルを霊夢に向けた。弘行が咄嗟に雷人を狙撃し、銃身に弾を命中させた。その衝撃で狙いがズレ、霊夢への直撃は免れた。

 

床に叩きつけられた祐介は残った右手でMk.23を抜き、片手で応戦し始めた。額が切れ、顔半分を血液が汚す。

 

弘行へ雷人が白兵戦仕掛ける。弘行はナイフを抜いて銃剣を1度は弾くが、2度目の斬撃で右人差し指と中指を切り落とされてしまった。悲鳴を上げ、弘行はその場に崩れ落ちる。

 

トドメを刺そうと雷人が構えるが、その背後から祐介と暢が拳銃で、咲夜が投げナイフで背中を撃った。ナイフが刺さり、弾丸が腰に当たる。雷人はその場に倒れると、寝転がって咲夜へとレーザーを放った。

 

「え……」

 

咄嗟に動けない咲夜を暢がM249の銃床で殴って射線から遠くへ飛ばす。そして、8kgの軽機関銃を振り抜いて動けない暢の右肩をレーザーが貫通し、腕が吹き飛んで行った。

 

「ああああ!」

 

だが、左利きの暢はM249のグリップを左手で握っていたため、まだ離していなかった。振り抜く反動に身を任せて空中でくるりと回転すると、雷人に銃口が向いた瞬間、トリガーを引いて弾がなくなるまで撃ちまくった。

 

下手な鉄砲数撃ちゃ当たる。猛烈な弾幕が雷人の左足と右肩を撃ち抜き、雷人は倒れた。同時に、暢も力を失って床に落下し、叩きつけられてしまった。

 

雷人はフラフラと立ち上がると、円柱型の柱へ向かって歩き出す。

 

「能力を取られても……俺の能力を再現した……この装置があればやり直せる……俺は過去に戻り、もう一度やり直す……お前らに……止められるわけには……」

 

弘行は左手でMk.11のバイポッドを展開して床に固定する。片手で撃って当たるかという不安だったが、右側に祐介が伏せ、グリップを握る弘行の手に右手を添え、人差し指をトリガーに掛けた。

 

「俺がトリガーを引く。」

 

今度は暢が左に伏せ、残った左手でハンドガードを握った。

 

「俺が反動を抑えるからお前は奴を狙え!」

 

弘行は霞む視界の中、レティクルをフラフラと歩く雷人に合わせる。狙うは頭より心臓。体が左右に振れているため、狙いがつけにくい。

 

「祐介、撃て!」

 

祐介がトリガーを引く時、きっと雷人の体はここに動いているはずだ、弘行はそう予想をつけ、祐介に指示する。賭けだ。残っている弾はこれだけなのだから。

 

「当たれ!」

 

弘行が狙いをつけ、祐介がトリガーを引き、弾が銃身にから飛び出す前に反動で動いてしまわないよう、暢が抑える。銃口から7.62mm弾が飛び出し、螺旋を描きながら飛翔していく。そして、弘行の読み通りに弾丸は雷人の心臓を撃ち抜いた。

 

雷人は装置へと手を伸ばし、目は虚空を見つめていた。

 

「みんな……今行くから……」

 

雷人はそのまま倒れた。祐介たち3人も立ち上がるが、すぐにその場に倒れてしまった。

 

『Starting discharge of the gas.』

 

また無機質なアナウンスが流れた。そして、霊夢たちが祐介たちに駆け寄る。

 

「祐介!」

 

「霊夢……もう外して大丈夫みたいだぞ……」

 

祐介は絞り出すように声を出す。明らかに傷以外のもので苦しんでいる。

 

「何があったの……?」

 

「野郎、遅効性の毒ガス撒いてやがった……今頃効いてきた……」

 

「そんな……」

 

祐介は震える霊夢の手を血に濡れた右手でしっかり掴む。勇気つけるように。

 

「霊夢、よく聞け……俺はもう助からない。外の世界からこっちに持ち込んだもの、しっかり片付けたから……あとは……幻想郷の未来は霊夢次第だ……」

 

「どうすればいいの……?」

 

祐介は円柱型の柱を指差す。

 

「奴が言っていた……あれで過去に戻ると……過去に戻って、元凶を消せば……この異変は無くなるはずだ……」

 

霊夢は涙を流す前に袖に染み込ませ、祐介に涙を見せまいと精一杯堪える。

 

「わかった……祐介、私、やってみせるから……」

 

祐介は縦に頷くと、自分のドッグタグを霊夢に託す。

 

「俺も、見守ってるから……」

 

霊夢はゆっくり祐介を寝かせると、装置へ向けて歩き出す。

 

「ありがとう、祐介……」

 

「ああ……頼む、行ってくれ(置いて行かないでくれ)……」

 

祐介は掠れていく視界と意識の中、最期に好き、なんてたったの一言も言えないのかよ、情けねえな……そう思っていた。

 

友よ、先行くぞ。みんなが呼んでる……

 

暢は咲夜の腕の中で高笑いをしていた。やったぞ、やってやったぞと。

 

「見たか? 俺が当てたぞ……!」

 

「ええ、しっかり見たわよ……数撃ちゃ当たるの暢にしては、見事なショットね……」

 

咲夜は時々溢れる涙を拭いながら笑って見せていた。

 

「おい弘行、あの機械頼むぞ……俺ああいうの苦手だからな……」

 

「この野郎、どいつもこいつも揃ってああいうの俺に押し付けやがってよ……魔理沙、肩貸してくれ……」

 

「いいぜ……」

 

魔理沙は弘行の右腕を担いで立たせると、ゆっくりと装置へ歩き出した。

 

「行け、咲夜……俺の分までな……」

 

暢はずっと笑って見せていた。そして、ゆっくりとその瞳を閉じた。

 

「ええ……さようなら、暢……」

 

暢は最期に、その声をしっかり聞いていた。

 

俺に色恋沙汰は似合わねえ。これでいいんだこれで。あーあ、あの世で祐介たちと一緒に閻魔に説教されてきますかね……地獄行きだとしても、友と一緒なら怖くねえや……

 

弘行は魔理沙に支えられて機械の横のコンソールに辿り着くと、手探りで動かし始めた。行きたい時代を入れて、起動スイッチを押せばいいのだが、3桁のパスワードがわからなかった。これがなければ動かせない。

 

どうすればいい、3桁、奴はどんな数字にする?

 

その時、作戦前に読んだ資料を思い出した。雷人の村で悪習によって殺された人数が、3桁だったはずだ。

 

「まさか……1、7、3……」

 

すると、装置が起動した。やはりそうか、そして、この装置で兵士や武器弾薬、挙句には軍艦まで持ってきていたんだな、弘行はそう確信した。

 

「弘行! 早く乗ってくれ!」

 

魔理沙は弘行の手を引いて柱と思っていた装置へ向かう。エレベーターのような構造になっていたのだ。

 

「弘行はまだ生きられる! 私と来るんだぜ!」

 

「魔理沙……」

 

だが、弘行はゴンドラに入る寸前に魔理沙の手を振りほどき、突き飛ばした。そして、魔理沙が体を起こすより先に近くのスイッチを押してゴンドラの扉を閉めてしまった。扉の窓に魔理沙が駆け寄り、何かを叫んでいる。口の動きからするに、何をするんだ、開けてくれと言っているようだ。

 

「ごめん、魔理沙。俺は魔理沙と行けない(行きたい)。だけど、もう生きられない(生き残りたい)。俺のことは忘れてくれ(忘れないでくれ)

 

魔理沙は泣きながらガラスを叩く。そして、ゴンドラがゆっくり下降し始め、お互いの姿が見えなくなっていく。魔理沙は完全に見えなくなるまで叫んでいた。

 

弘行は柱に背中を預けてしゃがみ込んだ。息が苦しい。ガスのせいか、泣いているせいか……これでいいのだ。ガスはなくなったのに体が苦しくて仕方ない。心臓が締め付けられるようだ。

 

頭がぼんやりしはじめる。体が倒れるのに、制御できない。死んでいくんだな。魔理沙に、死ぬ瞬間見せずに済んでよかった……最期まで、好きだったな……魔理沙のこと。




次回、最終回の予定。最後に幻想郷を守るのは、やはり霊夢たち。
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