魔女の弟子は先生になりました。   作:那由多 ユラ

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一時間目 喧嘩

 最端の魔女の弟子、異端の魔女となってもうすぐ十五年になるが、その十五年間に散々世話になっているが、今日くらいは言わせてもらいたい。

 

「師匠、死ね」

 

「アッハッハ。何を言うか、私の可愛い愛弟子」

 

 回転椅子をキィキィと鳴らしながら俺の頭を撫で繰り回すのが、何を隠そう、魔導士の最先端を生きる魔女――最端の魔女――譚魂(たんこん) 史霊(しれい)――生粋のショタコンである。

 

「子煩悩と言ってほしいけどね。そっちの方が好感が持たれそうだし」

 

「三十半ばの男に対して子煩悩発揮してんじゃねぇよ。ぶっ殺すぞ」

 

「もう教えて学ばせることはないと思ったのだが、どうやら合法ショタについて教え忘れたようだ」

 

「合法ショタも合法ロリももう習ってるぞ。……まさかボケたか?」

 

「ボケただけだから、マジで認知症を心配してんじゃねぇよ。……話し進めていい?」

 

「話を断りに来てるんだよ!」

 

 そもそも、事前に話は聞いている。

 

 この国唯一の魔法学校、正式名称も『魔法学校』などという、暇なやつがノリと勢いで作ったような、歴史上全校生徒が二桁に達することもない零細すぎる、何を教えているのかも不明な施設に教師として俺を呼ぶ話は、既に聞いている。

 

「だから言っているだろうが。教えて学ばせることがもうないから、今度は教えさせて学ばせようっつー、可愛い可愛い師匠の指導を断るのか?」

 

「師匠の指導は聞くが、自分に可愛いを二つ重ねるような師匠の指導は断るぞ」

 

「可愛い師匠の可愛い命令を聞けよ、男だろ?」

 

「俺は魔女だ」

 

「そりゃそーだ。でもなら見習い魔女として師匠の命令は聞けよ」

 

「………へーへー」

 

 俺みたいな見習いの魔女って奴は、基本的に師匠の言葉に弱い。そこにはまぁ、魔女と魔女との契約やら義理と恩情やらがあって、師匠の命令ってやつにはすこぶる弱い。

 

「じゃ、今年は新入生がいるから()()頑張れよ」

 

「は?」

 

「なぁに、私も教師として就職するから安心しろ」

 

「……は?」

 

 ……担任って、何をするんだ?

 

 

 閑話休題。

 

 

「……はじめまして。何をするかも知らず担任になった、譚魂(たんこん)御霊(みたま)だ。まぁ、よろしく」

 

 根本的に、世界レベルで見ても魔導士って奴はごく僅かなのは確かだ。一つの国に十人いれば多い方で、魔法大国とか言われてるこの国だって、魔法関連の学校なんてここ一つ。

 

 でもだからって、全校生徒が五人はもうなんか違くないか!? 教師の方が倍近く居たぞ!?

 学校だよな? ……通ったことないけど、この状況がおかしいのは分かるぞ。……噂に聞く、塾ってやつか?

 

 事前に師匠から渡されたメモを見つつ、ホームルームとやらを進行する。

 

「んじゃ、出席をとる。……いるのかコレ?」

 

――食の魔法使い、海胆岬(うにみさき) とろり。

 

「はい」

 

 金髪のポニーテールで、青の着物の上に、水色のエプロンと三角巾をつけた女子が軽く手をあげながら返事する。

 

――核融合の魔法少女、煌綺(きらめき) 太陽(たいよう)

 

「はーい」

 

 服と身体を繋ぐように、あちこちから金属のパイプの伸びた、スチームパンク過ぎる格好をした少女が、気の抜けるような返事をする。

 

――剣士の魔女。辻道(つじみち) 霧香(きりか)

 

「はいっ!」

 

 存在そのものが都市伝説、卒業生の殆どが一度も袖を通すことのないらしい魔法学校の制服の、男性用のもの(俗に学ランと呼ばれるらしい、軍服モドキ)を着こなした、刀を腰に掛けた黒髪の少女が、張りのある声で返事をする。

 

――影絵の魔女、狭間(はざま) 沙中(さなか)

 

「……はい」

 

 影のように黒いローブに身を包んだ、顔もよく見えない、おそらく少女が静かに返事する。

 

――人の魔法使い、舞紗(ましゃ) 如羅(にょら)

 

「へーい」

 

 今まで俺の触れて来なかった、安い女に受けそうな小洒落た格好の、チャラ男と言う言葉の似合う、クラス唯一の男子が気軽に返事した。

 

 魔法使い二人に、魔女二人、魔法少女が一人。

 ……クラス分けもう少しどうにかならなかったのか? (いや、そもそも分けるまでもなく、この五人しかいないのだが)

 

「ようこそ、魔法学校へ。お前達生徒には卒業するまでに、人間にぶっ殺されない何かを掴んでもらう」

 

 

 魔法少女、魔女、魔法使い。総称して、魔導士。つまりは俺たちには、人間によって定められた年齢制限というものが存在する。

 

 魔法少女は十五歳。

 魔女は三十歳。

 魔法使いは百歳。

 

 この年齢を過ぎると、魔族と呼ばれる存在になり、人類絶滅のためだけに暴れる……と言われているが、その年齢を過ぎても普通に生きてる魔導士は割といる。

 例えば、俺や俺の師匠、最端の魔女は保存魔法で肉体を二十代のうちに老化を止め、人間の目を騙し騙し生きている。

 例えば、魔法学校の校長、犬歯の魔女は数百年を生きる魔女らしいんだが、老婆の姿でも、対魔族の実力とカリスマ性を人間にも認めさせることで、処刑を免れている。

 

「強くあれ。若くあれ。それが長生きのコツらしいぞ」

 

 今日の一時間目は、死の魔法使いによる魔女狩りの歴史の授業。その間に、俺は俺で午後の授業の準備だ。……何するのかも決めてねぇけどな。

 

 

 

 結局何も思いつかないまま、師匠の手作りの弁当で昼食を終え、午後の授業の時間となった。

 

「俺と俺の師匠の専門は、既存の魔法を別の使い方で活用することだ。炎の魔法を料理に使ったりとかな。で、俺の授業では、魔法の使用方法について考えてもらうことになっている」

 

 とりあえず実技なら大概できそうな外のグラウンドに、生徒達五人を集めた。午前中の授業が堪えたのか、顔に眠気のようなものが見えることだし、とりあえず、眠気を飛ばすことから始めようか。

 

「これ以上座学はやっても無駄そうだし、今日の俺の授業は『喧嘩』とする」

 

 職員室で年増共の授業のことを聞いたところ、大概の魔女と魔法少女が嫌がりそうな、専門分野、専門用語だらけの魔法使い流座学をやったらしい。

 生徒達も、溜まったフラストレーションを発散しようと、特に核融合の魔法少女と剣士の魔女はあからさまに目の色を変えた。

 

「どんな手を使ってでも、俺を再起不能にするか降参の言葉を吐かせてみろ。勝ったらすぐに今日はもう帰っていいぞ。――最端の魔女の弟子、異端の魔女――譚魂御霊」

 

 魔導士共通の、宣戦布告の意味を持つ名乗りを挙げると、真っ先に飛び出して来たのは、剣士の魔女だった。

 

「胸を借りるつもりで参ります! ――犬歯の魔女の弟子、剣士の魔女――辻道霧香」

 

 魔女のくせに、使う武器は日本刀。そういえばこいつの師である校長――犬歯の魔女も、魔女でありながら、戦闘には刀一本で戦う人だったな。

 

「だがまぁ、魔法より遅いんじゃ刀振る意味もないわな」

 

 浮遊魔法の出力を上げて刀の届かない程度の高さまで上がり、振り下ろされる刀を回避した。

 

「……、――影絵の魔女――迫間沙中」

 

 名乗りを上げた二人目の方を見ると、そいつは宙に浮いている俺ではなく、俺の影に目掛けて、影を放った。

 実体は無く、影だけが地を這うように飛んでくる。

 

 どんな魔法なのか確認してから避けるつもりだったが、俺では無く俺の影を狙う攻撃というのは避けにくく、肩のあたりに岩のようなものが衝突したような衝撃が走った。

 

「ぐぉおお!?」

 

 速度は大したことなかったからダメージもあまり無いが、肉体を狙わない攻撃は厄介過ぎるな。上空にいると、影もデカくなるから的もデカくなるし……。

 

「いっくよー! ――核融合の魔法少女――煌綺太陽!!」

 

 来たか、魔法少女!!

 

 魔法少女は魔導士の中でも希少な存在で、全員漏れなく魔族に近しく、そして成ったときから魔族と戦い続けて来た、言うなれば戦争の経験者だ。

 研究者気質の多い魔法使いや趣味人気質の多い魔女とは違い、魔法少女は戦いにだけ魔法を使う。

 

核融合砲火(ニュークリア・フュージョン・バーン)!!」

 

 通常攻撃が範囲攻撃にして、一撃必殺。核融合炉で生まれた熱エネルギー、温度にして理論値一億度以上を、上空にいる俺目掛けてぶちかましてきやがった。視界が歪むどころか曲がりくねった不可視の何かが俺に飛んでくる。

 浮遊魔法を真下に働かせることで自由落下以上の速度で降りることで回避はしたが、明らかに気温がサウナ並みに上がってる。

 

 つーかこれ、俺が上空にいなきゃ全員余波だけで死んでるぞ!?

 

「はぁぁあああ!!」

 

 当然ながら地上に降りれば、日本刀が襲いかかってくる。

 

「嗚呼、鬱陶しいっ!」

 

 空間魔法で日本刀の先端位置を固定して攻撃を止めさせ、影の弾丸には光魔法をばら撒くことで打ち消す。

 

「……これほどの実力でも、先生は見習いなんですか」

 

「見習いだからって雑魚とは限らねぇし、魔女だからって魔法少女に勝てないわけでもねぇよ」

 

 師弟という関係の成り立つ魔導士は基本的に魔女だけだ。魔法使いが魔法使いに教示することもあるが、魔法使いは成った時から一人前。魔法少女はそもそもが自然発生するもの。

 

「気に入らねぇやつだが、教師にも俺と同じ見習いの魔女が一人居るぞ。……つーか、魔法使い二人はどうした?」

 

 人の魔法使い――舞紗如羅と、食の魔法使い――海胆岬とろりからは、そもそも戦闘の意思すら見えなかった。

 

「んなこと言われてもよぉ、こちとらメラすら撃てねぇクソ雑魚魔法使い様だぞ」

 

「私も料理人なので、調理道具である魔法を先頭に使うというのはちょっと……」

 

 ……まぁ、魔法使いがまともに戦えないというのはよく聞く話だ。

 始まりの魔法使いだって、戦闘能力は大したことなく、ただの人間に射殺されたって話だしな。

 

「そうかよ、ったく。まぁ、魔法使いには死ぬほど時間余ってんだから、自衛くらいは身に付けてもらうぞ」

 

 魔法使い二人はなんと十代で魔法使いになった天才達。あと八十年くらいは遊んでいても何ら問題ないけれど、何時なにが起きるのかマジで分からないのが魔導士界隈。明日魔族が襲撃してきて人類が滅びかけたり、魔法少女が徒党を組んで人類が滅びかけたり、魔法使いの実験で人類が滅びかけたりするのが日常なのだから。

 

「負けないぞー! ――核融合砲火《ニュークリア・フュージョン・バーン》!!」

 

「こういうのが居るから、マジで力はないと困るぞ。――地球儀魔法陣(アースマジック・リング)

 

 俺の、俺の肉体でないと使えない、完全オリジナルの魔法――地球儀魔法陣――大量の魔法陣を球体になるように纏めて、頭上に限りなく地球に近い地球儀を作り、地球とリンクさせて環境を操る魔法。魔法陣の量を増やせば増やすほど完成度が上がり、できることも増える。

 

 さっきも見た下手に食らわずとも骨すら残らない熱の暴力を、地球の大気を操ることで地球外に解き放つ。

 

「んじゃまぁ、こっからは勉強の時間だ」

 

 教師なんて今でも乗り気じゃねぇけど、魔導士五人に教えるってのは存外心が躍るな。年増共が挙って授業を面白がってたのも理解できるな。

 




《キャラ紹介》
 異端の魔女――譚魂(たんこん)御霊(みたま)
 男 35歳 主人公

 二十歳の時に師、譚魂(たんこん)史霊(しれい)に保護され、今話までの約十五年間の間は弟子として指導を受けていた。
 保護される前は別の名で呼ばれながら、己を殺すように生きてきた。美麗に華麗に端麗にとあらゆる人種に育てられ、男の身でありながら力よりも美を常に求められ。
 育った環境もあって身長は子供のように低く、顔はそこらの少女よりも美しい。髪は今でも長いがそれは、母にして師である史霊の趣味に合わせたもの。

 身長の低さが何よりもコンプレックスで、常に浮遊魔法で浮き、大人サイズのローブを着ている。

 魔法は基礎的なものは一通り使えて、得意なのは特異な使い方のできる魔法。



 
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