鮮血少女と鮮血狼   作:熊田ラナムカ27

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 息抜きを兼ねて考えていたものを書いてみました。私が投稿しているもう一つの作品の投稿頻度を遅くしないように(手遅れ)しながらやっていきます。


プロローグ
1 ナイフと出会いと


 

 その日は本当に運のいい日だった。俺の13年の人生の中で最も運のいい日だった心の底からと言える本当に運のいい日だったのだろう。

 

 多忙な身である父さんに指導受け、道端のコンビニでなんとなく買ったヒーローカードでまさかのURオールマイト引き当てるという偉業を成し遂げた。その勢いのまま憧れの先輩に告白し、見事撃沈したものも今となってはいい思い出だ。

 

 そう、ここまでは本当にいい日だったのだ。ここまでは。

 

 「白髪に整った顔……そして美しい鋭い歯……。素敵ですね。ここで殺してもいいですか?」

 

 繁華街の光も届かぬ薄暗い裏路地。

 

 そこに女はいた。

 

 ナイフを突きつけ、鋭い八重歯を見せ笑うイカれ野郎……世間的にヴィランと呼ばれる者と俺は出会ってしまった。

 

 なんでこんなイカれた展開になっちまった!?事の発端は一体何だよクソが!!

 

 えーっと、一旦落ち着け俺。こういうときは落ち着いてものを考えろといつも父さんにもよく言われているだろう俺。

 

 そうだ、確かそうだ。日課のランニングをしてたらどこからか”うまそうな血の匂い”に誘われて知らない道を走っていたんだ。それに誘われて路地裏入ったらこいつがいたって……何やってんだよ俺!!明らかに不審な要素しかないだろ!!こういうときはヒーローに連絡だろ!このバカ!!

 

 そんな問答を心の中でやっている間にも女はこちらに近づき、ナイフを振るう構えをとっていた。月明かりに照らされ、不気味に金の瞳が光る。

 

「きれいですねそのお顔。その奥にどれだけきれいな血があるのでしょう。実に楽しみです」

 

「おいおいおいおい、こんな事したら、お前永遠にヒーローと警察に追われるぞ。こんな危ない物閉まって俺と一緒に繁華街出よう。そうだ!それがいい!!」

 

「嫌です。ずっと我慢しているのは嫌なのです。ずっと普通を演じているのは嫌なんです。ずっと血を見るのを我慢していたんです。だからご褒美を少し貰ってもバチは当たりませんよ」

 

「ヒーローに追われるのがバチだっての!そんなご褒美は受け付けておりません!!早く仕舞ってくれよそのナイフ!!今なら未遂事件で済むからって……あっぶな!!今刺そうとしただろ!!」

 

「惜しいのです。あと少しで血を見れたのにかわされたのです。やはり初めての事は難しいですね」

 

「そんな初めてを経験しようとすんなよ!!このバカ!!」

 

 楽しそうに振るわれるナイフを躱しながら説得はするものの、このイカレ女は話を一切聞こうとしない。

 

 一言話すたびにナイフは俺の顔かすめ、女が嬉しそうに笑う。

 

 そんなイカれた状況を終わらすため、俺は突き出されるナイフを両手で受けとめ、それを容赦なく握りつぶした。

 

 自身の武器を失ったというのにこの女……笑ってやがる。それも無邪気にピョンピョンはねてやがる。本当に気味が悪い。

 

「ナイフを握りつぶすなんてすごいですね!それがあなたの個性ですか?」

 

「んなわけあるか。勝手に個性使って捕まる法律は知ってるだろ。これは俺の鍛え上げた筋肉で無理矢理壊しただけ。個性は使っていない」

 

「なんだつまんない。せっかくナイフを振るったというのに、あなたの個性を見ることができないだなんて本当に残念です。あーあ。つまんないの」

 

 そいうと女は緊張感なくその場に寝っ転がった。匂いからして武器はないようだが、そうでなくても無防備すぎる。本当になんなのこいつ?

 

「んで、なんで俺を襲ったんだ?血がどうたらこたら言ってたが」

 

「知りたいですか?知りたいですよね!私トガヒミコは血がたまらなく好きなのです!!しかし、誰も血を見るのを許してはくれません。なのでずっと我慢していましたが限界なのです。もう体が血を求めて仕方ありません。それで彷徨っていたところ、あなた様がここに来てくれたのです!!これはまさしく運命!なので血を……」

 

「しょうがないな。今見せてやるか……ってなるか!誰がナイフに好んで刺されたがるんだよ!!好んで刺されたがる変態なんてこの世に──」

 

「あっ、私別に刺されていいですよ」

 

「いたわ!!そんな奴目の前にいたわ!!なんかごめん!!」

 

 すり寄って来るこいつを適当に追い払いながら、俺は思考する。

 

 体が血を求めたとかなんとか言っていたが、もしやこいつの個性、俺と同じ血を取り込むタイプか?だとしたらかなり面倒な事になってやがる。

 

 血を取り込むといったヴィランよりの風潮が強い個性は周囲の環境次第で簡単にヴィランに落ちちまう。その落ちる理由は至って簡単、欲求を抑えられないからだ。

 

 ぶっちゃけたところ、個性を1年使わない状態を続けるのはほぼ不可能だ。なんて言ったって個性は身体機能の一つ、つい使っちまうのも本能だ。

 

 だがそれがもし、数年抑えられてたらどうなる?危ないから使うんじゃないと言われ続けたらどうなる?答えは簡単、それは爆発する。それも大事件として多くの者を巻き込んでの大爆発を。

 

 俺もその一人だったし、俺は親の理解があったからなんとかなったが、こいつはおそらく違う。ひたすら我慢し、欲求を押さえつけ、どこかが壊れ、爆発寸前となっている。見逃したら最後、こいつは大量虐殺を間違いなく引こ起こす。

 

 故に俺はどうしたもんかと頭を抱えながら口を開く。

 

「まぁ、お前の動機はわかったよ。大方個性が血を求めているってこともな」

 

「えっ、なんで!?なんで私の個性が血を取り込むものだとわかったの!?なんで!?エスパー!?」

 

「あんまひっつくなよ暑苦しい。俺もそういう個性だから何となく分かるんだよ。そういう感情は。だから俺はエスパーでもなんでもない」

 

「へー、そうなんだ。私と同じなんだ。えへへっ」

 

「なんで嬉しそうなんだよ?」

 

「こういうヴィラン向けの個性、気味が悪いって言われてばかりでしたからなんか嬉しいんです。私と同じ人がいたんだなって」

 

 つい先程までの気味が悪い笑みが消え、女は普通の人のように笑った。

 

 それと同時に、俺はこいつが俺と同い年くらいなことと、こいつの首元に炎症……誰かにつけられたものがあることがあることがわかった。

 

 ふとよぎったあの光景を抑えながら、俺は再び口を開く。

 

「……それで、お前これからどうするんだよ?我慢し続けるのも無理だろ」

 

「……わからないです。このまま生きにくいのも嫌ですし、本当にどうしましょう……。まぁ、あなたには関係ないことですが」

 

「……行くのか?」

 

「はい、もう行きます。あなたとおしゃべりした事、本当に楽しかったです。もう……会うこともないでしょうが。じゃあ私はこれで」

 

 そう寂しそうに言い残すと、路地裏の奥に行くため、立ち上がった。気味が悪い気配はもう彼女にはなく、ただ……寂しそうだった。

 

 ……こんなもんだよな、俺にできることなんて。きっと、誰かがこいつをなんとかしてくれるよな。そうだ、きっとどうにしてくれる。きっと──

 

 

 

『助けて…………お兄……ち…ゃん……』

 

 

 

 

 あのときの映像が頭をよぎり、俺は歩みを止める。そして、気づいたときには掴んでいた。彼女の手を。

 

「……何か御用ですか?もう話すことはないですよ?」

 

「……なぁ、お前、生きにくいのが嫌ってついさっき言ってたよな?それは……本心なのか?」

 

「はいそうです。本心です。私は……普通に生きたい、普通に笑いたい。けど……そんな事……」

 

「できないのなら見せてやる。見れないのら作ってやる。この俺が、お前を、普通に生きれる場所に連れて行ってやる。だからヒミコ、こんなところから出よう。こんな、クソみたいな世界から」

 

 おどおどとしていた彼女の手を引き、俺は暗い路地裏走った。ただただ光が見たくて外に出た。

 

 

 

 

 そして2年後、俺達はヒーローの登竜門である雄英高校を受験することなる。

 

 

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