2 試験に騒ぎに逃走劇
長いような短いような中学生活を終え、俺達は雄英高校ヒーロー科入試を受けるため雄英高校へと足を伸ばしていた。
どこからか来る威圧感と安心感に感服しながら、俺は手に力を込める。
「いよいよだね試験!楽しみですね!待ち焦がれたかいがありましたね!」
……手に力を込めたのも束の間、こいつの気の抜けた声で俺は全身の力を抜いた。
そして訪れた胃痛に胃を抑えながら口を開く。
「これは一種の拷問だ……楽しみなわけないだろ……。……くっそ、胃が痛い」
「……私にできること言ったら血を吸うこと。血を吸えば私は気分が良くなる。つまり
「ヒミコ……心配してありがとな。じゃあ血を……ってあげるか!人前で人の血を吸おうとすんじゃない!!お前初対面の奴にそれ絶対やるなよ!!絶対驚くから!!」
「でも狼、胃が痛いってませんでした?」
「お前がそういうことをやらかしそうだからだよ!!」
いつものお約束なようなツッコミを入れ、俺は改めて頭を抱える。
こいつ引き取って2年ほど経ち、こいつもいい方向に変わってくれた。人を刺殺して血を見るなんて事はしないようになったし、皆に自信を持って自慢できるほど優しい子になってくれたし、勉強も……まぁ……それなりにできるようになった。
しかしだ。こいつの変えることできなかった点が一つある。それは見ての通り、誰かの血を飲みたいという欲求を持っているという点だ。
これに関しては個性の関係上仕方ないところではあるし、俺もそういう欲自体はあるので納得も理解できる。だが、人前で誰かの腕を噛んで血を吸うのだけは本当にやめてほしい。
こないだも血を飲みたい欲求を抑えられず、赤の他人の受験生の腕を甘噛し、試験会場を大きく騒がせた。
その場にいた俺の説明と、個性届けを担当者に出していた事、そしてヒミコが甘噛までで留めてくれたことで皆納得はしてくれたものの、本当に申し訳ないことをした。おまけとして、俺の胃のHPが半分飛んだ。
本当にいい子になってくれた。本当に優しい子になってくれた。
だから頼む……。俺の胃のHPをなるべく気遣った上で血を吸ってください。でないと俺の胃は完全になくなるから……。
「『まぁそんな気を張らずやっていけば大丈夫でしょう』とヒミコ様もこう申していますので大丈夫ですよ。狼ならきっと」
ヒミコはそう言いながら俺の肩を叩き笑った。
……もしかしたらあのお約束は俺の力を抜くためにやってくれたのかもしない。こいつ結構人を見ているから、俺が力を入れ過ぎているのを察したのかもな。
だが………
「ありがたいお言葉をありがとうございますヒミコ様。しかしヒミコ様、あなたの英語のテストは──」
「さぁ今日も頑張っていましょう。話はそれからですから」
「早々に現実から逃げるんじゃない。ちゃんとこっちを見て口を開け」
残念なことに、こいつのそういうふうな発言は大抵全て無自覚である。それも大抵の確率でいいことを言っているため、余計たちが悪い。
……気を抜くのもいいがやはり、気を抜きすぎるのもだめだな。
そう思い直しながら、俺は先に入っていったヒミコを追いかけるようにして会場に入った。
入る際、イガグリヘアーの奴に絡まれていた緑髪の少年から放たれていた匂いに誘われ、ヒミコに腕を引かれるまでぼーっとしていたのは秘密にしておく。
◆◆
「やはり英語は無理でした……。こればかりはどうしようもないのです……」
「他の教科は70点は簡単に超えるの勢いだったのに、お前ほんと英語はボロボロだな。だいたいさ……」
「これ以上私の予想点数を公表するのはやめるのです!明らかに楽しんで言っているでしょ!!逆にあなたは何点なんですか!?」
「余裕の平均90点ぐらいですけど?なにか?」
「ううううっ……、そのドヤ顔を今すぐ切り裂きたい……。刀だけじゃなくナイフも持ってくるんでした……」
「今の言葉は今すぐ訂正するのでどうか刀はお仕舞い下さい。危ないし周り見てるから」
こいつ、おちょくるたびにいい反応してくれるからついやっちゃうんだよな。まぁその度に斬り掛かれられるのは勘弁というかなんというか……。
そんなことを考えながら、俺が取り出した刀を元のバックのなか戻していると、顔を下げていたヒミコが顔を上げる。
「あああっ、もうっ、終わったことを考えるのはやめるのです!次の実技で取り戻せばいいのですから!!」
「そうだヒミコ、終わったことを気にしてもしゃあないし、ちゃんと前見て次に備えろ。これも」
「ヒーローになるための原則、ですね」
「そうだぞ。だから、英語で30点取ったことなんて忘れ─」
これ以上のことを言う暇はなかった。ヒミコが再び取り出した刀の斬撃を避けなければならなかったからだ。
そしてヒミコはつい先程までの膨らませていた顔をやめ、感情のこもっていない顔で俺に近づく。
「ヒ、ヒミコさん……。刀を振るうのはやばいんじゃ……」
「私つい先程言いましたよね。これ以上公表するのはやめてくださいと」
「あっ、はい、言いました」
「それを守れない犬ころなんてこの世にいりませんよね。しっかり殺してあげないとだめですよね」
ヒミコは刀を構え、居合の体制をとる。
あっ、これはヤバい。
そう思ってからの俺の行動は人生一早かった。俺がとった行動……それは……
逃走である
「待てやこの犬ころ!!バラバラに切り刻んでやる!!」
「悪かった!!俺が悪かった!!だから居合いの体制で追いかけるのはやめてくれ!!」
「誰がやめますか!!あなたを切り裂いて必ず血を飲んでやる!!」
「最後のは欲求じゃねーか!!!」
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「やはり血は美味しいですね。いくら味わっても飽きません」
「そうか……それならよかったです……ほんと……うん……」
「えっ、なんですか?もう一度斬られたいのですか?」
「いやー、そんなわけないじゃないですかヒミコ様。背中を斬られただけで済ましてください。このとおりですから」
「えーっ、私あと一滴ぐらいほしいんですけどだめですか?」
「……………わかった。一滴だけだからな」
「やったー!!ありがとうございます!!」
ヒミコは嬉しそうに俺の背中を撫で、垂れていた一滴を美味しそうに飲み干した。
結局、俺は背中を斬られ見事制服が大きく破れた。止めに入った先生のおかげで事なきは得たものの、妥協案として俺は結局血を吸われた。
えっ?刀の保持で怒られなかったのかだって?それは事前に申請していたし、まぁ大丈夫だったよ。(騒ぎを起こしたとして、俺は筆記試験の点数を30点引かれたわけだが)
「今日は俺のライブにようこそー!!!エヴィバディセイヘイ!!」
シーン………
「見事に滑りましたね」
「ああ、見事なまでに滑ったな」
「聞こえてるぜそこのリスナー!!実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ!!アーユーレディ!?YEAHH!!!」
あの人ほんと人生楽しそうだな。
そんな考えをよそに、司会らしき男は話を続ける。
「リスナーにはこの後10分間の『模擬市街地演習』を行ってもらうぜ!!武器の持ち込みは自由!プレゼン後は各自指定の演習会場へ向かってくれよな!!」
机に置かれいたプリントを見ると、俺とヒミコのプリントには同じ試験会場のアルファベットが書かれていた。
「演習場には“仮想ヴィラン”を三種・多数配置してあり、それぞれの『攻略難易度』に応じてポイントを設けてある!各々なりの個性で仮想ヴィランを
なるほど、撃破ではなくあくまで行動不能。それで攻撃型以外のやつでも合格できるってわけか。よく考えられてる。
「もちろん他人への攻撃などアンチヒーローな行為はご法度だぜ!?そこのイエローカード持ちの金髪ガール!!試験で同じことをやったら即退場だから気をつけるんだぜ!!」
「えっ、いやだ!!私有名人!?」
「悪い意味の方だけどな」
「質問よろしいでしょうか!?」
静寂を切り裂くかのような声が鱗の斜め前から放たれる。
「あの人も美味しそうな血を持ってそうですね」
「高級感あふれるオレンジジュースみたいな匂いがするあたり、あの血は絶対うまいぞ」
「プリントには
何千、何万人といる中で堂々と大声で問題を指摘出来るのも一種の才能であろう。そんな真面目そうな奴の矛先がどこに向かうのかも予測できる。
「ついでにそこの白髪の君!!そして隣の金髪の君!!」
それは問題を起こした俺達だった。こういう予想は必ず的中するもんだ。
「つい先程の騒ぎを起こしたのは君たちだな!!僕達はヒーローを目指しているわけでヴィランを目指しているわけではない!!邪魔をするなら帰りたまえ!!」
「メガネ君にも知れ渡ってるだなんてやっぱり私有名人ですかね?」
「間違いなく悪い意味の方だけどな」
まぁ騒ぎを起こしたのは本当に申し訳ないし、そう言われても仕方ない。さて、どう返したもんか。
「つい個性の副作用で血を飲みたくなっちゃたんです。いやー、本当にすいません」
「ちょっ、お前、何を勝手に──」
「そうだったのか!?それはすまなかった!理由も聞かずヴィランなどと言ってしまい申し訳ない!!」
「それで納得するのかよ!お前良い奴だな!!頭上げろ!!」
「そう言われて光栄だ!!お互い試験頑張ろう!!」
「だから頭上げろって!!」
「「「「(なんか急にコント始まった!?)」」」」
会場が満場一致でそう思った。
「HEY!!コントはそれくらいにしてさっきのお便りの説明をしよう!!四種目のヴィランは0P!そいつは言わばお邪魔虫!!スーパーマリオブラザーズのドッスン見たいなもんさ!各会場に一体所狭しと大暴れしている『ギミック』よ!!」
「有難う御座います!失礼致しました!」
「俺からは以上だ!!最後にリスナーへ我が校“校訓”をプレゼントしよう!!かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った!!『真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者』と!!
Plus Ultra!!《更に向こうへ!!》
それでは皆良い受難を!!」
「更に向こうへですか……。なかなかいい言葉をもらいましたね」
「その代償として、周りの視線が痛いけどな……」
謎のコントにより変な空気になっていた会場を抜け、俺達は実技会場へと向かった。
胸の奥にある熱を押さえつけながら。
◆◆
「ヤバい……本当にヤバい……。胃がなくなる勢いでヤバい………」
「試験前なのに大丈夫ですか?血、飲んであげましょうか?」
「もうツッコむ元気もねーよ………」
騒ぎを起こした以上、注目されるのはわかっていたが、思った3倍以上に視線がヤバい。
それに加え、個性のせいで周りの内緒話まで聞こえるってもはや拷問だろ……。絶対帰る頃には胃がなくなってる………。
そんなことを考えている間も、狼とヒミコは陣取った位置から離れることなく、目の前のゲートに強く視線を向けている。
獲物がこちらに寄ってくるのを虎視眈々と待つ肉食獣のように………。
「ハイスタート!」
「「「えっ…?」」」
「どうしたあ!?実践じゃカウントなんざされねえんだよ!!走れ走れぇ!!
「「「っ…!」」
司会の言葉により、学生達はようやく理解した。
あの変人二人はこの瞬間を今か今かと待ちかねていたのだと。
「あれっ?誰も追いかけてきませんね?どうしたのでしょう?」
「大方、始まりの合図でも待っているんだろう。迅速な行動はヒーローの原則なんだがな」
「まぁありがたいですしほおっておきましょう。この先にいるんですよね?」
「匂いからして数は60、壊しがいがありそうだ」
「ならたっぷり楽しみましょう。この戦いを」
「ああそうだな。敵をたっぷり蹂躙してポイントを稼ぐぞ」
「「さぁ、戦闘開始だ」」
『戦闘開始だ』
の一言を書きたかったんだ。本当に歓喜しています、どうも熊です。
ネタがある内はかなり更新頻度は高いのでネタがある内に色々書いていくので皆様、ご閲覧お願いします。
それと感想はビシビシ受け付けているのでよければどうぞ。