無限転生 ~Summon Irregular~ 作:とんこつラーメン
不幸な家庭はいずれも、それぞれに不幸なものである。
レフ・トルストイ
「ん…んぅぅ……」
プルルルルル……。
枕元にて私の安眠を妨げている愛用のスマホのアラームを止めようと手を伸ばしてパタパタとさせるが、スマホは全く掴まってくれない。
枕に顔を埋めた状態で適当に右手を動かしていると、何かが触れる感触が。
咄嗟にそれを引き寄せて眠気眼で確かめると、それは私がさっきまでずっと手さぐりで探していたスマホだった。
「……えい」
アラームを消し大人しくさせてから時間を確かめる。
現在の時刻、朝の7時45分。
「もうこんな時間か……ふわぁぁぁ……」
ベッドから起き上がりつつ体を伸ばし、大きな欠伸をして目を擦る。
カーテンの隙間からは朝日が差し込んでいた。
「……起きますか」
ノソノソとベットから這いずるように出てから、部屋に立てかけている姿見に今の私の格好がうつった。
寝癖でぼさぼさになった赤くて長い髪に、真っ黒な下着を着用している成人した女の姿。
うん。いつもと何ら変わりのない私だ。
「さて…と。朝ご飯は何にしますかね……」
なんだか懐かしい夢を見たような気がする。
そのせいか、妙に体がだるい。
立っているのも面倒くさいので、四つん這いになりつつ冷蔵庫へと向かう。
「現在の我が家の冷蔵庫の中身は~…っと」
ふむふむ……食パン一切れに卵が二つ。
後は昨日の帰りに気紛れで買った牛乳パックが一つ。
いい感じの朝食は作れそうだけど、冷蔵庫の中身が虚しすぎる。
最近は忙しかったから、買い物をサボっていたツケが回ってきた結果か。
「…テキトーでいっか」
今日も仕事があるから、その帰りにでも買い溜めしておこう。
幸いなことに、今の私は昔とは違って金だけはある。
自分自身で稼いでるからね。
「取り敢えず、目玉焼き二つにトースト一枚ってところかな。バターってあったっけ…?」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
辛うじて箱の底に僅かに残っていたバターをかき集めてからトーストに塗る。
なんとか全体には行き渡った。
因みに、私は目玉焼きには塩コショウ派だ。昔は醤油派だった。
なんか大人になってから塩コショウの方が美味しく感じるようになった。
「あむ」
トーストを口に咥えつつ、リモコンでテレビの電源を入れる。
画面には毎度御馴染みのレポーターがマイク片手にインタビューをやっていた。
『最近、駒王町に奇妙な噂が流れています。なんでも、町外れの廃工場に巨大な体を持つ化け物が出るとか…。町の人々に話を聞いてみましょう。すみません』
化け物…ね。なんか嫌な予感がする。別の意味で。
『あ~…確かに、なんかネットとかでもそんな噂が流出してますね。でも、そんなの所詮は誰かが目立ちたいが為に流したでっち上げでしょ? 信じる方がおかしいよ』
『確かにそうですよね…。正直、私も信じられないというのが本音です。あ、そちらの方もよろしいですか?』
トーストを三分の一ぐらい食べ進めた時点で目玉焼きの黄身を態と崩してぐしゃぐしゃにする。
で、それを千切ったトーストに付けてから…パクリ。
「やっぱ、卵とパンの相性こそが最強だね。美味過ぎ」
『あの家』での食事は、どうも豪華すぎていけない。
ぶっちゃけ、私の性には合わないんだよ。
薄汚い庶民には庶民の食事こそが一番…ってね。
『町外れの化け物の噂。俺自身は何にも知らないけど、友達があの近くを通った時に獣のような呻き声を聞いたって言ってたな……』
『獣のような呻き声…ですか?』
『そうそう。虎のような、人のような…そんな感じだったらしいよ。グルル~って。ホントかどうかは知らないけどね』
トーストを全部食べ終え、目玉焼きを乗せている皿が黄身とパン粉によって散らかっているのを見た瞬間、いきなり私のスマホに着信が来た。
朝っぱらから誰だッつーの…なんて悪態を心の中で言いながらも、反射的に私は着信に出るのでした。
相手が誰なのかは分かってるしね。
「あ~…もしもし?」
『もしもし。おはよう…アルカ』
「…おはようございます。サーゼクス義兄さん」
電話の相手は、名目上は私の義理の兄となっている四大魔王の筆頭であり、グレモリー家の現当主の『サーゼクス・ルシファー』。
あの教会所属の違法研究所から私を救出し、その後に冥界の悪魔たちの中でも名家である『グレモリー家』の養子にしてくれた。
その事には素直に感謝しているし、文句だって一切無い。
だけど、私は未だに彼らの事を家族とは思っていない。
あの屋敷において、私だけが『異邦人』だから。
私は悪魔じゃない。かといって人間とも言い難い。
自分の意志とは関係無しに悪魔の細胞を埋め込まれた私は一体何なんでしょう?
『『調停者』としての仕事は順調かい?』
「まぁ…それなりに。心配しなくても、ちゃんとやるべき事はしますよ。それが今の私に与えられた『役目』ですからね」
『そ…そうだね。これは君にしか任せられない事だ。頼りにしているよ』
この会話からもう分かると思うが、今の私はグレモリー家における長女であり、サーゼクス・ルシファーの義妹になる。
なんて言えばなんか凄そうに聞こえるが、そんな事は全く無い。
養子であるが故に家での立場は最も低いし、屋敷の使用人たちや義兄が統治している街の人々も私を見下しているのを知っている。
だからこそ、『調停者』という役職に自ら立候補し、合法的に冥界を出て、こうして地上にてのんびりとした一人暮らしを満喫しているのだ。
このマンションの部屋こそが、私の聖域であり城なのだ。我が家最高。
「グレイフィア義姉さんやミリキャスはお元気ですか?」
『あぁ。二人とも元気にやっているよ』
グレイフィアとは、グレモリー家のメイド長でありサーゼクス義兄さんの妻でもある人物で、凄い美人なのだが奇妙な立場故に話しかけづらい。
正直、余り得意な人じゃない。
んで、ミリキャスってのがその二人の息子なわけで。
遠い将来は彼こそがグレモリー家の当主になる事が決まっている。
え? 私? ないない絶対にない。
薄汚い奴隷同然だった女に、そんな資格なんてある訳がないじゃない。
『グレイフィアはアルカがちゃんと食事をしているかなどを心配していたよ』
「ちゃんと食べてるって伝えてください。仕事柄、健康には割と本気で気を使ってますので」
『それを聞いて安心した。ミリキャスはアルカにまた色々と教わりたいと言って、君が帰ってくるのを待っているよ』
「…暇が出来たら顔を見せにぐらいは帰りますよ……多分」
正直、気は進まないけどね。
『ところで、アルカはリアスの事はもう聞いているかな?』
「いえ何も。あの子がどうかしたんですか?」
リアスというのがグレモリー家の次女…つまりは私の義妹になる少女だ。
サーゼクス義兄さんの次の当主は彼女が継ぐことになっている。
私はその補佐をすることになるだろう。それこそ死ぬまで。
今は駒王町にある『駒王学園』の三年生で、義兄から駒王町の管理者を任されている身…なのだけど、あの子はまだまだ未熟者だ。
故に、こうして私も不本意ながら駒王町に拠点を変えて、密かにあの子のサポートをしているのだ。
といっても、実際に会ったり話したりはいとどもしてないけど。
無駄にプライドだけは高い彼女の事だから、影ながら私がフォローをしていたなんて知ったら、マジ切れして私に向かって消滅の魔力をブッパしてくる危険性がある。
流石に、やるべき仕事をちゃんと終えるまでは死ぬわけにはいかない。
別に死ぬこと自体は微塵も怖くは無いが、それとこれとは話が別。
大人として仕事は最後までやり遂げたい。私が死ぬのはそれからでも遅くはない。
『最近になって、また面白い眷属を引き入れたようでね』
「面白い…?」
義兄さんがこんな言い回しをするのは珍しい。
『凄い』とか『強い』とかはよく聞くけど『面白い』って。
『まぁ…彼に関してはアルカも実際に見てみればわかると思うよ。百聞は一見に如かずとも言うしね』
魔王なのに日本の諺に詳しいのは、これいかに?
『っと、本題はそれじゃなかったんだ。実は最近になって駒王町に堕天使が数人侵入してきたようでね。さっき言った眷属君もそいつらに殺される寸前の所を救出して眷属にしたらしいんだ』
「そうなんですか。というか、堕天使が来てるって事は私も知ってますよ。相当に下級の連中なんでしょうね。気配なんてダダ漏れで、普通の人間以外には丸分りですよ」
『矢張りか。流石は僕の自慢の義妹だ』
「お褒めに預かりどうも」
言われるだけならタダだしね。例え、それが感情が微塵も籠っていないお世辞だとしても。
『どうやら、リアスも相手が下級堕天使であることは分かっているらしいが、余り積極的に動こうとする気配が無いんだ』
「多分、隠した相手だから舐めプしてるんでしょうね。いつでも倒せるから後でもいいか…的な感じで」
『僕も同じ意見だ。恐らくあの子の中での優先順位がかなり下になっているんだろう。だからと言って、このまま放置をする訳にもいかない』
「分かってますよ。三大勢力同士の和平の為にも…でしょ?」
『その通りだ。ようやく、あと一歩と言うところまで来た時に、下手な横やりで台無しにされたくはない。だから……』
「あと少しだけ様子を見て、それでもリアスが動こうとしなかった場合は私が堕天使共を片付けるんですよね?」
『…アルカは僕の言いたい事をいつも先読みして言ってくれるから、話が早くて助かるよ』
「それはどうも」
ずっと色んな世界を転生なんてしていれば、否が応でもこの手の技術は身に付いちゃんだよ。
これは能力ってよりは私の癖に近いからリセットされないんだけど。
『アルカの『召喚術』を駆使すれば楽勝だろう?』
「伊達に『召喚士』なんて面倒な
文字通り、地上や冥界、果ては天界にまで赴いて契約をしないといけないし。
その契約も決して一筋縄ではいかないし。普通に戦闘になる事が日常茶飯事だし。
その代わりと言っちゃなんだけど、万能性だけは凄まじい。
体を張って苦労をした甲斐はあるってものだ。
『それとは別に、実はリアスの元に大公からはぐれ悪魔討伐の依頼が来てるんだ』
「千客万来ですこと」
『だが、あの子との事だから…新しい眷属の少年に色々とレクチャーをしながら倒しそうな予感がするんだ』
「随分と具体的なことで。でも、言いたい事はなんとなく分かりました。ついこの間まで一般人だった新人相手に実戦でレクチャーをする必要性は全く無いですしね。先に私が倒しておきますよ。んでもって、手柄はリアスの物にすればいい」
『…済まない。アルカにはいつも裏方ばかりを押し付けてしまう』
「別にいいですよ。私自身、好きでやってますし。表舞台で華やかに活躍…なんて私には似合いませんから」
『せめて、依頼達成の報酬だけはアルカの口座に振り込むようにしよう。別にリアスは欲しがらないだろうしね』
「助かります。そろそろ時間なので、この辺りで」
『おっと、そうだったね。朝の忙しい時間に掛けて済まなかった。どうもアルカと話していると時間を忘れてしまうな』
「同じセリフをグレイフィア義姉さんに言ってあげれば喜びますよ」
『…覚えておくよ』
気まずそうにしながらサーゼクス義兄さんは通話を切った。
更に残った目玉焼きの残骸を全て口に放り込んでから、牛乳を一気飲み。
歯を磨いて、髪を整えて、仕事着である白い制服とミニなタイトスカートを履いて、とある店で見つけたブーツっぽくてサンダルっぽくもあるハイヒールを履いてから玄関まで行く。
「…行ってきます」
アルカ・グレモリー21歳。
悪魔たちと他の勢力との橋渡しをする『調停者』をしつつ、ついでに『召喚士』も兼任してます。
さぁて…今日も一日仕事を頑張るぞい。
いつか誰もいない所で死ねばいいと思うと意外と続く。
アンノウン