無限転生 ~Summon Irregular~ 作:とんこつラーメン
ほんと、私ってば非常に気紛れな人間でして…。
アーシアちゃんをパーティーに加えた私達は、そのまま彼女がいた部屋を出てから、フリード君の言っていた地下空間を見に行くことに。
「ここの地下って基本的には、ここにある隠し階段の先にあるんスよ」
一度、礼拝堂まで戻ってきてから教壇っぽい場所の床下に取り外せる部分があって、そこに石造りの階段があった。
ここ…本当に日本よね? なんか西洋のダンジョンを彷彿とさせるんだけど。
「なんか狭くて暗いわね……」
「あいつ等は夜目とか効くから、こんな場所でもあんまり灯りとか必要ないッスからね」
「私達は良いけど、アーシアちゃんが足でも滑らせたら大変だわ。仕方がないか……」
ポケットからライターを取り出して、火を着けてから灯り代わりにする。
ありきたりではあるけど、無いよりはずっとマシでしょ。
「およ? 姐さん…ライターとか持ってたんスね。煙草でも吸うんスか?」
「そりゃ吸うわよ。たたでさえ調停者なんつーストレスが溜まる仕事をしてんのよ? 煙草だって吸うし、酒だって飲まなきゃやってられないっつーの」
「そりゃそうか…なんな納得っす」
「調停者さまも大変なのですね……」
その一言で済まされてしまうのは微妙だけど、分かってくれるだけでも十分か。
アザゼルなんて『若い内はそれぐらいが丁度いいんだよ』とかいって馬鹿笑いしてくるし。
思わず、一発殴りそうになったわ。
「フリード君。先導お願いできる? 私はアーシアちゃんと手を繋ぎながら降りるから」
「了解っす。んじゃ、俺ちゃんに続け~!」
こんな夜中でも元気溌剌ね。
廃教会の周辺に民家が無いのが幸いだわ。
もしもあったりしたら、確実に近所迷惑になってただろうし。
「よく見たら、足元も割と不安定ね…。アーシアちゃん、こけないように気を付けて」
「は…はい。ありがとうございます、調停者様」
「あのさ…私の事は役職名じゃなくて名前で呼んでくれていいわよ? 毎回毎回『調停者様』って呼ばれるのは…ね?」
「で…でも、調停者様は私なんかが遠く及ばないような程にご立派な方ですから…名前でお呼びするなんて恐れ多くて……」
「別に気になんてしないわよ。ほら…言ってみて」
「えっと……アルカ…さん」
「上出来。その調子でお願いね」
なんて話している内に、地下空間へと到着。
ここだけは無駄に灯りが設置してある…といっても、剥き出しの電球が幾つかあるだけだけど。
壁も床もめっちゃ石造り。増々、日本じゃないみたい。
「明かりが点きっぱなしってことは、さっきまで誰か…つーか、あのレイナーレって奴がここにいたって事なのかしら?」
「みたいッスね」
部屋の一番奥の中央には、人一人を拘束できるぐらいの大きさの十字架があった。
恐らく、あそこにアーシアちゃんを拘束してから儀式をする算段だったのだろう。
「ん?」
「どうしたんですか?」
「いや…これ」
「「これ?」」
足元の石床を指差すと、そこにはなにやら白い線が引いてある。
しかもこれ…なんか粉っぽい?
「なんでしょうか…これは」
「まさかヤク…なわけないか。でもこれ、どっかで見た事があるような……」
「私も。どこだったかしら…?」
うーん…思い出しかけてるんだけど、なんでか思い出せない。
喉元までは来てるんだけどな~。
「取り敢えず、この部屋の調査でもしましょう。そうすれば、おのずと分かるでしょ」
「はい」
「うっす」
といっても…調べるほどに多くの物があるって訳じゃないのよね。
本当に只管にだだっ広いだけの場所。
元々は何の目的で作られた空間なのかしら?
「んあっ!? こいつはっ!?」
「フリードくん? なんか見つけたの?」
なんか凄い驚いた声を出していたので振り向くと、フリード君が赤い箱っぽい物を持って小走りで来た。
「姐さん…この床に引いてある白い粉…多分、これっす」
「こ…これは……学校とかによく置いてあるグラウンドに白い粉で線を引くヤツー! 名前は忘れたけどー!」
な…なんでこれがこんな所にあるの? え?
「あと…こんな物も端の方に落ちてたっす」
「なにこれ…本?」
彼が持っていた本を渡して貰ってタイトルを確認する。
それを見て、私は生まれて初めてリアクションを忘れた。
「『サルでもできる魔方陣【初級編】』って……」
「こんな本…普通に売ってあるんスね……」
「しかもこれ日本語の本だし。つまり、そこらの書店に売られてたって事? マジで?」
幾ら、悪魔が管理している土地とはいえ…これは無いんじゃないの?
それとも、単純に店主さんの趣味とか。
「あ…あの! アルカさん! フリード神父! こっちに来てくれませんか!」
「アーシアちゃん? どうしたの?」
少し前から近くにいないと思っていたアーシアちゃんは、いつの間にか十字架の所にある台に上がっていて、少し上からこの部屋を見渡していた。
何かを発見でもしたのかな?
「俯瞰するようにしてこの部屋を見れば、何か見つかるかもと思って調べていたのですが……」
「何かを見つけたって事?」
「はい。ここから床を見てください」
「「床?」」
アーシアちゃんに言われるがまま、私とフリードくんは彼女と同じ台に登ってから床を見てみる。
すると、線引きの粉で何を書いたのかが判明した。
「おいおい……」
「なーる…あの粉で床全体に魔方陣を書いてたのね」
「みたいですね……」
しかも、よく見たら所々が省略されてる。
別にこれでも問題無く機能はするとは思うが、それでも最低限の動きしかしないだろう。
「因みに姐さん…これって例の儀式の為の奴…であってるんスよね?」
「でしょうね」
「んでもって、その儀式にこんなにでっかい魔方陣は……」
「絶対に必要ない。しかも、本当ならちゃんとした触媒とか使わないといけないのに、実際に使ってるのは……」
「誰もが一度は見たことあるけど、名前は知らない例の粉…っすね。んん? 姐さん…これ……」
「あ」
例の線引きに何かを見つけたのか、ある場所を指差す。
そこには黒のマジックペンでこう書かれてあった。
【駒王小学校】
「「「…………」」」
これ…そこらの小学校の体育倉庫から盗んだものなのね…。
もう堕天使としてのプライドも何もあったもんじゃないわね…。
なのによくもまぁ『至高の堕天使になる』とか言えたもんだわ。
「これ…どうします?」
「線引きに関しては、あとでちゃんと学校に返しとかないといけないでしょうね……」
「魔方陣はどうするんですか?」
「勿論、消すわ。こんなお粗末な魔方陣なら大したことは出来ないでしょうけど、それでも万が一って事もあるしね。つっても、こんな簡易的なものは一部分を消すだけで効力は無くなるけど」
台から降りて、脚を使って粉で書かれた線をゴシゴシとする。
それだけでもう、これは単なる落書きに成り下がる。
「入念の準備をしてコレって…アホとしか言いようがないわね。さっきも言ったけど、神器の摘出にはこんな大々的な場所もでっかい魔方陣も必要ないのよ。私なら……」
さっきフリード君が持ってきた『サルでもできる魔方陣【初級編】』の裏表紙に、私が持っていたペンでささっと魔方陣(小)を書いて見せる。
そこに私自身の魔力をちょっとだけ注いであげると……。
「ほら、この通り」
「「おぉ~…」」
魔方陣は見事に起動。普通なら、これだけで十分なのよ。
ぶっちゃけ、現代でこんなにも前時代的な儀式をしようとしていた現場なんで始めて見たわ。
こんなのもう冥界でもフィクションと思われてるレベルの事なのに。
「何の力も無い無力な人間達ならばいざ知らず、ちょっとした力を持っている連中が相手になった瞬間に彼女達は狩る側から狩られる側に早変わり。無駄に高い自尊心のせいで、そんな簡単な事にすら気が付けなかったんでしょうね」
「なんつーか…聞けば聞くほど哀れな連中っすね。なんで俺っち…あいつ等に付いたんだろ。自分よりも圧倒的に格下だって分かってたのに……」
「一時の迷いって意外とあるものよ。君だけじゃないわ」
これが本当の『若さ故の過ち』ってやつね。知らんけど。
「んじゃ、ここの調査も終わったし、そろそろ上に戻りましょ。いつまでもこんな場所にいたら、気分まで暗くなっちゃうわ」
「さんせー」
「は…はい!」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
地下から戻ってから出入り口の方を見ると、なにやら見た事のあるような黒い羽根の集団が。
あ…あれがアザゼルの言ってた『回収班』か。
彼らの足元には、私が軽くボコッた子達が寝転がってるし。
「どうやら、本格的にお仕事終了っぽいわね。行くわよ」
外に向かって歩いて行くと、向こうもこっちに気が付いたのか軽く会釈をしながら挨拶をしてきた。
「アルカさん。アザゼル様からお話は伺っています。我らが身内がご迷惑をおかけしたようで…申し訳ありませんでした」
「別にいいのよ、これぐらい。ちょっとした残業だと思えば」
「残業…ですか」
堕天使って皆が想像しているような集団じゃなくて、ある意味では最も国家公務員に近い存在なのよね。
だから、残業とか有給とかの単語には敏感に反応する。
なんか言ってて悲しくなってきた…。
「と…とにかく、今回は本当にご苦労様でした。こいつらは我らが責任を持って連れ帰りますので」
「お願いね。ところで、彼女達ってどんな処罰を受けるの?」
「それはアザゼル様次第ですね。アルカさんによって未然に防がれたとはいえ、一歩間違えば三大勢力を全て巻き込んだ大戦の引き金になりかけたんですから…恐らくは相当に重い罰が処されるかと」
「そりゃそうよね~。もしも、そんな事になったら私が今までやって来た仕事が全部パーになっちゃうもの。そうなったら、怒りの余りにこの子達を殺してたかもしれないわね」
「心中お察しします……」
実は、三大勢力間で私と一番話が合うのが堕天使達だったりする。
逆に一番合わないのが悪魔たちね。彼らは色んな事を軽視しているように感じるから。
「ところで、そこ二人は……」
「こっちの神父君は、最初はこの子達に雇われていたけど、途中で私の方に寝返ったの。こいつらの馬鹿さ加減に愛想が尽きたんですって」
「ま、そーゆーことよん♡ なんせ、アルカの姉御の事すら知らなかったぐらいだしな」
「アルカさんの事を知らない…!? 今や、三大勢力では知らぬ者がいない程の有名人だと言うのに…!?」
そうなのよね~。
いつの間にか、名前だけが一人歩きして有名人扱いにされてるのよね~。
私自身は普通に仕事をしているだけなのにさ。
「んで、こっちの金髪の女の子は、癒し系の神器を持っていたが為にこいつらに抜き取られそうになっていた子」
「はぁ…こいつらめ、そんな事をしようとしていたのか……」
思いっきり大きな溜息を吐かれてるよ…。
こっちこそ、彼らの心中を察するわ…。
「抜き取った神器をアザゼルに捧げて褒めて貰う算段だったっぽいけど……」
「だとすれば、もう救いようがない愚か者ですね。神器を捧げるぐらいなら、真面目に仕事をしてくれた方がずっと褒められるのに……」
もうそろそろ話を切り上げた方がいいかもしれない。
なんか、聞けば聞くほどに世知辛くなってくる。
「ではそろそろ我等は失礼します。アルカさんもどうかお気をつけて」
「ありがと。それじゃ、おやすみ~」
「はい。本当にお疲れ様でした」
回収係の中級堕天使達は、レイナーレ達の体を軽々と持ち上げてから夜空へと消えていった。
「さて…と。それじゃ、帰りますか。アーシアちゃんは今晩は私の部屋に泊まりなさいな」
「い…いいんですかっ!?」
「全然OKよ。女の子を一人で野宿なんてさせられないでしょ? それに、一人ぐらいなら余裕で大丈夫よ」
「あ…ありがとうございます! 何から何まで…なんてお礼を言ったらいいか…」
「礼なんていいわよ。こっちは仕事でやってるだけだし。フリード君はどうする?」
「今日の所は、適当にカプセルホテルにでも泊まるッす。その後に適当なアパートでも探そうかと」
「それが無難ね。じゃ、途中まで一緒に行きましょ」
「うっす!」
こうして、私の簡単な残業は終わった。
この後、この教会は本格的に取り壊される事になり、数年後に立派な教会として生まれ変わる事になるのだが…それはまた別のお話。
取り敢えず、序盤のお話は終了です。
時系列的に次はライザー編になるのですが…どうなることやら。