ハリボテエレジーの前脚   作:前脚

2 / 8
0歳、SJPのない世界

 2回目ともなると慣れたもので、羞恥はあるものの、生存にはやむを得ないので普通に赤ちゃんを演じた。

 さりとて、なにもないのに泣いたりはしないので、両親にとっては手のかからない息子であっただろう。早く二足歩行に戻りたいが、誰も赤子のトレーニング方法など知らないので、試行錯誤の日々である。

 ふと、前世におけるハリボテ記念出走馬、ハリボテコンコンを思い出す。あのハリボテ記念で、恐らく最も困難な走り方を強いられたあの男は、何か今の私の参考にならないか。

 小さくあまり回らない頭をひねりながら、当時の記憶を思い出し、「こうかこうか」と試してふと思う。レースに出るわけでもないし、二足歩行になるための参考にはならない。二足歩行ではなく、ローリング走法に至ってしまいそうだ。まだギンシャリボーイのほうが参考になるまである。

 幸いにして両親は初めての息子である私が手がかからず、我ながら奇行としか思えないその試行錯誤も害なしと判断されたようで、微笑ましく見ているだけであった。

 

 

 

 さて、この世界には前世にあったものがいくつか存在しない。

 そのひとつ、スキージャンプ・ペアがなかった。冬の風物詩、毎年独創的な技が繰り広げられるあの競技がない。つけっぱなしだったTVには、ソロジャンプでただ距離を競うもの……前前世での一般的なスキージャンプが繰り広げられていた。

 あの大迫力のジャンプがこの世界で見られないのは、非常に残念だった。カルキンやタイラーが誘ってくれた大会での各国選手の破天荒な技は今でも脳裏にはっきり思い出せる。過去大会では宇宙ステーション「ヤドカリ」まで行ったというから驚きだ。

 これは前前世に戻ってきたのだろうか、などと思っていたが、しかしもう一つ存在しないもの、そして存在するものがそれを否定した。

 

 

 馬がいない。

 

 

 馬がいなかった。普通に生きていれば、牧場や競馬場にわざわざ行かないと見ることがないが、それでも時代劇や歌舞伎、競馬など、TVの向こうで活躍する馬は見ることができた。場外馬券売場などもあった。それらが全く無い。いやいや赤子であるため観測範囲が狭いからだろう、そんなことを思っていたが、ウマ娘なる存在がそれを否定した。

 

 

 ウマ娘。

 

 

 前世の一部のアスリートと同等の身体能力を持つ、奇妙な少女たち。馬耳と尻尾を持ち、走ることに特化した人類種。

 両親がTVでレースが放送されるたびに観ていたので、「この世界ではコスプレ陸上競技が主流なのか?」ととんだ勘違いをしていた。弁明させていただくと、SJPやJWCがある世界があるなら、コスプレしているだけで2~3000m走るくらいの世界なら普通にあるだろうと思ったのだ。馬がコスプレして走る、コスプレステークスなんてものもあったくらいだし。

 価値観が二転三転すると、おおよそ何があっても受け入れられる。3周目の人生の序盤で、既に悟りを開いている気分である。

 見目麗しい少女たちが走り回り、レースのあとには歌って踊る様は確かに素晴らしいものである。ふと、反川の嫁のあけ味さんを思い出したが、あれはアレで悪くないが、個人的にはウィニングライヴなるこの催しのほうが好みであった。かわいい女の子がいっぱい。

 ともあれ、この世界には、馬の代わりにウマ娘がいる。であれば、ギンシャリボーイやチョクセンバンチョーももしや……と思うのは当然の帰結であろう。しかし、そうなると騎手はいったいどこに行くのだろうか。もしやこの世界にハリボテエレジーがいたら、私はいったいどうするのだろう。どうしたいのだろう。

 とりあえず、結論は後回しとする。人生は始まったばかり、そういうのを考えるのは、もう少し育ってからのほうがいい。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。