ハリボテエレジーの前脚 作:前脚
5歳、来年には小学生である。そろそろこの世界がどのようなものかがわかってきた。
この今生世界の人類には、比較的闘争心がない。比較対象が前前世の血みどろ世界史や、前世の何でもありスポーツだらけ世界であるため、あくまで「比較的」ではある。しかしこの世界では戦争らしい戦争は起きていないし、ヒューマニズムや親離れのような非人道的スポーツもない。タイラーのあの叫びが未だに思い出せる。競技のためなら肉親をも投げる。いくら死なないからと言って、たやすいことではない。
あるものとないものを調べると、なかなかに歪だったりする。戦争はないのに軍はある。兵器もある。戦闘機さえあって、人工衛星さえある。冷戦もタンデム理論も甥っ子の採用もないのに宇宙に行けるのだ。いや、宇宙ステーション「ヤドカリ」の打ち上げは、普通にロケットを使っていたが。
そこでひとつ、仮説を立ててみた。ウマ娘が別世界の魂と名前を受け継いで生まれてくるならば、別世界の名前と魂を受け継いで生まれるヒトもいるのではないか。私は馬であるのかヒトであるのか、判定が怪しいところではあるが、F-15やF-16があるのならばジョン・ボイドがいてもおかしくはない。A-10など、当時のフェアチャイルド社のスタッフが完全に揃っていたとしても、ハンス・ウルリッヒ・ルーデルがいなければあの形で誕生し得ない。
仮説に過ぎないが、細い希望だが、好太郎や他の脚もこの世界にいるかもしれない。そんな希望を抱いてしまう。
「ぬっ。このっ……」
「…………」
そんな世界で、普通にアーマード・コアがあるのは、そうおかしなことでもない。父親の部屋で見つけたPS3に入っていたのがACfAだった。そう、「戦い続ける歓びを」、このキャッチコピーのせいで、傭兵は闘争を求めるものと誤解される元凶となったと思われる名作である。
そんなハイスピードメカアクションをシンバシルドルフと画面分割モードで対戦している。TVゲームに初めて触れるというシンバシルドルフには、シングルのストーリーの難解さ、ミッションの難易度などを考慮した結果、対戦のほうがまだ遊べるだろうと判断した。正解どころの話ではなかったが。
ウマ娘は勝負事に関してはとことん負けず嫌いであると聞く。その闘争心は身を滅ぼすほどのもので、普段はゆるふわしているウマ娘でさえ、競争ごととなれば覇気を出す。でなければ、その脚力で自壊するほどの走りをしない。「体が闘争を求める」と言っても過言ではないウマ娘とアーマード・コアは、最高の組み合わせ、あるいは最悪の組み合わせと言えよう。
とはいえ、負けず嫌いはこちらも同じ。でなければ馬に勝とうなど考えないし、勝てない。大人げないだろうが、全力で相手をしていた。獅子は千尋の谷に我が子を突き落とすし、兎を狩るにも全力を尽くす。どちらも単なる例えであり、実際にはないことだと、先日ナショナルジオグラフィックの番組で知った。
それに、手を抜くとシンバシルドルフが怒るのである。最初のうち、私を仮想敵とした操作や簡単な立ち回りを教えているときはさすがに何も言わなかったが、いざ本番となると一切の手加減を許してくれなかった。まだまだ短い指のせいで、かつてのように操れないが、それでも負けようがない。「争いは、同じレベルの者同士でしか発生しない」とは至言である。1769年から70年にかけて、エクリプスしか出走しないレースが度々あったことを考えると、「まさにそのとおりです」としか言いようがない。
「やられた……もういっかい!」
「ダメ」
いい加減、長時間のプレイになる。この時期からゲームにドハマリしても、あまり良いことはない。この世界のシンバシルドルフが競バを目指すか否かは神のみぞ知るところではあるが、有望なウマ娘であることは確かなのだ。どのような将来を選ぶにしても、いろいろなことを知って、いろいろなことを経験して、道を選んでほしい。私は競馬にドハマリして、ハリボテエレジーをやめた後、やることがほとんどなくなってしまった。時間と金があったから新しいことに挑戦できたが、そうでなかったらと思うとぞっとする。仕事人間の友人が定年退職してすぐボケたり……
不満顔のシンバシルドルフの手を引き、面白いことを探しに行く。今日は、我が家になにか面白い物事はないかと探してゲームが見つかったが、まだきっと面白いことがある。
「じゃあ、レースしよう」
私に負け続けたのが相当腹に据えかねたのか、まだ勝てそうな勝負を挑んでくる。もしシンバシルドルフほどの負けず嫌いがウマ娘のスタンダードであるなら、厄介なこと極まりない。シンバシルドルフを見ている限り、「勝てぬなら 勝つまで挑もう ホトトギス」とでも詠みかねない。そしてこの世界の生き物は総じて脆い。特にウマ娘の脚は、性能と引き換えにしたと言わんばかりの壊れやすさだ。
「ダメ。あと2日は全力はダメ」
「むー」
私はトレセン学園のトレーナーではないが、自らを含めハリボテ種の脚や陸上競技アスリートをたくさん作り出してきた。脚は育つに連れて頑丈さと速度を手に入れるが、育ち始めの頃は容易に故障する。シンバシルドルフの脚はまだまだ未熟、前世基準だと最も壊れやすい時期かつ、体の脆い5歳児なのだ。5日前に全力疾走で競ってやったが、再び全力疾走を許すには、最低あと2日はみなければならない。当日も脚の調子を見て、走っていいか否かを決定する。これだけは絶対に譲らないし、もし約束を破れば、私は私の右脚を切り落とすと宣言している。というか、そこまで肚を括って宣言しないと言うことを聞いてくれなかったのだ。シンバシルドルフが、自身が二度と走れなくなることより、私の脚のほうに価値を見出しているのがなかなか謎である。走れなくなるということに現実感がないのか、自分は大丈夫と勘違いしているのか。
もしや。この世界の人々の闘争心は、極端にウマ娘と競バに集中しきっているのではないか。その他の物事がどうでもいいと思えるほどに。私は「闘争心が薄い」とか誤解しているのではないか。そう断じるのは早計かもしれないが、頭の片隅に置いておくべきだろう。なまじ2回の人生があるぶん、先入観でとんでもないことをしかねないのだ。
オスガ71氏の考察動画を参考に、ウマ娘世界では世界大戦をはじめ、多くの戦争がなかった世界だと解釈しました。
北朝鮮キャリアの旅客機が釜山から日本に飛んでくるというのは、それだけ衝撃的でした。
https://www.nicovideo.jp/watch/sm38774230
もし「そんなわけねーよ」という文献などがあれば、ぜひとも感想などでご提供いただけますと幸いです。
一通りウマ娘世界について調べたのですがどうにも情報が少なく……
感想でJWCウマ娘無双を危惧されていた方がおられましたが、ご安心ください。
人が馬に勝てるのならば、ウマ娘がJWCウマ娘に勝てない道理はありません。