続・最強の魔法使い(自称)が暴れるそうです。 作:マスターチュロス
【???のスペック(容姿)】
・薄まった金髪
・身長は158cm程度。
・個性:不明
・能力:不明
・かなりやつれており、全身血まみれ。
・目が死んでる
・頭のネジが何本か飛んでる
・記憶がない
「僕の人生は、最初は何の変哲もないただの人生だった」
「しかシある日突然、俺の人生は狂ってしまった」
「その日以来、私の人生は少しずつおかしくなり始め」
(今ニ至る)
「無限に狂っタ糸束が、僕のカラダに巻きついて」
「──────つイにボクは」
「この場から一歩たりとも動けなくなった」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「君、名前はなんて言うの?」
不思議な服装をした少女が、僕にそう言った。
「楓■、
少女が答える。
「私の名前は、瑠■■。荒■瑠■■」
「るーちゃんって呼んで」
「…………ッ!? ゲホッ! ゴホッゴホッ!」
頭痛と吐き気を伴いながら、酷い寝覚めを迎える謎の少女。その容姿はあまりにボロボロで、見るに堪えないほどの生傷が全身を覆っていた。
何故こうなっていたのかはパッと思い出せなかったので、少女はもう少し深く、直近の出来事を思い出そうとした。
しかし、何も思い出せなかった。
「……起きよ」
腹筋に力を入れ、ボロボロで血塗れの上体をゆっくり起こす。
乾いた血のカスが目に入ったので、あまり汚れていない右手でゴシゴシと擦る。
べキッ
「……折れた」
右肘の先から不自然に千切れ、腕の断面が露出する。しかし完全に分離してはおらず、断面から生えた紅い筋繊維のような何かが張りのないロープのように垂れており、取れたはずの腕と結合している。
そしてしだいに紅い筋繊維のようなものは二の腕に格納されると、いつの間にか千切れたはずの右腕は元に戻っていた。
「……こんなんだったっけ?」
正常の概念すらも忘れ、自身の体の異常を目の当たりにしてもさほど驚かなくなってしまった彼女は、とりあえず体が上手く動くか確かめた後、身体を伸び縮みさせながら自身の置かれた状況を考えた。
「…………お腹空いた」
自身の記憶より先に生理的欲求が頭角を現し、とりあえず何か食べれるものが無いかと探し始める。
少女の周辺には、腐り果て異臭を放つ臓物しか存在しておらず、まともに食べれそうな食材は無い。
だが少女はまともでは無かったので、腐り果てた臓物に目をつけると、それを手ですくい取って口元へと運ぶ。
「いただきます」
黒い汁のようなモノが溢れ出しながらも、ムシャムシャと食らいつく彼女。味は全く感じ無いが、溢れ出した体液が死ぬほど臭い上に食感も最悪で、常人が食えばすぐにでも吐き出すレベルの気持ち悪さだったが、少女は気にすることなく頬張り続ける。
「…………ふぅ、…………少し、マシになったかも」
「でももっと食べたい」
少女は臓物を完食し、少しお腹をさすった後、淡く光る街に目を向ける。
少しお腹が膨れたとはいえ、まだまだ満腹とは言い難かった彼女は、明るい街なら美味しい食べ物がいっぱいあると考えた。
「…………あの街に行こう」
即刻決断を下した少女はさっそく街に向けて歩き始める。地面は荒れ果てて非常に歩きにくいが、食欲に駆られた彼女の行動力は凄まじく、身軽さを活かして順調に足を進めて行った。
(私は、誰なんだろう)
暗闇の中を駆け抜けながら少女は思った、自分が何者なのかを。
記憶を無くしたせいで家族や友達の顔すら思い出せないが、この血塗れの格好とボサボサの髪の毛から察するにかなり激しい争いに参加していたことは理解できる。ただ、争いに参加した動機も、目的も分からない以上、過去の自分がいったい何をしたかったのか分からない。
(ま、どうでもいいよね)
執着は無い。もう忘れたから。どうでもいいよ。
結局何も思い出すことなく、そこそこ大きな街にたどり着いた。街灯が点いている割に出歩く人はおらず、道路は所々ヒビ割れており、遠くにはうっすらと炎が上がっている。何かしらの戦闘があったとみて間違いないが、警察の姿すら無いことに少女は不審に思った。
「誰かいませんか〜?」
それなりに大声を出してみたものの、誰も反応しなかった。やはりこの辺に人はいないようだ。
少女は食料を求めて街の中を歩き始める。八百屋やドラッグストア、コンビニ、有名なチェーン店がちらほらと見えてきたが、電気がついておらず、中に人はいなさそうだ。道路には横転した車や、引っこ抜かれてその辺にポイ捨てされた道路標識が散らばり、地面は異様に盛り上がったりクレーターがあったりと、かなり世紀末な状況。
その上、無数の死体がそこかしこに積み上げられ、場所によっては黒焦げになるまで燃やされていたり、全裸で四肢が切断された男女の死体が道路のど真ん中で放置されていたりと、かなりヤバい状況だということが一目で分かった。
ついでに死体も食べてみようとしたが、目の前で蛆虫が湧いてきた瞬間、持っていた死体を反射的に地面に叩きつけた。二度と食わない。
「けど、お腹空いたし……、腹も減った……」
「…………はぁ、そこのコンビニで何か食べよ」
少女は観念したのか、10メートル先のコンビニで食事を摂ることにした。かなり歩いたせいか歩き方がおぼつかなく、フラフラと脱力しきった状態で目的地へと向かう。
入口の前にたどり着き、手動と自動の二重扉を無理矢理くぐってコンビニの中へと入っていく。中にはやはり誰もいないようで、電気もついていない。
「お邪魔しまぁす」
誰もいないことは知っているが、とりあえず言ってみた。案の定、返事はない。
ここまで無人だというのなら、泥棒の一人や二人来ても可笑しくない状況だ。しかし店内は商品で散らかっておらず、レジも壊されていない。この街の住民は律儀なのかと、少女は半分呆れながらコンビニ弁当が置かれている場所へと移動し始めた。
だが弁当コーナーの右あたりから、何やら小さな音が発生してることに気づいた少女は、ゆっくりと忍び足でその場所に近づいていく。
クチャ、クチャクチャ、クチャ……
横から聞こえる咀嚼音、どうやら
「こんばんわ」
気軽に声をかけたが、返事はかえってこない。よほど食べることに夢中なのだろうか。
「もしもーし? 聞こえてますかー?」
「わかるよ?」
「?」
地面に座り込み、何かを咀嚼していた髪の長い女性がついに反応し振り返る。
しかしその女性は想像よりも顔が歪んでいて、想像よりも手足が長く、そして想像以上に化け物じみていた。
「ッ?!」
一瞬、判断が遅れる。
しかしその僅かな瞬間が命取りになることを、彼女は知らなかった。
リーチの長い腕が少女の首を捕え、その細い腕からは想像出来ないほどのパワーでコンビニの壁に叩きつける。
少女は両手で敵の細い腕を掴み、へし折ろうと力を込めたが、逆に自分の腕がへし折れた。
「な…………キモ…………ッ!」
「うんうん、わかるよ?」
今まで目を閉じていた化け物が開眼し、首を左右に振りながら大きく口を開ける。
挑発としか思えない行為だが、怒りに身を任せるにしても、力の差で圧倒的に負けている。
指先や足先から血の気が引き、首は青白く変色していく。時間が経つほど呼吸はドンドン荒くなっていき、止まらない吐き気とストレスで思考すらも掻き乱される。
「ぐぇ」
何も出来ない、何も出来ないまま死んでいく。それは夢で見たあの少年と同じ末路を辿るということだが、それを許すことなど少女には出来ない。
少女のプライドが己の無駄な死を許さなくとも、現実は容赦なく少女を死の運命へと連れてゆく。もう悲鳴すらも出せなくなり、頭の中が徐々に真っ白になっていくのを感じると、流石の少女も自身の運命を悟り始めた。
結局、自分もくだらない人生の中で死んでいく人間なんだと……
(大丈夫大好き大嫌いアイしてる)
?
聞き覚えの無い声が頭の中で響いた瞬間、急に意識が遠のき始め、次第に瞳も閉じ始める。このまま失神してしまえば私の死は免れないと分かってはいるものの、抵抗すら出来ないまま少女は力に流されていく。
閉じた瞳を再び開くと、そこには暗黒の世界が無限に広がっていた。どこもかしこも闇に塗れ、正しい平衡感覚を忘れてしまいそうになるほどの闇が私の周りを包んでいる。
(アイがアイをアイでアイすべき)
((((■■■■■ちやン))))
果てなき闇の中で、再びあの子の声が聞こえる。
「……だァ………………レ?」
掠れた声で少女は問いかける。
(私は君がすき)
(だから貴方は私のことが、嫌い
スノーノイズやハウリング音が入り交じったような、非常に不快な音声がじくじくと鼓膜を刻み続ける。少女は暗闇の中で必死に耳を抑えるが、何故か遮断することが出来ない。
それでいてこの声を聞き続ければ聞き続けるほど、孤独感、人間不信、被害妄想、幻聴・幻覚、自我崩壊がたてつづけにおそいかかり、逃げたくてにげたくて仕方がなくなって、ニげられるならいっそのこと死んでもいいとすら思えてきて、死んでしんでシんで生き返らず誰もいない世界へ逃げてにげてニげて■げてニげてにげて逃げt逃げることは許されない。力を持つなら責任を取れ、無能は死ぬまで努力しろ、逃げ続けてるお前に価値は無いないナい■いナいn無力な私は貴方無力な貴方は私私は貴方で君と僕は誰で誰で誰だ! 誰だ! 誰だ! お 前 は 誰 だ ? お前は誰だ? お前は誰だ? お前は誰だ? お 前 は 誰 だ ? お前は誰だ? お前は誰だ? お 前 は 誰 だ ?
何も見えない暗闇の中で、ワタシアナタの
記憶を失い、生きる意味を忘れ、自分の価値すらも見いだせず、"私"がいったい誰なのかも分からない"私"に、生きる意味は、生きる価値は、生きる理由は、ありますか?
─────きっと、無いんだろうな。カラッポの人間に、何も積まれてない自分に、生きる意味も、価値も、理由も、無いんだろうな。
(あります)
(…………え?)
思いもよらない言葉に不意をつかれ、少女は素直に驚く。今まで真っ暗だった景色が一瞬だけ白く煌めき、それと同時に謎の声の主の姿が少しだけ目に映った。
白いワンピースに麦わら帽子を被った、可愛い少女であった。
再び世界は闇へと還り、ワンピースの子の姿も闇の中へ溶け込んでいく。ほんの一瞬、ほんの数瞬だったが、あのとき私は生まれて初めて、"可愛い"と思った。
無性にココロが、ドキドキした。
ちょっと容姿が見えただけで人を好きになるなど、烏滸がましいと思う自分もいた。だケドそれ以上に、彼女の綺麗な瞳が、艶やかな肌が、可愛らしい服が、人外と思しき特殊な器官が、夏のほのかな温もりを感じさせるその笑顔が、ワタシをボクをオレをキミをときめかせた。
(私は
をアイしてる)
(だkaら
ワンピースの子はそう言うと、カツン、カツンと音を鳴らしながらこちらへ向かってくる。視界には一切映らないが、彼女が何をしようとしているのか何となく理解出来た。
ワンピースの子は少女の胸に手を当てると、生暖かい液体のようなモノを流し込む。それは胸から徐々に心臓へと浸透していき、そして全身へと広がり、循環する。
特に吐き気や気持ち悪さも無く、少女は彼女から流し込まれた"何か"を、素直に受け止めた。
(ワタ死の力は、孤独を力に変える力*1)
(
(…………ありがとう)
少女は素直に感謝すると、ワンピースの子はニコッと笑った(見えないが)後、闇の奥深くへと消えていく。
と思っていたが、ワンピースの子は歩みを止め、振り向かずに何かを告げた。
(最後に一つだけ)
(アなタはだァレ?)
(私は…………誰なんだ?)
記憶の無い少女? 食欲旺盛な女の子? 最近初恋を経験した人?
違う、それらは全部レッテルだ。自信を表現する為の要素でしかない。もっと大事な、己の根源を象徴する何かが、きっと私の中にあるハズなんだ
(私の…………名前は?)
(■■■■■■)
名前を口にした途端、辺り一帯が激しい音を立てて崩れ始め、世界は一旦終わりを告げる。
外の世界に引っ張られ、■■■■は空中を浮遊しながらも、彼女の笑顔を思い浮かべていた。
(───────また、会おうね)
■
「分かるよ?」
目が覚めると、私はあのコンビニの中にいた。もちろん、首を絞められたままだ。
だが不思議と痛みは無く、息苦しさも一切無い。それどころか、人生で一番快調かもしれない。
■■■■は化け物の細い両腕をゆっくりと掴む。さっきは折れなかった、しかし今の私は以前とは違う。
私は"名前"と、"生きる意味"を取り戻したのだから。
「くッッ! たァばレ!!!」
■■■■は異形妖精の細い両腕を力強くへし折り、やっとのことで拘束から脱出することに成功する。
首にできた痣を指でなぞりながら、呼吸を整え、ゆっくりと立ち上がる■■■■。紅蓮滾る殺意に身を焦がし、少女とは思えないほど歪んだ目付きで異形妖精に接近する。
「───俺はおまえに殺されかけた」
「でもそのおかげで、気になる人ができた」
「わかる?」
■■■■は笑顔を保ち、それでいて目付きだけは歪んだまま、わかるよ?妖精の目の前に立っている。
しかしその後、■■■■は照れ隠しをするように俯きながら、小さく声を発した。
「…………つまりね、感謝してるってこと」
「いきなり殺そうとしてきたことはムカつくけど、………………ありがとう///」
■■■■は恥ずかしがりながらも両手を大きく水平に広げ、ハグを求めた。ハグとは万国共通の和解の印である。彼女は殺意に満ちていながらも、和解の意思を表示したのだ。
「わかるよ?」
そしてわかるよ?妖精も同様に、両手を大きく水平に広げる。やはりハグは万国共通、人だろうと異形だろうと関係ない。
「わか……る? ///」
「わかる…………よ?」
二人は両手を広げながらお互いに近づき、互いに抱き寄せる。わかるよ?妖精の方が身長が高いせいか、わかるよ?妖精の腰に私が抱きつく形となってしまったが、そこらへんは些細な問題だ。
大事なのは、異種族同士の和解、相互理解である。過ちを許しあい、関係を築き、共に歩む、それが知的生命体である私達が進むべき理想であり、そしてその理想は今、成就したのだ。
「─────なんてな」
「わかるよ?」
抱き合って僅か数秒後、■■■■の拳がわかるよ?妖精の脇腹に直撃すると同時に、■■■■の顔面にわかるよ? 妖精の拳が叩き込まれる。両者共に殺意を込めたパンチを喰らったため、二人は壁を破壊しながらお互いに反対方向へと吹き飛んでゆく。
「ヒヒッ、あははははははははははは!」
拳によって弾け飛び、バラバラになった■■■■の頭部だったが、飛び散った破片が互いに引き寄せ、一つの肉の塊を構成する。その後、首の断面から棘の生えた紅い糸の束が首から下の部分と接続し、■■■■は何事も無かったかのように復活した。
「あははははははははははははあ〜〜あ」
「失敗した」
さっきの衝撃で唇が切れ、口内に溜まった血を「ペッ!」と吐き出しながらも自身の体の調子を確かめる■■■■。頭を砕かれたのも、化け物を本気で殴ったのも初めてだったが、ここまでの結果になるとは予想だにしなかった。
おそらくこれ程の力を出せるようになったのも、再生能力が向上したのも、きっと
「●●●●」
「…………煩い」
心臓が血液を全身に送る度に、心臓に激痛が走る。治したはずの身体に不調が見られ、■■■■は疑問に思ったが、気にしないことにした。
「…………はァ、次はちゃんとぶっ殺す」
■■■■は驚異的な跳躍力で飛び上がり、コンビニの上を飛び越しながら死体まみれの大通りに着地する。
今までの自分なら必ず失敗していたであろう大跳躍と着地、再生能力の向上が自身の運動能力の向上へと繋がったのだった。
辺りを見回し、わかるよ? 妖精の姿を探す■■■■。だが不思議なことに、彼女の姿は見つからない。
「………………いない?」
放置された車の下や、崩壊したコンビニの近くを探してみたが、やはりどこにもいない。
「消えた?」
死体の山の中にも、いない。
「わかるよ?」
「ッ!?」
背後から気配を感じた■■■■はとっさに右脇腹を右腕でガードする。が、わかるよ?妖精の足から放たれる強烈な一撃に耐えられず、■■■■の体はくの字に折れながら死体の山の中へと突っ込み、まるごと吹き飛ばされる。
「うんうん! わかるよ?」
「────」
右腕の関節が破壊されたが持ち前の再生能力が既に修復を開始し、■■■■は血を流しながら立ち上がる。
(気配が無かった。────能力者?)
『一人ノ夢』が発動した■■■■は筋力の増強のみならず、動体視力や超感覚といった身体のあらゆる機能が向上しているが、それにも関わらず気配を察知出来なかったことを考えると、やはり自分と同様の能力者である可能性がある。
『気配を消す能力』、確かに厄介だがタネが割れてしまえばさほど問題ではな
「キョッキョオッッ!!」
「?!」
また背後からの攻撃に■■■■は反射的にしゃがみこんだ後、立ち上がりと同時に後ろ蹴りをくらわす。さっきまで目の前にいた敵が一瞬で背後に回り込んできたことに■■■■は驚愕する。だが、一瞬で背後に回り込める俊敏さを持っておきながら私のヤケクソ後ろ蹴りが当たるのはどうなのかと、疑問に思う。
だが実際の答えは意外とシンプルであった。シンプル故に、最悪の答えだった。
「キョオ〜〜↓」
「うんうん、わかるよ?」
右手と左手が三日月のような形をした化け物が、わかるよ?妖精に起こされている。この様子的に、あの三日月お化けが気配を消す能力を持っていることが確定した。
最悪だ、二対一だ。あの見た目的にアイツらは同族で、仲間のピンチを助けに来たのだろう。といってもピンチなのは最初から私の方で、アッチはむしろイケイケなんだが……
「ガルルルルッ!!」
「まだいんのかよ!?」
今度は見た目がかなり獣っぽい化け物が四足歩行で距離を詰めながら、顔面に目掛けて強靭な爪を突き立てようとする。黒く巨大な爪の先端が僅か数センチまで近づいていたが、■■■■は瞬間的に見切った後、伸ばされた化け物の右腕を掴み、合気道のような要領で1回回転してからわかるよ?妖精達のいる方向へとぶん投げる。
速度の乗った重力溢れる物体が二体の化け物と衝突し、ボーリングのピンのごとく弾け飛ぶ。
「はぁ…………はぁ…………! 3体もいんのか」
ただでさえ面倒くさそうな敵がさらに増え、ついに化け物トリオが目の前で結成される。これはもはや一人でどうにか出来るレベルなのかと苦言を申したい気分だが、生憎■■■■は記憶が消えて以来ボッチである以上、その願いが叶うことは無い。
「…………? 3…………体?」
3体の化け物が体勢を立て直すところを黙って見ていた■■■■だが、今数えたら何故かもう一体増えていた。
1つ目のロボットにメイド服着せたような怪物が、平然とあの3体の中に紛れ込んで何か会話をしていた。はっきり言って意味不明だし、いったいどこから現れたのかも分からない。
ただ一つ言えるのは、ただでさえ不利な状況がさらに不利になったことだ。
「パワー負けにも程があるだろ…………って」
落胆した■■■■の前に、突如空から、土から、建物の中から、化け物達が続々と集合し始める。
「どうかしましたか? 皆さん」
集まった化け物達の中で最も小さい化け物が日本語で事情聴取を始めた。
(………………はい?)
「なんかね、わかるよ?妖精さんがさっき食事してたらしくて、それを邪魔したヤツがいるんだって」
ギクッ、と古典的な反応が飛び出る■■■■。マズイ、このままだとバレる。
(というか、あの化け物の名前ってマジでわかるよ?妖精なんだ。………………どこが妖精?)
メルヘンの欠けらも無い化け物達が己を妖精と自称してることは後にして、私は今、最大のピンチを迎えている。
巨大なハンマーを持った化け物、2頭身で顔面が異様にデカい化け物、常に笑い続けている化け物、カブトムシに似た化け物、無数の目玉を持つ化け物、そして日本語が喋れる化け物が複数、合計なんと14体の化け物が私の目の前で屯している。
一人でどうにか出来るレベルをゆうに超えており、■■■■は「フッ」と少し笑った後、妖精達に背を向け静かに歩き始めた。
(逃げよう)
流石に無理、いくらあのわかるよ?妖精を殺したくとも、こうも状況が悪化してしまったらどうしようもない。さっさと逃げて、次の機会を待つべきだ。
「もしかして、今逃げようとしてるあの人ですか?」
「そうだよ」
「脳汁! 脳汁るるるるパァティ──!!!」
「…………さっきやったばかりなのにまたやるの?」
「とか言いつつ、ホントはやりたくて仕方ないんでしょ?」
「殺せぇ! 今すぐ殺そうぜェ!!」
ヤケにノリノリな妖精達を前に小さな妖精が手を挙げ、その場をおさめる。その後少し間を空けてから、小さな声でポツリと呟いた。
「…………あの人は私達のターゲットではありませんが、仕方ありません。私達の脳汁パーティーの為に、あの人には死んでもらいましょう」
「「「いええええええええええええい!!!」」」
狂喜乱舞する妖精達、それを背に無言ダッシュを始めた■■■■だが、彼女らは■■■■を見逃さない。
「脳汁が逃げたぞ! 全力で追えぇぇぇぇ!!」
「イヒヒヒヒヒヒ!!!」
「1匹も逃がすなァァァァ!!!」
(元から1匹だが!?)
必死に逃げる■■■■を7体の妖精が追いかける。これがメルヘンチックなら微笑ましいことこの上ないが、現実はメルヘンではなくバイオハザード、またはスプラッタ系のホラー映像だ。
■■■■は頻繁に角を曲がって追跡を逃れようとするが、鼻が利くのか目が良いのか、なかなか視界から外れることが出来ない。『一人之夢』のおかげで追いつかれはしないが、スタミナが切れたら終わりだ。再生能力である程度の傷は許容できても、継続的に破壊され続ければいくら再生能力があろうと多分死んでしまう。
まだあの子に会ってないのに。
「絶対逃げ切る」
またあの子に会いたいと、あの時そう思ったのなら、私は会いに行くべきだ。
ちょっとまだ怖いし、正体不明だけど、会ってまた話をしたい。
何が好き? 趣味は? 最近ハマったものは? 今までで一番楽しかった時期は? 好きな人は? 心の底からケッコンしたいと思った人は? 女同士でも恋愛出来る? とか、
何でもいい、ただ君の声が聞きたい、キミのそのノイズ混じりの不協和音を堪能したい。 その屈託のない笑顔を見ていたい、触れたい。
私はただそれだけのために、ただそれだけを目標として、たったそれだけのことを生きる糧として私は、
「このくだらない世界を生き抜いてみせる」
■■■■はビルの壁に足をかけ、その後両足だけで垂直に壁を駆け上がっていく。
それに続いて化け物妖精達も自慢の羽で空を飛び、■■■■を追従する。飛べない■■■■の背後に、7体の飛べる化け物が距離を詰め始め、迫り来る。
「私の名前は『
「将来の夢は、彼女に会うこと」
決意マリサが飛ぶ。
「邪魔をするヤツは、許さない」
体を反転し、空中から奇襲をかける決意マリサ。飛べない彼女を煽るように追い続けていた化け物達は、決意マリサの突発的な行動に気を取られ動揺するが、それは決意マリサにとって紛れもないチャンスであった。
「ふんッ!」
決意マリサの手刀が化け物全員の全身を一瞬のうちに切り刻み、貫通し、バラバラに引き裂く。慈悲はなく、ただ生きる為にケモノと化した決意マリサの強さは圧倒的であった。
決意マリサが地面に着地したと同時に、大量の血液や臓物、体のパーツなどが雨のごとく降り注ぐ。血の雨の中で立ち尽くす彼女の目は無限の闇で濁っており、この世界で生きるには相応しい目付きと風貌であった。
「ノう…………じル!」
バラバラにされたはずの化け物がウネウネともがき苦しみながらも、化け物は未だ脳汁を求めている。
決意マリサは呆れていたが、化け物の全身が徐々に修復され回復していくのを見て考えを改めた。
「……再生持ちか。自分で言うのもアレだが面倒臭いなソレ。完全に動けるまで後2分ぐらいか?」
自分なりに予想をたて、その場から立ち去ろうとする決意マリサ。完全に再生される前に逃げてしまえば、ヤツらは見失って追って来れないはずだ。
「善は急ゲッ?!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……!」
再び走り始めたマリサの前に現れた謎の少女。何のつもりか、道路の真ん中で土下座をしながら誰かに謝り続けている。意味深な光景だが、少女の尾骶骨付近から生えたワーム型のガトリング砲の銃口がこちらに向いてなければ、まだ意味深で済んでいた。
無数の銃弾が放たれるタイミングを読み切ったマリサはスライディングで銃弾を回避し、ガトリング砲の射程範囲外である真下から強烈な蹴りを顔面に叩き込み、少女もとい異形妖精の頭部を弾き飛ばす。
「バリエーション豊富かよ……!」
すぐさま立ち上がり、再び逃走を開始するマリサ。路地裏やビルとビルの間の狭い隙間をくぐり抜け、角という角をジグザグに曲がっていく。
抜けた先には2車線の道路が広がっており、ヒトの死体が積まれていること以外は特に異常はなく、化け物妖精達も追ってこない。
「…………逃げ切れたか?」
3秒ほど背後を見つめた後、決意マリサはホッと胸を撫で下ろす。
ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!
「…………そういえば腹減ってたんだった。忘れてた」
アドレナリンで誤魔化していた空腹がここに来てドッと溢れ出し、決意マリサはウロウロと食料がありそうな店を探し始める。さっきみたいにコンビニがあればいいのだが、どうやらこの辺はファッションやらゲーセンやらパチンコといった娯楽施設ばかりで、飲食店は見られない。もう少し歩けば見つかると思うが、正直これ以上の運動は限界である。
「また、死体を喰うしか……」
マリサは必死に死体の山のところまで歩き、僅かな力を振り絞って死体から腕や足をもぎ取り喰らいつく。臭いは最悪だが味は感じないので、ひたすら腹の中に肉を詰めていく作業と化している。
また蛆虫が湧いていたが正直気にする余裕もなく、ひたすらに死体の山を崩しながら肉を肉を肉を詰めていった。
「…………お?」
崩れて地面に雪崩のごとく広がった死体の山の中にたった1本、とてもとても白く綺麗な腕が埋もれている。
「当たりか?」
今までで一番新鮮さを感じる腕に興奮を覚えたマリサは、さっそくその白く美しい腕をフルパワーで引っ張り、死体の山の中から引きずり出す。
「何するんですかぁ?」
「……へ?」
死体が喋った、と思った時には既に、決意マリサの右胸にナイフが一本突き刺さっていた。
「いッッ!! …………たいと思いきやそうでもnふごぉ!!」
回し蹴りが右頬に炸裂し、決意マリサはゴロゴロと地面に転がっていく。その過程で白い肌の少女の腕から手が離れ、ポトリと地面に落ちた後、当たり前のように起き上がった。
「かハッ! ゲホッゲホッ! おヴゥェ! …………はァ、痛てぇな。痛い痛い痛い凄く痛い、凄い蹴りが痛い。頭ジンジンするし、まさか刺突より打撲の方が痛いとは思わなかった」
「…………で、お前は誰だ? 化け物の仲間か?」
決意マリサも右頬を抑えながら立ち上がり、白い肌の少女を睨みつける。変に顔面が崩れていたり、羽が生えていないところを見ると普通の人間っぽいが、出会い頭早々にナイフ差し込むヤツは大抵ろくな奴じゃない。仲間の可能性がある。
「私はトガ、トガヒミコ。弔くんの命令で周辺の化け物の様子について調べていたのです、が…………アレ? アナタ、どこかで見たよう…………な?」
「もしかして、私のこと知ってる?」
「知ってるような…………知らないような?」
マリサの顔をまじまじと見つめながら、トガヒミコは首を傾げる。あの様子的に何かしらの面識があったっぽいが、生憎自分は記憶喪失なので全く思い出せないし、あっちもあっちで思い出せないようだ。
「…………なんか、すまなかったな。腹減ってたからつい……」
うっかり食べそうになったことを反省するマリサ。それを見て、トガヒミコはクスクスと笑う仕草を見せる。
「いえいえ平気です! ただ、一つ聞かせてほしいのですが、もしかしてアナタさっきまで戦ってましたか?」
トガヒミコの目付きが変化する。
「血のニオイが…………凄ぃ……するんですけどぉ……! その見た目といい金髪といい、もしかしてェ、もしかしてなんですがァ、
「あの方?」
恍惚とした表情で何かを期待しているトガヒミコに対し、あの方にピンと来ないマリサ。
「あの方がどの方なのかは知らんが、多分違うと思うぞ。俺、記憶失くしたし」
マリサはあっけらかんと答え、「んじゃ」と言いながら立ち去っていく。何を期待しているのか微塵も分からなかったが、あの表情を見て理解した。
(あァ、コイツも頭狂ってるんだな)
ベクトルが違うとはいえ、同じ狂人同士だからこそ理解出来る"普通"と"異常"の違い。異常者特有のオーラを感じ取ったマリサは出来る限り彼女から遠ざかろうと早足で歩き始める。
「アナタの名前は結依魔理沙、ですよねェ?」
「…………」
決意マリサは足を止めた。
「やぁっぱり!! 結依魔理沙ちゃんだァ!! やった! やった! やった! やったァァァァ!!! やぁァァァっっと会えたァァァァァァァ!!! 」
「…………そんな喜ぶ?」
喜びが爆発しピョンピョン飛び跳ねるトガヒミコと、それを振り向きざまに見てドン引きするマリサ。いったい何が彼女をそこまで喜ばせているのか理解できない。
「ワタシ! ずぅぅぅぅぅっと探してました!! 雄英体育祭でボロボロのズタボロになったアナタを目にしてからずっと!! ずぅぅぅぅぅぅぅっっとっ!!」
「アナタに会うためにワタシはヴィラン連合に入りましたし!! ヒトもたくさん殺しました! これもそれも全てアナタの為!! アナタの為なんです!!」
「ワタシ、アナタが好きです。とても大好き。愛してます。血と汗と涙を流して頑張るアナタがとても愛おしいのです。アナタと結婚したいですし、ずっと一緒にいたいです。アナタのそばにいたいずっといたいいっしょでいたいはなれたくないひとつになりたいひとつになりたいアナタそのものになりたいなりたいなりたいなりたいなりたい」
「───────なので」
「ワタシ、アナタを殺します」
目の色を変えた殺人鬼がマリサに接近し、右手にナイフを持ち襲いかかる。人とは思えぬ俊敏さに驚いたが、反射的に相手の右腕を掴むことに成功した。
「……もっとマシな口説き文句が聞きたかったんだが」
「ワタシ口下手なのでムリです。けど、手先は器用なんです!」
掴まれた右腕を起点にした飛び背面蹴りが顔面に炸裂し、マリサは気を失いかけるが何とか踏みとどまる。が、腕を離してしまった故にフリーとなったトガヒミコが体勢を崩したマリサにタックルと同時に注射器のようなモノを脇腹に突き刺す。
転倒するマリサ、そして注射器内に溜まったマリサの血を眺めうっとりしつつも、追撃を忘れないトガヒミコ。トガの接近と同時に繰り出した蹴りが腹部のど真ん中に直撃し、トガヒミコは後方へと飛ばされる。
その隙に立ち上がるマリサ、しかし首の辺りに妙な違和感を感じる。触ってみると首の片側だけが変に出っ張っており、どうやら首の骨が殺られたらしい。痛みを感じないため気づくのが遅れたが、まさか首の骨を折るほどの脚力とは思ってもみなかった。
「……油断した。ただの頭のおかしい人間だと思っていたが、そうじゃないらしい。…………何だったか、"ヴィラン連合"なるものに所属してるらしいが、こんなのばっかなのか?」
ため息をつきながら自身の首を切断し、再生能力で頭部を再構築したマリサは死体が散乱する場所へと移動する。
蹴り飛ばされたトガヒミコは死体の山に激突し、派手に分散したようだ。だが死体に埋もれたのかトガヒミコの姿は見当たらない。
「どこに行った?」
ある程度見渡したがトガヒミコの姿はどこにも無い。周囲には40をすぎたオッサンの死体や、女学生の死体、小学生の死体、20代の男女の死体が複数あるが、どこにも見当たらない。暗くて見ずらいだけなのか分からないが、もう少し死体の下の方までくまなく探し始める。
「いなくなっ…………た?」
「いますよ?」
背後から聞こえる狂人の声、咄嗟に振り向くマリサだったが、左眼にナイフを刺され視界が真っ赤になった直後、トガヒミコはマリサの体を押し倒し馬乗りになって押さえつける。
紅く染まった視界の中には死体であったはずの20代女性の姿が、そして染まっていない視界の方にはトガヒミコが映っている。
半分ほど溶けかけていた20代女性の姿は泥と共に消失し、目の前には全裸になったトガヒミコの姿が自分の体をまたがっていた。
てっきりこういう力は化け物専用だと思っていたが、そうでは無いということをこの女は証明した。
「お前も…………能力者か……ッ!」
「いひひッ♡ ワタシの個性は『変身』! 血を吸った相手の姿になれます! 死体から血を吸うのは初めてですがご覧の通り♡」
そう言って喜んでいる隙に脱出を試みるマリサだったが、腹部に乗られているため足が使えず、両手は尋常じゃない力で抑えられ微塵も動かない。
「……ところで、アナタについて少し疑問何ですが、アナタ、さっきの蹴りで確実に首、折れてましたよね?」
ギリギリとマリサの両腕を押さえつけながら、話を続ける。
「複数個性の所持者なのは体育祭で知っていましたが、もしかしてェ、"不死身"の個性とかも持っているんですか?」
「体育祭で明らかに死んでも可笑しくない攻撃をくらって生きていたのは、不死身だったからなのでしょうか」
「だとしたら、アナタとワタシって、最高に相性が良いと思うんです。だってね、血を吸って殺したいワタシと、死なないアナタ。お似合いだと思いませんか??」
にこやかに笑う彼女、その姿は可愛いというより妖艶で、危険な香りを際立たせる。
ドン引きのあまり終始無表情のマリサであったが、無言のまま唇を近づけてくる彼女を見てさらに焦り始めた。
「おい待て、止めろ。落ち着け、私一応女!!」
「関係ありません。今や世界はLGBTに寛容的です。誰も拒みはしません」
「そういう問題じゃ」
制止させようと必死に声をかけるマリサだったが、トガヒミコには通用しない。最悪の状況を回避するために全力で首を振るマリサであったが、それをウザったいと思ったのか頭突きでマリサを黙らせた後、左眼に突き刺さっていたナイフを歯を使って引き抜き、そのままマリサの首に突き刺す。
首を動かせなくなったマリサに対しトガヒミコは狂った表情で顔を近づける。
ファーストキスは血の味がした。
次回、マリサが■■■ッ!! この■■■■■ッ!!