続・最強の魔法使い(自称)が暴れるそうです。   作:マスターチュロス

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妹紅編3が出たお


えーりんが輝夜を量産してた理由が分かるお



???編:その3

 

 

 

 食材調達および服の確保のため、マリサとトガヒミコは大型スーパーに潜入。異形たちが暴れ回ったせいか、ショッピング用のカートや商品棚は全てなぎ倒され、潰れた商品やガレキがあちこちに散乱していた。

 

「大型スーパーって、だいたい1階が食料品で2階が服とかバックとか売ってるよな?」

 

「場合によりますけど、ここはそうっぽいですネ」

 

「そうか」

 

 マリサはキョロキョロと辺りを見回した後、トガの方へと振り返る。

 

「じゃ、お前は2階で俺は1階。終わったらここに集合でいいか?」

 

「嫌です」

 

「……」

 

 断られると思っていなかったせいか、マリサの脳内がフリーズしかけたが、徐々に回復し再び脳を回転させる。

 

「二手に別れたほうが早くね?」

 

「ワタシ、化け物とは戦いたくないデス。だから1人は嫌です」

 

「……戦わずに潜んでればいいだろ。お前の得意分野じゃねぇか」

 

「万が一のためデス。それに二人で動くことのメリットもちゃんとありますよ?」

 

 二人で行動したがるトガに対しマリサは少々困りつつも、安全面を考慮すれば1人より2人の方が良いことも理解した。

 それにトガは私と違って不死身ではない。あまり効率を重視しすぎるのも良くないのかもしれない。

 

「……分かった。で、どっから行く?」

 

「2階です!!」

 

「ちょ!」

 

 そう言うとトガはマリサの腕を掴み、そのまま近くのエスカレーターへダッシュでたどり着くと、怒涛の勢いで駆け上がっていく。

 

「早いッて!!」

 

「ワタシ、おトモダチとデートするの久しぶりデス! 超久しぶり! テンション爆アゲです!」

 

「いやデートじゃねぇから!」

 

 トガのテンションに振り回されながら2階を走り回る2人組。店内の照明は何一つ点灯していないため、辺り一面真っ暗で薄気味悪い。その上誰かが落としたスマホからずっと国民保護サイレンが鳴り続けており、危機感と焦燥感が常時煽られる。が、はっちゃけたトガとその行動に頭を悩ましているマリサにとって特に意味はなかった。

 

「あ! 見てください! ワンピースです! カアイイ♡」

 

「……着てみれば?」

 

「制服の方が好きなので着ません」

 

「えぇ.」

 

 可愛い服を手に取ったトガ、だが3秒後には地面に投げ捨て、そしてまた新しい服を見つけては投げ捨てるを繰り返す。

 決意マリサはかつてないほど死んだ瞳でその様子を見守っていたが、飽きが来たのかそそくさとその場から離れようとした。

 

「逃げちゃダメです」

 

「……後ろに目でもついてるのか?」

 

「ついてません。勘です」

 

「嫌な勘だ……」

 

 逃げられないことを悟ったマリサはその場に座り込み、胡座をかいて様子を見る。

 服の扱いはさておき、楽しげな雰囲気で服を選ぶトガを見て、マリサは何気なく自分と照らし合わせた。

 

「……いいなァ」

 

 心の底から、マリサは言葉を静かに吐き出す。自分が何故、彼女を羨ましく感じたのか分からないが、自分には持っていない何かを持っている気がした。

 ……彼女と同じことをすれば、欠けた何かを埋められるだろうか。

 

「暇だから俺も服選ぶ」

 

「お、遂にやる気を出しました?」

 

「暇だからな」

 

 何もしないよりマシだと思い、マリサはトガと一緒に服を選び始めた。何が可愛いとか、何がカッコイイとかの基準が微塵も分からないが、とりあえず気に入ったモノを選ぶ。

 

「これどう?」

 

「ダサいです」

 

「早くね?」

 

 青のダメージパンツ、黄色い英語Tシャツ、紫の革ジャン+よく分からないチェーンのセットを選んだマリサだったが、拒否られた。

 

「センスが厨二病拗らせた男子中学生です」

 

「男子中学生……」

 

 女子ですらないことに我ながらショックを受けた。

 

「マリサちゃんの服はワタシが選んでおくので、そこら辺で遊んでてください。邪魔です」

 

「邪魔……」

 

「お前が逃げちゃダメだって言ったんだろが」とか、「何ためについてきたんだ」など言いたいことが次々と浮かび上がってきたが、ファッションセンスのダメ出しが効いたのか、「あ、はい」しか出てこず、そのままレディースのゾーンを抜けて靴が並べられているゾーンへと移動した。

 

「柄は良いはずなんだが……」

 

「……はァ」

 

 マリサは靴のデザインを横目に見ていたが、特に好きなデザインも拘りもなかったため、最終的にトガの服選びが終わるまで待ち続けることにした。

 親の買い物に無理やり連れてこられた息子のような気分だったが、この何とも言えない虚無感が彼女の雰囲気と似ていて少し顔の表情が解れる。

 

(今なら彼女に会えるかもなぁ……)

 

 一瞬、ズキッとした痛みが心臓のあたりで発生したが、胸をさすった瞬間収まっていく。マリサは胸を見ながら不思議に思う。

 だがそれ以上に、手の震えが止まらないことに気づいた。手どころか足、顔、いや全身が、今までで一度も感じたことが無いほどの強烈な冷気によって震えている。

 

(何……だこれ?)

 

 突如発生した冷気を感じ取り、マリサは冷気の発生源を探し始める。が、それらしきものは見当たらず、冷気は徐々にこの空間を侵食し始めていた。

 

「トガ! 敵が来てる! いったん逃げるぞ!」

 

「待ってください! まだ選び終わってないんデス!」

 

「言ってる場合か!」

 

 未だ服を手放さないトガを服ごと連れ出し、冷気が出た場所とは真逆の位置にあるエスカレーターの方向へと走り出す。

 

「服はある程度持ったか?」

 

「15着しか……」

 

「十分じゃねぇか」

 

 こんもりと服が積まれた買い物カゴを持ちながら、エスカレーターを勢いよく下っていく2人組。目的の半分が達成した以上、後は退路を確保しつつ食料を漁るだけでいい。

 今はとにかくあの場所から離れることが優先、そう思い行動したが、遅かった。

 

 長いエスカレーターの下り先に見えたのは、全身が氷で構成された謎の騎士。2、3mほどの巨大な体に加え、氷で出来た4本の足と、ブレードと化した2本の腕、極めつけは顔面全てが口といっても過言ではない異様な有様。そして常時開きっぱなしの口らしきパーツの中に、正八面体の氷の結晶が浮かんでいる。

 

 明らかにヒトではない、異形だ。

 

「マリサちゃん!?」

 

 トガの呼び声よりも速く、マリサは氷の騎士に接近し拳を振りかぶった。

 

 たった数度しか異形と戦っていないが、一つだけ、化け物と戦うことにおいて大事な知恵を知っている。

 それは"即時即殺"、時間をかけずに最短最速で敵にトドメを指すこと。でなければ仲間を呼ばれてしまい、事態はさらに悪化する。

 

 今までの僅かな経験から導き出した結論を元に、マリサは全力で拳を叩き込む。並大抵の敵なら胴に風穴が開くレベルの一撃を繰り出し、マリサはその衝撃でやや後ろに後退しつつ、拳の手応えを感じ取った。

 

「……?」

 

 殴った瞬間、マリサは違和感を感じた。かなり本気で殴ったつもりが、想像よりもパワーが伝わってこない。普段なら顔面の皮が限界まで引き伸ばされるほどの衝撃と、それに見合うエクスタシーが感じられたはずだが。

 

 マリサの一撃で氷の騎士はで2mほど後ろに下がったが、傷は何一つ見られず、本人も殴られた部分を気にするような素振りは一切ない。

 全く効いていない。

 

「値=最強」

 

 常時開きっぱなしの口からいったいどうやって声帯を震わせているのか分からないが、化け物から発せられた声は酷く無機質で冷徹だった。

 2つのブレード状の腕の先端が重なり合うと、青白い光の玉が煌めき始める。あの時感じた異常な冷気と全く同じモノがフロア全体を満たし始め、光が明滅する。

 

「逃げろトガ!!」

 

「3、7、5、6、4」

 

 トガヒミコと決意マリサは下ってきたエスカレーターを再び登り始めるが、氷の化け物は照準を変えることなく狙いを定める。

 

「x⁴+y⁴=z⁴」

 

 化け物から放たれた淡い水色の光はエスカレーターに直撃すると急速に凍りつき、一瞬のうちにして巨大な氷の結晶を形成する。

 

「……セーフ」

 

 間一髪回避したマリサ達。だがエスカレーターは完全に凍りつき、もう二度と使用できない。

 

「エスカレーター、ダメになっちゃいましたね」

 

「……問題ない。1階に降りる手段はいくらでもある」

 

「が、足止めは必要だな」

 

 マリサはトガに背を向け、肩を解すように腕を回し始める。逃げる気配は一切無く、戦う意思を示したマリサに対し、トガは低く声を唸らす。

 

「戦うつもりですか?」

 

「もちろん」

 

「死にますよ?」

 

 トガの言葉が胸に刺さる。別に、今ここで戦う理由はほとんど無い。ただそこに道があったから、その道を歩いているだけ。真っ当な理由は無い。

 異形を殺す、たとえそれがハイリスクノーリターンな行為だろうと、それが私の使命であり、それが私の為すべきことであり、私の夢を叶えるための第1歩だ。

 

 すきなものがないんだから、それしかいきるみちがない

 

「大丈夫。俺は死なないし、負けない」

 

「ホントですかァ〜?」

 

「ホントホント」

 

「……じゃあ、ワタシもついていきます!」

 

「は?」

 

 コロッと態度を変えたトガに、唖然するマリサ。

 

「死にますよ?」

 

「それはワタシのセリフであってマリサちゃんが使っていいセリフではないデス」

 

 トガは冷静にツッコミを入れた。

 

「それはさておき、負けないんですよね?」

 

「……まァ知らんけど」

 

「じゃあついていってもいいですよね! だって、勝てるんでしょ?」

 

「……」

 

 マリサは潔く諦めた。この時のトガに何言っても無駄なことを悟ったマリサは、ポジティブシンキングにシフトする。

 安全第一の彼女だが、私がピンチの時は助けてくれるかもしれない。私の顔面に回転蹴りをかませるほどの身体能力を持つ彼女なら、華麗な身のこなしで相手を翻弄出来るのかもしれない。……意外と頼り甲斐のある助っ人かもしれない。

 

「じゃ、マリサちゃんが戦っている間、ワタシが食料調達するので後は頑張ってください」

 

「結局一人じゃねぇか!」

 

「近くには居ますので困ったら呼んでください。助けられませんが」

 

「……もう好きにしてくれ」

 

 足並みが一切揃わない彼女達であったが、方針は決まった。今度こそ、あの時晴らせなかった激情をここでぶつけることとしよう。そして、異形絶滅の第1歩を踏み出すのだ。

 

 だってそれしかみちがないんだもの

 

 

 

 ■

 

 

「魔理沙≠最弱」

 

「? 魔理沙=最弱」

 

「∑∞K=0(2K)! /2²K(K!)²・1/2k+1=π/2」

 

「値≫≫≫≫魔理沙」

 

「……魔理沙?」

 

 氷の化け物、もとい異形チルノは困惑していた。適当に歩いていたら、いるはずの無い霧雨魔理沙に出会ったのだ。

 だがその霧雨魔理沙は特に理由もなく攻撃を仕掛けてきた。しかしその貧弱なパンチは痛くも痒くもなく、普段の霧雨魔理沙とは思えないほど弱かった。

 調子が悪かった、というよりほぼ別人レベルの最弱っぷりだった為、異形チルノは確信した。

 

「? 魔理沙≠魔理沙=偽魔理沙、QED証明完了」

 

 己の天才的頭脳を遺憾無く発揮し、正体を掴むことに成功した異形チルノは嬉しすぎるあまり辺り一帯を一瞬のうちにして氷漬けにする。

 

「何してんの?」

 

 背後から聞こえる女の声、さっき正体を掴んだ偽魔理沙と同じ声が聞こえた。

 

「偽魔理沙」

 

 異形チルノは振り返り、弱者を嘲笑するかのごとく、ねっとりと声を出す。

 が、当の本人にその意図は伝わらなかった。

 

「偽も何も、俺がマリサだ」

 

「S=∫d⁴x√-detGµv(x)[1/16πGn(R[Gµv(x)]-∧) -1/4∑……+……+……+……-V[●(x)]]」

 

「何言ってるのか分からん」

 

「偽魔理沙=⑨×∞」

 

「·····もしかして、バカにしてる?」

 

 舐められていることに直感で気づいたマリサは、指の骨をパキパキと鳴らしながら、1歩ずつ異形チルノに近づいていく。

 異形チルノは何かを察すると、余裕をもった態度で両手を広げる。またさっきと同じように殴ったところで何も変わらないと、スパコン並み(自称)の頭脳を持つ異形チルノが結論付けた以上この結果は覆らない。それ故の慢心である。

 

 二人の距離が縮むに従って吐く息はより白くなり、手足は霜焼けにより感覚を失う。だがマリサは己の腕に力を込め、痛みを力に変え、燻るドス黒い魂を上乗せし、全力で異形チルノの体のど真ん中に拳を叩き込んだ。

 

「!?」

 

 バゴンッ! という衝撃が異形チルノの胸部を弾き、後方の化粧品コーナーの棚に激突。さっきまでとは比にならないほどのパンチに異形チルノの脳みそは溶けかける。

 

「あァ、戻った」

 

 グッパグッパと右手の開閉を繰り返し、感覚を確かめるマリサ。あの時感じた違和感も消えたことから、マリサはこの力の正体について概ね理解し、弱点も把握した。···なんて、●●い能力なのだろうか。

 

「·····どうだ?」

 

「値」

 

 ゆっくりと立ち上がる氷の妖精、異形チルノ。胸の鎧にヒビが入っていたが瞬く間に修復され、平然とした表情で立ち尽くしている。

 

「·····一撃じゃ沈まんか」

 

 だが敵として認めたのか、異形チルノの周囲の床が徐々に凍りつき始め、ブレード状の腕を研ぐ仕草を始める。

 

「PaV=nRT、2H₂+O₂=2H₂O、Aa×Aa─[1:2:1]」

 

「偽魔理沙=44444444444444444444444」

 

 凍らせた床を滑るように接近し、右腕を喉元に目掛けて振るう異形チルノに対し、マリサは1歩後方に下がり首をやや後方に傾け、ギリギリのところで回避。最速回避によって生まれた隙を逃さず、決意マリサは拳に力を込めて再び殴りかかる。

 だがマリサの拳が届くよりも先に、異形チルノのショルダータックルがマリサに炸裂。図体のデカさも相まってマリサは後方に大きく吹き飛ばされた。

 

「ッ!」

 

 頭を地面に強く打ちつけたマリサ、痛みは感じないが気持ち悪さは変に感じるため、乗り物酔いした気分になる(乗ったことないが)。

 

「·····?」パキッ

 

 すぐさま体勢を立て直そうとしたマリサだったが、体が地面から離れない。代わりにミシッ、パキッといった音が響くため確認すると、異形チルノが凍らせた床と自身の皮膚もとい衣服が結合しており、身動きが取れなくなってしまっていた。

 さしずめ氷点下における金属製の棒を舌で舐めて外れなくなったどこかの少年のごとく、決意マリサは戦闘開始わずか数十秒でピンチに陥った。

 

「·····ッ! ギギギギギギギギィ!!」

 

 痛みをものともせずに、マリサは無理やり自身の体を床から引き剥がし、体勢を立て直す。その代償としてマリサの皮膚は氷とともに剥がれ落ち、赤い肌が痛ましく露出している。

 冷たい空気が傷を刺激するが、それすらも感じ取れないマリサに意味は無く、傷でさえ不思議な治癒能力で閉じてゆく。

 

 あちらも人外だがこちらも人外。一応勝負として成り立ってはいるものの、異形チルノのような魔法じみた攻撃を持たないマリサは決定力に欠け、いずれ追い詰められるのは明白。ならばどうするべきか。

 マリサは息を大きく吸い込み、ゆっくりと吐き出す。

 

(俺が発揮出来る力はせいぜい、人間が発揮できる力の範囲を少し広げた程度プラス不死身の肉体。地味で決め手に欠け、泥臭く殴り合うのがお似合いのスペックと言えるだろう)

 

(だからこそ意表を突き、相手の予測を裏切った動きが要求される。殴る以上の効果を、己の手で見つけ出し開拓しなければ、この先で待ち受ける数多の異形との戦いに勝つことは出来ない)

 

(不死身の可能性、己の可能性を今ここで広げる時だ)

 

「値=最強」

 

 異形チルノは両腕をXになるように重ね合わせ、一気に振り下ろす。氷結魔法がクロスをなぞったまま地面に触れると、地面からX字に広がった氷の壁が形成される。

 再び後ろに下がるマリサ、だがそれを追撃するかのごとく、異形チルノは氷の壁に手を伸ばす。

 

「ガあッ!!」

 

 無数の氷柱が氷の壁から突き出し、全身を貫く衝撃が喉から両手首、腹部、膝関節に至るまで、決意マリサのあらゆる部位を貫通してゆく。

 視界を覆って相手の行動を封じ、変幻自在の氷結魔法で追い詰める彼女の戦法は、これまでの化け物とは異なるベクトルで強く、マリサの心に衝撃を与えた。

 その後、壁に叩きつけられたマリサは全身を捩ることで氷柱を破壊し、拘束から逃れる。

 立ち上がろうとするマリサ、だが未だ関節が治らず、足は微塵も動かすことが出来ない。

 

「回復が·····遅い?」

 

 マリサは傷口に目を向けると、傷は未だ治ることなく、爛れた肉を晒していている。それどころか爛れた肉は徐々に凍りつき、霜が傷穴から急速に広がり始めている。体温の低下とともに血流は悪化し、あらゆる感覚が麻痺していくのをマリサは感じた。

 

(マズイ)

 

 咄嗟に首を切断し、遠くの物陰に投げ飛ばすマリサ。顔面以外の全ての部位に傷がついた以上こうするしか生き延びる手段はなく、マリサの生首はワンバウンドした後エスカレーターの裏側へコロコロと転がっていった。

 何とか生き延びた。とはいえ、首から下全てのパーツを失ってしまった以上、全身が回復するまでやや時間を要する。最低100秒はここから離れられない。

 

(思ったよりこの化け物、かなり強い)

 

 目覚めて直後の化け物と戦った時は殴る蹴る引っ掻くの応酬(たまに銃火器ぶっぱなすヤツもいたが)で、同じ土俵の上で互いの身体能力の高さをぶつけ合うものだった。

 だがコイツは身体能力の高さ云々で語れる強さでは無いのかもしれない。最初はちょっと身体が硬くて氷が使える程度のものだと思っていたが、氷結能力の練度が高い上に傷をつけられただけで全身が徐々に凍り始めるのはなかなか恐怖を感じる。不死身キラーと言っても過言ではない。

 

 現在経過時間約10秒、顎下に仮の足が2本生えたが、移動速度はカタツムリ並なので待機安定。粉塵が徐々に晴れ始め、私の遺体(首から下の部分)が姿をさらけ出してゆく。

 

「·····oh」

 

 全身穴だらけの遺体は、雪に似た青白く不透明な氷の鎧によって覆われ、僅かながら光を反射していた。

 流石に絶句せざるを得ない。

 

「あと80秒耐えられるか?」

 

 2頭身まで成長したあたりでそっとエスカレーターの陰から顔を出すマリサ。周辺には誰もいない·····わけもなく、異形チルノが私の遺体をじっと見つめていた。

 

「·····666?」

 

「·····」

 

「··········」

 

「偽魔理沙=4?」

 

「4771?」

 

「9999999999999」

 

 何を言っているのか微塵も分からない。だが、私が死んだのか死んでないのか判断できずにいるのは何となく理解出来る。

 迷っている今が絶好のチャンスと気づいたマリサは、回復に専念し、さらに奇襲をかけるための作戦を考え始めた。

 

(氷に触れず、相手を屠るためには·····)

 

 パンチは無駄、キックはやってみないと分からないがおそらく無駄、というか攻撃手段が乏しすぎて通用する手段が現状ひとつもない。由々しき事態である。

 

(武器·····、何か決定的な武器があれば··········)

 

 大剣、ハンマーなど、己の膂力に合った武器があれば絶大なパワーを手に入れられるかもしれない。しかしここはごく普通の大型スーパー、そんな代物置いてあるはずもなく、あるのは食品または日用品といった現状役に立たないものばかり。

 

(消火器·····?)

 

 マリサの目に映りこんだのは、化粧品コーナー近くの壁に設置された赤い消火器。大剣やハンマーと比べれば情けない代物だが、鈍器として十分活躍出来そうな素晴らしい形状にマリサは目を付ける。

 

(消火器を全力で振り回せば少しは効くか?)

 

 ホースの部分を最大まで伸ばし、そこを持って全力で振り回せば、マリサパワー×遠心力×消火器の質量=大ダメージが狙えるのではないかと推測するマリサ。

 しかし、その程度の攻撃で倒れるほどあの化け物はヤワではないと、私の勘が静かに告げる。

 

(消火器の質量を滅茶苦茶に増やしてぶん殴ればワンチャン·····?)

 

 相手が予想を遥かに超える防御力を持つならば、それすらも超えていく圧倒的な破壊力で全てをなぎはらえばいい。

 幸い消火器の質量を増やすだけなら可能だが、そのためには時間と、化け物の氷結魔法が必要だ。

 

(残り40秒、·····あともう少し)

 

 ある程度体の形が整ってきたものの、手足は短く指もまだ生え揃っていない。そして服を体ごと置いてきたせいで今の私は完全なる全裸。この環境で全裸はあまりに寒過ぎる·····と思っていたがそんなこともなく、体が震えるだけで特に支障は無い。あまり人に見られたくはないが。

 

「QED、証明不良」

 

「値=天才≠⑨⑨⑨⑨⑨⑨⑨⑨⑨!!!」

 

 納得のいくQEDを証明できないあまりに癇癪を起こしたのか、異形チルノは壁や床、商品棚などを手当り次第に破壊し始める。右腕を薙ぎ払うことで壁に亀裂をつくり、左腕を振り下ろすことで地面に衝撃と氷柱が走る。

 店内の室温は異形チルノが暴れる度に低下し、1階エリアは氷点下マイナス10℃と、夏とは思えない寒さに包まれる。

 マイナス10℃はマリサ的にまだ耐えられる。だが、エスカレーターの後ろに隠れているため、これ以上暴れられると亀裂や氷結でエスカレーターが壊れ、最悪生き埋めになるかもしれない。完全回復まであと少しだが、離れた方が身のためか。

 

 ピキッパキパキッ

 

「····崩れる!」

 

 エスカレーターが斜めに切断され、1部の天井が瓦礫として落下。マリサは即座に後方へジャンプし、前転してからすぐさま消火器のある方向へ走り始める。

 案の定エスカレーターは崩れた。それは予測できたが、崩れたことによって身を隠す場所を失い、異形チルノの視界に入ってしまったのは明らかにマズかった。

 

「[x:18782 y:37564 z:666]」

 

 地面を凍結させながら高速で接近してくる異形チルノ。背後から迫り来る気配を感じながら、即座に消火器を回収したマリサ。

 時間が無い、振り向いたマリサは消火器を構える。だが異形チルノは既に決意マリサの姿を捉え、両腕を天に掲げ最大級の氷結魔法を放とうとしている。

 

「刑死ッ!!!」

 

 冷気が全身を吹き付け、力場は歪み、天地を揺るがすほどの魔法が脳天へ叩き込まれる時、マリサは咄嗟に消火器で脳天をガードする。それは単に直撃を防ぐためだけに限らず、今この場で出来る最大限の反撃手段を作ることにある。

 炸裂する氷結魔法、吹き荒れる猛風、異形チルノの周囲は既に氷点下マイナス100℃に達し、ダイヤモンドダストの煌めきが宙を舞う。

 

「··········流石に、思い通りってわけではないが」

 

「お前のおかげでデッケェ鈍器、完成したぜ」

 

 雪と氷が支配する世界の中、決意マリサはたった2本の足と消火器で氷結魔法の全てを受けきり、不敵な笑みを浮かべる。

 消火器の片側についた巨大な氷塊、欲を言えばこれに私の腕を大量にくっつけて特大の質量を持った疑似ハンマー(消火器)を完成したかったが仕方ない。

 それ以上に、氷結魔法の威力があまりに強過ぎて両腕は完全に凍結、足裏は地面に固定され、髪も顔も薄い氷の膜を張っている。ガニ股で耐えたこともあって肘や膝の裏側からは氷柱が生え、全身のありとあらゆる皮膚に限らず内蔵にも霜が広がっていく。

 白い吐息が視界を覆い、化け物の姿が朧気に見えても、マリサの瞳は赤く、紅く輝いていた。

 

 ぶん殴れ。

 

「くたばれハゲぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」

 

 右足を地面から無理矢理剥がし、血の滴る第1歩を踏みしめると、マリサは凍結した両腕ごと消火器ハンマーをフルスイングで振り上げる。

 突然の反撃に異形チルノはガードするも、圧倒的な力に弾かれ顔面に直撃。「値ッ!」と叫びながら、反動で首が後方へ傾き、目線は天井へ向く。

 だが目線の先にはまた、決意マリサの姿があった。

 

「もういっぱぁぁぁぁつッッ!!!」

 

 足裏から血を流しながら空中へ飛び上がったマリサは再び顔面に目掛けて、巨大なハンマー(仮)を、捻りを加えて振り下ろす。

 完璧な連続攻撃かつ今出せる最大打点をガードを破った最高のタイミングでぶっぱなすという最高の展開。もう誰にも、決意マリサは止められない。

 

 鈍い重低音が鳴り響き、異形チルノの顔面に再びマリサの疑似ハンマーが炸裂。正八角形の結晶にヒビが入り、異形チルノは首を下げたまま1ミリも動かない。

 

(·····そろそろ限界か)

 

 既に肉体の8割弱が霜に侵食され、そろそろ分離しなければ全身が凍結してしまうだろう。

 

(あと1発·····!)

 

 もう身体がガクガク震えて、まともにハンマーを持ち上げるだけでも困難だが、あの化け物をここまで弱らせたのなら最後まできっちり決めるべきだ。

 マリサは疑似ハンマーを少しだけ持ち上げた後、体を捻り、力任せに振り回す。

 

「とどめッ!!」

 

 マリサ最後の一撃が異形チルノの横顔に向けて放たれる。結晶にヒビが入ってから微塵も動かなくなったことから、おそらくあの結晶はヤツの弱点。出来る限り結晶にハンマーを叩き込み、割ってしまえば、ヤツは今度こそ地に伏せるはずだ。

 

 パリィィンッ!! と、ガラスが割れたような音と共に結晶が破壊されると、異形チルノは絶叫とともに身体が不自然に変形し始め、その後力を失ったかのごとく地面に倒れた。やはり結晶が弱点、割ってしまえば怖くない。が、氷結魔法は本当に厄介だった。

 

「··········はァっ、はァっ、はァっ」

 

 本当に死んだのか若干気になったマリサは息を整えながら腰をかがめ、地に伏した異形チルノの様子を伺う。

 反応は無い。化け物の身体は水色っぽい不透明な色から濃い藍色へと変色し、輝きを失っている。

 

「········」

 

 死んだことを確認したマリサはおぼつかない足取りで壁に近づくと、右肩を何度も何度もぶつけ始める。別に頭がおかしくなったわけではなく、氷結魔法の侵食を食い止めるために右腕を千切ろうと模索しているだけである。

 だが両腕が凍結した状態での分離はやはり不可能で、マリサ1人ではもうどうにもならないところまで来ていた。

 

「·····トガに切ってもらうか」

 

 マリサは1階の食品コーナーにカタツムリ並の速度で向かう。割と激しい戦闘したから、少しくらい様子を見に来てくれてもいいんじゃないかと思いながら歩く決意マリサ。というか早く来て欲しい。

 

 ボトリッ

 

「·····ん?」

 

 突然落ちた左腕と僅かに切られた感触、超ナイスタイミングといえる。トガが既に来ていたのだろうか。

 

「ありがとうト」

 

「値=∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞*1

 

 再び吹き荒れる冷気の籠った風と急速に白く凍結し始める空間、突如スピーカーから流れ始める爆速の電波ソング、それら全てがマリサの思考を全て白く塗りつぶし、自覚した時には全てが過去のものへと変わり果てる。

 

「な」

 

 言葉を発するより前に、体は既に凍りつき、身動きはおろか呼吸すら無に帰る。脳も心臓も血も細胞組織も何もかもが低温で活性を失い、決意マリサの意識は再び深い闇の中へと沈み始める。

 

 透明な氷の向こう側で暴れ続ける氷の化け物。さっきまでの姿とは異なった姿で復活を遂げた彼女は、以前とは比にならないほど莫大な冷気を放出しながらこちらへ向かってくる。

 

(逃げ)られるはずもなく、異形チルノは氷漬けになった決意マリサをジッと見つめると、今までで聞いたことないほどの高笑いが耳に響いた。

 まるで不死身なのはお前だけではないと、そう嘲笑っているような。

 

 今までマリサの無茶苦茶な動きを可能にしてきた"不死身"の特性。この個性溢れる世界においても"不死身"という個性は未だ発見例がほとんど無い超激レア個性であり、何度も何度も立ち向かってくる様はさながらゾンビ映画のごとく恐ろしい。

 

 だが不死身は、決意マリサだけの特権では無い。

 

 目の前の化け物、異形チルノにとって不死身とは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()であり、何ら特別でもないただの能力である。

 

 その上、異形チルノは今やっと本気を出し始めたのだ。今までのはただの戯れであり、適当に魔法を打つだけのいわば"弾幕ごっこ"。お遊び以外の何物でもない。

 異形妖精の中でも上位に位置する存在である異形チルノと決意マリサでは、そもそも立っているステージが違うのだ。

 

(また、失敗した)

 

 無自覚に心の中で呟いたマリサ。もう目も開かない。音もかなり遠く感じる。手足の感覚も感じられない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 決意マリサの意識は、再び闇の中へ葬られてしまった。

 

 

*1
チルノのパーフェクト算数教室×8倍速






【紹介コーナー】

・異形チルノ
→全身が氷の鎧で覆われた姿をした異形妖精のうちの一体。一人称は「値」。言葉に数式や公式を混ぜる=頭が良いと思っている節がある。つまり値=天才。冷気を操る程度の能力を持ち、この能力によって生成された氷に触れた生物は全身がたちまち凍ってしまう。本気を出すとヤバい。

※冷気で作られた氷に触れると触れた生物が凍るという設定は、東方異形郷チルノ編5を参考に考えたもので原作とは少々異なります。

・異形妖精
→別名、狂的チルドレン(このヒロアカ世界では"クレイジーチルドレン"と呼ばれることもある)。異形チルノしかりさまざまな姿をした異形妖精が存在し、中には妖精とは思えない見た目をしたヤツもいる。が、共通点として一応背中に妖精の羽がついている(ただし見た目はバラバラ)。

異形妖精は全員不死身であり、彼女たちにとって"死"とは双六で言うところの"1回休み"である。そのくせ一般人より遥かに強く、数も多いことから非常に厄介。現在あらゆる国々に出現し暴れ回っている。



???編ばっかりやってスマン。もうそろそろしたら1年A組が頑張ってくれる·····はず。


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