続・最強の魔法使い(自称)が暴れるそうです。 作:マスターチュロス
異形魔理沙編と同時投稿
パキッ
氷の割れる音が耳に届いた時、トガは反射的に氷像へと目を向けた。徐々に亀裂が増え始める氷像にトガの心は期待と興奮の入り交じった感情で溢れはじめる。
「偽魔理沙」
目を向けていたのはトガだけでなく、異形チルノも同様であった。生と死の淵を何度も渡り歩いた彼女だからこそ分かる、殺した時以上に強烈なエネルギーがあの人間の中で渦巻いているのが本能で理解出来る。死にかけのニンゲンを相手するより、この場で最も危険な存在である彼女に意識を向けるのは当然であり、異形チルノは即座に両腕の先を氷像へと向ける。
だが、異形チルノの両腕にはいつの間にか茨が巻きついており、茨の先にはヒビ割れの氷像と、その奥に潜む紅く染まった瞳がこちらを覗いている。
「おはよう」
「…………遅いです。寝坊も、……大概にしてください」
「次から善処する」
いつも通りの決意マリサにトガはホッと安心し、一瞬気が緩んだことで蓄積された疲労やダメージがトガを眠りへと誘う。
再びカチ合うこととなった決意マリサと異形チルノ。かたや全身フル冷気アーマーの怪物に対し、こちらは全裸の女子高校生である。これだけ聞くと勝ち目が無いように思える。
だが、このJKはただのJKではない。血と臓物に塗れた世界で目覚めた狂犬、異形に対する切り札、「JOKER」である。
「時間で換算したらそんなに経ってないんだろうけど、体感的にかなり寝た。半年くらい寝たか?」
パキパキ、とひび割れた氷が悲鳴を上げる。
「まぁそれはさておき、これ以上ここに居られるとクソ寒いから早めにシバくぞ、クソデカ氷野郎」
「fuck=偽魔理沙44444444444」
ブチ切れた異形チルノが巻きついた茨をブレード状の腕で切断しようとする。
が、真っ先に動いたのは決意マリサ。千切られるより先に異形チルノを類まれなる怪力で強引に引き寄せ、振り回し、ショッピングモールの壁に勢いよく叩きつける。
「値!?」
想定を遥かに超えたパワーに異形チルノは困惑している。
「枷が外れた気分だ。元々これくらい力を出せていたような、そんな気分」
「でも足りない。物足りない。収まらない。俺の中の鬱屈とした、言い難い感情の塊が、グツグツ湧き出してしょうがない」
決意マリサの感情に呼応し、茨の蔓が全身から産声をあげるように生え始める。喜びを糧に、怒りを糧に、哀しみを糧に、楽しさを糧に、茨の蔓は成長し続け、四方八方に伸長していく。
「あ」
突如、決意マリサが呆けた表情で立ち尽くす。その様子に誰もが「?」となったが、本人は何かに納得したかのような素振りを見せる。
「思い出した。俺、異形魔理沙とかいうヤツをどうしても殺したかったんだった」
「アイツが、俺の何か大切な、色んなものを、全部奪って殺したんだ。だから憎いんだ。今湧き上がるこの感情はアイツへの憎しみだ。だからこんなにも鬱屈で、煮え切らないクソみたいな感情が、一生こびり付いて鬱陶しいのか! 今までやるせない感じだったのも全部それのせいだ!」
やっと自分を理解できたと、ウキウキになる決意マリサ。だが当の本人以外にこの感動は伝わることなく、終始「?」であった。
「OKもう分かった、やること増えた」
「彼女に会って、異形は全部ぶちのめして、異形魔理沙をシバく。……やっと生きてる気分になってきた!」
今日一邪悪な笑顔で天を見上げる決意マリサ。完全にハイになっているが、今は戦闘中である。
「4」
異形チルノの顔面が変形し、再び超低音の負のエネルギーが正八角形の結晶体に集中する。
再びあの強烈な冷凍ビームが決意マリサ目掛けて放たれようとしている中、彼女は余裕の笑みで満ちていた。
「その手は二度と食わねぇ」
マリサは茨の蔓を勢いよく引き戻し、異形チルノを引き寄せる。
しかし異形チルノは動揺せず、冷静に照準をマリサに定める。引き寄せられようとも、冷凍ビームの威力が上がるだけで何も問題は無い。再び氷漬けになるだけである。
「マリサちゃん!!」
「───────代わりにこれでも」
寄せきったその瞬間、二人の間には1メートル弱の距離が存在していた。それはちょうど決意マリサの、拳が届くギリギリの距離である。
マリサの腕には既に無数の茨が巻き付いており、重量がかさ増しされている。
ビームが撃たれる、よりも先に、決意マリサは跳んだ。
「食らっとけ!!!!」
正八面体の結晶体の輝きが増したその瞬間、決意マリサは全身のエネルギーを右腕に集中させ、勢いよく拳を叩き込んだ!
パリィィィィィン!
ガラスの割れた音が鳴ると同時に、冷凍ビームが全方位に拡散し、ホール全体が完全に凍結してしまった。
それはもちろんトガヒミコも、決意マリサも例外ではなく、再び氷漬けにされてしまった。
誰も生き残ら
「ふぅ、危ない危ない」
氷像の中から即座に復活した決意マリサ。身体の内側から茨を出せる能力によって氷を破壊し、脱出することができたのだ。
とはいえ所々凍傷を負っているため、これ以上無理をすると手足が引きちぎれてしまうだろう。
「いや、引きちぎれば良くね?」
決意マリサは凍傷になった部分を引きちぎり、適当に遠くへ投げ飛ばした。その間に欠損部分はみるみる回復し、30秒も待たずして完全復活。我ながらおそるべき身体である。
「トガヒミコ〜、どこー?」
凍結した床の上を裸足で歩き回り、決意マリサはトガの氷像を探し始める。
名前を呼んだところで当然返事が返ってくるわけ無いが、意味の無いことを平然とやるのが彼女である。
「あ、いた」
さほど歩くことなくトガの氷像を見つけられたものの、凍結を解除する手段が見つからない。
体内から茨を出せるなら直ぐにでも出してほしいが、トガにそのような芸当はできない。かといって氷を溶かすための熱源も持っておらず、夜に日向ぼっこはできない。どうしたものか。
「ちょっと力込めて叩けば……」
拳に再び茨の蔓を巻き付け、さっき化け物を殴った時の5分の1程度の力で殴れば、ワンチャンいい感じに壊れるかもしれない。
ただし失敗すればトガの命は無い。
「ん」
特に躊躇せず氷の像をぶん殴ったマリサ。表面に亀裂が走り、少し像が変形したような気もするが、多分まだいけるだろう。
「もう1発やっとくか」
「やめてください」
拳を構えた瞬間、見覚えのあるナイフの先端が顔の真正面に向けられていた。どうやら上手くいったようだ。
「殺す気ですか?」
「いや、全然?」
悪意ゼロで応対するマリサに呆れたのか、トガは溜め息を吐きつつナイフをしまう。
「あーあ、残念デス。服もボロボロ、全身ズタズタ、何より寒すぎて風邪引きます。最悪デス」
「五体満足で生き残れたんだから喜ぶべき、いや喜べ。普通の人間として」
「……普通の、ニンゲン?」
首をかしげるトガヒミコ。普通とは遠い生活を続けてきた彼女にとって、あまりに実感の無いワードなため、曖昧な反応しかできずに困惑してしまう。
マリサの言葉の真意について少し気になったトガは、その事について問いただそうと考えたが、徐々に青ざめた始めたマリサがトガの言葉を遮るように発した。
「やば、あまり時間が無いこと思い出した。この場から今すぐ離れた方がいい」
「……どういうこトですか?」
「あの化け物、……羽っぽいの生えてたから
「えぇ……? ズルくないですかソレ」
「ズルいし面倒臭い。……人のこと言えんが」
全ての言葉が自分に跳ね返ってくることに気づき、自嘲気味に笑うがそんな呑気に笑ってる余裕など無い。体勢を立て直すならせめてこのショッピングモールからは出たい。
「とりあえずここから逃げるぞ」
マリサはトガの腕を引き、脱出を促すものの、トガは棒倒しの棒のごとく前のめりに倒れてしまう。震える手で彼女はマリサの手を握り返すが、力が手にこもらず、立ち上がろうとしても膝が上がらない。
「……どうやら、寒すぎて動けナいみたいでス。もう手足の感覚がありません。頭の中も、フワフワして、よく分かりません。どうしようも無いので、おぶってください」
「…………おぶるって、お前を背中に乗せることだよな?」
「そうです」
「…………、…………あい」
マリサは渋々しゃがみ、両手を背中側に回した。
「あ、あと服着てください。すっぽんぽんで歩き回られるとこっちが恥ずかしいです」
「いちいち注文多いなお前!! 」
「それに服と食料全部あっちに置いてったんで、脱出する前に取りに行ってください。でないとここに来た意味無いので」
「分かった、分かったからまず黙れ。そして寝てろ」
黙らせつつもトガの身体を背負った決意マリサ。倒れた異形チルノの体の側面を颯爽と横切り、置いてきた荷物の回収および着替えを即刻終わらせ、他の異形妖精に注意しながらショッピングモール最後の壁面を強靭な脚力で蹴り砕き、マリサたちはついにショッピングモールから脱出することに成功した。
「何とか出れたな」
「他に用事は無いので、一旦アジトに戻りましょう。指定された場所に行けば黒い霧の人が回収しに来てくれマす」
「その場所は?」
「ここから南西方向に2km、『ラブ・バラエティ』って名前の潰れた映画館ですね」
「お前と荷物抱えて街でうろちょろしてる怪物共を回避しながら2km走らされるとか、正気か?」
「正気ならさっきの戦いで既に死んでます。頑張ってください」
「……」
再び湧き上がった鬱屈とした気持ちが、マリサの心を覆った。
(憎く無くても湧くのか、コレ)
マリサはまた、溜め息をついた。
決意マリサ編、一旦終了。
続きは2章にて。