吸血鬼の始祖がヒーロー社会で自分勝手に生きる話 作:鈴木颯手
保須戦争で受けた被害は圧倒的にヒーロー側は上だった。幾人ものヒーローが殺され命のやり取りをする事を恐れた一部のヒーローが辞職をするほどの影響を与えた。保須市の復興は数日が経過した今でも以前として目途がたたず各関係者は対応に追われていた。
では被害が少ない皮のヴィラン側は宴会ムードかと言えば違う。始祖は大きく損耗しその補填をするべく静養中であり始祖を心配する眷属たちは引きこもりお通夜の空気となっている。当の本人はそんな事になっている事に苦笑しているがそれだけ心配してくれていると悪い気はしていなかったがどちらにしろ直ぐに力を取り戻す必要がありゆっくりとしていられなかった。
そして、一番雰囲気が悪くなっていたのはヴィラン連合である。特に死柄木の機嫌は急降下しておりステインや吸血鬼たちの事ばかりを特集するマスコミに苛立っていた。
故に、死柄木はバーにいる彼の人形経由で連絡を取った。
『何の用だ? 死柄木弔』
「お前、なんで保須に現れた?」
死柄木の利きたい事は完結であった。手柄を横取りするかのような始祖の動きは最初から気に入らなかった。こいつらのせいでヴィラン連合の功績が奪われたと感じている死柄木の表情は険しかった。
『……ああ、それか。何、久しぶりに暴れたくなっただけさ。それで、ステインや死柄木も保須に行くと言っていたからな。俺もそこで暴れただけさ』
「そのせいでこちらは脳無をただ失っただけに終わったんだぞ! どうしてくれるんだ!」
『勿論それは承知している。ジャンヌ・ダルクだけではなく他にも何人かを……』
「ふざけるな!」
派遣する眷属を言おうとする始祖を遮り死柄木は声を荒げる。突然の怒声に始祖は黙り込んだ。死柄木は続ける。
「てめーがそうやってこっちに増やせば増やすほど世間は俺たちではなくお前を見る! そうなればヴィラン連合としては終わったも同然だ! てめーが動くたびにこちらはその余波を受けるんだよ」
『……成程。確かにそうだな。悪かったよ。ならば何が他の望みがあるか?俺に出来る事なら何でもするぞ』
「なら言おう。暫くお前らは動くな」
『……それだけで良いのか? てっきり吸血鬼にさせてくれとか言うと思ったが』
「ふざけるな。誰がてめーの玩具になるか」
死柄木は知っている。眷属となった者は始祖に絶対服従するように何もかもが変えられてしまう事を。しかも本人が嫌がっていても始祖が望んだ状態で血を摂取すれば眷属になってしまう。そんな物に、死柄木はなりたくなどなかった。
『どちらにしろ眷属になれるのは俺が気に入った女性のみだ。死柄木、お前ではなれないからな。とは言えそちらの要求は承った。暫くは力を取り戻す事に専念しないといけないからな。大体二か月ほどは動けないさ』
「そのくらいで構わない。絶対に騒ぎを起こすんじゃないぞ」
『分かった分かった。こちらは絶対に動かないよ』
それだけ言うと始祖は通信を切る。ノイズのみが走る事数秒。メッセンジャーである少女の手によってこちらからも通信が切れた。少女はそれだけの動作を行うと再び置物の様にピクリとも動かなくなった。死柄木は始祖も目の前の少女も気に入らず舌打ちをすると奥の部屋へと引っ込んでいくのだった。
雄英高校に通う轟焦凍にとって実の父であるエンデヴァーは憎むべき対象だった。自らオールマイトを超える事を諦めたエンデヴァーは個性婚という古びた行為で轟の母親と結婚した。長男は死に次男と長女は求めていた個性が出なかった事から興味を失い唯一自らが望む力を発現した轟にスパルタ教育を施した。
更に精神的に参っていた母親から拒絶された事をきっかけに轟はエンデヴァーを憎み、父親の個性である
ステインを捕縛しようとしていたエンデヴァーは保須戦争に巻き込まれ意識不明の重体となった。上半身を中心に傷を負い未だ目覚めていなかった。そんな父親を窓越しに眺める轟。
「親父……」
轟は向き合うと決めた訳だが他の家族はそうではない為見舞いには来ていない。尤も、母親は入院中であるためお見舞いに来たかったとしても来れる訳ではないが。
「……」
轟は暫く眺めた後その場を離れる。その右腕は強く握られ父このような姿にした人物への怒りを募らせていく。しかし、ステインに憎しみを募らせ目を曇らせた飯田天哉の様な真似はしないように気を付けながらいずれ対峙して捕まえると心の中で誓うのだった。
「何故ですか!?」
警察官の塚内は自身の上司に食って掛かる。同じ部屋にいる警官たちは塚内の怒声に驚き彼の方を見るが直ぐに自身の仕事に戻っていく。一方の上司は予想していたのか軽く息を吐くと言った。
「”吸血鬼を見つけた際は相手が暴れていない限り手を出してはいけない”。これに不満があるんだろう?」
「その通りです! 彼らは保須市を襲撃し大量の死傷者を出しているのですよ!? 何故、こんなふざけた命令が……!」
「吸血鬼のDNA鑑定をした結果百年以上前の人間だと判明した。分かるか? これは”上”の人間にとって喉から手が出るほど欲しい物なのだ。死体は全て血が無くなっており体さえも灰になった。だからこそ現状では唯一吸血鬼に出来るであろうあの”男”の不評を買いたくないのだろう」
「そんな馬鹿な……!」
「……お前の気持ちは分かる。俺もこれには反対だからな。だがな、その結果がこれだよ」
そう言って上司が見せたのは一枚の紙だった。上司の降格と地方への左遷という内容であり塚内は絶句する。上司は熱血というほどではないが警察として優秀な成績を残したうえに不正を許さない人物でもあった。それだけに今回彼が受け入れた事が驚愕だったのだが事実を知らされて塚内は顔を青ざめる。
そんな塚内に上司は言った。
「それだけ”上”は本気という事だ。近いうちに接触が持たれる。”上”は何十、何百、何千と犠牲にしてもこの力を欲しているようだ。塚内、お前は不満かもしれないがここは従ってくれ。決して俺の様になってはいけない」
「……くっ!」
「お前はまだ”上”の目には入っていない。今のうちに仲間を集め来る日に動けるように準備をしておくんだ。……塚内、俺は何時でもお前の活躍を見守っているぞ」
数日後、塚内の上司は左遷された。そしてその約一月後、変死体で発見される事となる。
上司がいなくなった数日後には交渉の使者を出すも……。その使者は全身の血が抜かれた形で見つかった事で”上”は方針を転換し始祖の捕縛に全力を注ぐように指示を出す事となった。
「あ、ああ……」
日本の片田舎に住むその女子高生は順風満帆な人生を送ってきた。【コピー&ペースト】という強個性を持ったが父の跡を継いで農家となるつもりでいた。個性を使う事に興味はなくヒーローへの憧れは無かった。それでも両親の愛を一心に受けて育った彼女はいずれ良い婿を見つけ家族で仲良く日々を過ごすと思っていた。
だが、それも今は過去の話だ。それなりに広い実家の居間。その空間は地獄絵図と化していた。両親
故に、目の前に立つ二人の少女など視界に入っていなかった。
「おい二コラ。こいつであっているのか?」
「ええ、キアラ。間違いありませんわ。さっさと確保してこの場を離れますわよ」
「はん! 言われるまでもない」
「……え?」
二コラとキアラという女性は未だ固まる彼女に近づくと両腕を掴み
「ー!? ーーー!!!」
「おいおい、騒ぐなよ。直ぐに楽になるからな」
「ええ。その通りですわ。だから安心して生を実感してくださいな」
三人の周りに真っ赤な霧が出現し周囲をグルグルと回る。やがて周囲の景色が見えなくなるまで霧が濃くなるとすぐに霧は晴れる。しかし、そこは先ほどまでの居間ではなく薄暗い空間だった。
二人は彼女から手を離すと部屋の中心に向かって歩き膝をついて頭を垂れた。
「マスター。任務完了しました」
「ご命令通り両親を殺害後目的の人物を確保しました」
「そうか。ご苦労だった」
そう言ってその人物、始祖は任務を終えた二人の眷属の頭を撫でる。それだけで二人は顔を赤くして狂信的な瞳を始祖に向ける。暫く撫でていたが連れて来た女が逃げようとしているのを確認すると一瞬で目の前に立つ。
「ひっ!?」
「ふむ、顔は悪くはないが。好みではないな。予定通り
「やめて、お願いだから……あ”あ”あ”ぁぁぁぁぁぁっ!!!???」
両腕を潰され腰が抜けた女は必死に命乞いをするも始祖は耳を貸すことなく彼女の腕を引っ張りかぶりつく。潰されたとは言え未だ神経は通る腕を引きちぎり咀嚼する。血をすすりながら笑みを浮かべる様はまさに吸血鬼と呼ぶにふさわしいだろう。
だが、その行為では上手く血を取れなかったのか。眉を顰めると魔剣を取り出し女の胸に深々と突き刺した。ドクンドクン、と鼓動をしながら急速に女から血を抜き取っていく魔剣。血を抜かれた女は直ぐに声も出せなくなり青白く体を染め上げていきやがて動かなくなった。そして魔剣を血を吸い取り終えたのか血を吸う事は無くなった。それを確認した始祖は剣を抜き取る。そこには血が一滴も付着していなかった。
始祖は魔剣から血を吸い取ると手を握りながら何かを確認すると言った。
「……これで漸く3割か。完全回復まで後7割か。まだまだだな」
「それよりも
「ん?それもそうだな。早速試してみるか」
始祖はそう言うと二コラに手を伸ばす。やがて何かを感じ取ったのかかざすのを止め次いでキアラに手をかざした。数秒ほどそうすると二人に言う。
「キアラ。二コラの持つ個性を
「分かりました」
キアラは始祖に背を向けると足に力を入れた。瞬間地面が凍っていく。それを確認した始祖は笑みを浮かべた。
「どうやらきちんと作動したようだ。これで二コラの【氷結】とキアラの【火炎】が二人とも使えるようになった。流石はオール・フォー・ワンに似た個性だ。中々に凶悪だ」
始祖がその女子高生を知れたのは偶然だった。あまりにも強い個性を持ったことで女子高生の両親は【コピー】として個性届を提出した。しかし、偶々偵察中だった眷属の一人が真相を聞き始祖に連絡したという訳である。結果女子高生を攫ってきて血を吸う事で個性を得られるか確認したという訳である。女子高生が好みの人物なら眷属にする事も考えたが好みではなかったため力を取り戻す事も含めて血を奪い取ったのである。
「これはアニー・ビーンに渡せ。アイツなら喜ぶだろうからな」
「分かりました。ではその後に、その……」
「ああ、任せろ。今日は二人とも可愛がってやるよ」
「マスター///」
始祖に抱き寄せられた二人は顔を染め熱っぽい顔で見上げる。しかし、大事な命令を受けた二人は名残惜しくも離れ女子高生の遺体を二人がかりで持つと部屋を出て言った。一人、残された始祖は両腕を見ながら笑みを浮かべた。
「これで眷属たちは個性を持つ事が出来る。更なる戦力増強はこれで成ったな」
始祖はそう言うと笑い声を上げるのだった。
女子高生について
田舎に住む女子高生。見た目は可愛いが始祖の好みではなかった。強個性を持って生まれたがその個性が狙われる可能性を考えて彼女の両親によって物間と同じ【コピー】となった。しかし、偶然発見した眷属により襲撃を受け両親は殺され女子高生も血を抜かれて死亡する。
個性:【コピー&ペースト】
オール・フォー・ワンと似た個性。半径2メートルほどにいる人物の個性をコピーする。コピーした個性はそのまま自分の個性として扱うできるほか他者に与える事が出来る。コピーしている為同じ個性を複数の人間に与えると言った事も出来る。しかし、特殊な個性である【オール・フォー・ワン】や【ワン・フォー・オール】などの個性はコピーできない。更に与える側の人間によってなじめなかったり強すぎる個性故に体が吹き飛んだりする。因みにあくまでコピーの為与えたら最後、取り外す事はできない。また、同じ個性を与えられるのは一人に付き一回まで。
始祖が眷属たちの強化の為に欲しがった結果奪われる。基本的に眷属は人間よりスペックが高い為事実上ノーリスクで個性を与えることが出来る。
元々作者が別の作品で考えていた個性だが結局没になった為こちらで登場させた。
二コラとキアラ
戦場のヴァルキュリア4に登場する敵キャラ。作者が戦ヴァルで一番好きなキャラ。
超常黎明期に始祖がロシアで拾った孤児で拾ってくれた恩と眷属化の影響でジャンヌ並みの狂信者となる。特殊部隊的な動きをする事が多い。
アニー・ビーン
ソニー・ビーンの子供のうちのどれか。ソニーと同じく
今後の展開に関して(なお、劇場版は”二人の英雄”のみ視聴済み)
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一気に林間合宿に
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二人の英雄の話を挟む
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