吸血鬼の始祖がヒーロー社会で自分勝手に生きる話 作:鈴木颯手
「で? 何の用だ、死柄木弔」
神野区でオール・フォー・ワンとオールマイトが激突してから数日後、俺は死柄木弔に呼び出されていた。場所は廃ビルの一室だと思うがそこにはヴィラン連合の面々が勢ぞろいしていた。別に驚く事ではない。死柄木の機嫌がとてつもなく悪い事を除けば……。
「分からないのか?」
「予想は付くが本人から言われたわけではないからな」
「なら教えてやるよ。何故先生を見捨てた?」
死柄木の要件はやはりそれだったようだ。傍から見れば俺の行動はオール・フォー・ワンを見捨てたと捉われても可笑しくなかったからな。例えオール・フォー・ワン本人が俺に助けられる事を望んでいなかったとしても、俺が態々助けてやる気がなかったうえにまだ信用も信頼もしていなかった結果だったとしても。彼にとっては理解できないし納得できない事だったのだろうな。
「その事なら単純だ。オール・フォー・ワンは俺との共闘を嫌がった。俺も共闘を嫌がった。ただそれだけさ」
「
「……死柄木。今回は警察やヒーローがお前たちを捕捉するのが速かっただけだ。そして迅速に対応しお前らは逃げの一手、いや詰みかけていた。それを俺のせいにするのはいただけないぞ」
「誰も俺たちの事は聞いてない! 何故! お前が! 先生を助けなかったのか聞いているんだ!」
「……」
俺は息を吐くと死柄木を見つめる。多分今俺の視線は冷めた目で見ているだろう。死柄木やヴィラン連合の面々が少し後ずさっている。
「あいつはプライドを優先したのさ。俺と組みたくない、俺の力を借りたくない。自分の力で十分だというプライドをな。俺もそうさ。アイツを助けるのがめんどくさい、望まれてもいない事をやる気になれない。そんな気持ちがあったからこそ俺は助けなかった
いいか死柄木?俺はお前を買っているがあくまで俺とお前は対等な関係だ。お前が俺に命令する事はできないし俺もお前に命令できない。それを忘れるなよ? 今回は見逃してやる」
「……」
死柄木は悔しそうに歯を食いしばっているがそれも彼にとっては成長を促進する栄養となるだろう。今回の出来事を飲み込み、前に進んだときにこいつは今よりもずっと強くなる。俺はその時にこいつがどうなるのかが見たくて一緒にいるんだ。下に付いたりとかいいなりになったつもりはない。精々俺を利用したり買収して動かす事だな。
「なに、オール・フォー・ワンからは君たちの事を頼まれてはいるんだ。見捨てたりせずにこれからも協力は惜しまないつもりさ」
それだけ言うと俺は【ワープゲート】を使いゲートを開く。既に使い慣れたゲートをくぐっていく。その間、俺の背中を死柄木はずっと睨みつけていた。
「捕らえた脳無はこれまでと同様に人間的な反応はなく、新たな情報を得られそうにはありません」
東京都警視庁本部庁舎の一室にて警察のみの会議が行われていた。参加するのは全員警察内部において絶大な権力を持つ者達であり彼ら一人一人の発言が人々を大きく動かす力を持っていた。
そんな彼らであるから、今回の出来事を深く重く受け止めていた。
「保管されていたという倉庫は消し飛ばされており彼らの製造方法についても追って調査を進めるしかありません」
報告を行う者の言葉を簡潔にいうなら”何も分かっていない”。これに尽きた。そして、報告はこれだけではない。
「そして、吸血鬼に関してですがバーと神野区双方に200体近くが出現しました。数だけ見れば保須市の時の倍以上です。残念ながら神野区に出現した方は”始祖”の退場と共に消え、バーの方はヒーローと機動隊で大量の死傷者を出し20体を確保しました。残りは全て取り逃がしています」
「……確か保須市では吸血鬼の上位互換と思われる存在も確認できていたな。そいつらは現れたのか?」
「いいえ、現れていませんでした。しかし、今回出現した吸血鬼は全て増強系の個性を持っていました」
「それはつまり吸血鬼も個性を使いだしたという事か?」
「正確には分かりません。ですが同じ個性を持つ者が数十体も出現したのです。吸血鬼たちは、
「ただでさえ厄介な吸血鬼が今以上に強く成るのか……」
会議の雰囲気が更に暗くなる。
「大本は捕らえたものの、死柄木を始めとした実行犯らは丸々取り逃がした……。しかも吸血鬼はほぼ取り逃がしたうえに捕まえたやつは血が無くなり体は灰になった。最大限甘く採点して”痛み分け”と言った所か」
「ンな訳あるか。平和の象徴と引き換えにだぞ? 加えて、参加した機動隊は倉庫の方は全滅、バーの方は半分がやられた。ヒーローも倉庫、バー共に無視できないダメージを受けた。オールマイトの弱体化が世間に晒され、今までの”絶対に倒れない平和の象徴”はいない。国民にとっても、ヴィランにとってもな」
「たった一人にもたれかかったツケだな」
「馬鹿も集まりゃここまで出来るとみんなが知った。俺は恐れているよ。死柄木の最初期のプロファイリングでは”子供大人”とさえ言われたが今では立派なヴィランのボスだ。襲撃を重ねるごとに強く、姑息になっている。奴は考え成長しているという証拠だろう。そしてオールマイトが崩れた。ヴィラン連合も数を重ねるごとに成長している。こうも上手く行くものかね?」
「これもすべて計算のうちと?」
「偶然ではないのか?」
「そこは分からない。……が、一つだけ確実なのは奴らは必ず捕らえなければいけないという事だ。これ以上成長させてはならない。オール・フォー・ワンを超える巨悪になる可能性だってあるんだからな」
「それに吸血鬼の事もありますからね。”上”はまだ諦めていないのでしょう?」
「ああ、今は違うアプローチを試しているとの事だ。まったく、永久にも近い命というものはそこまで人を魅了するのかね」
彼らが”上”と呼ぶ政府は未だ吸血鬼を取り込む事を諦めてはいなかった。それどころか最近では他国の諜報員も狙い始めておりいくつかの国は既に接触しているという報告まで上がっていた。しかし、それと同時に成功したという話も聞かないためいろいろな方法が模索されていた。
「どちらにしろ俺たちも改革が必要だ。何時までも”ヴィラン受け取り係”なんて言われていられる状況ではない。これからの社会の為にもな」
警察官の一人は真剣な表情でそう言うのだった。
聖愛学院はヒーロー科が存在する女子高である。元は超常黎明期から存在するお嬢様学校だったが近年ではそれ以外の女子生徒の受け入れも行われた。更にヒーロー科が作られた事でヒーローを目指す者も入って来るように活気づいていた。
しかし、2年近く前に始祖が襲撃を行い秘密裏に学院の掌握に成功していた。好みの女性のみを眷属にしつつ自らの眷属を生徒や教師として潜り込ませ、全寮制にする事で生徒や教師が外に出る機会を制限した。
始祖が【コピー&ペースト】を手に入れてからは個性を用いた洗脳や認識改変を行い始祖が廊下を歩いていても誰も驚かないような環境へと変貌していた。彼女達は卒業後は吸血鬼の外部協力者という位置づけで情報収集や暗殺、ハニトラなどを行うようになっていく。
そんな聖愛学院の校長室に一人の女性がいた。聖愛学院の制服に身を包んだその女性の名はトガヒミコ。ヴィラン連合に協力する大物ブローカー義爛が連れて来た者の一人で始祖が気に入った為眷属化を施し吸血鬼となっていた。
林間合宿ではヴィラン連合に協力して生徒たちを襲撃したがその後はアジトに待機状態となっていたが始祖の命令で聖愛学院ヒーロー科に所属する女生徒となっていた。
「どうやらサイズはぴったりな様ですね」
そう言って制服姿の着心地を確認しているトガヒミコに話しかけたのは聖愛学院2年の印照才子である。学院掌握後に入学した女性の一人で好みのタイプだった為始祖によって眷属とされていた。今では聖愛学院のリーダー的存在としてまとめ上げている。卒業後は教員資格を取り聖愛学院の教師に赴任する事が決定されており今後も聖愛学院を取りまとめる存在となる予定である。
「……」
「? トガさん、どうかしましたか?」
「何か、可愛くないです」
トガヒミコは不服そうな表情をしながらそう言った。彼女が着ている制服はお嬢様と言えるような服装だったが彼女的にはお気に召さなかったようだ。ブーブー言いながらクルリと回ったりしているが本人の容姿もありその姿は可憐と呼ぶにふさわしかった。
「我慢しなさい。貴方はこれからは始祖様の眷属トガヒミコではなく聖愛学院ヒーロー科1年”
「学校は嫌いです……」
「始祖様のご命令は絶対ですよ。貴方もそれは分かっていますよね?」
「それは、分かっていますけど……」
「貴方の目的は次に行われる仮免試験で他の受験生の様子を伺う事です。これらはその為の準備でしてよ」
才子はトガヒミコに容赦なくそう伝える。始祖でもない限り聖愛学院内においては彼女がトップの権力を持つ。例えジャンヌ・ダルクやマリー、クレオパトラでさえ聖愛学院の中では彼女に逆らう事は許されていない。
それだけ信用されているからこそ聖愛学院後の将来もきちんと計画されているのだ。
「仮免試験後は聖愛学院にいる必要はありません。始祖様の下に戻っても構いません」
「うーん、短い期間ですし我慢します」
「それと学院内で負傷させるような行いはしない事。きちんと生徒としてのふるまいを行う事をきちんと守ってください」
「うー。……分かりました」
トガヒミコは不貞腐れつつ返事をする。こうして彼女は短い期間だが聖愛学院の生徒として過ごすようになるのだった。
「……」
「おいおい、いい加減飯を食べたらどうだ?」
次元の狭間にある始祖のアジト。そこにある牢獄のような一室に轟焦凍の母である轟冷はいた。ベッドに机、椅子以外は何もないその部屋に無遠慮に入って来たのは監視担当のキアラ・ロジーノである。言動が悪くすぐに暴力に訴えるような性格をしており出した食事に一切手を付けない冷に切れかかっていた。
「……」
「ちっ、だんまりか。マスターから眷属化予定だって言われていなかったら殴ったり出来るのによ」
「……」
一切反応を見せずに反対方向を見ている冷にキアラは鼻を鳴らすと鋼鉄の扉を閉めて部屋を出ていく。重い音と共に扉が閉まると冷はうつむく。その表情は今にも泣きそうになっており体は震え始める。
連れ去られてからずっとこの部屋に閉じ込められ外部の情報が一切入ってこないここでずっと怯える日々を過ごしていた。食事は毎日三回ずつ出てきておりそれが唯一時間の流れを教えてくれていた。紙やペンすら与えられず暇を持て余すような状況を過ごしている内に最初は反抗的だった態度も今では無視するだけに留まっていた。知らず知らずのうちに精神的に追い詰められていたのである。
「……焦凍」
ぽそりと呟くのは自らの息子の名前。病室から出ていた事で無事だったと思うが今頃どうしているのか気になっていた。冬美は無事なのだろうか?夏雄は?
気付けば冷の瞳からは涙がこぼれておりそれに伴い声も出る。冷は顔を覆うと静かに泣き始めた。その様子を鋼鉄の扉に腕を組みながら寄りかかり聞いていたキアラは不快そうに眉を顰めると歩き始めた。向かう先は待機所とも呼ばれている共有スペースである。
「あら、キアラ。今日はもうおしまい?」
「二コラ……。ああ、そうだよ。いつも通りだ」
共有スペースの端にある椅子に座って読書をしていた二コラはキアラに気付きそう声をかけた。キアラもイラ正し気に隣に座る。普段はいがみ合い、始祖の寵愛をどちらが多く取るか競っているが仲は比較的に良くこうして愚痴を言い合う事があった。
「まったく、マスターはなんであんな奴を眷属にしようと考えているんだよ! あたしだったら絶対にいらないね!」
「キアラ、マスターの考えを否定してはいけませんわ。貴方が苛立つ気持ちは分かりますが命令はきっちりこなさないと」
「分かってるよ! だけどアイツ全然食事を摂らないし作るだけ無駄な気がしてならねぇ!」
「なら、食事を出さなければ……。って訳にもいきませんか」
「そうだよ。だから困っているんだよ」
食事を出さないという事は”殺そうとしている”と取られても可笑しくない行動だ。故にその選択肢はないがこのままでは餓死するだろう。そうなってしまえばキアラは罰を受ける事になる。一万人以上のライバルがいるのだ。皆、こぞってキアラを追い落とそうと動くだろう。特に現状では数少ない褐色系の眷属だ。それだけで寵愛の回数は多い為たくさんの嫉妬を買っていた。二コラもキアラとセットで扱われるため多少なりともキアラの恩恵を受けていた。
「ならば今度マスターに相談してみるのが良いと思いますわ。私達だけで考えていても仕方ありませんわ」
「二コラ……。そうだな、そうだよな。そうしてみる」
キアラはそう言うと笑った。それを見た二コラは少し顔を染めてうつむいてしまう。不思議に思っていると二コラは
「きょ、今日は何もありませんし私の部屋に来てもらえますか? 見せたいものがあるので……」
「? 分かった。行こうか」
キアラはそう言って二コラの部屋に向かう。その日、二人は部屋から出てくることはなく翌日以降二人の仲はそれまでより良好なものとなっていくことになる。
そして冷は始祖の持つ個性と吸血鬼としての能力を掛け合わせて食事を摂るようにさせられた為餓死の心配はなくなりキアラは監視役をきちんと全うしていくことになる。
印照才子
アニメオリジナルキャラクターで聖愛学院2年生。原作だと八百万達を一次試験で襲うが返り討ちに遭った。
今作では聖愛学院が始祖の手に落ちており才子も眷属となっている。基本的に聖愛学院の管理を行っており学院内だと始祖の次に権力が高くなる。管理を行っている上に学生という身分の為保須戦争や神野区の戦いには参加していない。眷属だが戦闘はあまり得意ではない。
個性:【IQ】
紅茶を飲んで目を閉じてる間だけ、IQが増幅する。増幅の大きさは紅茶の種類によって違いが出る(Wikipediaより)
原作で才子が持っていた個性。因みに始祖は紅茶を飲まない為持ってはいない。
他にも管理の補助に使えそうな個性を幾つか保持している。
聖愛学院
始祖が二年ほど前に好みの女性を眷属にするために襲撃し乗っ取った。今作では全寮制の女子高という設定で始祖がヒーロー側の情報を得る際に使われている他外部協力者の育成機関と化している。
そして、それ以上の設定は考えていない為矛盾している所とかがばがばなところがあるかもしれいないけど都合よく解釈してください
壊理ちゃんをどうするか
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本命:眷属にしよう
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対抗:原作通りでいいじゃん
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穴:え?まさかの死亡?
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大穴:ヴィラン連合行き