吸血鬼の始祖がヒーロー社会で自分勝手に生きる話   作:鈴木颯手

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先に言っておきます。保須が滅茶苦茶になるし原作キャラじゃないけど人が死ぬ描写が出てきます。苦手な方は注意してください


07・ステインと始祖

 雄英体育祭も終わり一息ついていると俺はオール・フォー・ワンから呼び出された。正確にはヴィラン連合の下にいるメッセンジャーを通してだが。そして、俺が見ている映像の先には今世間をにぎわしている存在がいた。

 

 ”ヒーロー殺し”ステイン

 

 17人ものヒーローをこれまでに殺害してきた(ヴィラン)の中でもトップクラスの大物。一つの地区で数人のヒーローを殺害するという法則を取っており中にはヒーローの意識を高める結果に繋がっているともいわれている存在……、という情報をクレオパトラやマリーから聞いてはいたが成程。確かにある種のカリスマを持っているな。やっている事は”悪”かもしれないがその心には折れない芯を持っている。どんなに自分が変わろうとも、歪もうとも絶対に変わらない芯を。

 あまりお近づきにはなりたくない相手だな。俺なんてあちらから見ればその辺のチンピラと変わらないだろうしな。

 そんな訳でステインが死柄木達の前に立っているという事は勧誘したいのだろう。彼が入るだけで純粋な戦力強化につながるが決してそれだけではない。ステインに心酔する者もヴィラン連合に興味を持ち近づいてくる可能性がある。……もし、ステインをヴィラン連合に引き入れる事が出来ればこの組織は大きな変動を迎え成長するだろう。今にも強風でへし折れそうな弱弱しい苗木はステインという養分を吸収する事で地に根を張り、どんな強風にも耐えうる巨木へと至る。

 だが、そのために必要なのは死柄木の思想だ。現にほら

 

「興味を持った俺が浅はかだった。お前は、俺が最も嫌悪する人種だ」

 

 ステインは死柄木を認めてはいない。実際そうだろう。今の死柄木は駄々こねる子供と変わらない。俺から見てもそうだからな。そんな俺が協力しているのはオール・フォー・ワンが関わっているからだ。

 

子供の癇癪に付き合えと? 信念無き殺意に何の意義がある?

 

 ほら、ステインは死柄木を殺す気でいる。黒霧は止めようとしているがオール・フォー・ワンは教育の一環として全く止めようとはしない。それをみた黒霧はこちらを見るが俺だって止めたい訳じゃないしアジトの場所が分からない以上向かう事も出来ない。故に助けるのは無理だ。諦めてくれ。これで殺される様ならその程度の器だったという事だろう。

 そして、あっという間に両者は制圧された。黒霧はステインの個性故か、動く事が出来ないようで死柄木は右肩の付け根を差され床に縫い付けられるように押し倒されている。更に首には刀が向けられておりステインの動き次第で簡単に分断できるようにされている。

 

「ヒーローが本来の意味を失い、偽物が蔓延るこの社会も、いたずらに力を振りまく犯罪者も、粛清対象だ」

 

 そう言ってステインが死柄木の首を切り落とそうとした時だった。死柄木の右腕が刀を掴む。

 

「ちょっとま、この手だけは駄目だ」

 

 そう言うと同時に力を入れ刀に日々を入れた。そして、

 

殺すぞ?

 

 決して大きい声だったわけではない。だが、俺は確かに何か(・・)を感じた。ただのガキだと思っていた死柄木の中に燻り蠢く何かを……。

 

「口数がおおいなぁ。信念? そんな仰々しいものなんてないね。強いて言えば、そうオールマイトだな。あんなゴミが祭り上げられているこの社会を滅茶苦茶にぶっ潰したいなぁ、とは思っているよ」

「っ!!??」

 

 刀が破壊され更に振り払うように死柄木が手を振るとステインは後ろに大きく飛びのいた。死柄木はゆらりと立ち上がると話を続ける。

 

「ったく、人の体に傷をつけやがって……。こちとら回復キャラはいないんだよ。責任取ってくれるのかぁ?」

「……それが、お前か」

 

 苛立っているのか首をかきむしる死柄木にステインはそう言った。

 

「はぁ?」

「俺とお前の目的は、対極にあるようだ。だが、”今を壊す”。この一点において俺たちは共通している」

 

 そう言うステインの顔は笑っていた。自分の事を理解してくれない人間が、自分と同じ考えをしている人と出会えた。そんなような笑みだ。だが、それはあくまでステインの方だ。死柄木にはそんな事は不快そうにしている。

 

「っざけんな。帰れ、死ね。”最も嫌悪する人種”なんだろ?」

「真意を試した。死線を前にして、人は本質を表す。異質だが、重い歪な信念がお前には宿っている。お前がどう芽吹いていくのか……。始末するのはそれを見届けてからでも遅くはないだろうな」

「結局始末するのかよ……」

 

 その時、漸く動けるようになったのか黒霧は自身の腕を眺める。それに気づいた死柄木が黒霧に話を振った。

 

「黒霧、俺は嫌だよ。こんなイカれた奴をパーティーメンバーに入れるのは。あの吸血鬼野郎とは違った意味で嫌だね」

「死柄木弔、彼が加われば大きな戦力になる。……交渉は成立した」

「要件は済んだ。さぁ、俺を保須へ戻せ。あそこには、まだなすべきことが残っている」

 

 そう言うステインの目には歪で、歪んだ信念が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いや、その前に」

 

 しかし、そこでステインは思わぬ行動に出る。こちらを見ているのだ。正確には俺の眷属が持つタブレットを通して画面に映らないはずの俺と。ああ、そうだ。確かに俺とステインは”視線があっている”。

 

「貴様は誰だ」

「俺か? なに、ただの協力者さ」

「その人形からは信念何処から何も”感じない”。そして、お前からは異質(・・)な気配がする」

 

 へぇ?流石はヒーロー殺し。俺を見てもいないのにも関わらず見抜くか。

 

「俺は吸血鬼の始祖だ。人類がまだアフリカを出たばかりの頃より生きる最古の生きた生物だ」

「……成程、人間ではなかったか(・・・・・・・・・)

「ん? 俺が人間じゃないならどうだって言うんだ?」

「貴様とは根本的に相いれない。俺の勘がそう告げている。そして”戦うな”とな」

 

 人間の本能か。確かにそうかもしれないな。かつて俺を殺そうとした奴は大勢いた。一人の時もあれば団体や組織、国の時も。一番大きかったのは十字軍だ。あれは楽しかった(・・・・・)。沢山殺し、眷属もたくさん死んだ。あの時は半分の眷属が死に俺も傷を負ったな。あれ以来力が強まったのか二度と傷を受ける事は無くなったがな。

 

「何故貴様の様な存在がこいつら(ヴィラン連合)に力を貸す? 貴様ならこんな者たちに力を貸す必要もないはずだ」

「そうだな……。暇つぶし。そう答えたらどうだ?」

「いや、むしろそうであって欲しいとさえ思う。貴様が何か大きな目的があるのなら、それは人間にとっては大なり小なり影響を与え混乱を生み最後には混沌へと至る」

「おいおい、人を化け物みたいに……」

「我ら人間からすればお前は、お前たちは(・・・・・)化け物以外の何物でもない」

「……そうか。だが、どちらにしろヴィラン連合に手を貸すのなら俺たちは実質仲間だ。争いを生むような事は互い避けていこうぜ」

「……ふん」

 

 ステインは信用していないのか鼻で笑うと黒霧の方を向く。さっさと保須に送れという事だろう。黒霧はワープゲートを開きステインはそれに飛び込んでいくと一旦閉じた。

 

「私達は怪我の手当てをしたら保須市に向かいます。貴方はどうなされますか?」

「そうだな……。久しぶりに暴れようかな(・・・・・・)。ステインと話していたら昔の事を思い出してしまった。ヒーローの一人か二人を殺し一暴れしようと思う。勿論保須でな」

「そうですか。では保須市で会いましょう」

 

 手当てを終えた黒霧は死柄木を連れてワープゲートで消えて言った。俺もタブレットの通信を切る。ずっと座りっぱなしだったから少し体が硬くなったな。少し伸びをすると俺は立ち上がる。

 俺がいるのは次元の狭間に作ったアジトだ。一万近い眷属たちを一か所に集めるとどうしても目立つからな。こういった、普通の人間ではたどり着けない場所にアジトを構えるのが良いからな。

 

「ジャンヌ・ダルク」

「はっ!」

 

 俺の呼びかけにすぐにジャンヌは現れる。ここでは俺の声は何処までも聞こえる。名前を呼べばこの空間にいる眷属たちは直ぐに向かって来れる。とは言え今回は久しぶりに暴れたい気分だ。せっかくだしパーティーの様に派手に行きたいな。

 

「ラクシュミー」

「ここに」

「E-001から084まで」

「「「はい」」」

「あとは……、よし徴側と徴弐」

「お呼びでしょうか」

「久々に暴れるの?」

 

 これだけいれば問題ないだろう。計88人による大襲撃だ。これだけいるんだ。保須市だけじゃなくてその周辺地区でも暴れてやろうじゃないか!

 

「俺は久々に暴れたくなった。保須市を中心に血染めの宴を始めるぞ!」

 

 さぁ、ヒーローよ。俺を満足させてくれよぉ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 緑谷出久にとって目の前に広がる光景はまさに地獄と言ってよかった。同級生にして友人である飯田天哉の兄がステインに襲撃を受けてからというもの彼の事を心配していた。そして、その飯田が職場体験を受けている保須市にもうすぐ到着するという時に彼の乗る新幹線が急に襲撃を受けたのである。

 新幹線の外壁を破壊し中に入って来たのはゴシックロリータに身を包んだ少女だった。しかし、その少女は口の端から血を流して、いや口の中にある人間の肉から出てくる血が溢れているという一目でヴィランと言える事を行っていた。その少女はターゲットを新幹線の中にいる人たちに決めたようで一番近くにいる女性の首を手刀で切り落とした。それを見た緑谷出久の職場体験先のヒーロー、グラントリノは自らの個性ジェットですぐに近づくと少女と共に外に出てそのまま近くのビルに激突する。唐突な出来事に破壊された外壁部分から見た保須市は地獄だったのである。

 あちこちで火の手が上がっており人々の悲鳴が聞こえてくる。爆発音に破壊音が響くそれは”戦争”と呼ぶにふさわしい光景だった。

 緑谷出久は止まった新幹線から出るとグラントリノの下に向かおうとする。しかし、その瞬間だった。緑谷出久が出て来た穴に向かって何かが高速でぶつかり大爆発を起こした。爆風によって出久の体は持ち上げられ吹き飛ぶ。更に二発、三発とぶつかり新幹線は破壊され同時に支えていた土台も壊れ崩れ落ちる。

 

「ぐっ! 何が……!」

 

 上空で体勢を整えた出久は危なげなく瓦礫の上に着地するがそこで目にした光景に彼は目を見開く。

 先ほどまで乗っていた新幹線の残骸、人々の死体があった。何が起きたのか分からないまま死んだのか不安そうな顔をした死体がいくつもある。見ただけで死体しかないと思える状況に出久は腹からこみあげてくる胃液を必死で抑え込む。数分程そうして格闘して漸く落ち着きを取り戻した出久は淡い願いの下に人命救助を始める。

 

「だ、誰か……。居ませんか? 生きている人は、いませんか?」

 

 出久は声を張り上げているつもりだったがその声は掠れている上に震えていて周囲の喧騒にかき消されている。瓦礫を取り出し新幹線の残骸から生きている人を探す。その行為は死体しかないのを出久が認める事が出来るまで続く事となる。

 

「どうして、こんな……」

 

 出久は体中に襲いかかる恐怖とはまた違った感情が溢れその場に泣きながら座り込むのだった。ヒーローを志す緑谷出久という人間が初めて経験する戦争の如き悲惨さは今後の彼に大きな影響を与えていくことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 後に『保須戦争』と呼ばれるようになるこの事件はステインとヴィラン連合の脳無も参加していたにもかかわらず脇に追いやる程の被害を出した始祖の存在を世界中に知らしめる事となり人間とは違う別の知的生命体と人間がどう向き合っていくべきなのか?その疑問を持たせ社会に大きな影響を与える事となる。

 そんな保須戦争はまだ、始まったばかりである。

 




E-とは
一時期多すぎる眷属故に名前が被ったり覚えきれなくなった始祖が行った眷属の整理の際に出来た番号の一つ。簡単に言うと「眷属の中でもあまりいらない」と思われた者達の集まり。名前を奪われる=眷属の中で最も下というイメージを植え付ける結果となっている。使い捨てにされる割合が多く損耗率も比較的高い。原作で脳無が行った緑谷達が乗る新幹線への襲撃を行った眷属はこの中の一体。
基本的に戦闘用、家政婦用、雑用と大雑把に分けられておりE-グループは戦闘用に分類されている為全員戦闘能力はそれなりにあるがジャンヌ・ダルクと戦えば全滅する程度には弱い(トドのつまりUSJのチンピラの上位互換的な感じ)。しかし、眷属なので吸血鬼の特性は持っているから単純な戦闘能力では測れない程厄介。

徴側、徴弐
徴姉妹と呼ばれるベトナムの偉人。ジャンヌ・ダルクより前の時代の人だが『ベトナムのジャンヌ・ダルク』の異名を持つ。
始祖が持つ眷属たちの中で最も強い。姉はきっちりとした性格で妹の方は軽い口調で話すサイコパス

他のキャラを出すか(勿論始祖の眷属として。その為性格は大きく変わる可能性大)

  • あり
  • なし
  • 数人程度ならあり
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