私立、八二卜学園のJKたち   作:氷の泥

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10 蚊に刺され

 私立、八二卜(やつふたうら)学園。通称はにとー学園。そこには三人の天才JKが所属している。

 わりとプライドが高い発明家、巫女野(みこの)こみみ。発明品の出来はもちろん、ネーミングにケチをつけられると根に持つ。

 意外とホラーには強い不死、笹良(ささら)そよ。虫や絶叫マシンにも強いが、セクハラだけは本当に無理。

 密かに甘党な一般人、雛里(ひなさと)あずさ。特にドーナツが一番好きで、近所のミスド店員とは顔馴染みになっている。でもカレーは辛口一択。

 ……この話は、以上の三人がこの上なくどうでもいい話をする様を、粛々と垂れ流していくだけのナンセンスコメディです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏。毎晩の寝苦しさが続く時期の昼休みにて。その日は珍しく、雛里あずさから口火を切った。

 

「そよってさ、不死についてあれこれ聞かれるの嫌いだっけ……?」

「え? ううん〜別に〜。死んでみせてとかじゃなければ〜、友達から聞かれる分には全然平気〜」

「じゃあちょっと気になったんだけどさ、仮にそよが力士部屋に拉致監禁されて、はちゃめちゃのぶくぶくに太らされたとするでしょ?」

「え〜?」

「で、その状態で木っ端微塵になって死んだら、復活する時は痩せた状態で復活するの……?」

「あれーあずささん? マッドサイエンティストは良くないんじゃなかったでしたっけ?」

「ま、まぁそうなんだけど……。ちょっと気になって……」

「あ〜、どうなんだろうね〜? 試したことないや〜」

「試して戻らなかったら一大事だからね」

「なんでそんなこと聞くの〜?」

「それは……。……実は昨日寝てる間に、ヘソの真横を蚊に刺されたんだけど、それであたしは気付いちゃったんだ」

「なにに〜?」

「……自分が太ったということに」

「ほう? どれどれ」

「っ!? めくるなバカ!」

「いや、少なくとも服の上からでは何も変わらないと思って」

「わたしも〜。あずさちゃんはむしろ痩せてるように見える〜」

「それはそう見えるだけなんだ……。今朝蚊に刺された箇所を掻いてみたら、うわ……これは……ってなったから確実に太ってる。体重も測ったけど案の定だった」

「何キロ増えたの?」

「言わない」

「言えないくらい増えたの?」

「増えてない」

「信ぴょう性に欠けるなぁ」

「仮に増えてたとしても〜、全然気にしなくていいくらいだと思う〜」

「うーん、まぁそこはダイエット頑張ればいいから別にいいんだけど……。それより、気にする気にしないはさておきさ、これってなんか蚊からのメッセージを感じない? ヘソ付近を刺すことで「お前太ってんな!」って言ってきたみたいな」

「被害妄想じゃん」

「そうだよ〜あずさちゃん〜。蚊は「お腹出して寝ちゃダメだよ」って教えてくれたのかもよ〜?」

「いや、それはない。蚊はそんなことしない」

「なんで〜?」

「なんでって……。疫病と痒みと不快音のイメージしかない連中が、そんな優しいこと言うわけなくない……?」

「え〜、そうかな〜」

「あずさ、そういうのは意外と分からないよ。世の中はそんなに単純じゃない」

「というと?」

「誰がどう見ても聖人みたいに優しく振る舞う人が、家では子どもを虐待しているかもしれないし、人類全体に貢献するくらい大きな事を成し遂げた人が、実はひどい差別主義者かもしれない。私たちが思っている以上に、人間の良い面と悪い面は全然矛盾しないものだよ」

「……いや、蚊の話なんだけど」

「蚊だってそうかもしれないじゃん! 疫病と痒みと不快音をばらまきながら、別の場面では「お腹を冷やしちゃいけないよ……」って優しく教えてくれてるのかもしれないでしょ……!」

「百歩譲ってそうだったとして、教える方法としてがっつり痒みをプレゼントしてくるのはどうなんだ」

「しょうがないよ〜、蚊に出来る方法はそれしかなかったんだもん〜」

「なんで二人ともそんなに蚊を擁護するの……」

「別にそういうわけじゃないけど」

「可能性の話だよね〜」

「むしろそう言うあずさは、なんでそこまで蚊のメッセージ性にこだわるのさ」

「いやこだわってるわけじゃないけど、反射的に「ちくしょ〜」と思ったから」

「背の低い人が、高い場所にいる猫から見下ろされた時みたいな感覚?」

「いやそれは分からないけど。……こみみってそうなの?」

「はぁ〜? 私は別に背が低くないんですけど? 体の成長が永遠に止まっちゃってるだけで、潜在的な身長で言えば実質180センチくらいあるんですけど? たぶん」

「高すぎでしょ……」

「わたしは小さいこみみちゃん好きだけどな〜」

「そ、そよ〜! 心の友よ〜!」

「それは心の友判定なんだ……」

「というわけで、あずさのそれは完全に被害妄想ってことです」

「まぁそれはそうだと自分でも思う」

「大体野生界に生きる蚊が、そんな人間的価値観のメッセージなんか残すわけないじゃん」

「え、そこ?」

「あ〜、そっか〜。言われてみればそうかも〜。蚊にお腹を冷やすって感覚なさそう〜」

「なんか納得してる……」

「仮にメッセージ性があるんだとしたら「こんな油断して寝てたら死ぬぜ!」みたいな意味だと思う」

「いやいや〜、「こんな油断してても死なないなんていいご身分だな! 人間め!」みたいな意味かもよ〜?」

「あー、動物の類にも妬みの心はあるって言うもんね。虫にもあるかもね。野生的には太れることって羨ましいことだろうし」

「わたしは人間だから、太らない体質のこみみちゃんが妬ましい〜」

「ひえーヘソの真横を刺されるー」

「刺しちゃうぞ〜」

「叩き潰しちゃうぞー」

「……………………」

「……どうしたのあずさ? 今は別にあずさが入ってこれない話してないけど」

「普通の話だよ〜? そんな目で見ないで〜」

「……いや、すっっっっっごいどうでもいい話だな……って思って」

「言いだしっぺのくせに!」

 

 それから一ヶ月くらいで、雛里あずさは無事に痩せました。

 

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