私立、八二卜学園のJKたち   作:氷の泥

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11 優柔不断

 私立、八二卜(やつふたうら)学園。通称はにとー学園。そこには三人の天才女子高生が所属している。

 地味に音痴、巫女野(みこの)こみみ。自分の音痴は声帯が小学生で止まってるせいだ、とよく言い張っている。なまじ本人は楽しめるタイプなので発明品での解決も試みない。

 反射神経が普段の印象通り、笹良(ささら)そよ。生まれてこの方、手加減された時以外で「叩いてかぶってジャンケンポン」に勝ったことがない。そしてそれを悔しいと思ったこともない。

 調味料はいつも目分量、雛里(ひなさと)あずさ。調理行為に対する苦手意識はないが、計量等に対する苦手意識はある。お菓子は食べても作りたくない。

 ……この話は、以上の三人がどうでもいい話題について話し続ける様子を、一貫して垂れ流し続けるだけのナンセンスコメディです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 はにとー学園にも夏休みはある。昼休みの教室というたまり場を失ったいつものJK三人組が、今日は巫女野こみみの自室に集合していた。

 ……話は一日前、近所のミスドで三人がドーナツを食べていた時にまで遡る。

 

「ねぇねぇ〜二人はさ〜、優柔不断な男の人のことってどう思う〜?」

「優柔不断?」

「どう思うって言われても、あんまり対面したことないかもなぁ……。男子と話すことほぼないし」

「私も」

「わたしもだけど〜、友達が言ってたの〜。優柔不断な男はクソだ……!って〜」

「そよの口から「クソ」が出るとは……」

「ふぁっきゅーの方がまだ合ってたね」

「友達が言ってたんだってば〜。それで、優柔不断ってそんなに悪いことなのかな〜って気になったの〜」

「うーん、まぁ良いことではないよね、優柔不断」

「程度にもよるんだろうけど、どの程度だったの?」

「んっとね〜、何を聞いてもなんでもいいとかどっちでもいいって答えて〜、全然何も決めてくれないんだって〜。それで友達はその人と別れたんだって〜」

「あ、別れ話の一端だったんだ」

「何も決めてくれないか……。まぁでもそれなら、こっちで全部決めちゃえばいいってことなんじゃないの?」

「え〜、あずさちゃんそれ出来る〜?」

「まぁ、たぶん」

「私も、何かが決められないことってあんまりないし。こっちで全部決めていいなら、相手の優柔不断は別に大した問題にならないと思う。……けど」

「けど〜?」

「別れたってことは、たぶんそうじゃなかったんでしょ? 「そんな男はクソ!」ってきっぱり別れる決断を出来る人が、自分も優柔不断ってことはないだろうし」

「あ〜なるほど〜! 確かにその子は優柔不断じゃないよ〜。こみみちゃん鋭いね〜」

「なんかこみみがこの手の話に饒舌なのって意外だ」

「いや、それが昔ツイッターに流れてきた漫画で、そよの友達と同じようなことを言ってる人がいてさ」

「優柔不断な男はクソだ〜! って〜?」

「そうそう。それで、そこで読んだ内容があまりにもひどすぎて、逆になんでも即決できるようになる発明品を作ろうとしたんだよね」

「おぉ〜! 上手くいった〜?」

「最初は頭に取り付ける装置を考えてたんだけど、よく考えたらそんな発明品を使うための相手がいないから、最終的に人型ロボットになってた。即決彼氏ロボってことで」

「え……? なんかさらっと洗脳装置作ろうとしてない……?」

「いや全然そんな大した物じゃなかったけど。……で、まぁそのロボは出来が悪かったから、今はもう倉庫に封印してある」

「え〜、そのロボット見てみたい〜。こみみちゃんが作る彼氏ロボってどんななの〜?」

「見た目も自分好みにしたの?」

「いや、自分好みというか……うーん……なんて言ったらいいのか……」

「せっかくの夏休みだしさ〜、今度こみみちゃんの家にそのロボ見に行こうよ〜」

「あー、確かに最近こみみの発明品見てなかった感じするし、いいかもね。……行っていい?」

「来るのは全然いいけど、別に面白くないと思うよ?」

「行こう行こう〜。いつならいい〜?」

「別に明日でも」

「じゃあ明日行こう〜」

 

 というわけで、翌日の昼間、こみみの自室にて。

 

「さぁ、持ってきましたよ」

「おぉ〜、ロボって木箱に入ってるんだ〜」

「背負うための紐まで付いてる……。即決彼氏ロボ、運搬予定だったの……?」

「いや、これはディティールってやつ。……さて、それじゃあこの箱の中身をお披露目する前に、ちょっと通過しておかなければならない儀式があります」

「儀式〜?」

「なんかきな臭くなってきた……」

「大したことじゃないよ。二人にはちゃんと優柔不断のクソさを知ってもらってから、箱の中身を見てほしいなって思ってるだけだから。私がこのロボを作った時の気持ちをちょっとでも味わってほしいんだよね」

「具体的には何をするの?」

「そうだなー、そよに協力してもらおうかな」

「わたし〜?」

「そよは、優柔不断な男の人のことどう思う?」

「う〜ん、わたしも結構、優柔不断なところあるからな〜。どっちも決められなくなって、困っちゃいそう〜」

「なるほどなるほど……。…………認識が甘い!!」

「うわ、びっくりした」

「急に大声〜」

「そよ、私のことを彼氏だと思って、何かしらの二択を迫ってみてよ。私が優柔不断な彼氏の役やるから」

「え〜? じゃあ〜…………こみみくんこみみくん〜、ランドとシーどっちに行きたい〜? 今度どっちか行こうよ〜」

「うーん、そうだなぁ……。どっちもいいなぁ……どっちも良すぎて決められないなぁ……」

「じゃあ〜、シーはどう〜? わたしはどちらかといえばシーがいいかな〜」

「シーかぁ。シーもいいけどなぁ、でもランドも捨て難いよなぁ」

「え〜、じゃあランドにしよ〜」

「いや、でもシーもいいよなぁ、そよもシーに行きたいって言ってたしなぁ」

「じゃあやっぱりシーにしようよ〜」

「いやいや、でもやっぱりランドも捨て難いし……うーん……」

「…………嫌い」

「そよがキレた……!?」

「はい、まぁこんな感じでした、私が読んだ漫画に出てきた彼氏も」

「マジでクソだったね」

「なるほど〜、よく分かったよ〜。優柔不断って良くないんだね〜」

「そう、マジでよくない。……というわけでそういうクソのカウンターとして作られた、一切の優柔不断がないロボットを、いよいよお披露目です! いでよ、即決彼氏ロボ、両極端次郎くん!」

「わ〜、箱の中から箱を背負った男の子が〜」

「なんか腰に刀まで付いてるけど……」

「やぁ、俺の名前は両極端次郎! よろしくな!(イケボ)」

「かっこいい〜! イケボだ〜」

「さぁそよ、端次郎に何か二択を迫ってみて」

「端次郎くん〜、ランドとシーならどっちに行きたい〜?」

「ランドかな! 俺は迷ったらランドと決めてるんだ!(イケボ)」

「すご〜い! ……でも端次郎くん、わたしシーにも行きたいな〜……?」

「そよが行きたいならシーでもいいぞ! 俺もシーは好きだ!(イケボ)」

「こみみちゃん〜! 最高じゃん〜!」

「上手く出来なかったから封印したとか言ってなかったっけ? 全然大丈夫そうじゃん」

「うん、まぁ今はね」

「なにその不穏なのは……」

「ねぇねぇ端次郎くん、朝はご飯派〜? パン派〜?」

「俺は朝はご飯派だ! パンは食べない!(イケボ)」

「ラーメンの味は何派〜?」

「迷ったら醤油だな!(イケボ)」

「すご〜い!」

「食べ物の話ばっかじゃん……」

「平和でいいことだよ」

「こみみちゃん〜、わたしこの人と付き合う〜。顔も声もかっこいいし〜性格も好き〜」

「そよ、それはさすがに即決すぎる」

「いや、本当にやめておいた方がいいよ。どうしてもっていうならそのロボそよにあげるけど」

「やった〜! もらう〜!」

「ちょっとそよ、こういう時のこみみの忠告は聞いておいた方がいいって。絶対何かやばいから」

「うん、絶対何かやばいことを保証する」

「え〜? どうして〜? 何でも即決してくれて清々しいよ〜?」

「なんでもってほぼ食べ物の話しかしてないじゃん……。……そうだなぁ例えば、そのロボと付き合うのはもっと、繊細な話を振ってみてからでもおそくないんじゃない?」

「繊細な話〜? どんなの〜?」

「うーん例えば……。……端次郎くん、世界中にある差別問題についてどう思う?」

「差別はよくない! 俺はそんな物絶対に許さないぞ!(イケボ)」

「ほら〜、いい人だよ〜」

「いや、あずさ、今のはめちゃくちゃいい。物凄く確信に近づいてる」

「あ、そうなの? ……ていうかこのロボの問題点って結局どこにあるの? もったいぶってないで教えて。このままじゃあたしたちそよのこと取られちゃうよ」

「そうだなぁ。じゃあそよ、亭主関白についてどう思う?」

「え、わたし〜? 亭主関白か〜。あんまり好きじゃないかな〜。友達でも恋人でも〜、対等な感じで仲良くできるのが一番だと思うから〜。ね〜? 端次郎くん?」

「いや、女性は男性の三歩後ろを歩くくらいが慎ましくていいと思うぞ(イケボ)」

「え〜? そう〜?」

「……こみみ、もしかしてこれは」

「まぁ続けてみなよ」

「あー、じゃあ端次郎くん、あたしからも質問。女性が社会進出することについてどう思う?」

「男が外に働きに出る分、女性には家のことを任せたいな。それがこの国の理想の家庭という物だろう(イケボ)」

「端次郎くん〜……?」

「……端次郎くん、結婚願望がない女性についてどう思う?」

「それは考えられないな! 結婚もしないでどうやって幸せになるんだ?(イケボ)」

「なるほどこみみ、分かった」

「たどり着いたね、両極端次郎の真実に」

「こみみちゃんどういうこと〜??」

「そよ、たぶんこのロボは、「女性」に関連する意識や認識が大昔でストップしちゃってるんだよ」

「あずさ正解」

「え〜? そうなんだ〜……。それはちょっと残念〜……」

「なんでこんな性格にしちゃったの?」

「いや、私もそんなつもりじゃなかったのに、いつの間にかこうなってた。たぶん大正時代の悪い部分が出ちゃったんだと思う」

「大正時代ってこんなだったの……?」

「それは知らないけど、そうとしか考えられない」

「じゃあ端次郎くんって〜、育休とかにも否定的なの〜?」

「そうだな、男が働いている分、子どもの面倒くらいは奥さんが見るべきだと思う(イケボ)」

「え〜、こみみちゃん〜、この人やだ〜」

「だから忠告したでしょ」

「これは確かに、封印しておくのが一番かな……」

「そうなんだよね。のさばらせておくと色々な方面から怒られそうだし。電源切っとくよ」

「そうしといて。こんなポンコツ、令和の世には出せないわ」

「あっ、あずさバカ!」

「えっ?」

「……ポンコツ?(イケボ) シュウウウウ……」

「な、なんか端次郎くんから急に煙が〜!」

「しまった……。端次郎くんは女性から罵倒の言葉を向けられるのが大嫌いで、逆鱗に触れると抜刀して襲いかかってくるんだ!」

「えっ、あたしのせい!?」

「お前は……存在してはいけない生き物だ……(イケボ) シュウウウウ……」

「やばい二人とも! 逃げて!」

「ちょ、うそでしょ、あの刀まさか真剣!?」

「真剣にしか見えないプラスチックだけど、叩かれたらアザになるくらい痛いよ! だから逃げて!」

「ひええ〜……」

「……なんだプラスチックか」

「あずさ……!?」

「即決の呼吸、一の型……衝動刈い!(イケボ)」

「きゃ〜! あずさちゃんが切られた〜!」

「い、いや違う。刀が……折れてる……!」

「ふん、刃物なら焦るけど、玩具ならびびることもないでしょ」

「あずさちゃん強い〜!」

「か、刀が……俺が未熟だったせいで……(イケボ)」

「めっちゃショック受けてるんだけどこのロボ」

「よ、よし、今のうちに電源を」

「ちょっと待ってこみみ。……このロボって保管する意味あるの?」

「え?」

「いや、なんか「存在してはいけない生き物」とか言われて思ったんだけど、……そのセリフは完全にブーメランじゃない?」

「え、いや、まぁ同意するけど。……もしかしてあずさ」

「こみみがよければ、こいつはここで破壊する」

「わ〜! バトル漫画みたい〜!」

「即決の呼吸、二の型……」

「気をつけてあずさ! 刀が折れててもそいつは」

「壊していいんだね!?」

「いいよ!」

「二の型……迷々左閃(まよったらひだりをえらぶ)!」

「お〜! あずさちゃん躱した〜!」

「くたばれポンコツロボ!」

「蹴った〜!」

「端次郎くんの首が!」

「すご〜い! 一撃だ〜!」

「おかしいな、一応階段から落ちたくらいじゃ壊れないように作ってたはずなんだけど……」

「鬼のような強さだ〜」

「鬼とか言わないでよ心外な。……まぁでも確かに、このポンコツロボは自分より背が高い女とか、力が強い女とかは嫌いそうだったな」

「はーい、じゃあ残骸を片付けるから、二人はリビングの方でくつろいどいてー」

「いや手伝うよ」

「危ないからいいって。例の異次元開けるから」

「あ、そう……」

 

 こうして、即決彼氏ロボはその後五分「くらい」で、実質的にこの世から存在を抹消された。

 

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