私立、八二卜学園のJKたち   作:氷の泥

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08 巨乳

 私立、八二卜(やつふたうら)学園。通称はにとー学園。そこには天才的なJKたち三人組が所属している。

 天才発明家、巫女野(みこの)こみみ。人類の積み重ねた科学知識をガン無視してすごい発明品を作るすごい人。構図的には、性欲旺盛だけど保健体育の成績が悪い男子に似ているのかもしれない。

 先天性不死、笹良(ささら)そよ。本当は弟がほしかった一人っ子だが、それはそれとして「おねしょた」で検索して出てきた結果はそっ閉じした人。

 最強一般人、雛里(ひなさと)あずさ。強靭な肉体におおよそ健全なる精神が宿っている人。やってみたらリンゴが握り潰せて自分で引いた。

 ……この話は、以上の三人がどうでもいい話を繰り広げたりフィクションの醍醐味を追求したりする様を、ひたすら垂れ流すだけのナンセンスコメディです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、三人がヒートアップしたのは昼休みではなかった。もはやそれを待つことすら出来ず、教室の一角は朝っぱらから一つの話題で持ち切りだった。

 

「こ、こみみ……」

「こみみちゃん……」

「……まぁちょっと聞いてよ。昨日アニメを見てたら」

「いやどうしたんだその胸!?」

「巨乳〜!」

「聞いてって!」

「え、なにそれ、何カップくらいあるの」

「……G?」

「疑問形なんだ……」

「それも発明なの〜?」

「まぁ……うん……。ていうか、だから聞いてって」

「聞こう」

「聞こう〜」

「よし。……あれはそう、昨日の夜のことだった……」

 

 それは昨夜、巫女野こみみ自宅自室での出来事。

 

『いいな〜先輩はそんなに胸があって……。私なんか全然ですよー……』

「……ふん。いくらアニメだからってこんな巨乳至上主義みたいなノリ、さすがに時代遅れだよね。……別に出来ることならスタイル良くなってみたいとか、そうなれる可能性があったかもしれないのに自分で体の成長止めちゃったとか、そんなこと思ってるわけじゃないけど……」

「こみみー、ご飯出来たわよー! いつまでも一回見たアニメをアマプラで見返してないで降りてきなさーい」

「あ、はーい! 今行くー! …………ん? アマプラ……? アマプラ……アニメ……巨乳……。巨乳……アマプラ……サブスク……!? そ、そうか……!」

「こみみー? まだ来れないのー?」

「インターネットで聞きかじった話だと、巨乳の人は巨乳の人で、巨乳であるがゆえのいろいろな苦労や悩みを抱えているらしい。だからそういう点で、わけもなく胸の大きさに憧れを抱いてしまう私のような人間は今まで「でも言うて巨乳になったらなったで不満が出るんだろうな……」と夢のないことを考えざるを得なかった。けどそうか、サブスクだ……! 必要な時、必要なタイミングだけ、巨乳という概念を自分の物として扱えればよかったんだ! うおー! これはいい発明が出来るぞー!」

「こみみ! 早く来なさいって言ってるでしょ!!」

 

 そして翌朝、今に至る。

 

「で、任意のタイミングで巨乳になれる薬を作れたと思ったんだけど……」

「戻れなくなったと」

「うん……」

「こみみちゃんって〜、自分の体を変えようとすると、よく失敗するよね〜」

「うっ……」

「あ、プライドに矢が刺さる音が聞こえた」

「え、ご、ごめん〜……」

「いや、事実だし……。まさかこんなロリ巨乳になったまま戻れなくなるとは……」

「なんとかならないの……? たぶんその大きさはGどころじゃないぞ」

「たぶん今晩あたりに治ると思う。……逆に言うと今日一日はこのままかも」

「マジか……。あたしも皆勤賞取ってるけど、今日学校に来たこみみが一番すごいよ」

「あんまり気になるなら早退も考えた方が〜……」

「胸がデカいからって早退する女がいる!? 世の中にはGカップどころじゃない女子高生だって普通にいるかもしれないし、そうでなくても自作自演の仮病みたいな感じになっちゃうってのに……!」

「じゃあ、まぁ、頑張って」

「冷たい!」

「どういう反応してほしいんだよ……」

「ふっ……せいぜい標準サイズの二人には分かるまい。このレベルの巨乳の気持ちなんて……」

「そんなにつらいの〜……?」

「つらいっていうか、なんというか私は、胸が大きくなればもっと幸せになれると思ってたんだ……」

「バカじゃん……」

「それにほら、いわゆる男子からの視線ってやつも、もっと優越感に浸れる物だと思ってたんだよ。それが今朝登校した時に何人かから見られただけで……もう……想定の三倍くらい不愉快だった……」

「なんかリアルな数値やめろ」

「あ〜、ちょっとわかるよ〜。わたしも視線は苦手で〜……」

「そよって何カップ?」

「わたし〜? Dだよ〜」

「くっ……私もまずはそのくらいを狙えばよかった……。モンハンが頭をよぎったばっかりに……何がG級だよ……」

「完全にバカじゃん」

「なんだよー! さっきからバカバカって!」

「いや、なんかバカな男子の会話聞いてるみたいだなって」

「またバカって言った……、貧乳のくせに……」

「そよはどう思う?」

「う、う〜ん……?」

「……まぁいいや、もう戻らないなら戻らないなりに楽しもうっと。見て見て二人とも」

「見てって何を」

「巨乳の人はこうやってテーブルとかに胸を置くらしいよ! 重いから!」

「へー」

「どうよ!?」

「いや、へーって感じ」

「くっ……、じゃあこれならどうだ! ほらあずさ、私の後ろに立って私のこと見下ろしてっ」

「いいけど、なんの意味が……?」

「つま先が見えないでしょう。胸が大きすぎて」

「……うん、へーって感じ」

「……私の求めていた物は本当にこんな物だったのか……?」

「いや知らないよ……」

「こみみちゃんは〜、胸を大きくしてちやほやされたかったの〜……?」

「分からない……ただ胸を大きくしたかったんだ……でもこんな常時ではなかった……」

「ダメだそよ、今日のこみみはそっとしておこう」

「うぅ……もういいもんね……明日にはいつもの私に戻ってるもんね……。…………もうお腹空いたからおにぎりでも食べよ」

「うおっ!? お前なんてところから取り出して……!?」

「え? いやせっかくだし谷間に物入れてみたいなって」

「なにがせっかくなんだバカなのか」

「すご〜い、アニメみたい〜」

「それロクなアニメじゃないでしょ……」

「はっ、でもそうか! どうせ谷間を作るなら四次元ポケット的な機能を入れればよかった……!」

「何がどうせなんだ。ていうか実験失敗してるのになんでさらに機能盛ろうとするんだ」

「それがロマンだからさ」

「完全にバカな男子と同じノリだ……」

「でもこみみちゃんが言うとかわいいね〜」

「えぇ……?」

「そよ……心の友よ……! おにぎりいる?」

「二個目!? すでに四次元ポケットあるんじゃないのそれ……」

「いや、元々サブスクから発想して始まった実験だからさー。料金としてカロリーを持っていかれるんだけど、この通りバグってるからお腹が減って仕方がなくて。食べ物めっちゃ持ってきた」

「えっ、それってすっごく痩せられるってこと〜!?」

「うん。元々その一石二鳥を狙ってたし」

「こみみちゃん〜! わたしにもその薬打って〜!」

「いいのかそよ、叩きつければスイカも割れそうな胸になるぞ」

「うぅ……それは〜……」

「あ、ううん。たぶんスイカは割れないよ。これ全然重くないし」

「え? さっき重いから置くとか言ってなかった?」

「本来はの話ね。この巨乳はまだ試作段階というか、決定的なデータが不足しているところがあるから……。そのへん上手くいかなかったんだよ」

「そのへんっていうと?」

「それは揉んでみたら分かる」

「揉んでみたらって……。……じゃあまぁ失礼して」

「……どう?」

「こ、これは……」

「え〜、あずさちゃんなにかわかったの〜?」

「……そよ、ちょっと一回だけ胸揉ませてくれる?」

「えっ」

「一回だけ! 一瞬だけ!」

「え……なんかやだ〜……」

「じゃあそよがこみみの巨乳一回揉んでみて! たぶん分かるから」

「え〜? ……あっ、これは〜……」

「上手く言えないけど、すごく偽物っぽくない?」

「うん〜。そんな感じだった〜」

「そうなんだよね……。実際、私は巨乳を揉んだことなんかないし、感触とか質感とか全然分からなくて……。見た目しか再現することが出来なかったんだよね」

「なるほど、ハリボテか……」

「空気っぽい感じがしたね〜」

「脂肪っぽい感じがどんな感じなのか分からなかったんだよ……! 思い立ってすぐ作ったから……! ちくしょう、どうせ一日戻れなくなるならもっとちゃんと作ればよかった。そよの胸とか参考にして」

「え、や、やだよ〜……」

「マジで嫌そう」

「じゃあしょうがない、諦めよう。…………あっ! しまった!」

「今度はなに……?」

「おっぱいマウスパッドの存在を忘れてた! せめてあれくらいでも感触を確かめていれば何か違ったかもしれないのに……!」

「……今日マジで知性を胸に吸い取られてない?」

 

 その日家に帰ってから、こみみの胸は無事元に戻りました。

 

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