私立、八二卜学園のJKたち   作:氷の泥

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09 口が裂けて(て)も言えない

 それは、しばらくの間はにとー学園に語り継がれることになる、おそろしい事件だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ある放課後のこと。全員電車通学の三人は、お喋りに花を咲かせながらはにとー学園からの最寄り駅へ向かっていた。

「八尺様って知ってる?」

「あ、知ってるよ〜。怖い話でしょ〜?」

「いや、それがさ、最近はただの身長高くてエッチなお姉さんとして語り継がれてるらしいんだよね。ネット上で」

「えぇ……どういうことよ……。元々八尺様自体がネット発祥の怖い話じゃなかった? なんでそんなことになるの」

「いやーそれがなんか有名になりすぎたのか、一周回って萌えキャラ化とかされてイジられてる間に、いつの間にかショタをアレするエッチなお姉さんとして扱われるように……」

「オタクってたまにマジで意味わかんないな……」

「う〜ん……。エッチなのは好きじゃないけど〜……、でも、ある意味すごいことではあるよね〜。オタクの人たちの発想力はすごいよ〜」

「そよはわりとオタク文化に理解ありそうな感じするよね」

「いやいや、むしろあずさが興味なさすぎなんだって。もう令和だよ? 令和の女子高生たるものエヴァくらい見ないと」

「あーそういえばまだ見てないなそれ……」

「面白いのにねー」

「ね〜」

「わかったわかった、今週末見るよ。…………ん?」

「どしたの?」

「いや、なんかあの人めっちゃこっち見てない? 何もないところに突っ立ってるし」

「あの人? ……あぁ本当だ。なんかめっちゃデカいマスクしてるね。なんでこっち見てくるんだろう」

「美人さんだね〜。待ち合わせとかかな〜」

「あんまり見つめ返すなよ……」

「……あのぉ、すみません、ちょっといいですかぁ?」

「……はい? なんですか? 駅ならあっちですけど」

「あ、違うくて、道が聞きたいわけではなくて。…………その、わたしのこと綺麗だと思いますか?」

「は……?」

「思います!」

「わたしも思います〜」

「お前ら……」

「そうですかぁ……? ……これでも綺麗ぃ?」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 その女の口は、耳元まで裂けていた。

 

「……二人ともダッシュ!!」

「うえぇっ!?」

「きゃあっ!」

「あっ、待って……」

「やばいやばいやばい、なんだあれびっくりした……!!」

「ちょっ、あずさっ、待っ、速すぎるっ……! 引っ張らないで! 足浮きそう……!」

「わたしも〜……!」

「そんなこと言ったって逃げるしかないでしょ! もっと頑張って走れ!」

「頑張って走ってるのに浮きそうなんですけど!」

「……あずさちゃんちょっと待って!」

「え?」

「ちょっと本当にストップ!! 止まって!」

「なに……?」

「見てあの人、泣いてるよ……?」

「え……?」

「うっ……ぐすっ……うぅ……」

「ほ、本当だ」

「…………戻ろう」

「は?」

「だってかわいそうだよ」

「いや、でもあれ口裂け女……」

「いやあずさ、ちょっと待って、考え方を変えると……」

「考え方?」

「確かにあの人は口が裂けてたけど、別に怪異的な物ではなくて、ただの普通の人間かもしれない。そうだとしたら確かに私たちの対応は……」

「いや、がっつり驚かせに来てたと思うんだけど向こうから。怪異じゃなければ不審者なんだけど」

「いいから戻るよ〜。ほら二人とも〜」

「マジで……? 正気か……?」

「大丈夫だよあずさ、万が一の時にはこの厄災兵器パンドラスイッチがあるから」

「いや何それ初めて聞いたんだけど。口裂け女の百倍やばそうなんだけど」

「あの〜……。逃げちゃってごめんなさい、大丈夫ですか〜……?」

「ぐすっ……ひぐっ……あなたたち……?」

「あー、びっくりして逃げちゃったんですけど、なんか悪い人じゃなさそうだったので戻ってきました。……何か事情とかあったんですか?」

「……うぅ……優しい……令和の女子高生ってこんなに優しいの……? うぅ〜……優しさが沁みるぅ……」

「そ、そんなに泣かないで〜」

「なんだこの状況……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 近場の喫茶店にて。

 

「ってことは、本物の口裂け女なんですか?」

「はい……そうなります……」

「都市伝説的な存在の……?」

「はい……」

「す、すごい……! 本当に実在したんだ……そんな非科学的な存在が……!」

「それこみみが言うの……?」

「口裂け女さんって〜思ったより怖くないんですね〜。最初はびっくりしたけど〜、もう慣れてきました〜」

「す、すみません……さっきは驚かせてしまって……」

「いや、まさかこっちも、口裂け女がそんな死活問題でびびらせに来てるとは思ってなかったので……」

「ね〜。人を怖がらせ続けないと存在が消えちゃうなんて、つらいよね〜……」

「すみません……ご迷惑だと分かってはいるんですけど……でも……消えたくなくて……」

「そりゃそうですよね……。あたしが同じ立場でもそう思いますよ」

「はい……。でも、それでも最近は、もう本当にギリギリの状態で……」

「都市伝説的な人たちの存在って、やっぱり人から忘れられると消えちゃうんですか?」

「はい、そうです……。かつては一時代を築いた私たちも、今となっては多くの同胞たちが窮地に立たされていて……」

「そうなんですか……? でも、人に憶えていてほしいってことなら、例えば私たちなんかは普通に知ってましたけどね、口裂け女の噂。結構多くの人がそうなんじゃないんですか……?」

「わたしも知ってましたよ〜。お母さんから聞いたことあったから〜」

「あたしも」

「うーん……そうですね……。確かにまだある程度は憶えていてもらえてるんですけど……、しかし名前と大雑把な特徴だけではどうしても……」

「存在し続けるためには、細かい特徴も必要……?」

「そうなんです……。例えば……みなさんポマードって知ってますか?」

「ぽまーど? ……知ってる?」

「あ、聞いたことあるよ〜。なんか〜口裂け女の弱点なんだって〜」

「へー。あたしは知らないかも」

「私も知らない。ていうかポマードってなに? トーマスの友達?」

「知らないけど絶対違うと思う」

「トーマスの緑色の子の名前なんだっけ〜?」

「忘れた……トーマスとゴードンしか出てこない……。でもほら、なんか人間のキャラでポマード感あるやついなかった? POP・of・MAD卿みたいな」

「そんな狂気的な名前のキャラがいた覚えはない」

「あ、あの……」

「あぁ、すいません。……で、ポマードっていうのは何なんですか?」

「整髪料の通称で、わたし……口裂け女の弱点とされている物です……。ワックスみたいな物なんですけど、「ポマードポマード」どたくさん唱えながら逃げると、口裂け女から逃げ切れるという噂があって……」

「……なんで整髪料が弱点なんですか?」

「口関係ないね〜」

「この口の裂けは医療事故によるもので、その時執刀していた医師がポマードを大量につけていたから……というのが由来です……。……まぁ医療事故なんて実際にはないんですけど」

「え? どういうことです……?」

「わたしたち都市伝説、怪異の類は、人の噂から生まれるものです……。当然、その生い立ちも人に設定されるのですが……それはあくまでも設定であって、実際には、私たちは無から生まれて無へ還る……。それだけなんですよ……」

「え、ちょっと待って! ということは……」

「はい……?」

「生い立ちだけじゃなくて、現在のあり方も噂に左右されたりしませんか……?」

「あっ、しますよ……? わたしは昔からほとんど変わりませんけど、そうですねぇ……時代と共に変わった人といえば……」

「八尺様は!?」

「え? ……あー……えっと……彼女は……その……なんというかですね……生存はしてるんですけど……」

「ちょっと、なんかあんまり聞かれたくなさそうだけど」

「私の予想が的中している可能性大だな……」

「そっとしておこうよ〜……」

「……まぁ八尺様のことはともかくとして、それで口裂け女さんは、今の境遇がつらいってことでしたよね……?」

「はい……。出来ればわたしだって、誰も怖がらせずに生きていきたいんです……。でもそれが出来なくて……つらくて……」

「泣くほどだもんね〜……」

「すみません、泣くつもりはなかったんですけど……。たまに抑えられなくなってしまって……」

「口裂け女さん、こうして話してたらわりと普通の人ですもんね。泣きたくなるのも分かる気がします」

「普通の人だとすると、顔を見て逃げられることを繰り返さないと生きていけない人生って……それはつらすぎる……」

「まぁ……はい……。でも、我々のような存在はそうすることでしか生きられないので……仕方ないんです……。頑張らないと、ポマードとか、べっこう飴とか、ただでさえどんどん忘れられてきてるのに……」

「べっこうあめ?」

「なんかそういう飴があるんじゃない?」

「おいしいのかな〜」

「うぅ……」

「あっ、いやすみません……無知なもので……」

「いえ、いいんです……。……あの、お話聞いてもらえて、……すごく優しくしてもらえて、本当に嬉しかったです。ありがとうございました……。それでは……わたしはもうこれで……」

「え、いやいやいや、なに帰ろうとしてるんですか」

「え……?」

「私たちが何のために口裂け女さんの話を聞いたと思ってるんですか」

「むしろ本題はここからだよね〜」

「え……? ……えっ?」

「あー、口裂け女さん。実はですね、この小学生みたいなやつ……巫女野こみみも、ほぼ都市伝説に片足突っ込んでるようなやつなんですよ」

「ふっ、むしろ都市伝説を超えているまである」

「こみみちゃんは天才だもんね〜」

「ど、どういうことですか……?」

「不老不死と、あと巨乳になる夢以外は、大体こみみが叶えてくれるってことですよ。何せこみみは今まで…………えーっと何したんだっけ?」

「覚えてる範囲だと、巨大ロボ作って、泳力を補うロボも作って、突如現れたサメを焼き払って、異次元空間を若干開いて、他教科はほぼ赤点なのに世界史のテストだけ百点取れるようにして、…………大体そんな感じ?」

「って感じなので、口裂け女さんの悩みも、たぶんなんとかなりますよ」

「…………そんなことあります?」

「こみみと初対面の人はみんなそう言うんです」

「でも頼んだら大体の物は作ってくれるんですよ〜」

「なんでも言ってください。せっかく知り合えた縁ですし、この巫女野こみみが何か発明品をプレゼントしますよ」

「…………じゃあ、もしも本当に叶えることが出来るっていうなら、わたしは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「や、やっと出来た……完成だ……!」

「お〜! ついに〜!」

「いや、すごい時間かけた感出してるけど作り始めてまだ二日目だよね」

「二日でも大変だったんだよ! 今回はいつかの時と違ってサボりゼロだからね。……というわけで口裂け女さん、出来ましたよ。これが……」

「これが……私の口を綺麗に治せる薬……?」

「はい、その名もハイオクです」

 

 二日前のこと。

 

「えっ!? 口裂け女さん彼氏いるんですか!?!?」

「じ、実は……います……」

「え〜いいな〜! すごいな〜あこがれる〜! わたしも彼氏ほしい〜」

「それで、その……彼氏に顔を見せられるようになりたいんです……」

「えっ、見せてないんですか」

「見せられるわけなくないですか……?」

「いや、私的には別に……」

「口裂け女さん美人さんですし〜」

「確かに初見はびっくりするかもだけど、二回目からは普通に目の保養だよね」

「……これが……最近の女子高生の感性……?」

「いや、そこはちょっとよく分かんないですけど」

「各々イレギュラーの自負がある」

「た、たしかに〜……。わたしなんか、自分の内臓見たことあるし〜……」

「え……? 内臓……?」

「こっちの話です。で、つまり何はともあれ、その口の裂けを綺麗に治したいと……?」

「叶うことならそうしたいです……。縫うだけじゃなくて、ちゃんと傷跡が目立たないように、普通の人みたいな口になりたいです……」

「こみみ、出来る?」

「たぶん」

「たぶんか……」

「す、少しでも可能性があるなら、その、お願いしたいです……」

「はい、やってみせますとも。なにせモチベは全開!」

「こみみちゃん頼もしい〜!」

 

 そして二日後、今に至る。

 

「えー、この万能治療薬ハイオクですが、まずメリットから説明します。これを飲むと、ありとあらゆる怪我が完治します。裂けた口だろうと焼け爛れた皮膚だろうとメンヘラなリストのカット跡だろうと、傷跡という傷跡は何でも綺麗さっぱりなくなります」

「えっ……すごい……」

「ただ、リスクもあります」

「そ、それはどんな……?」

「……味が完全にガソリンです」

「味が完全にガソリン!?」

「お前他人様に飲ませる物になんて味つけてんだ」

「いやどうしてもこうなっちゃうんだって……」

「それでハイオクか〜」

「……飲みます」

「覚悟が早い!」

「ちょっ、ちょっと待って、一瞬待って、まだ口つけないで」

「なんでしょう……?」

「……実は、もう一つ別の発明品も作ってきてるんです。もしかしたらこっちの方がいいんじゃないかって思って。……これなんですけど」

「これは……。…………コーンフレークに見えますけど」

「いえ、シリアルです。名前はシリアルエイト。牛乳をかけて食べさせた相手の性癖を、あなたの任意で歪められます」

「ちょ、なにそのやばい代物」

「あずさ、言っとくけど今回ばかりはガチだよ」

「はぁ……?」

「どっちの品を使うかは口裂け女さんの自由です、任せます。ただ……口裂け女さんの口は、アイデンティティだと私は思うんです。私は恋なんかしたことないから、何も分かってないだけかもしれないけど、私は私のアイデンティティを大切にしていきたいと思うんです。……自分のアイデンティティを曲げてまでする恋愛が本当に良い物なのか、よく考えても分からなかったんです。だから両方作りました」

「こみみ……」

「こみみちゃん……」

「どちらにせよ、どうかこれらの発明品を使って彼氏さんと上手くやってください」

「……ありがとうございます。巫女野こみみさん、このご恩はいつかきっと返しますから……」

 

 それから数時間後。

 

「(で、尾行して来ちゃったけどいいのか……?)」

「(だって結末が気になるんだもん〜)」

「(私も私の発明品の行く末が気になる)」

「(さっきまであんないいこと言ってたのにもうマッドサイエンティスト感出してる……)」

「(とか言って、あずさも気になってたんでしょー?)」

「(……まぁね)」

「(あっ、来たよ〜。隠れろ隠れろ〜)」

「(うっわ彼氏超イケメンじゃん。身内が勝手に履歴書出さなかったから一般人なだけだあれは……)」

「(口裂け女さんうらやましい〜)」

「(しっ、静かに見て!)」

 

「……あ、あの、ユウくん」

「お、おう、どうした咲子……? こんな改まって」

「ユウくん、その……わたしたちが付き合ってからもう結構経つよね……?」

「え? あー、そうだね。もう1年以上経つかな」

「あ、あのね、わたし実は最近、ユウくんが通ってた高校と同じところの学生さんに会ったの」

「え、はにとー学園の生徒に? へぇ〜懐かしい」

「うん……それでね……。これを、その子たちからもらったんだけど……」

「コーンフレーク……?」

「ううん、特別なシリアルなんだって。これに牛乳をかけてユウくんに食べさせるとね…………ユウくんの性癖を私の好きに歪められるんだって!」

「えっ」

「お願いします! 何も言わずにこれを食べてください!」

 

「(ええー!? 全部バカ正直に言ったー!?)」

「(口裂け女さん、本当にいい人なんだね〜)」

「(こんなラブレター渡すような雰囲気で皿に盛られたシリアルと牛乳パック渡す人いる……?)」

「(ちゃんとスプーンまでついている!)」

「(彼氏さん食べてくれるかな〜)」

「(ていうかあの人ウチのOBなんだね。あんなイケメンがいたとは)」

「(ちょっと入学するのが遅かったね〜)」

「(こらこら、人の彼氏をそんな目で見ないの……)」

 

「えーと……。……つまり俺の性癖を歪めたいってこと?」

「はい……! そうです……!」

「……まぁいいけど」

「いいの……!?」

「うん、別にそれくらい、咲子が望むなら。……じゃあ、いただきまーす」

「…………ど、どう?」

「こ、これは……! 確かに感じる! 何をどうやって生成したのか見当もつかない、しかし食した人間の性癖を確かに歪める力を……! その成分を……! う、うおおおおおお!?!?」

「や、やった、成功したんだ!」

「あぁ、大成功だと思うよ……。なんかこう、すごく都市伝説的な性癖がDNAになだれ込んできた」

「よかった……。……じゃあユウくん、今まで隠してて本当に申し訳なかったんだけど、…………これを見てください」

「な、咲子……!? その口は……!?」

「そうなの……。わたし、実は口裂け」

「まさか今までバレてないと思ってたのか!?」

「…………え?」

 

「(…………え?)」

「(あれ……?)」

「(あれれ〜……?)」

「(ていうかこみみ、あのシリアル相手に自覚症状行くの……?)」

「(うん)」

「(それ説明に入れてた?)」

「(……あれ? 言ってなかった?)」

「(こ、こいつ……)」

 

「バレてないと……って、どういうこと……?」

「どういうことって、だって咲子、耳元まで口が裂けてるだろ……?」

「なんでそれを……。ユウくんの前でマスクを外したことなんてないのに……」

「いや、正面から見た時はともかく、横から見たら耳元近くの裂けてる部分がきっちり見えるからだよ! 2年も一緒にいたら横顔くらい何度も見たっていうか、最初の一ヶ月目でもう気付いてたよ!」

「えっ……。…………ええええええええええええ!?!

?」

「それで咲子、さっきのシリアルで俺に「口が裂けてる女が好き」って性癖を入れようとしただろ」

「し、しました、ごめんなさい」

「もう言っていいよな……。今まで嫌われると思って黙ってたけど…………咲子! 実は俺は元々、口が裂けてる女が好きなんだ!!」

「…………ええええええええええっ!?!?!?」

 

「(ええええええええええええええええ)」

「(すごい変態だ……)」

「(わ〜、奇跡ってあるんだね〜)」

「(イケメンってみんなあんな感じなの……?)」

「(そんなことはない……はず……)」

「(元々完璧な両想いだったんだ〜! すてき〜!)」

「(素敵かな!? 本当に!?)」

 

「じゃあ私たち、本当の意味で両想いだったってこと……!?」

「当たり前だろ!」

「で、でも、でもユウくんごめんなさい、わたし本当は、すごいたくさんリストカットとかしちゃうメンヘラなの……。今まで隠してたけど……もう口より手首の方の傷がひどいくらいで……」

「それもかなり早いうちに気付いてたよ!」

「えー!」

「そしてこう言ったらなんだけど……たぶん俺そういうのが好きなんだ!! 正直興奮する!!」

「ええー!? すごい! 運命じゃん!」

「そうなんだよ! 完全に運命だ!」

 

「(どうしよう、ウチのOBイカれてるんだけど)」

「(いい人じゃん〜。きっと先に咲子さんのことを好きになって〜、それに引っ張られて口裂けとリスカが性癖になったんだよ〜)」

「(そうかなぁ……?)」

「(そうに決まってるよ〜! すごいね〜、まさに理想の彼氏さんだ〜)」

「(あたしはそよが変な男に引っかからないか心配になってきた)」

 

「じ、じゃあ、ユウくん、私と結婚してくれますか……?」

「もちろん! むしろごめん、俺の方からもっと早く申し出るべきだったんだ。……でも今月やっと貯金が貯まって」

「貯金……?」

「プロポーズするなら、指輪が必要だと思って。まぁ、まだここにはないけど……」

「ゆ、ユウくん〜! 大好き! 結婚しよう!」

「しよう! 今すぐにでも!」

「や、やった……! 夢みたい……!! ……ねぇユウくん、その……」

「なに……?」

「わたしのこと、綺麗って思う……?」

「綺麗だよ。咲子は世界で一番綺麗だ」

「ユウくん〜!!」

 

「(……帰るか)」

「(見届けたね)」

「(いいな〜。わたしも夢みたいな恋愛したい〜)」

「(しょうがないなぁ、シリアルならまだあるぞ)」

「(こ、これで不死が好きなイケメンを作れば〜……)」

「(やめなさい)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日後の放課後、駅へ向かう途中の道にて。

「ねぇねぇ〜、あれから口裂け女さんどうなったのかな〜?」

「どうって?」

「まだ人を怖がらせてるのかな〜って」

「あー、まぁそうしないと消えちゃうって言ってたからなぁ」

「彼氏さんと上手くいったのはよかったけど〜、不本意に怖がられ続けないといけないのはかわいそう〜……」

「……いや、それについては私もずっと考えてたんだけど、たぶん大丈夫だと思うよ」

「っていうのは?」

「だってあの口裂け……咲子さんは、これから好きなだけ彼氏に「わたし綺麗?」ってすればいいわけでしょ? それって口裂け女の新解釈だと思うんだよね」

「新解釈〜?」

「アイデンティティを維持したまま進化した姿っていうのかな。口裂け女のアイデンティティといえば口が裂けていることと、それから「わたし綺麗?」って聞いてくることでしょ? そこに必ずしも他人を怖がらせる必要はないと思うんだよね。私の中の二次創作大好きなオタクの魂がそう言ってる」

「つまり〜……どういうこと〜……? 難しい〜……」

「とりあえず彼氏とイチャつき続けていれば、令和の口裂け女としてきっとこれからも存在していけるだろうってこと」

「わぁ〜、そうだといいな〜!」

「そうなってくると、さすがにリア充爆発しろとは言えないなー。口が裂けても言えない……ってね!」

「あー、そのオチのせいで台無し」

「いやいや絶対完璧なオチだったでしょうよ」

「あずさちゃん辛口〜」

「…………ん? ちょっと二人とも」

「どしたの?」

「いや、……なんかあの人めっちゃこっち見てない? 何もないところに突っ立ってるし」

「あの人? ……あぁ本当だ。なんかめっちゃデカいマスクしてるね。なんでこっち見てくるんだろう」

「今度はおじさんだね〜。口裂け男もいるのかな〜?」

「知らないけど、あんまり見つめ返すなよ……」

「……あのぉ、すみません、ちょっといいですかぁ?」

「……はい? なんですか? 駅ならあっちですけど」

「あ、違うくて、道が聞きたいわけではなくて。…………君たちは、おじさんのこれを見てどう思う?」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 その男は、上着一枚めくった下は全裸だった。

 

「……二人ともダッシュ!!」

「うえぇっ!?」

「きゃあっ!」

「やばいやばいやばい、なんだあれびっくりした……!! 本当にいるんだああいう変質者……!」

「ちょっ、あずさっ、速いって! 足浮きそう……! いや浮いてる! もう浮いてる!」

「わたしも〜! すごい〜飛んでるみたい〜!」

「そんなこと言ったって逃げるしかないでしょ! もっと頑張って走れ! とにかく走れ! そして後で警察に通報しろ〜!!」 

 

 後日、その変質者は無事に逮捕された。警察が駆けつけた時、その男はなぜか終始笑顔だったという。

 

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