人修羅が異世界転移したらこうなる   作:Leiren

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仮説

 「逃げろおおお! みんな逃げるんだああ!」

 

 最初に自ら情報源を消してしまった後悔を元に、近くの村で聞き耳を立てていると、その村は魔物の大群による襲撃を突然を受けた。これを放っておけば、村人と村は全壊し、残る魔物だが話が通じるかは分からない。

 よって人修羅は、魔物を迎撃。可能なら魔物から話を聞くことにする。静かに座っていたベンチから立ち上がった時だった。阿鼻叫喚に荒れる村の音と悲鳴に紛れて、大きな鉈を持った緑色の体をした魔物が人修羅の首目掛けて鉈を振り下ろす。

 

「グギ……?」

 

 鉈の刃は人修羅の首を落とすどころか、まるで鋼鉄を相手にしているかのように全く減り込むことも無かった。魔物は何度も人修羅を切り付けるが、傷を一つすらつけることも出来ない。

 対して人修羅はゆっくりと拳を握ると、勢いよく魔物の顔面に振るえば、水風船のように弾け飛んだ。

 

 この程度か。そう魔物の死骸を見ながら呟けば、魔物の群勢を前にして余裕を感じていた。その姿には魔物も敏感に反応する。

 "仲間を一撃で吹き飛ばした人間がいる。優先して殺せ"と、一瞬で認識を共有すれば、村を襲撃する1万の内数百から数千の魔物がターゲットを人修羅に切り替える。

 

「グギャアァァァァァッ!!」

 

 その陣形の変化は人修羅も同時に感じていた。一体ずつ相手にするのは少々骨が折れると考えていたため、片手に魔力で作られた赤い棒を召喚し、上段に構える。

 

「旅人さん! なにしてんだ! こんな数はどんなに強くても無理がある!」

 

 村人を必死に逃がしていたのは門番をしていた武装した村人。魔物が様子が変わったことを誰よりも早く察し、人修羅にも逃げろと伝える。しかし当然に人修羅にその気は無かった。

 魔物が一斉に向かってくるのに対して、十分な距離まで近づいてきたことを見れば、勢いよく赤い棒を振り下ろす。

 

【ヒートウェーブ】

 

 振り下ろされた棒は勢いそのまま爆発し、生成された棒の大きさと形からは計り知れないほどの爆風が魔物の群勢を一撃で吹き飛ばす。魔物の断末魔も無く、一瞬にして超高熱で魔物は消し炭になったことが分かる。だが全てではない。

 そこでもう一発お見舞いしようと力を溜め出した所だった。それは恐らくこの群勢の指揮官。図体はイノシシとゴリラが合体したように醜く、二足歩行と鼻息を荒くして人修羅の前に立ち塞がる。

 

「貴様あああぁぁ!! 我が名、グラノス様の進軍を邪魔するとは何事だああああっ!」

 

 その問いに人修羅は無言を貫く。ただ自身を遥かに上回る巨体の目を見て離さなかった。

 

「グフフフ……どうやら怖気付いたようだなぁ? それで良いのだよ。人間という下等生物は、そうやってビビって立ちすくんでおれば良いのだ」

 

 当然、人修羅はビビりなど微塵もしていない。むしろ相手こそ下等だとさえ思っていた。相手の力量も見抜けないほどの雑魚だと。だから正直に質問で返す。お前が魔王なのか?と。

 

「な、なんだと!? 貴様、魔王様を侮辱するつもりかぁ!? 軽々しく呼び捨てにするんじゃねええええ! 下等生物ごときが、一度我が鉄槌を食らわねばいかぬようだなぁ!」

 

 グラノスは突然怒りだし、雄叫びを上げて片手に持つ鉄の棍棒を振り上げ、全力で振り下ろした。しかし、当たり前のように効く訳もなく、人修羅は微動だにせず生身で受け止める。

 

「……??? き、貴様ぁ! 我が攻撃を防いだなぁああっ!? 下等生物のゴミのくせにィ! 万死に値する!! ウオオオアアア!!」

 

 グラノスの最初の一撃は一切の手応えがなかった。まるで巨城の壁でも殴っているかのような。凹みもなく、ヒビもなく、ただ意味もなく壁を殴ったような感覚。棍棒は弾かれることも、振り抜くこともできなかった。ただグラノスに返ってくるのは、激しい腕の痺れのみ。

 だがその一撃でグラノスは何が起きたかのなど理解はできなかった。だからさらに怒って連続で棍棒を振り下ろす。

 

 何度も、何度も、何度も。だが人修羅は一つたりとも傷は無し。

 

「クソッ! クソッ! クソッ! アアアアァァァ!!(何故だ、何故効かぬ!? 下等で、ゴミで、クズしかいない雑魚が! こんなのまるで……!)」

 

 人修羅はただ呆れていた。どこまでも相手を下等と見て、ただそれしか頭も働かない。攻撃を止めることもなく、ただ無意味に殴り続ける。こんな指揮官の元で忠誠を誓う魔物も可哀想だと。

 人間相手ではない、悪魔や異生物にのみに対して働く感情のまま、人修羅は両手に、周囲の燃える家屋から炎を吸収し始める。

 

「ぜぇ……はぁ……何をしている? 何をしているのだぁ!!」

 

 人修羅が両手に集める炎は、ただの火と有り余る魔力の混合物。それは業火よりも、太陽の焔(プロミネンス)よりも熱い。常人なら瞬時に身を焦がすそれは、たちまち無限の爆発を生み出し、周囲の温度を急激に上げていく。

 グラノスはまるで意味が分からない。いくら棍棒を振り回そうが、人修羅に傷一つ付けている感覚は無い。

 

 そして人修羅はその力を一気解放。両腕を正面に突き出せば、爆発は炎の弾丸となり、一直線に無数の弾幕を。零距離でグラノスの胸に向けて放つ。

 

【マグマ・アクシス】

 

「ごっはぁっ!? あ……? あ、穴……?」

 

 グラノスは自身の身に何が起きているのか。その状況を目で見てもしばらく理解が出来なかった。いや、理解自体はしている。だがあり得ないと思うだけで。

 グラノスは両腕が吹き飛び、胸中央は大きな穴。完璧な空気の通り道が出来ていた。

 

 まさかまだこれでも生きているのか。それは執念か。それともただ生命力が高いだけか。人修羅はグラノスに慈悲を与える。今なら命乞いくらいは許してやると。

 普段から意思疎通が不可能な相手には、これが基本的な会話方法だった。どんなに醜悪でどんなに強大な存在でも、なにか自身が仕える大きな何かが居たとしても、死ぬ間際は自分の命を優先することがある。

 

「ククク……バカを言うな……。この我が命乞いなど……!」

 

 じゃあ殺す。心の中で毎回思うこと。でもあえて言わずに、無言でその頭を拳で吹き飛ばす。

 そうして周囲に残るのはグラノスの群勢の残党。今やは彼らは隊長を失った衝撃が強く、声を出すことさえも忘れていた。

 

 さて、この世界に来てから目標が曖昧だったが、人修羅は一つの仮説を立てる。魔物らが言う"魔王"が、自分のよく知る人物(閣下)なのではないかと。仮説なんてものはいくら立てても良いもの。だからこれを一先ずの目標とした。

 それを達する過程として必須なことは、意味が無くても使えるものは使う。

 

 人修羅は周囲の残党に向かって魔力を放出する。かつて混沌王となった所以の力で。

 そうして起こる出来事は、残る残党全ての仲魔化。一匹一匹人修羅の中に宿るように、姿を霧のようにして消えていった。

 

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