面倒臭いこと、この上ない。
「はぁ、どこか見たい場所とかはありますか?」
「お前、保険室はどこだ?」
「白雪さん『お前』って…」
「お前は『お前』で十分だ」
なんで、2度目に会った女に『お前』呼ばわりされなきゃならないんだ。
「比企谷くん、千夜ちゃんは照れ屋さんだから、許してあげて」
「へいへい」
「お嬢様に対して、その返事はなんだ!」
「悪かったよ、千夜ちゃん」
「お前に『千夜ちゃん』と呼ばれる筋合いはない!」
「千夜ちゃんと比企谷くんは、もうそんなに仲良しになったんだね」
あはは、と黒埼さんは笑う。
「…良くないですよ」
「良くないです!」
「息もビッタリ」
なんだろう、この儚そうな笑顔は…。
「まぁいい。保健室な」
とりあえず、保健室に向かう。
…何故だ。
「あの、黒埼さん?」
「『ちとせ』でいいよ」
「じゃあ…。こほん、ちとせさん」
「何?八幡くん」
おう、こちらにも名前呼び。
「お前、お嬢様を名前で呼ぶとは」
面倒臭い…。
「ちとせさんから言われたんだからいいだろ、白雪さん」
「きっとヤキモチだよ。千夜ちゃんて呼んであげて」
「や、や、やめろ!」
「私からのお願い聞いてくれないの?僕(しもべ)ちゃん」
「お、お嬢様がそうおっしゃるなら…」
ちとせさんが耳打ちをしてきた。
「えっ!マジで!」
「ほら、早く」
仕方ない…。
「えっと…。僕ちゃん」
「お、お前ぇぇ!!」
「いや、ちとせさんが…」
「お前というヤツは、お嬢様と腕を組んでいるだけでなく私を『僕』呼ばわりとは!!」
そうだった、論点がズレた。
「そうですよ。なんで腕を組んでいるんですか?」
「え?嫌だった?」
む、胸を押し付けないでください!!はぁぁぁ、カワイイ柔らかい良い匂い!!
「お、お前ぇ!!」
「嫌じゃないんですけど、俺が千夜さんに殺されちゃいます」
「…で、いい…」
千夜さんが何か言っているが、小声なので聞こえない。
「なんだよ…」
「だけら、同じ歳だから『千夜』でいいと言っているんだ!」
そんなに、真っ赤な顔して怒らなくても…。
「わかったよ、千夜。これでいいか?」
今度はちとせさんが不服そうだ。
「いいなぁ、千夜ちゃん。私も呼び捨てで呼んでほしいなぁ」
「ちとせさんは一つ歳上なんで、勘弁してください」
「あ、まだ言ってなかっかね。私、八幡くんより2つ歳上なんだ。私、身体が弱くて休学してたから…。それで私も千夜ちゃんも保健室の場所を最初に確認したかったんだよ」
「なんか、すいません」
「気にしないで。そのおかげで、私達は八幡くんに会えたんだから」
そう言って、俺には笑顔を見せてくれた。
「お前はお嬢様を見過ぎだ」
「悪かったよ。ちゃんと千夜も見るから」
なんとなく、そんな冗談を言ってしまった…。
「な、なななな、何を言ってるんだお前は!」
いかんいかん、怒らせてしまった。そんなに真っ赤な顔して怒らなくてもいいだろ。
「冗談だ、悪かった」
「な、なにを…する…」
おっと。お兄ちゃんモードが発動して頭を撫でてしまった。髪サラサラだな。
「すまん。ついクセで」
「お前はクセで女性の頭を撫でるのか!」
「そんなことあるかよ。妹だけだ」
「いいなぁ、千夜ちゃん。八幡くん、私も撫でて」
「お嬢様、いけません」
「まぁ、そのうちに…」
このお嬢様は、俺のどこが気に入ったんですかね…。