腕から外れたちとせさんの余韻を感じながら保健室に向かう。
「お前、卑猥なことを考えていただろ?」
何故わかった、白雪さんよ。
「考えてねぇよ」
「千夜ちゃんも腕を組んであげたら?」
千夜に腕組まれても硬そうだよなぁ。
「お前、失礼なことを考えなかったか?」
何故わかる。
「考えてねぇよ。ほれ、ここが保健室だ」
ノックをして返事を確認し、扉を開ける。…養護の先生の声ではない気がするが。
「失礼します」
「失礼しま〜す」
「失礼します」
保健室に居たのは、鶴見…先生…だよな?あってるよな?家庭科の先生なんて、ほぼ会わないから。
「ごめんなさい、養護の先生は急用で出かけてるから、留守番の私しか居ないのよ」
「大丈夫です。病気やケガではなく、転校生の案内で来たので」
鶴見先生が後ろの二人を見る。
「話題の美少女転校生ね。始めまして、家庭科を教えている鶴見です」
「黒埼です」
「白雪です」
3人が挨拶を済ませたので保健室から出ようとする。
「八幡くん、次は君の部活を見たいかな」
「八幡くん?君、名前八幡ていうの?」
鶴見先生が俺の名前に関心を持つとは。
「2-Fの比企谷八幡です」
「君、夏休みに林間学校のサポートに行った?」
「ええ。部活の一環で」
「そう。娘がお世話になったみたいで。その節はありがとう」
「はい?」
誰か世話したっけ?
…鶴見…つるみ…ツルミ…。
「あ、ルミルミ!」
「ルミルミ?」
「ルミルミ?」
「ルミルミ?」
しまった。つい、言ってしまった。
「留美さんのお母さんって、鶴見先生だったんですね」
「えぇ、留美が林間学校から帰ってきたら、イジメにあってるって。自分も過去に同じことをしたことがあるって。それで家族会議をしてね。私も夫も親として未熟だったわ、反省してる。そして、貴方には感謝しているわ」
「まぁ、気がつけてよかったんじゃないですかね。俺は感謝されることなんて、ひとつもやってないですよ。やったのは葉山達です」
鶴見先生は首を横に振る。
「留美は貴方に助けられたと言っていたわ」
「そっすか」
「そ•れ•に!」
鶴見先生が前のめりになる。
「そ、それに?なんですか?」
「娘の初恋の相手が職場に居るなら、応援したくなるわよね」
「は?」
何を言ってるんだ?この母親は?
「鶴見先生、ちなみにお嬢さんはお幾つですか?」
「小学生よ。比企谷君、大丈夫よ。大人になったら、大した年の差じゃないから」
「いやいや、おかしいですよ」
ホント、何言ってるの?このひと。
「お前、小学生に手を出していたのか…」
「いや、出してないから」
白雪さん、怖いよ。
「う〜ん、そういうことは、留美がもう少し大人になってからにしてほしいと、お義母さんは思うな」
「鶴見先生も何を言ってるんですか!」
なんか漢字がおかしいですよ。
に、逃げよう。
「彼女達の案内があるので、失礼します!!」
慌てて保健室を出た。
「今度、留美に会ってあげてね」
聞こえない聞こえない聞こえない。
「八幡くんはモテモテだね」
「いや、子供特有の好きとかですよ」
「そうかなぁ。違うと思うけどね」
歩きながらちとせさんはそう言った。
「それに、人助けが出来るような人が、なんで、夜中の海岸に居たのかな?」
「人助けした覚えはないですし、海岸に居たのはただの気分ですよ」
「ふ〜ん」
「ナイトウォーカーの類いかもしれないですし」
「お前、やはり…」
千夜が怪訝な目で俺を見る。
「もしかしたら、妖怪の類いかもしれません。よく目が腐ってるとかゾンビとか言われますからね」
「じゃあ、私と一緒だ」
ちとせさんは笑い、千夜はただ聞いているだけで何も言わない。ちとせさんもこんな冗談言うんだと思った。
「ちとせさんほどの美人ならサキュバスかなにかですかね」
「惜しいけど違うよ。私、吸血鬼の末裔だから」
真剣な顔で、そう言った。