ウマ娘は走る事が生きる意味であり、彼女らは走る事に全力を尽くしている。
そんな彼女らの姿を見て勇気をもらう人は多い。
そんな一般人の目線でウマ娘世界を見てみたお話し。

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この作品はウマ娘世界の一般人視点でウマ娘という存在を書いてみよう。
そんな趣旨で書いてみた作品です。
そのためモブ主人公視点の描写がメインとなりますので、その点をご理解よろしくお願いします。


サラリーマン、ウマ娘の学生証を拾う

 「つまらないな」

 

思わずつぶやいた。誰が聞くでもないその言葉は茜色に染まる空に吸い込まれていく。

 

何がつまらないのかと言われたら、全部がつまらない。

 

学生時代はまだそれなりに楽しかった。

 

友達とくだらない事で笑って、騒いで。何も考えずに生きていられた。

 

周りが就職するからとやりたくもない就活をして、息苦しいネクタイで首を締めた。

 

そんな気持ちのままに社会に放り出されたのだから、今の自分がつまらないと思うのは当たり前と言えば当たり前だった。

 

これといった趣味もない。ゲームはするし、テレビ、漫画も普通に見るが特別好きと言うわけではなく時間潰しに近かった。

 

今日もせっかくの休みだが正午近くまで寝て、行きつけのラーメン屋に行ってラーメンを食べて、満喫で適当に漫画を読んで、帰りに夕食諸々の買い物をした。それだけだ。

 

明日から5日間また働く。そして休みは寝て、いつの間にか歳をとっていく。

 

それが嫌なのに変えようという気概もない。

 

 

 

つまらなくて、どうしようも無い

 

 

 

これが俺の積み上げてきた人生だった。

 

 

 

「ん?なんだ?学生証か?」

 

買い物からの帰り道、道路に学生証らしきものが落ちていた。

 

拾い上げて確認してみる。

 

 

「これはウマ娘、トレセン学園の生徒か」

 

 

正式名称、日本ウマ娘トレーニングセンター学園

 

東京都府中市に所在し、総生徒数は2000人弱。

 

ウマ娘の教育施設としては日本屈指の規模を誇る。

 

言ってみればここの生徒はエリートの中のエリート、選ばれしウマ娘たちだった。

 

ここら辺はトレセンと割と近いこともあり、彼女らのランニングコースになる事もあった。

 

道路にはウマ娘専用レーンもある。

 

これはトレセン学園がある府中市ならではの風景だ。

 

市民の生活の中にもトレセン学園、ウマ娘が深く根付いている。

 

 

 

 

「ツインターボ」

 

 

持ち主の名前だ。

 

学生証の写真には青い髪の少女が元気いっぱいに笑っていた。

 

証明写真なのにその生き生きとした顔に俺は思わず苦笑いをした。

 

今の自分とはあまりに違う。

 

 

 

ともあれ大切な学生証を落としているのだから届けてあげないと。

 

交番に届けようとも考えたが、今は歩いてトレセン学園に行ける場所にいた。

 

トレセン学園の受付に声をかけて渡した方がよりスムーズにこの子の元に返せるだろう。

 

そう考え、俺はトレセン学園に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「わざわざ届けてくださり、ありがとうございます!

ぜひお礼をさせていただきたいのですが、お時間よろしいでしょうか?」

 

守衛の人に渡してそそくさと帰るつもりだったが、守衛から連絡を受けた理事長秘書という人が凄まじい速度でやってきて丁寧に頭を下げてきた。

 

 

「駿川たづな」と名乗るその人はスポーツをしていたのか背筋のシャンとした綺麗な人だった。

 

俺が彼女に言われるがままにホイホイと応接室に入っていったのは、決して彼女がモデルも霞むほどのプロポーションを誇るからでも、天使のような笑顔にほだされたからでもない。

 

ここまで丁寧にお礼を言われたら、それをキチンと受け止めるのが人としての礼儀だと思ったからだ。

 

暖かい紅茶と茶菓子を出されて、たづなさんの美しい笑顔に俺が見惚れていると廊下からバタバタと大きな足音が聞こえてきた。足音はどんどん近づいてくる。

 

 

 

 

「ターボの学生証!!!」

 

 

 

飛び込んできたのは、学生証で見た青い髪のウマ娘だった。

 

ただ写真と違うのは全身から溢れているエネルギーだ。

 

ウマ娘は人を圧倒する身体能力を持っているが、目の前ではそれが肌を通して伝わってくる。

 

「ツインターボさん」

 

たづなさんが優しさ3割、厳しさ7割の絶妙な配分で彼女をたしなめた。

 

「先に届けてくださった方にお礼を言うのが先ですよ」

 

たづなさんは溢れるウマ娘のエネルギーに微塵もたじろぐことはない。

 

むしろ彼女、ツインターボの方がシュンとしおらしくなった。

 

 

 

「ターボの学生証を届けてくれてありがとう」

 

ツインターボはペコリと小柄な身体を折り曲げた。

 

その姿にようやく俺は年相応の女の子の姿を見た。

 

「無事に届いてよかったよ」

 

俺の言葉にツインターボはニカっと笑う。

 

「うん!!!」

 

そして、人懐っこい笑顔で言葉を続けた。

 

 

「今度、ターボね。レースに出るんだ!!!ターボ強いから絶対に勝つよ!!!

おにーさんも応援してね!!!」

 

 

 

応援か。そういえば今までの人生で誰かを応援したことなんて特になかった。

 

アイドルにしろ、ウマ娘にしろ、テレビ越しに見る存在であり、遠い存在だった。

 

仕事の関係で府中市に引っ越してきて、ウマ娘のトレーニング姿を見る事はあったが、高校の野球部が走っているのと同じ感覚で見てるに過ぎなかった。

 

 

 

 

「ツインターボさんは今度福島競馬場で行われる『ラジオたんぱ賞』に出走します」

「テレビでも放送されるから見てね!!!」

 

 

まぁ現地に行くわけじゃないし、テレビで見るくらいなら負担は少ない。

 

それくらいならと俺は軽く返事をした。

 

 

「いいよ。テレビの前で応援するよ」

 

俺の言葉にツインターボは跳ねるように喜んだ。

 

良くも悪くも年齢以上に幼い子のようだ。

 

 

 

「ターボ絶対勝つから、楽しみにしててね!!!」 

それだけ言うと疾風のように応接室から出て行った。学生証を置いて。

 

 

「ツインターボさんは真っ直ぐな子ですが、その…少しばかり抜けている一面もあって…でも本当に真っ直ぐないい子です」

 

たづなさんが慌ててフォローしながら紅茶のお代わりを注いだ。

 

結局たづなさんに注がれるがままに紅茶を飲み、たぷたぷの紅茶腹になったところで俺はトレセン学園を辞去した。

 

 

 

 

 

たづなさんが土産にと持たせてくれた菓子の重みを手に握り締めながら、ウマ娘というものを考えていた。

 

ウマ娘はレースを走るスポーツ選手であり、ライブを踊るアイドルでもあった。

 

俺はこれまでウマ娘に特別興味を抱く事はなかった。

 

なぜかと聞かれれば、これまでの人生で重なる事がなかったからだ。

 

例えば、プロ野球やアイドルを応援してる人はそれが生きがいであり、応援をするのが当たり前である。

 

しかし、接する事がなければ知識としてあるだけになる。

 

シンボリルドルフが偉大なウマ娘でありスターである事は知っているが、一般教養として知っているだけそんな感じだ。

 

俺がこれまでにウマ娘と接する機会がなかったのもあるだろう。

 

 

要は初めて間近で見た最初のウマ娘がツインターボだった。

 

 

 

「応援してね…か」

 

 

何となく人生をやり過ごすのに精一杯だった俺には他人を応援する余裕なんてなかった。

 

アイドルを追っかける友人を見て「時間と金の無駄だろ」と心の中で思うこともあった。

 

「まぁ一度見るだけならいいか」

 

 

 

つぶやいた言葉はもうすっかり暗くなった夜空へと消えていった。


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