ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 (文字数を見ながら)オムニバスって、何だっけ……?
 今のうちに拠点イベントは済ませておきたいんですよ。多分、次の次の話くらいで、色々な人を突き落とすつもりでいるので。


第九十三話「ナザリック・オムニバス②」

 ナザリック地下大墳墓・第六階層・円形闘技場(コロッセウム)

 

 キィン、キィン! と剣戟の音が鳴り響く。

 ナグモは黒傘“シュラーク”を振り翳し、コキュートスへと斬り込んでいく。

 

「はぁああっ!」

「フム……キチント重心ヲ考エタ動キハ出来ル様ニナッタナ」

 

 コキュートスは白銀のハルバードでナグモの黒傘を受ける。四本の腕の内の一本しか使っておらず、ナグモが額に汗を浮かべているのに対して冷静にナグモの動きを分析出来るくらいコキュートスは余裕だった。

 

「戦士トシテノ基礎ハ固マッテキテハイル。ダガ……」

「ぐ、うっ……!」

 

 コキュートスがハルバードを一振りする。ナグモは黒傘の手元を両手で持って、どうにか受け止める。しかしコキュートスはハルバードを素早く翻すと、石突で無防備になったナグモの鳩尾を突いた。

 

「カハッ!?」

「マダ甘イ」

 

 地面に転がったナグモの心臓に向けて、コキュートスはピタリと切っ先を突きつけた。

 

「相手ノ一撃ヲ止メタ後、次ノ一撃ニ備エラレル様ニナラナクテハナランナ」

「ゲホッ、ゲホッ……ああ、分かった」

 

 胃がえずく感覚に耐えながら、ナグモは頷いた。

 

「マア、鍛練ヲ始メタ時ヨリハマシナ動キニナッタ。ソコハ評価スル」

「手加減した一撃で無様に転がされたのを評価されてもな……」

 

 起き上がりながらナグモは溜息を吐く。そもそもナザリック一の武器の達人であるコキュートスが本気で突いたなら、ナグモの胴体は真っ二つになっているだろう。

 

「シカシ、意外デアッタ。マサカオ前カラ格闘戦ノ指導ヲ願イ出サレルトハ」

 

 コキュートスがそう驚くのも無理はないだろう。元々のナグモの戦闘スタイルは機械(マシン)モンスターやキメラ、果ては巨大ゴーレム・ガルガンチュアなどを使い、彼等を指揮しつつ補助魔法で強化していくサポーター型だ。その為にナグモ単体での戦闘能力は階層守護者(ヴィクティムを除いて)の中ではぶっちぎりの最下位なのだ。

 もっとも、コキュートスはそれを悪い事だとは思わない。そもそもナグモはナザリック技術研究所の所長も兼任しているのだ。ナグモの役目は頭脳労働であり、武人である自分とは違う形でアインズに貢献する者と認識していた。

 ところが少し前から、そのナグモに格闘戦の指導をして貰う様に請われていたのだ。以来、コキュートスの時間が空いている時にこうしてナグモを鍛え上げる訓練を施していた。

 

「僕の新しい武器、黒傘“シュラーク”は近接戦も視野に入れた万能兵装だ。とはいえ、僕自身に格闘センスが無ければ宝の持ち腐れになるからな……」

「今マデノ様ニ二丁拳銃デ戦エバ良イノデハナイカ? 元々ノ戦法ヲ捨テテマデ、近接戦ヲ極メヨウトスルノハ賢イ判断デハ無イゾ?」

「それも考えたのだが……知っての通り、僕はアインズ様の供回りとして外で活動する様になった。“冒険者ヴェルヌ”がトータスに存在しない筈の銃器を使うわけにはいかない。その点、黒傘は外の世界で使用しても目立つ心配はない」

 

 武器が傘というのも奇妙ではあるが、それでも扱いなれない剣などを使うよりはしっくりと来るのだ。しかも、この黒傘“シュラーク”は神結晶を精錬して神器級の強度を誇り、仕込み銃器などのギミックを備え付けている。

 

(唯一、気に入らないのは人間(オスカー)の発想の真似だという事だが……背に腹は代えられん)

 

 それに、とナグモは思い返す。かつて“歪な魔物”と化した香織を相手にした時、ガルガンチュアがいなかった事を差し引いても戦闘そのものは全くの落第だった。弱点となる近接戦をそのままにしておく事はナグモの技術者としてのプライドが許さず、()()()()()()()()()()()()()()にあんな風に運が良かったからどうにか勝てたという事は繰り返したくなかった。

 

「来たる愚神エヒトとの戦いの為にも、戦力を上げておくに越した事は無い。アインズ様の為にも更なるレベルアップをする必要がある……そう判断したまでだ」

 

 ナグモがそう締めくくると、コキュートスはしばらく無言のままナグモを見る。そして極寒の冷気が混じった溜息を吐いた。

 

「……羨マシイモノダナ」

「なに……?」

「オ前ニハマダ強クナル余地ガアリ、レベルモ我等守護者ノ中デ唯一100ヲ超エタト聞ク。ソレガ私ニハ羨マシク感ジル」

 

 その言葉にナグモはハッとした。神代魔法を行使できる様になった影響か、ナグモを含めてアインズ達のレベルはユグドラシルではシステム上で不可能なレベル100オーバーに到達したのだ。しかも、これは神代魔法を得る度にさらに上がる様なのだ。例えばユエは当初はレベル50に満たない程度だったが、重力魔法を覚えた事でレベル70台の位階魔法も使える様になった。神代魔法は個人によって相性はあるが、適性が噛み合えば今のレベルから大きく引き上げる切っ掛けになるのかもしれない。

 

「私モ神代魔法ヲ習得デキレバ、今ヨリ更ニアインズ様ノ役ニ立テタダロウ……ソレガ堪ラナク口惜シイ」

「コキュートス……」

 

 聞き取りづらい口調ながらも、歯痒さを滲ませるコキュートスにナグモは言葉を失う。つい先日、デミウルゴスと話している時に思った事が頭によぎる。無機生命体として作られた彼等は、作られた当初の姿で完成している状態なのだ。人間である自分の様に成長できる存在ではない。

 

「私ガ訓練ヲ施シテイル亜人族達モダガ、今ハ力ガ弱クトモソノ成長率ニハ目ヲ見張ルモノガアル。短期間ノウチニ成長デキルノガ人間トイウモノノ強ミナノカモシレンナ。何レ、レベルガ上ラヌ我々ハ不要ナ存在ニナルノカモシレンナ……」

「それは違う」

 

 どこか哀愁すら感じるコキュートスの言葉に、ナグモははっきりと宣言した。

 

「アインズ様は、ナザリックに最後まで残っていて下さった慈悲深い御方だ。そのアインズ様がそんな理由で見捨てるわけがない」

「ナグモ……」

「そもそもだな。レベルが100を超えたと言っても、生産職が主である僕より、純粋な戦闘職であるコキュートス達の方がまだステータスが高いくらいだぞ? だからこうして、君に教えを請いに来てる」

 

 いつになく熱弁する『他人嫌い』の守護者をコキュートスは意外そうに見つめる。

 

「それに君はアインズ様から直々に亜人族軍の統括を命じられたのだろう? はっきり言って、僕が同じ事を命じられても君ほどの成果を出せる自信はない。頭の悪い連中と話しているだけで、イライラとしてくるからな。……まあ、だから、なんだ……アインズ様はそのくらい君に期待をかけているから、気落ちする必要など無いというか……」

 

 慣れない励ましの言葉を言おうとしている為か、後半は尻すぼみになりながらナグモは締め括った。

 

「……意外ダ。本当ニ意外ダ。近接戦闘ノ稽古ヲ願イ出タ事トイイ、オ前ニ励マサレル日ガ来ルトハナ。本当ニ、以前ノオ前トハ何ガ変ワッタ気ガスル」

「……別に。確かに以前の僕は、じゅーる様より頂いたこの頭脳さえあれば、何でも出来るから他人など不要と思っていたが……そんな事は無かったと思い知ったというか……」

 

 香織の事を思い出し、しかしそれをはっきりと口にするのが恥ずかしいナグモは決まりが悪そうにぶつぶつと呟く。もう、香織がいないかつての生活など考えられないくらいにナグモの価値観は大きく変動していた。『他人』という概念を初めて知った生まれ立ての元・NPC(少年)は、ナザリック地下大墳墓を大きな家族(ファミリー)の様に感じる様になり、ナザリックに所属する者達には寛容な心が芽生え始めていたのだ。

 

(……そうとも。コキュートス達が無機生命体だろうと関係ない。シズに至っては完全な自動人形(オート・マトン)だしな。だが、それでも僕と同じく至高の御方に創られた存在。生物か非生物かの優劣なんてないし、低脳な外の人間達なんかより全然いい)

 

 そう頭の中で結論付けていると、コキュートスがハルバードを構え直した。

 

「ナラバ———私ハ今出来ル最善ヲ尽クシテ、アインズ様ニ貢献シヨウ。構エロ、ナグモ。オ前ガアインズ様ノ旅ノ護衛トシテ十全ニ果タセル様、鍛エテヤル!」

「ああ———お願いしよう、コキュートス!」

 

 ナグモは再び黒傘“シュラーク”を構え直し、コキュートスへ果敢に斬り込んでいった。

 

 ***

 

「いやはや……アンタもよくやるねぇ」

 

 第六階層にある巨大樹でアウラは丸テーブルに座ったナグモに呆れた様に声を掛けた。ナグモは打ち身やら青痣やらを身体の至る所に作った姿でテーブルに突っ伏していた。

 

「そりゃアインズ様のお役に立ちたいのは分かるけどさ……。コキュートスに武器の訓練を願い出たらこうなるのは分かっていたろうに……」

「全くでありんす。あまり無茶をするもんじゃありんせん。妾達と違って、ぬしは肉体的に脆弱な人間でありんすから」

「……悪かったな、脆弱で」

 

 身体中の痛みに耐えながら、ブスッとした様子でナグモは同席しているシャルティアに返した。守護者達の中で総合力最強であり、真祖の吸血鬼(トゥルー・ヴァンパイア)であるシャルティアからすればナグモの近接戦闘の特訓は「弱い人間の癖によくやるものだ」と呆れ半分の行いなのだろう。

 

「そう馬鹿にしたものではないよ、二人とも。彼なりにアインズ様のお役に立とうと努力している結果なのだからね。その姿勢は称賛すべきだろう」

「……マア、少シ熱ガ入ッテシマッタ事ハ認メル」

 

 デミウルゴスがいつもの様に紳士的な笑みを浮かべながら評価する中、コキュートスはポリポリと頬を掻きながら呟いた。

 ナグモとコキュートスの訓練が終わった後、二人はアウラのお茶会に誘われていた。お互いの近況を話す事も含めて、この場には手が空いている守護者達が集まっていた。

 

「でも意外だよね。こういう集まり、前のナグモなら絶対に来なかったのに」

「ほんの気紛れだ……しかし、アウラ。君はマーレと魔人族達の所へ潜入捜査に行っている筈だったが、そこはいいのか?」

「ああ、大丈夫。あっちにはマーレを残してきてるし。第六階層もたまには私自身の目でチェックしないとね」

「ぬしに貸した私のペット、役に立ってるでありんすかえ? 久しぶりに遊びたくなってきんした」

「……まあ、一応仕事はしてるけどさ。夜中にアンタの名前を口にしながらゴソゴソしてんの、本気でどうにかなんない?」

 

 ジト目で抗議するアウラに、シャルティアは自分の調教()の成果がキチンと現れている事にドヤッとした顔になった。

 そんな二人を余所に、デミウルゴスは紅茶の香りを楽しむ様にカップを持ち上げる。ズボンから生えた尻尾さえ無ければ、王侯貴族と言われても信じられる優雅な仕草だった。

 

「良い香りだ。これに合うのは、やはり人間の———ああ、すまない」

「……別に。気にしてなどない」

 

 デミウルゴスは自らの失言に悔いる様に謝罪する。別に趣味を隠す理由は無いが、他の守護者を不快にする気も無い。そのためにデミウルゴスは謝罪したのだ。

 

(まあ、人間が牛や魚を食すのと同じ様な物だからな……種族が悪魔という事を考えれば、人間を害するのは当たり前の話だろう)

 

 話題を変える為、ナグモはまだ痛む身体を我慢しながら紅茶に手をつける。

 

「それにしても、こんな茶会を開いていたというのは初めて知ったな」

「ナグモはアインズ様が召集した会議でもなければ、第四階層から出て来なかったもんね。昔、ぶくぶく茶釜様ややまいこ様達がいた頃によく私とマーレもお茶会に参加させて貰ったんだよねえ。だから時々、ここで守護者同士で私的な報告会も兼ねてお茶をしてるんだ」

 

 それはきっと、かつてのナザリックの姿を懐かしんでいるのもあるだろう。アウラの話に、ナグモもかつてじゅーるから聞いた情報を思い出していた。

 

「ああ……確か、やまいこ様の妹君であるあけみ様もよく招待されていたとか……」

 

 チラッとナグモは壁の隅にある人形に目を向ける。そこには獅子に跨ったエルフを象ったヌイグルミが鎮座していた。

 

「姿が違っただけでナザリック———いえ、“アインズ・ウール・ゴウン”の一員になれなかったとは……悲劇的な話です」

「マッタクダナ……」

 

 他の守護者達もしみじみと呟く。その中で、ナグモは内心で首を傾げた。

 

(半魔巨人(ネフィリム)であるやまいこ様の妹君がエルフ? 妙だな……二人は義姉妹だったのか?)

 

 他の守護者達———恐らく直接の面識があるだろうアウラすら、それを疑問に思う様子はない。どこか違和感を感じる話なのだが、至高の御方達のプライベートに関わる話だけに、深く探りを入れるのは躊躇われた。

 

(僕も、オリジナルであるじゅーる様の御子息が人間だったんだ……それを考えれば、おかしくはない……か?)

 

 きっと至高の御方達には、自分には与り知らない深い事情があるのだろう。そう結論付けて、ナグモはそれ以上の思考を打ち切った。

 

「……ああ、そうだ。ちょっとナグモに聞きたい事があったんだけどさ」

 

 しんみりとした場の空気を払拭しようと、アウラはナグモに話題を向けた。

 

「あのさ……アルベドと、何か喧嘩した?」

 

 ピン、とナグモの纏う空気が張り詰める。ナグモはいつもの無表情———ただし、眉間に皺が寄っている———で答えた。

 

「……別に? 守護者統括殿と、少し意見があわなかっただけだ」

「そういえば、あんたってアルベドの事をいつも『守護者統括殿』と呼ぶよね。なんか他人行儀じゃない?」

「名目上は僕の上司だから、敬意ぐらいは示すさ。至高の御方々が定めた役職だしな」

 

 頑なな態度を崩さないナグモに、アウラは困った顔になる。「仲が悪い」と創造主に設定されたシャルティアはともかく、ナザリックの守護者として仲間意識を持つ彼女からすれば、仲間同士の仲が悪いのは見過ごす事が出来なかった。謁見の間や第九階層の執務室など、二人が顔を合わせる度にピリピリとした空気が流れている事を敏感に感じ取っていたのだ。

 

「ナグモが最近飼い始めたアンデッドの娘……その処遇で揉めたそうでありんすよ」

「へ? そうなの?」

「断っておくが、香織の事はアインズ様から直々に僕へ一任されている」

 

 事情を知るシャルティアにナグモは食って掛かる勢いで反論した。

 

「そんな噛み付かないでくんなまし。私はむしろぬしと香織の仲を応援してるんでありんすから」

「……はぁ?」

 

 ニコニコと笑うシャルティアに、ナグモは胡乱な目付きになった。どう考えても胡散臭過ぎる。

 

「……そういえばお前、前に香織に色々と吹き込んだそうだな。何が望みだ? 聞くだけなら聞いてやるぞ」

「そんな下心がある様に言われるのは心外でありんすねぇ。まぁ、そこまで言われたなら、ちょいとぬしに聞きたい事がありんすが……」

 

 ふと、シャルティアは真剣に顔になる。何を要求されるのか、ナグモは身構え———。

 

「ぬし…………ボテ腹プレイとか興味ありんせん?」

「………………………は?」

 

 たっぷりと、十秒くらいナグモはフリーズしていた。

 

「いやね、香織と毎晩の様によろしくやってるそうじゃありんせんか? 私も香織に色々と教授してやったでありんすが、そういうマニアックなプレイにそろそろ興味が出てくる頃じゃありんせん?」

「急用を思い出した。失礼する」

 

 ナグモはにげだした!

 しかしまわりこまれてしまった!

 

「まあまあ。ちょ〜っと、お待ちなんし。同じ死体愛好家(ネクロフィリア)のよしみで、仲良くやろうじゃありんせんか?」

「離せ。あと、何度も言うがお前と一緒にするな」

「いやね? ボテ腹プレイをやろうとするなら、香織を孕ませる必要がありんしょう? アンデッドを妊娠させる研究とか、そろそろやってみたくありんせん?」

「離せ。さっさと、この手をは、な、せ……!」

「ほら、アインズ様の第一王妃を狙う身としては? アインズ様の御子を孕める身体になっておきたいでありんす。ね、ね! ぬしなら分かってくれんしょう?」

「お願いします、離して下さい。僕は貴方みたいな人と関わり合いになりたくないんです」

 

 キャラ崩壊して敬語になるナグモに対して、逃がさないとばかりにシャルティアはギリギリと力を込めていく。

 

「香織にアレコレやられて気持ち良かったでありんしょう? ほら、もっと先の扉を開くでありんす! そして私にアインズ様の子種を仕込むでありんす!」

「最近香織の攻めが激しくなったのはお前が原因か! いや、ちょっと待て———!」

 

 ナグモはふと違和感に気付いた。短絡的なシャルティアがこんな迂遠な計画を思い付くだろうか? 一瞬の内に、シャルティアにこの計画を吹き込むであろう人物を思考回路が割り出した。

 グリン、とナグモの首がある人物へ向く。視線の先で———スーツを着た悪魔がわざとらしく肩をすくめていた。

 

「デミウルゴス……!」

「さあさあ、今すぐアンデッドを孕ませる研究に取り掛かるでありんす! ついでに妾にアインズ様の寵愛を受ける様に取り計らいなんし!」

「本当にいい加減にしろ、このド低脳吸血鬼が!」

 

 ギャーギャーと騒ぎ出す二人にアウラは「うわぁ……」という顔になった。そしてナグモの代わりにデミウルゴスに真意を問い質す事にした。

 

「あー……デミウルゴス?」

「まあ、ナザリック地下大墳墓の将来や戦力増強という意味でも興味がある事だったからね。偉大なる支配者の後継はあるべきだろう? もしも、アインズ様が他の方々の様にナザリックを去られてしまった時……あとは万に一つも有り得ないが、エヒトルジュエに敗れてアインズ様が崩御された場合に私達が忠義を尽くすべき御方を遺して頂ければ、と思ってね」

「ソレハ不敬ナ考エダロウ。ソウナラヌ様ニアインズ様ニ忠義ヲ尽クシ、偽リノ神デアロウト討チ滅ボシテ首ヲ捧ゲルノガ、我ラ守護者ガ果タスベキ責務ダ」

 

 横から口を挟んだコキュートスにデミウルゴスは頷く。

 

「無論、理解しているとも。しかしだね、コキュートス。アインズ様の御子息にも忠義を尽くしたいと思わないかい?」

「ムゥ……ソレハ興味ガアル……」

 

 コキュートスは脳内にアインズの子供を背に乗せて走る姿を思い浮かべる。

 それだけではない。

 剣術を教えるところ。迫り来る敵を打ち払い、尊敬の眼差しで見られるところ。そして大きくなった子供が、立派な支配者となる姿を陰ながら見守るところまで。

 

「……イヤ、素晴ラシイ……素晴ラシイ光景ダ……立派ニナラレテ……爺ハ……爺ハ嬉シイデスゾ……!」

「おーい、コキュートス?」

 

 脳内で「爺や」になり切っているコキュートスに、アウラの声は届いていなかった。そんなコキュートスからデミウルゴスは意識的に目線を切りながら、アウラに向き直った。

 

「……まあ、とにかく。そういった意味では、ナグモがアンデッドの娘を飼い始めたのは丁度良かったのだよ。アインズ様はアンデッドであらせられるから、普通の手段では御子を成す事は出来ないだろう? そういう事もあってか、アインズ様はあまり後継をお作りになられる事に積極的では無いご様子だしね」

「ああ……じゃあ、何? ナグモが自分の研究でどうにかして香織と子供を作った時、その技術でアインズ様に御子息を作って貰おうという事?」

「まあ、そうだね。ついでにナグモの子供がどれ程の強さとなるのか、それはそれでナザリックの強化計画として興味はあるからね」

 

 しれっと答えるデミウルゴスに、アウラは少しだけ眉根を寄せる。確かに他の方々の様にアインズが居なくなったら、自分達は誰に忠義を尽くせば良いのか分からなくなる不安はある。しかし、まだ76歳とはいえ女性として、女を産む機械の様な発言をするデミウルゴスの発言にちょっとだけ嫌気がさしていた。

 

「……まあ、あんたの考えは分かったけどさ。それをシャルティアに話したわけ?」

「私はあくまでそういう可能性がある、としか言ってないのだが……困ったものだね、あそこまで露骨に迫ったら、逆効果だろうに」

 

 やれやれ、とデミウルゴスは溜息を吐いた。シャルティアがここまで暴走するというのは、ある意味で計算外だったのだろう。「私もまだまだだね」とデミウルゴスは頭を振った。

 

「では、私はそろそろ失礼するよ。王国の道化勇者は、細かく監視していないと予想外の暴走を引き起こしそうなのでね」

 

 それだけ言うと、デミウルゴスは立ち去った。その場に残ったのは、未だにギャーギャーと取っ組み合うナグモとシャルティア(お子様二人)と、妄想に浸っているコキュートス(未来の爺や)が一人。

 

「………え? ひょっとして、私がどうにかしないといけない感じ?」

 

 後始末を体よく押し付けられたアウラは、深い溜息を吐いた。


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