ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 さてさて、前話では皆様が温かい気持ちになれた様で本当に良かったです。いやー、アインズ様も救われるかもしれない未来があって良かったねー。


 じゃあ、そろそろ色々な人達をドン底へ突き落としにいきますね?(^^)


第九十五話「クラスメイトSIDE:ロイヤル・プライド」

「お父様! すぐにヘルシャー帝国に謝罪と弔問の使者を送るべきです!」

「くどい! 余に指図するか、リリアーナっ!!」

 

 ハイリヒ王国の王城。リリアーナは父親であるエリヒド王に必死で訴えかけていた。

 

「ですから! 今回、勇者が行った事はあまりにも帝国に対して無礼が過ぎて———」

「貴様、エヒト神が遣わした神の使徒の皆様を非難するつもりか!?」

「っ……! しかし、他国の王を招待した宴席で斬殺するなど、『ハイリヒ王国は外交もロクに出来ぬ国』と同盟国であるアンカジ公国や王国の諸侯達に不信感を抱かせてしまいます!」

「くどいと言っている! そもそも女風情が政治に口を出すでないわ!!」

「お父様……!」

 

 エリヒド王の暴言にリリアーナは涙を堪えた顔になる。だが、エリヒドは敵意の籠った眼光を実の娘にぶつけながら、近くにいた衛兵に怒鳴った。

 

「衛兵! この()を西の塔に閉じ込めておけ! しばらくは一歩も外に出すな!」

「お、王女様をですか!? し、しかし……!」

「貴様……国王である余の命令が聞けんのか! 勇者様を愚弄したこの女を庇うとは、貴様()エヒト神の威光に背く背教者か!?」

 

 口角泡を飛ばしながら睨み付けるエリヒド王に若い衛兵は顔を蒼白にさせる。その表情にはリリアーナを拘束する事に対して抵抗がある様だった。しかし、命令に背けば処刑を言い渡しかねないエリヒド王に対しての恐怖心が勝っており、その葛藤に彼はどうしたらいいか分からない様子だった。

 

「早くしろ! 貴様どころか、貴様の家族もろとも異端審問にかけても良いのだぞ!?」

「そ、それだけは! どうか、私の家族だけは———!」

「……構いません。()()の言う通りになさい」

 

 ガタガタと震える衛兵を見兼ねて、リリアーナは静かに言った。

 

「王女様……」

「……言葉が過ぎました。失礼致します、国王陛下」

 

 リリアーナは頭を下げ、衛兵に連れられながら退出した。その背中をエリヒド王は最後まで親の仇でも見る様な目で見送った。

 

 ***

 

 バタンッと扉が締められる。西の塔は王城の本城から離れた位置に建てられていた。ここには地位の高い者を監禁する為の部屋があり、牢屋よりはいくらかマシに過ごす事が出来た。とはいえ、塔の天辺にある部屋は窓に鉄格子こそないが地面までかなり高さがあり、下に落ちれば墜落死は免れない。手枷や鎖で身体の自由を奪われてはいないものの、実質的には囚人とあまり変わらない。

 螺旋階段を登り、監禁用の部屋に行くとベッドと机、洋服タンスだけの質素な部屋に先客がいた。

 

「リリアーナ……! そう、貴方まで……」

「お母様……」

 

 先客———ハイリヒ王国の王妃・ルルアリアは新たに監禁部屋に来たリリアーナに一瞬だけ目を見開いたが、すぐにここに来た事情を察して視線を落とした。

 

「ランデルは……弟はどこですの? あの子も、お母様と一緒に閉じ込められたのですか?」

「いえ……あの子は、国王自らがハイリヒ王国の王として相応しい教育をすると言って、引き離されました。エヒト神に対して常に感謝の念を絶やさぬ様にする為に、余計な思想を吹き込むなと私は投獄されたのです」

「そう、ですか……」

 

 リリアーナは目を伏せる。ハイリヒ王国の時期国王でもあるランデルはまだ十一歳の少年だ。王族としてまだまだ至らぬ所があるが、それでも突然母親と引き離されるのは心細いだろう。

 

「リリアーナ、貴方は一体どうしてここに?」

「……お父様に……国王に、ヘルシャー帝国へガハルド皇帝を斬殺した事を謝罪すべきだと意見しました。いくらガハルド皇帝が教会の修道女にふしだらな真似をしたとはいえ、勇者が殺した事を美談であるかの様に吹聴すべきではないと……」

 

 勇者・天之河光輝率いる「光の戦士団」の結成および、聖戦遠征軍の発足の記念式典の夜、ヘルシャー帝国の皇帝ガハルドが「酒に酔った勢いで修道女を強姦しようとして、それを勇者達が止める為に正義の刃を振るった」という()()は聖教教会によって瞬く間に王都に広がった。

 人々はガハルドを「皇帝のくせになんて下衆な人間だ!」、「所詮は野蛮な国家の王族だ」と嫌悪と嘲笑を込めて噂し合い、一方で女性を守る為に恐れずに立ち向かった神の使徒達を「なんて正義感に溢れた方達なんだ!」、「さすがはエヒト神に選ばれた神の使徒様方だ」と讃えているという。この話は既に教会の説法師や吟遊詩人の手によって更に広まっていると聞く。

 

「国王は更にヘルシャー帝国に対して、天文学的な賠償金を請求したと聞きました。そんな真似をすれば、両国に決して埋まる事の無い溝が出来てしまうのに……それなのに、国王は……お父様は……女が政治に意見をするな、と……!」

「リリアーナ……」

 

 エリヒドに言われた事を思い出し、悔し涙を浮かべる娘をルルアリアはそっと抱き締める。

 

「お母様……お父様は、一体どうしたというのですか? 前はあんな風に、聖教教会にのめり込んでいなかった筈ですのに……」

「分かりません……でも、異世界から勇者と呼ばれる若者達が来てから、国王は……あの人は変わってしまいました……」

 

 夫であるエリヒド王の変貌ぶりに、ルルアリアも静かに涙を流した。

 

 現在、ハイリヒ王国はオルクス迷宮の閉鎖によって魔石の流通量は目に見えて減り、聖戦遠征軍の資金や物資の為に魔石はおろか食糧品までも掻き集めている為に市場の価格は高騰していた。更には働き手となる若い男達を徴兵している為に、農村部ではもはや生活が立ち行かなくなってきている地域もあるという。それだというのにエリヒドは狂った様に「全てはエヒト神の為に」と叫び、聖戦遠征軍の軍事費の為に更なる増税を課しているのだ。

 一方で、エヒト神の使徒こと光輝達には何一つ不自由のない贅沢な待遇をさせていた。恐らく聖戦遠征軍の要である彼等を引き止めておくという狙いもあるのだろう。先日もガハルドを討った事に対する褒美として「光の戦士団」の本部ともなる大邸宅を与えたそうだ。

 このあまりにも酷過ぎる待遇の差や増税に苦しむ民を思って、エリヒド王に意見する貴族達もいた。しかし、彼等は例外なく「エヒト神の威光に背く異端者」の烙印を押され、異端審問にかけられて消えていった。そうして空席となった彼等の役職や領地を()()()()()な貴族達に与えて、いつしかエリヒド王に意見する者は居なくなっていた。

 

(一体、どうして……これでは魔王達を倒せたとしても、王国は荒廃してしまいますのに……!)

 

 エヒト神が遣わした勇者達の活躍により、邪悪な魔王は倒れて平和になりました———などと、簡単な話では無いのだ。戦後の魔人族達の扱いをどうするか、魔国ガーランドを併合したとして掛かった戦費を回収できるだけの収益が見込めるか……そういった問題に上手な落とし所を探るのが王の仕事なのだ。

 ところが今のエリヒド王は、まるで戦後の事を考えずに多額の資金を聖戦遠征軍に注ぎ込み、国を傾けようとしている。それも聖教教会に言われるがままにだ。これでは仮に戦争に勝ったとしても、王家の信頼は地に堕ちるだろう。

 

(トレイシー……出来るなら、貴女にも謝りたい。お父様が馬鹿な真似をしたばかりに、こんな事になるなんて……!)

 

 かつて園遊会で初対面のリリアーナに対して、「貴女とはいつか殺し合いをするくらいの関係まで行きそうですわ!」と度肝を抜く様な挨拶をしてきたヘルシャー帝国の皇女を思い出す。リリアーナは驚いたものの、おべっかを使ってくる周りの貴族達とは異なって自分を真っ直ぐに見てくるトレイシーを気に入り、あくまで王族同士の付き合いとしてだが文通をするくらいの友好関係にあった。だが、その関係も今回の事で完全に破綻しただろう。

 皇帝を斬殺して首を送り付けるなどという挑発的な行為までしたのだ。その上、恥知らずにも帝国から寝返ってきた貴族や領主達をエリヒド王は迎え入れていると聞く。ここまでしてヘルシャー帝国は黙ってなどいないだろう。

 残るアンカジ公国は半ばハイリヒ王国の属国のようなものだが、折悪く流行病が蔓延して手一杯のところにエリヒドは救援を送るどころか遠征軍の為に治癒師を含めた人員や資金を徴収したと聞く。ここまでしてアンカジ公国と今までの様に友好的な関係を築くのは難しいだろう。

 今のハイリヒ王国は聖教遠征軍の為に、人間族の国の中で孤立してしまったと言って良い状況なのだ。

 

「……リリアーナ、よく聞きなさい。この国はいま、かつてない程の危機に瀕しています」

 

 ルルアリアは決意を固めた目で、リリアーナの顔を覗き込む様に見た。

 

「国王は乱心し、教会は異界より来た勇者達を祭り上げて権力をほしい儘にして民を苦しめています。このまま黙って見過ごしていれば、この国は魔人族との戦いに勝ったとしても滅びゆくでしょう。ハイリヒの王家の者として、それを断じて許してはなりません」

 

 ハイリヒ王国の国母として、ルルアリアは断固とした口調で告げた。

 

「お母様……しかし、今の私にはどうする事も……」

「……手ならばあります。今夜、この塔の見張りに貴方の近衛騎士だったクゼリーが来ます。その者と……そうね、ヘリーナのように貴方が信頼を置けると判断した者達と共に城を出なさい」

 

 リリアーナは目を見開いた。しかし、ルルアリアの表情から冗談を言っているわけではないと悟り、真剣な表情になる。

 

「城を出たら、まずはシモン・リベラールという司祭を訪ねなさい。聖教教会の者ですが、彼は話の分かる男でした。その為に辺境の地に追いやられたとも言えますが……とにかく、今の教会の腐敗ぶりを聞けば必ず力になってくれるでしょう。それと、可能ならば前騎士団長のメルド・ロギンスにも。彼ならば、貴方の事を見捨てたりはしないでしょう」

「お母様……分かりました」

「貴女の味方となる者を集めて、国王や教会……そして、勇者を名乗る異界の者達の暴走をなんとしてでも止めるのです」

 

 それは現国王に対してクーデターを起こせ、と言っているも同然だった。しかも今のリリアーナの味方はエリヒドに比べて圧倒的に少なく、首尾よく味方を増やせたとしてもハイリヒ王国内はエリヒド派とリリアーナ派に分かれ、内乱へと発展していくかもしれない。それこそ聖戦どころではなくなるだろう。

 だが、それでもルルアリアは自分の娘に命じる。今のまま、破滅への道を歩むよりはいくらか国民が救われる未来を信じて。

 

「貴女には国王を……実の父親である、()()()を討つ事になるやもしれません。それでも……やってくれますね?」

 

 これは形ばかりの問いだ。だが、それでもルルアリアは自分の娘に問い掛けた。せめて、この道は自分で選んだのだと誇って貰う為に。

 そして———リリアーナは、ルルアリアが望んだ通りの王女だった。

 

「……はい、お母様。必ず。必ずや、リリアーナは民の為に最善を尽くします」

 

 真っ直ぐな迷いの無い瞳で、リリアーナは頷いた。その瞳に、ルルアリアは溜息を吐いた。

 

「近くに来なさい」

 

 言われた通りに近寄った娘をルルアリアは再び抱き締める。まるで一生分の温もりを与えるかの様に。

 

「……貴女は本当に、良い王女に育ってくれました。貴女ならば、きっと良き王としてこの国を治められるでしょう。こんな事しかしてあげられない愚かな母を許して頂戴」

「お母様……っ。お母様は、どうされるのですか?」

「……ここに残ります。私がここにいれば、貴女が逃げる時間も多少は稼げるでしょう。リリアーナ……暫しの別れです」

「……はい、お母様」

 

 ———聡明なリリアーナは、ルルアリアが嘘を言った事など見抜いていた。

 そして、理解してしまった。それが最も自分が城から逃げ延びる可能性が高くなる事を。

 

(だから……今は……今だけは、お許し下さい。これが済んだら、ちゃんと……ちゃんとハイリヒ王国の王女に、戻りますからっ……)

 

 リリアーナは母親に甘える子供の様に、ルルアリアに顔を埋める。それを赤子をあやすかの様に、ルルアリアは静かに頭を撫でていた。

 

 ***

 

 翌朝。ルルアリアは監禁部屋に一人で座っていた。簡素な衣服だが身支度を整え、ピンと背筋を伸ばして椅子に座る姿は貴人としての気品に満ち溢れ、部屋の内装が粗末で無ければ並の者は自然と頭を垂れていただろう。

 だが、気品に満ちた静寂は乱暴なノックの音で突然破られた。

 

「ルルアリア王妃! リリアーナ王女! いらっしゃいますか!?」

 

 挨拶もそこそこに扉が乱暴に押し開けられる。神殿騎士達はドカドカとルルアリアを取り囲む様に部屋に入って来た。

 

「何事です、騒々しい! ここを王妃の寝室だと弁えた上での狼藉か!」

「ルルアリア王妃、貴方に逮捕状が出ています」

 

 ルルアリアの一喝に動じず、神殿騎士の一人が国王エリヒドと大司教イシュタルの署名が入った書類を突きつけた。

 

「昨晩、城門の見張りが闇に乗じて城から抜け出す集団を見たとの報告をしました。調べてみると、馬小屋から数頭の馬が消え、さらに今朝方から騎士クゼリー・レイルやリリアーナ王女付きだった使用人、その他リリアーナ王女に近しかった者達の行方が分からなくなっております。ルルアリア王妃……リリアーナ王女は今どこに?」

「知りませんわね。あの子はもう親が手を引かなければならない年齢でもないのですから。出掛けるのに一々、行き先など尋ねてませんわ」

「……貴方には国家反逆罪の疑いが出ているのですぞ?」

 

 しれっと答えるルルアリアを神殿騎士達は睨み付ける。

 

「神の使徒たる勇者様の行いを批判し、人間族全ての願いである聖戦に対してリリアーナ王女は非協力的だったそうですな? その上で此度の脱走……ルルアリア王妃、あなた方はエヒト神の意志の下に一つに束ねられるハイリヒ王国に余計な混乱を齎す気なのですかな?」

 

 突然、場違いな笑い声が部屋に響く。ルルアリアはくだらない冗談でも聞いたかの様に、さも可笑しそうに笑った。

 

「軽率な行いで民を苦しませ! あまつさえ我が国の外交関係までも粉微塵にした若者達を祭り上げ、さらなる苦しみを民に与える事がエヒト神の意志だと申すか! ならばエヒト神は、我らに滅べと仰っているのでしょう! これで人間族の神など片腹痛い!」

「き、貴様ァ! エヒト神を侮辱するか!? もはやこの女の反逆は明白! 王妃とて構うな、引っ捕らえろ!」

 

 神殿騎士達は武器を構えようとし———それより先にルルアリアは懐に隠して持っていた短剣を抜き放った。

 

「……何の真似ですかな?」

 

 神殿騎士達は驚いたものの、すぐに冷静になった。ルルアリアの持っている短剣は護身用の刀身が短いもので、長剣を帯びている神殿騎士達とはリーチ差があり過ぎた。ルルアリアの構え方は素人同然であり、人数差でも神殿騎士の方が圧倒的に有利だった。

 

「最近、王に近しい者達が魂が抜けたかの様に虚ろになり、王の命令に唯唯諾諾と従うだけの人形の様になっていると聞きます。いかなる手段か知りませんが、貴方達に捕まれば私も同じ様になるのでしょう」

 

 何の事か分からない神殿騎士達は思わず顔を見合わせる。彼等は上の命令に従うだけの存在であり、ハイリヒ王国の上層部の事など知る由も無かった。

 

「……そんな風になる事は、丁重にお断り申し上げます。リリアーナの居場所は、あなた達自身で探しなさい」

 

 そう言って、ルルアリアは短剣を自らに向けて———。

 

「っ!? いかん、王妃を止めろォ!!」

 

 躊躇いなく、自らの喉に突き刺した。

 

 ***

 

「おい、聞いたか? 王妃様が病死したという噂」

「ああ。最近お身体を崩したから王様が養生の為に離宮で看病させていた、と聞いたが、その甲斐も無くだってな……」

「リリアーナ様もすっかり気落ちしちまって、表に全く出て来なくなったそうだぜ。噂では遠い地に心の傷を癒しに行ったとか……」

「おいおい、大丈夫かよ? これから聖戦が始まるってのに、王族がそんな調子で」

「なに、心配する事は無え。俺達にはエヒト神様が召喚して下さった勇者様方がいる! 今は生活が苦しいけどよ、勇者様達なら魔人族の奴等をとっちめてくれるさ! そしたら兵隊として連れて行かれた倅達だって帰って来て、また元の生活に戻るさ!」

「ああ、そうだな……そうだと、いいな………」

 

 王都よりかなり離れた宿屋で、クゼリーは酒場で談笑している男達の脇を擦り抜けて階段を上がった。冒険者に見える様に、王宮から支給された物より粗末な革鎧を着た彼女は目当ての部屋の前でノックする。

 

「入りなさい」

 

 クゼリーが部屋を開けると、そこには旅人に変装していつものドレスより粗末な服を着たリリアーナと、同じ様に変装したヘリーナがいた。

 

「姫様……」

「その呼び方は止めなさい。どこに聞き耳を立てている者がいるか分からないのですから。私の事は……そう、リリィと呼ぶ様に」

 

 リリアーナは毅然とした態度でクゼリーに命じる。だが、その表情はまるでこれから凶報を聞くかの様に強張っていた。

 

「それで、クゼリー。お母……ルルアリア王妃の訃報は、事実なのですか?」

「……残念ながら事実です、リリィ様」

「ああ、そんな……ルルアリア王妃様……」

 

 視線を落としながら告げるクゼリーの言葉に、ヘリーナは膝から崩れ落ちた。クゼリーも許されるなら、同じ様に泣き出したい気持ちで胸が一杯だった。

 だが、実の娘であるリリアーナは少しだけ目を伏せるとすぐに顔を上げた。

 

「……ルルアリア王妃は、命を賭して我々を逃してくれました。私達は、あの方の遺志を無駄にしてなりません。今は……今は辛くとも、前に進むべきです」

「リリィ様……っ。はい、その通りです!」

「私も……どこまでもお供致しますっ」

 

 まるで自分に言い聞かせる様に宣言するリリアーナに、クゼリーとヘリーナは涙を拭いながら頷く。

 

「……クゼリー、短剣を貸して下さい」

 

 リリアーナの申し出に、クゼリーは不審な顔をしながらも腰に挿していた短剣を手渡す。リリアーナは短剣を自らの髪に押し当て———。

 

「姫様、何を———!?」

 

 切った。黄金の様に美しかった長髪が切り落とされ、床へ落ちる。

 

「……私の容姿は知れ渡っています」

 

 肩口まで切り落とした金髪に未練を残す様子もなく、リリアーナはクゼリーに短剣を返した。

 

「ならば、こうすれば少しは目立たなくなるでしょう。そして、これは私なりの決意表明です。お母様の遺言通りに国に平穏を取り戻すまで、私は今後髪を伸ばしません」

「姫様………」

 

 リリアーナの髪を毎日の様に手入れしていたヘリーナは、短くなってしまった金髪を見て悲しそうに目を伏せた。

 だが、リリアーナは後悔などしていない。

 

(お母様……リリアーナは、必ずややり遂げてみせます)

 

 切り落とした金髪に想いを込めて、彼女は亡き母へ誓う。

 

(乱心してしまったお父様……エヒト神の名を使って民を苦しめる聖教教会……そして、勇者を名乗って国を荒らした()()()()()()()()()()……! 必ずや……必ずや、彼等からこの国を救ってみせます……!)

 

 王女だった少女の胸に、炎の様に激しい感情が荒れ狂う。それを一切表情に出さず、リリアーナは亡き母への鎮魂の念と共に誓った。

 

 

 

 ———それを影から、シャドウデーモンはグニャリと嘲笑った。




 そんなわけでクラスメイトSIDEというか、ハイリヒ王国SIDEでした! 
 なんかリリアーナの国盗り物語が始まったよ……どうしよう、これ?(書いた張本人)

 そんなわけでチョロっと書いたクラスメイト達ですが、次回あたりにここまで好き勝手やってる責任は取らせます。


 未成年者、ましてや生徒のしでかした事は、引率してる大人が責任を取るのが筋ですよね?(笑)

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