ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 なんか筆が乗りました。
 章区切りはしてないけど、自分としてはこれで第二章目は終了という感じです。

 次はどうしようか……またクラスメイトsideを書くか、ナザリックの拠点イベントをオムニバス形式で書くか? 
 フリードが●●したお陰で、グリューエン火山が真面目に三行くらいで終わりそうだからゆっくり考えます。


第九十一話「魔導王の慈悲と未来を視るウサギ」

 ナザリック地下大墳墓 第十階層 玉座の間

 

 ヘルシャー帝国の新皇帝となったトレイシーは、持ち運ばれたテーブルに置かれた書類にサインをしていた。

 今、行われているのは謂わば調印式だ。これよりヘルシャー帝国はフェアベルゲン改めアインズ・ウール・ゴウン魔導国に亜人族の返還を約束し、その見返りとして代わりとなるアンデッドの労働力を借り入れる。

 その他、聖教教会の破門によって打ち切られてしまった医療機関の援助など、多くの物資をアインズ・ウール・ゴウン魔導国より輸入する事となった。ただし、その代償は安くない。これより先、帝国は実質的に魔導国の属国として振る舞う事になるだろう。

 

(この様な条約、以前の帝国ならば真正面から跳ね除けていましたわ。ですが……)

 

 チラッとトレイシーは玉座に座る存在へと目を向けた。恐らく帝国の一流職人達が集まっても作れそうに無い豪奢なローブ、トレイシーの持つ魔喰大鎌エグゼスすら霞む様なアーティファクトであろう七匹の蛇が絡み合った様な魔杖。

 そして———濃密な死の気配。

 トレイシーはベスタより聞かされていた不死者の王を前に、緊張感で背中に冷や汗が流れるのを感じていた。

 

(あれがアインズ・ウール・ゴウン魔導王……初めてですわ。戦う前から勝てない、と心底から思い知るなんて)

 

 トレイシーは自他共に認める戦闘狂(バトルマニア)だ。相手が強ければ強いほど、自らの腕を試さずにはいられなくて決闘を申し込んできた。しかし、戦士としてのカンがあのアンデッドには絶対に勝てない、と告げていた。事実、先帝であるガハルドも初めて謁見した時に膝を折ったという話だ。アインズを目の前にした今、それを情けないなどとは思わない。むしろこんな相手によくぞ生きて帰って来れたものだ、と感心すらしていた。

 

(王国や聖教教会と断絶した今、もはや背に腹は代えられませんわ)

 

 皇族としての矜持が他国の王に降る事に拒否感を示したが、トレイシーはそれを押し殺して条約文にサインする。

 

(そもそも、「強きに従え」は帝国の国是……ならば、帝国軍を破った魔導王に頭を垂れるべきなのでしょう)

 

 震える手で自分の名前を書き、トレイシーは顔を上げた。

 

「……これで、ヘルシャー帝国皇帝トレイシー・D・ヘルシャーの名の下に、条約は締結となります。ご確認をお願い致しますわ」

「うむ。アルベド」

「はっ」

 

 アインズが顎でしゃくると、傍で控えていた黒髪の美女がトレイシーから条約文を受け取った。言葉少なく、それでいながら絶対の支配者の風格を出す姿に、トレイシーは王としての在るべき姿を見た気がした。

 

「……良いでしょう。これより、アインズ・ウール・ゴウン魔導国はヘルシャー帝国と同盟を結びます。今後はアインズ様の良き同盟者として、適切な対応をしてくれるものと期待します」

「……ええ、両国に繁栄があらん事を」

 

 アルベドの宣言に、トレイシーは硬い顔で頷いた。言外で「実質的に属国となったのだから、これからはそれ相応の態度を見せろ」と言われているのだが、トレイシーはそれを甘んじて受ける。父であるガハルドは聖教教会の支配から抜け出す為に努力してきたというのに、自分は相手が変わっただけでやってる事は歴代の皇帝と変わらないんじゃないか、と唇を噛み締めた。

 

「では、帝国の統治に関してですが———」

「……その事だが、私は現状のままで良いと思っている」

 

 え? とトレイシーは顔を上げた。声を発したアンデッドの王は、赤い光を宿した眼窩をトレイシーに向けていた。

 

「君達もいきなり国内の法律が変わっては色々と混乱して大変だろう。無論、亜人族達を奴隷にする事は禁止して欲しいがそれ以外の部分は現状維持で良いと思う。魔導国の利益が害されない限り、私から特別に要求する事は無い」

 

 アインズの言葉にトレイシーは信じられない面持ちで見つめ返した。属国にする以上、宗主国に有利となる様な不平等条約を押しつけられると覚悟していたのだ。事実、聖教教会を後ろ盾にしたハイリヒ王国は治外法権や関税自主権を認めないなどといった条約を突きつけていた。しかし、目の前の魔導王は自分より圧倒的な強者でありながら横暴に振る舞う気が無い様に見えた。

 

「それは、ありがたいお話ですが……ええと、他には奴隷の代わりとして受け取る魔導王陛下のアンデッド達の賃料などは、」

「ああ、それか。別にタダでも良いぞ? いや、タダだと却って問題があるか……まあ、そんなに高い代金は払わなくて良いだろう」

 

 今度こそトレイシーは衝撃のあまり、頭が真っ白になった。小声で「低位アンデッドくらいいくらでも召喚できるし……」と呟く声すらも、トレイシーの耳には入らなかった。

 

「な、何故でしょうか? その、失礼ながら魔導王陛下のお話は我が国にとって旨みがあり過ぎますわ」

「……ガハルドの事は、本当に気の毒だった」

 

 あまりに良すぎる話に何か裏があるのではないか? と疑ったトレイシーに、アインズはどこか遠くを見る様な目で呟いた。

 

「お父……いえ、先帝陛下、ですか? 失礼ながら、元はといえば魔導王陛下の治めるフェアベルゲンに軍を進めたのが事の発端ですから、魔導王陛下にとって先帝陛下は死を悼む程の関係では無いのでは?」

「あれは既に済んだ事だ。私は対戦の遺恨は後々に引き摺ってまで持ち出すものではないと思っている。彼とは出会う形が違えば、もしかしたら友人となっていたかもしれん」

 

 その感覚はトレイシーにも理解できる気がした。戦場で命のやり取りをした時、剣を交えた相手と時々分かり合えた気がする時があるのだ。まるで無二の親友のように思いながらも、互いの信念を懸けて闘い合う。それこそが戦場に生きる者の醍醐味……それを話すと、殆どの者はトレイシーを奇異な物を見る様な目で見てきた。

 

(お父様は……短い間に魔導王にそう思われるくらい、濃密な時を過ごしたのでしょうか?)

 

 だとしたら、何と羨ましい事だ。戦場に生きる戦士として、トレイシーは今は亡きガハルドを想った。

 

「そう、でしたのね……魔導王陛下にそこまで評価して頂けたなら、先帝陛下も少しは浮かばれるでしょう。お礼を申し上げますわ」

「ああ、ガハルドの死は私にとっても残念でならない。年若い君が皇帝となって、色々と苦労もあるだろう。だから娘である君に色々と便宜をはかる事で、友好を結ぶつもりだったガハルドへの手向けとさせて欲しい。それが異国の地で志半ばに亡くなった彼に見せられる、私の精一杯の誠意だ」

「魔導王、陛下……っ」

 

 アインズの言葉に、トレイシーは言葉を詰まらせた。

 ガハルドの死はトレイシーにとっても大きな衝撃だった。ベスタの前では強がったが、実の父親が殺された事実は彼女にとっても心に穴が空いた様な喪失感を与えていたのだ。

 その上、下手人である教会や王国に頭を下げながらも見捨てられるという事態は男勝りな彼女であっても重責に押し潰されそうだった。

 ベスタ達など古くからの重臣は残ってくれているが、同盟国だった王国や寝返った貴族達に見捨てられたという事実は、周りにもう頼れる者がいないという不安で一杯だった。

 だが、魔導王———否、()()()()()は帝国を見捨てず、手を差し伸ばした。しかも、トレイシーが見る限り言動に()()()()()のだ。彼は真摯にトレイシーの身を案じて、帝国に便宜をはかってくれているのだ。

 

(先日の王国の使者達に比べたら、アンデッドである魔導王陛下の方が何倍も人情がありますわ……ああ、駄目。ひょっとしたらこれは外交の手段の一つかもしれませんのに……!)

 

 頭で理解していても、突然、一国の皇帝という重責を背負った少女の目頭を熱くさせるには十分過ぎた。どうにか涙を堪えて、トレイシーは再び顔を上げる。

 

「感謝いたします、魔導王陛下。先帝陛下を……お父様を、そこまで気に掛けて頂けたならば、巷で噂されるお父様の不名誉も少しは晴れるでしょう」

「……その事だが。ガハルドは恐らく、いや十中八九。勇者や教会によって嵌められたと見ている」

「……どういう事ですの?」

「うむ……これからする話は、この世界の住人である君にとって信じ難い話かもしれないが———」

 

 ***

 

 アインズはエヒトルジュエの正体や聖教教会の裏側を語りながら、目の前の少女といっても過言ではない新たな帝国の皇帝を見つめていた。突然家族を失って、望まざるとも働かなくてはならない少女。

 それは母が病死して、小学校卒業と同時に社会に出るしかなかったかつての自分の姿になんとなく重なった。

 

(気の毒にな……俺はなんちゃって王様だけど、王様になる大変さはほんの少しは理解できるさ)

 

 部下であるNPC達が全肯定してくれているから、一般人であるアインズがトップでもナザリック地下大墳墓という大組織は今のところは問題なく回っているのだ。それに対してトレイシーはガハルドの死と同時に貴族達から離反者が出て、同盟を結んでいた王国からも見捨てられるというハードモード。流石に気の毒だと思い、アインズは帝国と同盟を組む際に便宜をはかった内容にする様にアルベド達に命じていた。そもそもの話、帝国の内政にも口を出すとか小卒のサラリーマンには逆立ちしても無理な話なのだが。

 

(ガハルドとは王様仲間として、気が合う友達になったかもしれないのに……それを、あの勇者は……!)

 

 天之河光輝の事を思い浮かべ、アインズの中で怒りの感情が湧き上がる。しかし、その怒りもアンデッドの特性としてすぐに沈静化された。

 

(冷静に考えよう……天之河光輝は、俺達の同盟の事を読んでいた。だからガハルドを殺したんだ)

 

 そうでなければ、他国の王を殺すなど戦争をふっかける様な真似はしない筈だ。まさか祝典として呼ばれた場が罠だとはガハルドも思わなかっただろう。

 

(ガハルドの首を送ったのは残った帝国を牽制するつもりか? 発想がもうただの学生のやる事じゃない)

 

 甘く見ていた、とアインズは思った。自分より歳下だから、相手はまだ学生だから、と光輝を低く評価していた昨日までの自分を全力で殴りたい。相手は先見の明を持った冷酷な策略家だったのだ。それを甘く見ていたから、同盟相手となる筈だったガハルドが敵地へ行く事を見過ごしたのだ。

 

(デミウルゴスも、ガハルドが勇者に殺されたのは予想外だと言っていた。天之河光輝はデミウルゴスの知略をも上回ったんだ。今はまだ奴等の監視につけたドッペルゲンガーの存在に気付いてないみたいだけど、それも時間の問題だ。あるいは気付いてないフリをしているだけか? いずれにせよ、ルプスレギナには絶対に勇者と遭遇しない様に言い含めないと駄目だ)

 

 さらにガハルドの死には、エヒトルジュエの手先である銀髪のシスターが関わっているという。その銀髪のシスターを守る形で勇者はガハルドを殺したというのだ。これを偶然と片付けるには出来過ぎだとアインズは思っていた。

 

(最悪の場合、天之河光輝はエヒトルジュエと結託してトータスと俺達を滅ぼそうとしている可能性もある。聖戦遠征軍というのは、その為の準備か?)

 

 まるでミレディから聞いた解放者達の戦いの焼き直しだ。エヒト神の名の下に、という大義名分を掲げて力や数で劣る物達をこぞって攻撃する。

 かつてユグドラシルで受けた“異形狩り”と似た手口に、アインズの中で不快感が醸成されていく。

 

「そんな……! エヒト神が、そんな……! 私達、いえ、このトータスに住まう者達は、全員騙されていたというわけですの……!?」

 

 アインズの話が終わり、トレイシーは顔を蒼白にさせながら呆然と呟いた。信仰心の低いヘルシャー帝国の人間とはいえ、人間達の唯一神が自分達を玩具ぐらいにしか思っていないという事実は衝撃が大きかった様だ。

 

「信じられないかもしれないが、事実だ。必要とあれば、解放者の生き残りであるミレディにも証言をさせよう」

「……いえ、不要ですわ。これでお父様が殺された理由が、全て腑に落ちました。教会の者達は……あの勇者達は……! お父様が邪魔になったから殺したのですね……!」

 

 ワナワナと震えながらトレイシーは低い声を出した。そしてアインズに改めて頭を下げた。

 

「魔導王陛下! どうか我々、ヘルシャー帝国も神殺しの軍の末席に加えて下さいませ! 我が父、ガハルド・D・ヘルシャーの無念を晴らす為、帝国は魔導王陛下に全力でご助力致しますわ!」

「———ああ、味方は多いに越した事はない。共に狂った神を打ち倒し、神の気紛れで無駄に散らされる命がない世界を作ろう」

「はい! 感謝申し上げます、魔導王陛下!」

 

 目に気炎を上げながら、トレイシーは力強く頷く。その表情を見ながら、アインズもまた決意を固める。

 

(勇者とエヒトが結託しようが、関係ない。俺の仲間達が作り上げたナザリックを攻める気なら纏めて叩き潰してやる! 俺を解放者達の時みたいに潰せると思うなよ、俺も味方を多く増やして迎え撃つ!)

 

 その為にもエヒトルジュエを倒す鍵である神代魔法を手に入れ、対エヒトルジュエ連合であるアインズ・ウール・ゴウン魔導国を確固とした物にする。これから始まるであろう大戦に、アインズの精神は沈静化が起きるまで熱く燃え滾っていた。

 

 ***

 

「も、もうシズ様〜、いい加減離して下さいってば〜」

「……私は今回の立役者。なので、報酬として思う存分モフモフする権利がある」

「うぅ〜……」

 

 魔導国建国記念日の宴の一席で、シアはシズにひたすらウサ耳を触られていた。椅子に座っているシアに対して、後ろからウサ耳に顔を埋める勢いで頬擦りするシズに気恥ずかしい気持ちがしてくる。

 

「ウサ耳ならお父様達にも生えてますから、そっちを堪能して欲しいですぅ」

「あれは論外。男のウサ耳なんて可愛くない」

 

 即答だった。どうやらモフモフした毛が生えていれば、誰でも良いわけではないらしい。そこまで自分のウサ耳を気に入って貰えた事を光栄に思うべきか、かれこれ三十分近くこうされている事に助けを呼ぶべきか、シアは本気で悩み出していた。

 

「シズ先輩!」

 

 唐突にシア達に声がかけられた。シアが振り向くと、白銀の髪の毛を伸ばした紅い瞳の少女が近寄って来ていた。

 

「む。香織、久しぶり」

「はい! シズ先輩もお変わりなさそうで、何よりです!」

 

 少女に握手する為にシズがシアから離れる。ようやく解放されたシアはホッとしながら、シズの知り合いらしき少女に声を掛けた。

 

「えっと、そちらの方もナザリックの方ですか? 初めまして、私はシア・ハウリアですぅ」

「初めまして、私は白崎香織です。ええと、私はナザリックのナグモ君専属メイドさん、かな?」

「……プラス、ナグモ様の嫁」

「も、もう! シズ先輩ってば! ナグモ君のお嫁さんなんて……お嫁さんかぁ、ふふ、ふふふ♪」

「わぁ……!」

 

 ボソッと呟かれた言葉に顔を赤くしながらくねくねとする香織に、シアの顔が輝く。彼女とて年頃の少女なのだ。身近な恋バナに興味津々となった。

 

「おめでとうございます。一見冷たい人に見えるナグモ様にも、素敵な彼女さんがいらしたんですね!」

「ん。本当に不思議……ナザリック七不思議の一つ」

「もう、からかわないで下さいってば! ナグモ君だって、ああ見えて可愛い所が沢山あるんですよ! 例えばですね——」

 

 「ナグモ君の可愛いところ100選」を語り出す香織を見ながら、シアはナグモの彼女である香織に興味が出て来ていた。亜人族達の治療などでナグモの姿はフェアベルゲンで何度か見ていたが、その時にシア達に見せていた姿は無愛想そのもので、おおよそ人付き合いが良いとは呼べない彼が目の前の美少女とラブラブなデートをしている所とか想像が出来ないのだ。

 

(うぅ〜、気になるですぅ……!)

 

 シアの好奇心がウズウズと疼く。目の前の香織とナグモの恋路がどうなるか、“未来視”で覗いてみたいという気持ちが湧き上がっていた。

 余談ではあるが、かつて友人の恋路の行く先に“未来視”を使った事がフェアベルゲン追放の一因となったのだが、全く懲りていなかった。

 

(えぇい、覗いちゃえ!)

 

 結局、好奇心には勝てずにシアはこっそりと“未来視”を発動させた。

 そして———その光景を見てしまった。

 

 磨き上げられた大理石が並ぶ大聖堂の様な場所。

 真っ白な床を汚す、一面に広がる血溜まり。金ピカの鎧を着た少年や彼と同年代くらいの少年少女達がバラバラな死体となって辺り一面に転がっていた。

 その惨状の中心。

 香織は———真っ赤に染め上げた両手を見て、うっとりと微笑んでいた。

 全身を返り血で真っ赤に染め上げながら、香織は花畑の中心にいるかの様に楽しそうに踊る———少年少女の生首を、グチャグチャと踏み潰しながら。

 

「っ!?」

 

 ガタッと、大きな音を立ててシアは椅子から立ち上がっていた。

 

「……シア?」

「え、ええと、どうかしたのかな? 何かあったの?」

「い、いえ……」

 

 シズと香織が心配そうに見てきたが、シアは真っ青な顔でそう言うのが精一杯だった。

 

「顔色が悪いけど、大丈夫? 一応、私は“治癒師”だから具合が悪ければ、診てあげるよ?」

 

 香織がシアの額に手を伸ばしてくる。

 その手に、べっとりとした返り血がついた姿を幻視してしまい、シアは思わず悲鳴を上げそうになり———。

 

「香織、ここにいたのか」

 

 唐突に香織に声を掛けた人間がいた。

 

「ナグモくん!」

 

 香織はパッと顔を輝かせると、ナグモの腕を組んだ。

 

「ん? シズもいたか。邪魔をしたか?」

「大丈夫……です。雑談をしていただけ、なので」

「そうか。なら、僕は失礼する。ここは騒がしくて敵わん」

「じゃあ、一緒に帰ろうか? シズ先輩、シアさん。またね」

「ん……」

 

 宴会場の雰囲気が好きではないのか、煩そうに顔を顰めているナグモにぴったりと寄り添いながら香織は立ち去っていく。その後ろ姿は仲睦まじいカップルそのもので、見る者を微笑ましい気持ちにさせるものだった。

 

「………」

「シア……?」

 

 それなのに、シアは二人の背中を不安そうに見つめていた。

 

「あの……シズ様。香織さんは、ナグモ様と同じ人間なのですか?」

「……? 元はそうだった、と聞いた。今はナグモ様の手で特殊なアンデッドになったと聞いてる。ナグモ様はメンテナンスを他の人にやらせないくらい、香織の事を大事にしてる」

「アンデッド………」

 

 あれ程に生き生きとしていたのに、魔物(アンデッド)であったという事実に軽くショックを受けるシア。しかし、そんな事よりも自分が視てしまった“未来視”の内容が気になっていた。

 シアの“未来視”は絶対ではない。未来は不確かで、ほんの些細な行動で変わってしまうのだ。それは今よりも先の未来であるほど、的中率は低くなっていく。シアが今見た未来の映像も、全くの的外れになる可能性は大きいのだ。

 

(だから……あり得ない、ですよね? 人間と魔物とはいえ、あんな幸せそうな二人にそんな未来なんか……それに、無愛想なナグモ様があんな表情を浮かべるわけなんて……ない、ですよね……?)

 

 シアにとってフェアベルゲンの亜人族達を治療してくれたナグモは、アインズと同じくらい大恩ある相手だった。だからこそ、彼の未来が幸福である事を願っている。

 

 だから———訪れてはいけないし、訪れる筈がないのだ。

 

 楽しそうに死体を弄ぶ香織を見て、何かを後悔するかの様に泣き崩れるナグモの姿など。

 

 空に浮かんだ下弦の月が、不安で曇るシアを照らしていた————。




 香織が一人ミュージカルをやるそうですよ(挨拶)

 アインズの勘違いが加速するお陰で、光輝達には悲惨な未来が確定していくのにナグモと香織だけラブコメしてるとか不公平じゃないですか?

 だからさ、みーんな不幸になれば平等だよねえ?
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