ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 おかしいな……オムニバスと言いながら、全然小話じゃないぞ? 予定では2000文字程度の短編集みたいになる予定だったのに……。

 とりあえず、暫くは時系列とか特に考えてない日常回を載せるつもりです。まあ、なんです?



 ————今は華やかな日常を。いずれ訪れる終末を彩る為に。


第九十二話「ナザリック・オムニバス①」

『香織のメイド修行 中級編』

 

 戦闘メイド・プレアデスの副リーダーであるユリ・アルファは目の前のメイド服を着た少女の動きを注意深く観察していた。

 正直、自分にこの仕事は向いてないんじゃないか? と思わなくもない。自分達戦闘メイドは戦闘が「主」であり、メイドとしての役割は「副」だ。それこそナザリックのメイド長であるペストーニャの方が適任だろう。

 しかしながら、友人のミキュルニラと妹であるシズの両名から頼まれた以上、断るのも気が引けたのだ。だからこそ、ユリはこの仕事を引き受けていた。

 

「———端がよれていますね。もう一度、最初からやり直して下さい」

「はい、ユリ先生!」

 

 メイド服を着た少女———香織が元気良く返事して、ベッドメイキングをテキパキとやっていく。かれこれ一時間くらいベッドメイキングの練習をしているのだが、彼女の表情には繰り返し作業をやっている事に対する不満や疲労の色は無い。アンデッドだから疲労感と無縁とはいえ、集中力と根気は目を見張るものがある。

 

(中々根性はあるわね……アインズ様がナザリックの保護下に入れる事をお許しになられただけの事はあるのかしら?)

 

 自分達の絶対の主人にして、至高なる御方の纏め役であったアインズ・ウール・ゴウン。

 アインズが栄えあるナザリック地下大墳墓に、二人の少女を保護すると言った時はユリもとても驚いた。しかし、アインズの言葉はユリ個人の意思よりも尊重されるべきもの。今ではユリも、この新たなナザリックの同胞を受け入れつつあった。

 

(元は人間と聞いたけど、アインズ様の素晴らしさを理解できるのだから言う事なんてないわ。そもそもナグモ様やオーちゃん(末の妹)だって、人間だもの……アインズ様の素晴らしさが理解できない人間なんて、それこそ生きる価値も無い様な愚か者だけでしょう)

 

 うんうん、とユリは一人納得する。実際、香織は飲み込みも良く、教えた事をキチンと守る良い生徒だった。創造主(やまいこ)の影響なのか、ユリは何かを教えるとか、そういう仕事が好きだった。そんなユリから見て、香織は生徒として満足できるくらい気に入っていた。

 

「出来ました! あの、どうでしょうか……?」

 

 香織が恐る恐ると言った様子で綺麗に整えたベッドを見せた。ユリは皺や捻れが無いか、しばらく確認した後に頷いた。

 

「少し時間が掛かっていますが、十分に及第点でしょう」

「本当ですか? ありがとうございます!」

「ええ。貴方もよく頑張ったわね。僕……コホン、私も貴方みたいな生徒が持てて良かったわ」

「はい! だって、私はナグモく、じゃなくて……ナグモ様の専属メイドですから!」

「別に言い直さなくても良いわよ、貴方とナグモ様の仲はシズから聞いてるもの」

 

 メイドという立場を自称しながら、仮にも主人であるナグモに馴れ馴れしい呼び方をするのは本来なら言語道断なのだがユリは気にしていなかった。何故なら、香織とナグモが恋仲である事は周知の事実だからだ。

 

(それにしても……()()ナグモ様が、ねえ……)

 

 以前は自分の部下であるミキュルニラ以外、誰に対しても距離を置いていた人間が、いつの間にやら目の前の少女を深く愛しているという事実にユリは未だに半信半疑の思いだった。

 

「ナグモ様とは今も仲良くしているのかしら?」

「はい、今日も朝からナグモくんの可愛い寝顔を見ながら起きました! それでナグモくんの朝食を作ってあげて、いってらっしゃいのキスもして———」

「そ、そう……それは何よりだわ」

 

 放って置くと延々と語り出しそうな雰囲気に、ユリは引き気味になりながら頷いた。

 

(うわぁ……何というか、凄く生き生きしてるわね。というか寝顔を見ながら起きたという事は……ナグモ様って、もしかしてシャルティア様と同じ趣味の持ち主だったのかしら?)

 

事実、シモベ達の中には『人間嫌いのナグモは、アンデッドであるから香織を側に置いているのだ』などと噂している者もいるくらいだ。もしも噂が事実なら、ナグモとの付き合い方はちょっと考えようと首無し騎士(デュラハン)であるユリはこっそりと思った。

 

 ***

 

 香織が次の授業先であるエクレアの場所に向かった後、ユリは自室(正確には戦闘メイドの待機室)へと戻る道を歩いていた。

 

(マズいわ……仕事が無くなってしまったわ。どうしましょう……)

 

 今日のユリの仕事は香織の教育だけだ。これから何時間も何もしない時間が続いてしまうのだ。

 誤解の無い様に言って置くと、これはユリが暇を持て余しているというわけではない。

 彼女の仕事は「第九階層に侵入した敵を迎え撃つこと」。

 これは創造主達に与えられた仕事であり、その為に常に迎撃できる様に待機しているのは理に適った行動の筈だ。

 しかしながら、どこの誰が第九階層まで侵入できるというのか? かつて不敬にもナザリック地下大墳墓に攻めてきた1500人の人間(プレイヤー)も、第八階層で全滅したというのに。

 

(エヒトルジュエとかいう神がこの世界にはいるそうだから、油断して良いわけじゃ無いのだけど……待機時間が長いのも考えものね)

 

 見張り小屋も兼ねた地表部のログハウス勤務は戦闘メイド達の持ち回りであり、残念ながら今日はユリの当番ではない。ならば第九階層の警備やメイドの仕事を、と思った時もあった。

 しかし、第九階層の警備はコキュートスが厳選したシモベが行なっており、メイドの仕事はそれこそ一般メイド達が主としている仕事だ。それをユリが暇潰しの為に奪うのは、彼らの仕事に不満があると言うのも同然だ。ユリも自分の仕事を横から奪われたら、良い気はしないのだから。

 

「はぁ……ん? あれは……」

 

 そういった理由から「至高の御方の為にあくせく働きたいのに、至高の御方達に決められた役職として長時間待機しなくてはならない」という矛盾に頭痛を感じていると、廊下の角で何やら内緒話をしている一般メイド達がいた。掃除道具を手にしている所を見ると、業務の合間のお喋りという所だろうか? 何となく、ユリは気配を殺して彼女達の話し声に耳を傾けていた。

 

「……あのアンデッド娘、どう思う?」

「あの程度の腕でメイドなんて名乗って欲しく無いです。もしも外部の人間に見られたら、ナザリックのメイドはあんなものかと笑われてしまいます」

「アインズ様はどうしてあんな娘がメイド服を着るなんてお許しになられたのかしら?」

 

 何やら香織の事で不穏な噂をしている気配に、ユリは柱の陰からこっそりと覗く。そこにはナザリックの一般メイド達が愚痴を言い合う様に、『最近見かける見習いメイド』について話し合っていた。

 

「そもそも私達のこの衣装は、至高の御方が私達の為に手ずから下賜して下さった特別な物……部外者なんかに着て欲しくないです」

「ミキュルニラ様はもうナザリックの仲間なんだからお友達です、と言っていたけど、こればかりはねえ……」

「そもそもあの程度の腕前でメイドを名乗るなんて、烏滸がましいです! 私なら、あのアンデッド娘の倍の早さで仕事できるのに!」

 

 メイド達の噂話を聞いている内にユリは溜息を吐きたくなった。

 彼女達、一般メイド達がナザリックの外の人間に対して良い感情を持っていない事は知っている。彼女達のレベルは1しかなく、下手をすれば並の人間にすら負ける可能性もあるくらいだ。かつて自分達のすぐ上の階層まで人間達(プレイヤー)が侵入していた事もあって、彼女達にとって「外の人間は怖い」という意見が大半だった。

 

(でも、だからといって新参者である香織に当たるのは違う様な……そもそも、香織は私達と違ってメイドとして働く為に創られたわけではないでしょうに)

 

 彼女達がメイドとして創造主に創られた事に誇りを持っている事は分かる。しかし、創造された時から「メイドである」と定められ、完成された自身とメイドとしての修行を始めたばかりの香織を比べるのは酷だろう。そもそも香織は一般メイド達のようにアインズの側に仕えるわけでもなく、あくまでナグモ個人のハウスメイドなのだ。正直、そこまでの完成度は求めなくて良いんじゃないか? とユリは考えていた。

 

(これはちょっと良くないんじゃないかしら……こういう時、ルプーがいれば上手く場を収めるのでしょうね)

 

 奔放そうに見えて、実は相手を観察する事が得意なプレアデスの次女を思い浮かべる。残念ながら、彼女はアインズから勇者一味の教師の監視を命じられ、ナザリックには戻って来ていない。ユリは香織のフォローをする為にメイド達と少し話をすべきか———そう考えていた時だった。

 

「私、今度のアインズ様当番の時に思い切って言ってみます。あのアンデッド娘をナザリックから追い出して下さい、って……ひぃっ!?」

 

 突然、メイド達の一人が悲鳴をあげる。掃除道具を取り落とし、ペタンとその場に座り込んでしまう。そして離れた場所にいたユリにもはっきりと感じられた。

 それは殺気———それも生半可な実力ではない、手練れの者の———!

 

「貴方達、大丈夫!?」

「ユ、ユリ様……!?」

 

 即座にガンドレットを装着して、ユリは柱から飛び出した。一般メイド達は恐ろしい物を見たかの様に小さく震えていた。ユリは油断なく拳を構えながらメイド達を守る様に立つ。

 

「何があったの? 敵の姿を見た子はいる?」

「わ、分かりません……急に悪寒みたいなのものを感じて……!」

 

 ユリはメイド達の報告に顔を険しくしながらも戦闘態勢を崩さない。鉄壁を誇るナザリック地下大墳墓の警護をすり抜け、第九階層まで入り込む様な敵がいたのだ。油断など出来よう筈もない。

 

「出てきなさい、侵入者! アインズ様の下まで行かせるわけにいきません!」

 

 ユリは声を張り上げるが、殺気の持ち主からは何の返事もない。

 不気味なまでの静寂が場を支配していた。

 

 ***

 

「ああ、待ち給え。銀食器は普通の布ではなく、専用のクロスを使いなさい。それとお湯に重曹を混ぜるのを忘れない様に」

「はい、エクレア先生!」

 

 ナザリックの執事助手エクレアは、目出し帽を被った男性使用人に抱えられながら香織に清掃のやり方を指導していた。貴族風のカールな髪型をしたイワトビペンギンに教えられるというシュールな光景だが、香織は文句一つ言わずに真剣に取り組んでいた。

 

(ふぅむ。意外と筋が良いものだ……まあ、もちろん。この私には劣るがね!)

 

 自慢の髪型を櫛でかき上げながら、エクレアは香織の仕事ぶりを評価する。ナザリックでは珍しくカルマ値:善であるエクレアは、新入りである香織の事も特に差別する事なく接していた。

 

「どうですか?」

「結構、続け給え。ピカピカに、そう舐められるくらいに! 塵一つ残さない丁寧な仕事こそ、私の様にエレガントな作法なのだよ。そう、この私の様に!」

「え、ええと……分かりました!」

 

 ナルシズムに溢れたエクレアの発言にも香織は曖昧な笑みを浮かべながらも、素直に頷く。それだけでエクレアにとって大変満足いくものだった。

 

(実に良い子じゃないか。ナザリックのメイド達は何故か私の事を尊敬していないフシがあるのになぁ……しかし、こんな華奢な少女にしか見えない香織が階層守護者の方々と同じくらい強いとはねえ?)

 

 ナザリックにおいて守護者クラス———レベル100というのは限られた者しか到達していない領域だ。どういう経緯でそうなったのかエクレアは知らないが、目の前の見習いメイドは守護者達と同じレベル100……それどころか、まだまだ伸びる余地があるという。

 

(ナグモ様自らが改造した特殊なアンデッドとも聞いてるが、本当の所はどうなんだろうか? だが……これはチャンスじゃないか? 私がナザリックを支配する為のね!)

 

 内心で腹黒い笑みをエクレアは浮かべる。

 エクレアは創造主である餡ころもっちもちによって、『密かにナザリックの支配を企んでいる』と設定されたNPCだ。その為に日々、自分がナザリックの支配者になる為に他のNPC達の勧誘は惜しまないのだ。(もっとも、至高の御方への忠誠心が強過ぎるNPC達には全く相手にされてないが)

 

(だが、他の守護者達と違って香織ならばナザリックに来て日が浅い分、味方につけられる余地は十分ある筈だ。上手くいけば私の手駒として守護者クラスの者が手に入るぞ。フッ……今日も私は冴えている!)

 

 自らの灰色の脳細胞に酔いしれ、エクレアは香織に優しく声を掛ける。

 

「いやー、ナザリックに来てまだ日は浅いとはいえ、頑張っているじゃないか。この調子なら香織は一流のメイドになれるとも!」

「そんな、ユリ先生達に比べたら私はまだまだですよ。だから、ナグモくんやアインズ様の為にもっと頑張ります!」

「うんうん、良い心掛けだね。ところで物は相談なんだが、私の正式な部下になる気は無いかい? 掃除の仕方だけでなく、ナザリックの未来の支配者として私から手取り足取り教えて———ひぎぃ!?」

 

 突如、エクレアが悲鳴を上げて飛び上がる。エクレアを抱えていた男性使用人も「イーッ!?」と特撮の戦闘員の様な声を上げて背筋を震わせた。

 

「エ、エクレアさん? どうかしたんですか?」

「う、うむ……いや、大丈夫。ちょっと寒気がしただけだよ」

 

 香織は何も感じていないのか、突然声を上げたエクレアを不思議そうに見つめる。エクレアはみっともない声を上げた事を恥ずかしく思い、今さっき感じた殺気の様な物を誤魔化そうとしていた。

 

 ***

 

「妙な気配、ですか……」

 

 ナザリックの執事にして、第九階層の実質的な階層守護者であるセバスは役職上の部下達の報告に渋みのある深い声を出した。

 

「ええ。時折、誰かに監視されてる様な気がするとメイド達から報告が上がって来てます………あ、ワン」

 

 ナザリックのメイド長であるペストーニャ・S・ワンコは真ん中に縫合痕のある犬の顔を不安そうに曇らせながら報告した。その際、創造主に設定された語尾を思い出したかの様に付け足したが、いつもの事なのでセバスは気にしていなかった。

 

「中には殺気を向けられた者もいて、メイド達が動揺していますワン」

「私も似た様な気配を感じましたよ!」

 

 男性使用人に持ってもらいながら、エクレアもセバスに報告した。

 

「この第九階層に何者かが侵入しているんじゃないかい? 警備配置を見直すべきです。具体的には、私を支配者に据えてみるとか!」

「……それはともかく。これは由々しき事態ですね」

 

 エクレアの問題発言を無視して、セバスは渋面を作る。ここ、ナザリックの第九階層は至高の御方の居室もある事から警備は他の階層より一層厳重に行われている筈だ。だが、姿なき招かれざる侵入者はその警備網を突破しているという。今は殺気を感じる以外、人的な被害は無い様だが、今後も同じとは限らない。至急、アインズに報告すべきだろうとセバスは考えた。

 

「あれ〜、セバスさんに、ペストーニャさん〜。それにエクレアさんも〜。みんなで集まってどうかしましたか〜?」

 

 唐突に緊張した場を弛緩させる様な間延びした声がかけられる。そこにはナザリックの副研究所長であるミキュルニラがダブついた白衣をヒラヒラさせながら近寄って来ていた。

 

「やあ、ミキュルニラ。今日も元気そうだね!」

「お変わりない様で、何よりです……あ、ワン!」

「はい〜、今日も元気にやってますよ〜。出来ればミッキーちゃん、と呼んで欲しいです〜」

 

 子供が大人の靴を履いた様にぶかぶかな黄色い靴をペタンペタンと言わせながら、ミキュルニラはヒラヒラと片手を振る。ミキュルニラの要求に微妙な表情をするエクレア達に代わり、セバスが応対した。

 

「お久しぶりです、ミキュルニラ様。本日はどの様なご用件でしょうか?」

「いえいえ〜、用だなんてとんでもありません〜。食堂のデラックスジャンボパフェを食べに来ただけですよ〜。私、あれが大好きなので〜」

「そうですか、ミキュルニラ様にそう言って頂けると料理長も喜ぶでしょう。ところで話は変わりますが……一つご相談したい事があります」

 

 はい〜? とモルモットの耳がついた頭を可愛らしく傾げるミキュルニラに、セバスは「第九階層に現れる姿なき侵入者」について話した。話を聞いていく内に、ミキュルニラの表情もどんどんと真剣みを帯びていく。

 

「———という次第でして……ナザリックの副研究所長としてのご意見をお聞きしたいのですが、この侵入者がアインズ様が敵対しているエヒトルジュエなる神の手先という事は考えられませんか?」

「う〜ん……エヒトルジュエの全てをまだ解明したわけではないですけど〜。その可能性は低いと思われます〜。ミレディちゃんが潜伏している大迷宮とか、正体の研究をしていたオスカーさんの大迷宮にもノータッチでしたし……おそらく、エヒトルジュエは神様と言っても〜、世界全部を見通せる程の全知全能というわけではないと思うんですよね〜。ナザリックの事に気付いているなら、もっと早くに攻撃して来てると思います〜」

 

 眉根を寄せながら答えるミキュルニラに、セバスは納得する様に頷く。自分が親善に赴いた竜人族の隠れ里も、ナザリックより遥かに劣る防備でありながらエヒトルジュエに見つかった事はないという。あえて見逃しているという可能性もあるが、アインズという至高の支配者を相手にそこまで過小評価はしない筈だ。もっと直接的なアプローチをして来なければおかしい。

 

「そもそも〜、第九階層に忍び込む手段なんて限られてます〜。正攻法で来るにしても、上の階層の誰にも気付かれないなんておかしいですし〜、階層間の転移門の管理をしているオーレオールちゃんが異変を感じてる筈です〜。考えられるとしたら〜、アインズ様みたいにリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを使って直接転移するとか…………あ」

「ミキュルニラ様? どうかされましたか、ワン?」

 

 饒舌に語っていたミキュルニラが急に黙ってしまった事にペストーニャは疑問符を浮かべる。しかし、ミキュルニラは「もしかして……」、「今朝見たあれは……」とブツブツと呟き出した。

 

「ミキュルニラ様。もしかすると、侵入者に心当たりがあるのでしょうか?」

「……確認したいのですけど〜。今日って、香織ちゃんが第九階層で研修を行う日でしたか〜?」

「ああ、その通りだよ。それがどうかしたかい?」

 

 エクレアの答えに「やっぱり……」とミキュルニラは頭を抱える。

 

「あのですね〜……その侵入者さん、もしかしたら私が捕まえられるかもしれないです〜」

 

 ***

 

「それで……何をしていらっしゃるんでしょうか〜?」

 

 数時間後。ミキュルニラはセバス達と共に、侵入者———ナグモを正座させて取り囲んでいた。ナグモはいつもの無表情で、ボソッと呟く。

 

「……何故気付いた。このステルス迷彩『ENDOH三型』は、試作品とはいえ隠密性はかなり高かった筈だというのに」

「しょちょ〜のデスクに広げられた設計図を見てましたから〜、その装置の特性とか弱点とかお見通しです〜」

「チッ……改良の余地があるな、『ENDOH三型』は」

 

 舌打ちしながら発明品らしき機械を取り外すナグモに、セバス達は何とも言えない表情になる。

 侵入者の正体は第四階層守護者代理であるナグモだった。確かにナグモならリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを持っているからナザリック内を自由に転移できるし、今し方使っていたステルス迷彩はミキュルニラが作った即席の探知機を基にセバスが気配を探らなければ見破れないレベルだったのだ。

 

「そういう事を聞いてるんじゃありません〜。ステルス迷彩まで持ち出して何をやってるんですか」

「別に……試作品のテストを———」

「ナグモ所長」

 

 口から出まかせを言おうとしたナグモをミキュルニラはいつもの戯けた口調を消して、ジッと見つめる。

 その視線に耐え切れなくなったのか、ナグモはそっぽを向きながら不貞腐れた様に答えた。

 

「………香織がナザリックのメイドになった事を快く思ってない者がいる、とシズから聞いた。だから、ちょっと様子を見に来ただけだ」

 

 ナグモの言い分に、セバス達は「ああ……」と頷いた。彼らは一般メイド達を取り仕切る立場として、メイドの新人研修をしている香織の微妙な立場を知っていた。

 

「だからといって、ステルス迷彩まで使ってこっそり見守ろうとするのはやり過ぎだと思います〜。それに悪口を言ったメイドの子まで怖がらせちゃうなんて……」

「仕方ないだろ、僕が目の前にいたら表面上は香織を気遣っているフリをするだろ」

「そういう事じゃありません。香織ちゃんの事が大事なのは分かりますけど、それで他のお友達を傷付けちゃうのがやり過ぎだと言っているんです」

 

 いつもの様に戯けた態度は見せず、まるで悪い事をした子供を叱りつける様な口調でピシャリとミキュルニラは言い放つ。いつもとは何か違う事を感じたのか、さすがのナグモも罰が悪そうに黙り込んだ。

 

「その……香織さんの事にフォローが足りなかったのは私の監督不行き届きです、ワン」

 

 ペストーニャが助け船を出す様にナグモにフォローを入れた。

 

「これからはメイド達の意識改革を徹底させますので、今後はこの様な真似を謹んで頂きたいです……あ、ワン」

「私からも香織に目を配りましょう。ですから、今日の所はお引き取り頂けませんか?」

 

 第九階層の重鎮であるメイド長と執事に丁寧にお願いされ、ナグモは気まずそうな顔を見せる。まるで叱られた子供そのものだったが、しばらくして二人へ頭を下げた。

 

「その……配慮が足りない行為だった事は認める。申し訳なかった」

「大丈夫ですって。ナザリックの次期支配者となる私がいれば、香織を追い出そうとする子はいなくりますとも。あ、ところで香織がナザリックに馴染みやすい様に私の直属の部下にしてみるとか———」

「あぁ……?」

「……調子乗ってすいません」

 

 ***

 

「しょちょ〜がご迷惑をお掛けしました〜」

「いえいえ、お気になさらず……あ、ワン」

 

 食堂への道を歩きながら、ミキュルニラはペストーニャに頭を下げていた。

 

「……本当にごめんなさいです。しょちょ〜は初めて誰かを好きになったから、香織ちゃんに過保護になってるんです」

「分かってますワン。あの様子だと、慶事は近いかもしれませんワン」

 

 シシシ、と犬顔を歪めてペストーニャは笑う。香織にはメイド修行より花嫁修行をさせた方が良いかもしれない。

 

「それにしても、少し意外でしたワン。ミキュルニラ様が、ナグモ様にあそこまではっきりと仰るなんて」

 

 ナザリックのNPC達は基本的に至高の御方達に作成された者同士として平等だ。それぞれの役職は飾りみたいなものだが、創造主に設定さ(定めら)れた役割として敬意を持って職務に取り組む。いつもの誰に対しても笑顔と愛嬌を振り撒くマスコットキャラのようなミキュルニラが、上司であるナグモの行動を強く咎める言動をしたのがペストーニャには驚きだったのだ。

 

「う〜ん……しょちょ〜は子供っぽい所がありますから〜、いけない事は駄目ってちゃんと言ってあげないと〜」

「はあ……なんというか、ミキュルニラ様はナグモ様の事を大切に想っていらっしゃるのですね……ワン」

 

 なんとなしにペストーニャはそう呟いた。

 すると———。

 

「………うん。だって、それがじゅーる様が私にくれた役割ですから。所長の隣にいる娘が、私じゃないとしても———」

 

 いつものマスコットキャラの様な言動から外れた、静かな声でミキュルニラは答えた。

 

「……? ミキュルニラ様?」

「……な〜んて、冗談ですよ〜。これでも私は副所長ですから〜、しょちょ〜がしっかりしてくれないと困っちゃいますからね〜」

 

 違和感を感じたペストーニャが振り返るが、ミキュルニラはニコニコとした笑顔を見せていた。

 

「早く食堂に行きましょうよ〜、私もうお腹ペコペコなんです〜」

 

 ルンルン♪ とスキップする様な足取りでミキュルニラは先を歩く。ペストーニャは先程感じた違和感に首を傾げつつも、ミキュルニラを案内する為に歩を早めた。

 

 ***

 

 オマケ

 

「———という事が、今日あったらしい……」

「あ、やっぱり。ナグモくんが近くにいたんだね」

「……? 香織は気付いていたの?」

「うん。だって掃除をしていた時に見つけたナグモくんの髪の毛はまだ新しく抜けたばかりだったし、ナグモくんの残り香もまだ薄れてなかったもの。それに絨毯に付いた新しい足跡はナグモくんが履いてる靴のものだったし、後は……あれ、どうしたのユエ? 何で頭を抱えているの?」




>ペストーニャ・S・ワンコ

 本名、ペストーニャ・ショートケーキ・ワンコ。
 ナザリック地下大墳墓のメイド長であり、見た目はメイド服を着て直立二足歩行したシェットランド・シープドッグ。とても優しく、慈悲深い性格で原作ではアインズの命令に逆らって人間の子供達を助けようとするほど。語尾に「ワン」と付ける様に設定されているが、時々忘れる。

>ステルス迷彩『ENDOH』

 ナグモがとある人間を参考に開発したステルス迷彩。ナグモ曰く、「あれは得難い珍種だったから採取しておけば良かったな。名前は確か、え……遠藤だったな。………多分」。
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