ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 時々、「さすがにクラスメイト達にここまでやらせるのは無理がないか? 十代の子供達がここまで残酷になるか?」と考えますが、ニュースで不登校に追い込んだイジメとかを見ると、十代の少年少女は自分の予想より残酷な事をしでかすものだと思います。

 今回でクラスメイトSIDEは一旦終わりです。一応、これでこの作品で考えているストーリーの半分はいったと思います。(まだ大迷宮を二つしか攻略してない? どうせアインズ達だと残りもモノローグで終わりそうだし……)

 そしてこの節目にあたって、もしかするとこの作品を少しだけお休みするか、今より更新頻度を落とすかもしれないです。あくまで未定ですけど。
 詳しくは後日に活動報告に書くので、そちらをご覧下さい。


第百一話「クラスメイトSIDE:盤上の神。そして王子とヒロイン」

『ほう……異世界から召喚した駒達は中々に楽しませてくれるではないか』

 

 神域において、エヒトルジュエはノイントからの報告に愉悦の籠った呟きを漏らした。

 

「はっ。主が異世界より召喚した駒達は“光の戦士団"なるものを結成し、教会より与えられた権力に溺れて暴虐を尽くしております」

『ククク……純粋無垢だった若者達が快楽を知って堕落していく様は、意外と面白いものだな。これはこれで見応えがあるものだ』

 

 顔があったならば悪魔の様な笑みが見えそうな声を出しながら、エヒトルジュエは“光の戦士団"によって悲惨な状況になっているハイリヒ王国の現状を楽しんでいた。今まで人間達から信仰心を独占する為に王国や教会に積極的に干渉していたが、短期間放置しただけでここまでの酷い状況になるとはエヒトルジュエも予想外だった。蟻の巣に水を撒いて楽しむ子供の様に王国の腐敗ぶりを楽しんでいたエヒトだが、ふと思い出した様に呟いた。

 

『ああ、そういえば……貴様が異世界の駒達を扇動して皇帝を殺した帝国はどうなったのだ?』

「はっ。ヘルシャー帝国は聖教教会より見捨てられ、貴族達も帝国を見捨てて教会や王国に恭順している為、最早衰退していくばかりかと。なんでも、亜人族の国に同盟を申し入れたと聞きます」

『ああ、確か失敗作のケダモノ共が樹海に国を作っていたな』

 

 トータスに生きる亜人族や魔人族、さらに魔物達はエヒトルジュエが遥か昔に当時の生物達に手を加えて変質させたものだ。その中でも亜人族は魔力を持たず、エヒトルジュエとしては神代魔法で作った生物の中でも失敗作という扱いだった。

 

「はっ。フェアベルゲンという国でしたが、最近は名前が変わったそうです。帝国から王国に流れた人間達から聞いた話ですが……確かアインズ・ウール・ゴウン魔導国という名になったのだとか……」

『アインズ・ウール……? フン、派手で無駄に仰々しい名を付けたものだ。名を変えた所で下賤なケダモノ共の国に違いあるまいというのに』

「如何いたしましょうか? 主の御命令があれば、即座に神威を以って滅ぼしに参りますが」

『構うまい。その内、王国の人間共が欲を出して“聖戦"とやらを仕掛けるであろう。その方が我にとって楽しめそうだ』

 

 人間の欲など果てがないものだ。聖戦遠征軍の為に莫大な資産を投じている今のハイリヒ王国ならば、その内に維持費を支払う事すら困難になっていくだろう。そうなった時に、どんな大義名分(言い訳)を唱えながら人間同士で殺し合うのか、エヒトルジュエは興味が湧いた。だからこそ、亜人族の国など取るに足りないと思考の片隅に追いやった。

 

「主の御意向のままに……。しかしながら我らが主よ。発言をお許し下さい」

『許す。述べるが良い』

「異世界の駒達ですが……そろそろお諌めになられた方が宜しいのではないでしょうか?」

 

 ほう? とエヒトルジュエが先を促すと、ノイントは人形の様な無表情に僅かに嫌悪感を滲ませながら話した。

 

「あの者達は主のご威光を自分達の力と勘違いしており、好き勝手に振る舞うのを見ているのは甚だしく不愉快です。教会に所属する者も自由に使()()()()()と考えている様で、何度か閨を共にする様に要求されました」

 

 “真の神の使徒”ことノイントの自我は薄い。十万以上いる姉妹達を含めて、エヒトルジュエの意向に忠実に従う為に作られた為に彼女達は人間らしい感情は持ち合わせていなかった。

 しかし、エヒトルジュエを楽しませる為の道具に過ぎない人間達から、下卑た視線を何度も向けられるのはやはり我慢がならなかった。

 

「異世界の駒達の専横ぶりに、最近では神殿騎士も脱退する者が少なくありません。あまり好き勝手にやらせていては、人間達の主への信仰心に影響があるのでは?」

『我が眷属であるアルヴヘイトがいる限り、魔人族からの信仰でも事足りるが……ふうむ』

 

 ノイントからの進言を受けて、エヒトルジュエは思考する。といっても、ノイント個人の事はどうでもいい。エヒトルジュエが命令すれば、異世界の少年達に抱かれて来る事もこの人形は無表情のまま任務としてこなしてくるだろう。

 

(しかしまぁ……取るに足らぬ雑魚共が我が名を使って、好き放題やっているのも確かに不愉快ではあるな……)

 

 所詮、聖教教会などエヒトルジュエが人間達から信仰心を集めやすくする為の方便でしかない。しかし、自分の名前を使って人間達が威張り散らしているのは虎の威を借る狐を見ているようで少しだけ腹だたしい気持ちはした。下等な人間は下等らしく、絶対なる神の威光に平伏するのが正しい在り方というものだ。

 

『……“真の神の使徒”ノイント。貴様はこれより、他の姉妹達と共にアルヴヘイトの下へ行け。そして魔人族達と共に人間達の国を滅ぼし、魔人族にこそ天啓が下ったかの様に演出するのだ』

「かしこまりました。とうとう異世界の駒達を滅ぼすのですね?」

『ククク……そう急くな。ここはあえて、奴等を最後にするのだ』

 

 エヒトルジュエは邪悪な笑い声を出した。彼にとって、この世界(トータス)の全ては遊戯盤なのだ。どうせならば、最高の演出をしようと遊び心が働いていた。

 

『貴様達“真の神の使徒”が魔人族と共に人間達の国を滅ぼす事で、人間共は我の怒りを買ったと解釈するだろう。恐怖した人間共の怒りは、我に召喚されながら堕落の限りを尽くした異世界の勇者達に必ずや向けられる。自分達こそが選ばれた者と思い込んでいた者達が、周りの人間から糾弾されて絶望のままに死に逝く。中々に面白い趣向であろう?』

 

 “真の神の使徒”達は外見上は背中から羽を生やした美しい戦乙女だ。彼女達を人間が見れば、天使だと思う事は間違いない。

 そんな天使達が神敵である筈の魔人族と共に人間族の国を滅ぼしに来るのだ。信心深いトータスの人間達は大混乱となり、“エヒト神に選ばれた”筈の異世界の若者達に寄って集って説明を求め、下手をすれば凄惨なリンチすら引き起こすかもしれない。人間達を自分の愉悦の為に玩具としてきたエヒトルジュエの悪辣さが見て取れる筋書きだった。

 

「はい、その通りであります。さすがは真なる主です」

 

 エヒトの趣向を凝らした提案に、ノイントは表情を変えないままに首肯した。もっともノイントにそれを楽しいと思う感情もない。エヒトルジュエに造られた存在として、機械的に言ったに過ぎない。そんなノイントの反応につまらなそうにエヒトルジュエは鼻を鳴らした。

 

『……まあ、良い。人形たる貴様に期待などしておらん。貴様はただ我の意思の通りに行動せよ』

「はっ。それで真なる主よ、まずはどの国を滅ぼすべきでしょうか?」

 

 エヒトルジュエは考える。いきなりメインディッシュであるハイリヒ王国に行くのは論外であるし、聖教教会から破門を受けたヘルシャー帝国、そしてケダモノ(亜人族)の国では神に見捨てられた国だから当然と思われて王国の人間達の危機感を煽れないだろう。この二国はもっと状況が面白くなってから使うべきだ。

 そうなると……丁度良い国が一つあった。ハイリヒ王国の属国であり、此度の聖戦遠征軍にも国が傾きかねない程に資金や人材を徴収され、もはや民達が神に祈るしか出来ない国。

 そこが滅べば、王国の人間達は対岸の火事だとは思わずに異世界の若者達を責めるだろう。

 

『……アンカジ公国だ。生贄の羊としては丁度良かろうよ』

 

***

 

「ふぅ……さすがに疲れたなぁ」

「え、えっと……お疲れ様、光輝くん」

 

 豪華絢爛な二頭立ての馬車の中で光輝は凝った肩をほぐす様にコキコキと鳴らし、同乗した恵里は労わる様に声を掛けた。

 先程まで聖教教会を支援する大貴族が主催するパーティーに出席して、色々な人間に挨拶をしたり、貴族の令嬢達に代わる代わるダンスを求められていたのだ。元々のスペックの高さから貴族のマナーや社交ダンス等はすぐに覚えられたが、連日の様に貴族主催のパーティーに出席しているお陰で、さすがの光輝にも疲れが見えてきていた。

 

「でも光輝くんの話を聞いて、貴族の人達も一致団結して“聖戦”の為に戦おうと決めたみたい。光輝くんの演説のお陰だよ」

「これくらいは当然だよ。なんていったって、俺は勇者だからね。俺の存在で皆が元気付けられるなら、それに越した事は無いさ」

 

 勇者の模範生の様な台詞をサラッと光輝は口にする。そこに裏表などはなく、彼は本心から人々の役に立っていると思っていた。

 

(くすっ……あの貴族(ブタ)達にそんな殊勝な考えなんてあるわけないのに。光輝くんはおバカさんだなぁ)

 

 貴族達は光輝に取り入り、聖教教会に自分の地位を引き上げて貰おうと躍起になっているのだ。そうすれば聖戦で略奪した土地や財産の取り分が増える為、彼等は自分の娘達にも光輝に気に入られる様に言い含めていた。とはいえ、そんな汚い大人の策略に気付く事なく、光輝は「親切にしてくれる人達なんだなぁ」としか思っていなかった。

 

「それにしても……いくら俺が勇者だからって、ここまでやる事ないのに。有名人になったみたいでちょっと照れるなぁ」

 

 窓の外では自分の肖像画が描かれた旗がいくつも大通りに並び、自分が乗った場所が通る度に拍手をする国民達を見ながら、光輝は照れ臭そうに呟いた。まるで自分がハリウッドの大物スターにでもなった気分だ。まだ“光の戦士団”が結成される前の話だが、街を歩いていたら「勇者様にどうか御目通りを!」と住民達に群がられて大変な思いをした経験から、光輝の移動には馬車が専ら使われる事になっていた。

 ———彼は知らない。王都の住民達は仕事の手を止めてでも“光の戦士団”が通ったら最上の敬意を示す様に命令されていて、その笑顔も強制された様に引き攣った者がほとんどだという事を。だが、恵里は安心させる様に笑顔を作った。

 

「皆、光輝くんを頼りにしている証拠だよ。光輝くんはこの世界を救ってくれる勇者で、“光の戦士団”の団長だもの」

「あはは……神山や王宮を行ったり来たりだから、実際の運営はムタロさんに任せっきりだけどね。戦士団の本部にもあまり顔を出せてないし……恵里が副団長を引き受けてくれて良かったよ。クラスの皆はどうしてる?」

「うん。みんな戦いに備えて、頑張っているよ」

「そっか、皆がトータスの人達の為に頑張ってくれてる様で良かった……恵里も大変だったら俺を頼ってくれ。大切な仲間なのだからね」

「大丈夫だよ、光輝くん。副団長と言っても、そんなに大変じゃないから」

 

 微笑みを崩さず、恵里は心の中で舌を出した。

 

(だって僕……何もしてないからねぇ?)

 

 ……光輝の側に居やすい様に、“光の戦士団”の副団長に就任した恵里だが、彼女はムタロが私腹を肥やしたり、クラスメイト達が庶民に横暴な振る舞いをしている事を敢えて見逃していた。これもまた恵里の“クライアント"であるヤルダバオトの指示だ。光輝は恵里を通してでしか“光の戦士団”の現状を知る事が出来ず、恵里が発する耳触りの良い情報を疑う事なく受け入れていた為に王国の現在の惨状を知りもしないでいた。

 

(可哀想な光輝くん……幼馴染達がいなくなって、本当は周りから都合の良い駒ぐらいにしか思われてないのに、まだ自分が勇者のつもりでいるなんて)

 

 悪魔の策略の片棒を担いでいる事を棚に上げて、恵里は光輝を憐れんだ。

 

 だからこそ———自分が光輝を()()しなくてはならないのだ。

 

(光輝くんはちょっとおバカさんだから、僕がキチンと面倒を見てあげないといけないよねぇ? そうだよ、僕が一番光輝くんの事を分かってあげられるんだから!)

 

 歪んだ恋心と独占欲のまま、光輝に首輪をつけて飼う未来を想像する。ヤルダバオトは自分の言う通りに動けば、光輝を好きにして良いと言ってくれた。そうなった時、これまで灰色だった自分の人生は薔薇色に染まるだろう。

 そして、それ以前に光輝の周りをブンブンと飛び交っていたお邪魔虫達(幼馴染二人)はいなくなっているのだ。今や恵里は、光輝に最も近いヒロインとなったのだ。その事実に恵里は酔いしれていた。

 

(とりあえず、今日のパーティーで光輝くんに色目を使ってきたブス共は頃合いを見て娼館送りにでもしようかな? ()()()()()()()()()()()()、大貴族の主だった派閥は僕の命令通りに動く傀儡()に変えてやったし、光輝くんを利用しようとするブス達なんか脂ぎったオヤジ共に股を開くのがお似合いだよねぇ?)

 

 ドス黒い感情を表情に出す事なく考えていた恵里だが、不意に光輝が声を掛けた。

 

「……ありがとうな、恵里」

「え? きゅ、急に何かな?」

「香織と雫……それに龍太郎までいなくなって、崩れ落ちそうだった俺が再び立ち上がる事が出来たのは恵里のお陰だよ。俺は、君が側にいてくれて本当に良かったと思っている」

「そ、そんな大袈裟だよ! 僕は、光輝くんに元気になって貰いたくて……」

「でも君がいなければ、俺はもしかしたら勇者の役目も放り出していたかもしれない。君がいるから、俺はここまで来れたんだ」

「光輝、くん……」

 

 光輝の真っ直ぐな言葉に、恵里の胸がドキドキと高鳴る。馬車の中は二人だけの世界だ。その事実が恵里の心の中を歓喜で満たしていく。光輝はその名の通りに輝く様な笑顔を浮かべ、そして———。

 

「だから、俺……一刻も早く香織や雫を助けられる様に頑張るよ!」

「……………え?」

 

 ———瞬間。愛の告白をされるものと思っていた恵里の心は、急激に凍り付いた。

 そんな恵里の内心に気付く事なく、光輝は自分の考えを述べ出した。

 

「ここまで恵里や皆に支えて貰ったんだ! 俺は必ず魔王を倒して、エヒト神に死んでしまった皆を生き返らせる様にお願いする! いや、してみせる! だから恵里、君の親友()も必ず戻って来るから安心してくれ!」

「で、でも、白崎さんは……オルクス迷宮はもう入れなくなっちゃったし、こんなに長い時間も経ったから、もう生きてはいないんじゃ……」

 

 何を言われたか分からず、目の前を現実を否定する為に恵里は咄嗟に口にした。しかし、光輝から自信を持った笑顔を奪う事は出来なかった。

 

「オルクス迷宮は閉鎖した後も衛兵達が入口を見張っているけど、誰も出入りしたという話は聞かなかっただろう? きっと香織はそれ以前に南雲の奴に連れ去られて、魔人族の所にいるんだ! むしろ、そう考えるのが自然さ。なにせ南雲の奴は魔王に取り入った裏切り者だからね。それに恵里の降霊術でも香織の魂は呼び出せないんだろ? 食べ物もない迷宮の中でずっと潜んでいるとは思えないから、香織は魔人族に捕まってまだ生きているんだよ!」

「そ、それは………ええと、僕の降霊術はそこまで精度は高くないから、あまり期待し過ぎるのは……」

「恵里……大丈夫だ! もっと自分を信じるんだ! 君が優れた降霊術師という事を俺は知っている! だから、自分の腕を疑わなくていい!」

 

 噛み合わない。ギシギシと不協和音が恵里の中で響く。

 恵里が否定的な事を言っても、光輝はご都合主義で解釈して自分の見たい情報しか見ていなかった。

 自分に不都合な事実なんて起きない。そう信じ切っている顔だった。

 

「魔人族達を倒す為に、いまトータス全ての人が一致団結して遠征軍を結成してくれてる。だから、魔王を倒せる日もそう遠くは無い筈だ! そうしたら南雲の奴を倒して香織を取り戻し、雫も目を覚ましてくれる! それに龍太郎や鈴達もエヒト神が生き返らせてくれて、俺達は皆で元の世界に帰るんだ! その日はきっと、すぐそこに来ているさ!」

 

 ———天之河光輝は正義は勝つと信じている。

 尊敬していた祖父の教えから「悪い者は滅び、正しい者が最後に勝つ」と固く信じており、才能の高さから大きな失敗を経験した事がなかった。両親や雫達が時折苦言を呈する事もあったが、彼の中では「少し対応を間違えたみたいだが、自分は正しい事をしたのだから問題ない」と解釈してしまっていた。

 大きな挫折を知らないが故に幼稚的な万能感を肥大させ、今はファンタジー溢れる異世界にまで来てしまった少年。彼は絵本の物語の様な大団円な結末を本気で信じていた。

 

「だから、これからも頑張ろう! 大丈夫だ。鈴が君の下に戻る様に、俺は頑張るよ!」

 

 恵里が今まで光輝の側で頑張っている姿を見せていたのは、自分の親友を取り戻す為だと彼は解釈していた。

 違う、そんな事の為じゃない。光輝(勇者)の唯一無二のヒロインになりたかった少女は、思わずそう叫びそうになり———。

 

「それでさ……香織と雫が帰ってきたら、俺は……二人に幼馴染以上の存在だった、って伝えようと思うんだ」

 

 ———今度こそ。ヒロインとして見て貰えなかった魔女の頭は真っ白になった。

 

 その後、馬車は王都で一番大きな治療院の前で停まった。

 現在、雫はここに入院していた。お見舞いに行くと言った光輝に、少し気分が悪くなったからここで休む、と断った恵里は一人残された馬車の中で小さく呟いた。

 

「……ああ、うん。光輝くんはおバカさんだもん……うん、仕方ないよね」

 

 そういえば……と恵里は思い出す。ヤルダバオトから新しく下された命令に、「手段は任せるから雫を不自然に思われない方法で蒸発させろ」と言われた事を思い出す。恵里は考えを巡らせ———悪魔的な考えが閃いた。

 

「……ああ、そうだ。ヒロインレースからとっくの昔に脱落したくせに、未だに光輝くんを惑わせる売女を片付ける方法を思いついちゃった。そうすれば、おバカな光輝くんもあの売女が自分のヒロインに相応しくないと気付くよね?」

 

 口角を上げながら、恵里は細部を詰めていく。

 

 ———その顔は、まるで泣き笑いの様な表情だった。

 

 ***

 

 雫が入院している部屋は、本来なら貴人が入院する広い部屋だった。

 リリアーナがいなくなり、光輝は自由に雫のお見舞いに行く事が出来る様になった。しかし、雫は光輝が姿を見せると()()()錯乱した様に暴れ、とうとう雫の身柄は王宮から治療院へと移されたのだ。今や心の病を専門とする治癒師や闇術師達から定期的に闇魔法をかけられ、雫は暴れ出さない様に精神を混濁化させられていた。

 

「雫……」

 

 光輝は雫のベッドまで近付く。雫のベッドには大掛かりな魔法陣が描かれており、この魔法陣が発動している限り、寝たきりの病人であっても健康体が維持できる様になっていた。こんな大掛かりな魔法陣の設置が出来たのも、光輝が勇者という立場にいるからこそだった。

 ボンヤリと焦点の合わない目で虚空を見続ける雫の手を光輝は握る。

 

「もうすぐだ……もうすぐ、俺は香織を南雲の魔の手から救ってみせる。約束するよ。そうしたら……俺の想いを聞いてくれ」

 

 今まで、幼馴染二人が自分の側にいる事が当たり前だった。だが、こうして離れ離れになった事で、光輝は二人がいかに自分にとって大きな存在だったか自覚してきたのだ。ある意味、光輝は幼馴染達へ恋心を抱いていた事を異世界の地で初めて気付いたのだ。

 

「香織と雫は、俺にとって必要な存在なんだ。俺は香織や雫と、幼馴染以上の存在になりたいんだ。いつも俺の側にいてくれた雫なら、俺の気持ちも分かってくれるだろう?」

 

 異世界(トータス)ならともかく、元の世界では香織と雫の両方を彼女にするのは難しいだろう。

 それくらいは光輝も理解できていた。しかし、自分達はずっと一緒にいた幼馴染なのだ。香織と雫と一緒に話し合えば、お互いが納得する結末になる。

 光輝は、それを本気で思っていた。

 

「だから……今はこれで我慢してくれ。想いが通じ合った時、本当のキスをしよう」

 

 光輝は虚な目の雫の手を取り———手の甲に触れ合う様な口付けをした。それは、宮廷マナーで学んだ騎士が貴婦人に行う口付けを真似たものだった。

 

「ゃ……ぁ………っ」

 

 眠り続ける姫に、美しい王子がキスをする。

 物語の様に美しいシチュエーション(光景)に光輝が無意識に陶酔していると、はっきりとした意識が無い筈の雫の目が震えた。その奇跡におどろいたが、目から流れる涙はきっと嬉し涙なのだろうと光輝は解釈した。

 

「雫……」

 

 光輝は雫の目の涙を指で拭い、そっと額を掻き上げる。そして眠り姫に囁く様に、耳元に顔を寄せた。

 

「また来るよ……次に来る時は、きっと香織も一緒さ」

 

 そっと雫の髪を撫でて、光輝は病室を後にした。

 眠り姫は———暗い瞳のまま、再び涙を流した。




 とりあえず、まずは自分で書いていても反吐が出そうな展開を書き切った私を誉めて欲しい……サブイボが立ちましたよ、真面目に。

>エヒト君の演出プラン

①ノイント達が魔人族達と一緒になって人間族を攻撃するよ! 天使みたいなノイント達に、人間達は驚くね!

②神様に見捨てられた、と思って人間達は大混乱になるよ! 勇者様達に、「貴方達こそが神に選ばれた存在だったのではなかったのですか!」と詰め寄るね! 最近、好き勝手やってるから特にね!

③後は流れに任せてみよう! 勇者達が矢面に立たされても、王国の人間達からリンチされても愉悦展開だね!

 以上、エヒトプロデュースの愉悦ショーでした! 
 ん? 亜人族の国? どうせ亜人族が大した事ないなんて長年の経験で知ってるから後回し後回し! 後で帝国共々潰してやるさ!

>恵里

 光輝がガハルドを殺した回で、「恵里が光輝にとって誰かを犠牲にしてでも守りたいヒロインになった」と感想をくれた人がいましたが……そんなわけ無いでしょうよ(無慈悲)
 光輝にとって自分のヒロインは香織と雫ですから。恵里は所詮、香織の生存を知らせてくれる占い師役です(無意識)

>光輝

 本当にさ……本当に、本っっっっ当に、書くのが難しいし、思考回路が自分でも理解不能です!!(笑) 
 まあ……ある意味、彼の存在が無ければ、ありふれも数あるなろう作品の一つとしか見てなかっただろうから、名脇役ではあるんですけどね。
 ちなみに最初は額へのキスでした。書いていたら、本気で気分が悪くなったから止めましたが。

>雫

 殺さないと宣言した。最終的には救われると宣言した。
 うん、確かに言いましたから今更反故にはしませんとも。

 


 ……最終的に救われるならさ、その過程が地獄でも別にいいよね?

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